かたちにならない、
人間と人魚の血を引くハーフで二つのルーツを持つ波音はその曖昧な立場からか昔から両方にいじめられる事も少なくなかった。
本人は至って普通にしてるつもりなのだが違和感があるのかいつもリーダー格のいじめっこに目をつけられてしまうのだ。
「人魚なんて居るわけねーだろ馬鹿」
「何、信じてんの」
「お前、人魚のフリして本当は人間共の手先なんだろ」
「あっち行け!野蛮な人間め」
海の中で他の同い年の男人魚達に追い払われ、泳いで逃げた波音は砂浜の上に辿り着き息を整え、やがて膝を抱えて蹲る。息を押し殺してすすり泣いた。
どれくらい時間が経ったのだろう。日は傾き、濡れた身体は乾いていていつの間にか人間の裸の身体に戻っていた。
「そのままだと風邪を引いてしまうぞ」
「……っ!」
ぱさり、と頭の上からバスタオルのようなものを掛けられ首だけ回して振り返る。
「じい、ちゃん」
優しい、笑い皺が刻まれた愛想の良い顔の老人が波音を静かに見下ろしていた。
「おお、可哀想に目元が腫れておる」
「っ、」
目元にそっと触れられ、少しだけ恥ずかしくなった波音はタオルを手繰り寄せそっぽを向いてしまう。
老人はただ優しく微笑むだけだった。
この人──水草 藻一朗はいつだって波音を見守ってくれている。波音の身体は普通の人間より丈夫だと知っているくせにこうして気遣ってくれているのだ。
「そうだ波音、お友達が来ているよ」
私の服を貸すから着替えておいで、と水草は言う。
「ともだち……?」
全く心当たりのない波音は首を傾げる。