初恋のヒト
それは突然のことだった。
「助けてっ!」
少し先の川で一人の少年が溺れ沈んでいく。
学校の帰り道で声を聞きつけた海原 波音は即座に川に飛び込んだ。
「……?」
水の中で意識朦朧としていた少年はおかしなものを見た。水中に飛び込んだ彼の下半身に魚の尾びれのようなものがついている。鱗が光を受けてキラキラと反射していた。
「しっかりしろ!」
それを見たのを最後に意識がぷつん、と途切れた。
***
「……ぅ……」
少年がふと目を覚ますと目の前に橙色の空が広がっていた。
体を起こすと河川敷にいた。
下半身に魚の尾びれがついた彼はいなかった。
「あれ、僕……」
「ケイタ!」
先程の光景は何だったのかと少年は首を傾げる。
その内に捜しに来た母親が駆け寄り、少年が事情を説明する。母親は大変驚きながら少年とその場を後にした。
「……毎年絶えないんだもんな」
遠くの川面から頭を出し、木陰に隠れて少年達を見送った後波音は溜息を吐く。
毎年夏になるとここでは川の事故が絶えない。
波音もこうして度々川で溺れる人達を助けてきた。
「波音」
頭上でばさりと大きく羽ばたく音がした。
振り返ると人型に背中に茶色い大きな翼を持った者が木の枝に留まり、こちらを見下ろしていた。
「! ……天羽さん」
「また人助けをしたんだ。偉いね」
「いえ、そんなことは」
「胸張って良いと思うよ」
「……爺さんにバレたら怒られますけどね」
「水草さんに?どうして?」
「もし俺の正体が人間にバレたら大騒ぎになるぞ、って」
「心配しているんだよ」
天羽がくすり、と笑う。
その笑顔に波音は密かにときめきを覚えた。
鳥の獣人である天羽はまだ波音が幼かった頃からよく面倒を見てくれた。お互い種族の違う者同士ではあったが、彼は波音を弟のように可愛がってくれたのだ。
波音はそんな天羽を慕いつつ、いつしか彼に密かに恋心を抱くようになった。