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幼い心の声と雨模様
“ねえ、ぼくがんばったでしょ”
“とうさんもかあさんも‘おしごと’のことばっかり”
“ぼくをみてよ”
“だいきらいだ とうさんとかあさんをうばう‘おしごと’なんて”
(お前らなんて、大嫌いだ)
***
「あー、やべぇ」
今にも降り出しそうな、灰色のもくもくとした雨雲を見て波音は溜め息を吐く。
「傘忘れた……」
7月初めの梅雨の時期。
正体を隠して生活している波音にとって憂鬱な時期だ。
今朝ダイチに話に付き合わされているうちに傘の存在がすっかり頭から抜けてしまっていた。
一応念には念を、と傘を忘れた時のために普段から予備の折りたたみ傘を鞄に忍ばせているのだが、この日に限ってそれすらも忘れてしまった。
(仕方ない、誰かの忘れ物の傘でも借りるか)