空が茜色に輝く世界で。ー一生報われない主への恋心ー
ふと、「青い空と白い雲と大切な君と。」を書いていたらパッと思いついた物語です。
読んで頂けたら嬉しいなぁ・・・。
茜空は夜の知らせ♪
夜の知らせを見たならば♪
さぁさぁ帰りましょ~♪
夜がやってくる前に♪
さぁさぁ帰りましょ~♪
愛らしい少女の歌声が聞こえる。
俺の前を横を通ったのは歌った本人であろう少女だった。
亜麻色に短い髪に、太陽の光のような金色の丸い猫目の瞳。
服は、この世界特有の動きやすい服。
(誰だろう?)
俺は知らぬ間に少女をずっと見つめていた。
ふと、少女と視線がバチッとぶつかる。
少女はパチクリと目を瞬かせて、俺の方へ歩み寄った。
「あなた、だぁれ?」
愛らしい紅を付けたかの様な真っ赤な唇から、柔らかい口調の言葉が漏れる。
少女は何度も「あなた、だぁれ?」と聞いて来た。
俺は少女の美しさに見惚れて、我を忘れていた。
「俺は・・・」
「あ、しゃべった。」
少女は鈴を転がす様に「フヘヘッ」と楽しそうに笑った。
(何が、そんなに面白いんだ・・・?)
俺は首を傾げて、ボサボサの長い前髪の隙間から少女を見つめた。
「どぉしたの?」
「・・・」
「あれぇ?どうしちゃったんだろう・・・。」
少女は心配そうに俺の頬に手を添えた。
少女と俺の顔は今とても近い。
だが、まだ俺は六歳で少女は四歳ぐらい。
照れると言う感情は、まだ備わっていないのだ。
ふと少女が「わぁ!」と感嘆の声を漏らし、丸い瞳を輝かせた。
「きれーな、みどりいろのひとみだねー!ゆーひにおにあいだね!!」
「・・・」
少女がニコッと微笑むと、ギュゥゥゥと俺を抱きしめた。
(????)
俺は混乱した。
けど、嬉しくて心が躍った。
(今の俺は変だ)
俺は、そう思った。
俺は少女を持ち上げて、自身から遠ざけた。
「近寄らない方が良いぜ。俺は汚いからな」
そう言うと少女は首を傾げながら、俺の頭から足の指先まで順番に視線を移していった。
「そーね、きたないねー」
「だろ?」
「なぁんで?」
「・・・」
質問が多い子供は、あまり俺は好きじゃ無かった。
理由は至って単純。
”鬱陶しい”から。
(まぁ、良い)
俺はボサボサの髪を搔き上げて、少女に言った。
「俺は攫い屋に捕まったんだよ。ほら、俺の足を見て御覧」
少女は俺の言葉に従って、俺の足に視線を向けた。
そこには「ジャラジャラ」と鳴る鎖の付いた足枷。
「いたくなーい?」
「慣れた」
「そう・・・」
少女は血の流れた足に優しく触れた。
ふと「あっ!」と少女は声を上げた。
「たいへん、もーすぐで、よるだ!」
少女は慌てた様子でピョンピョンと飛び跳ねている。
そして今度は怖がった様子でダンゴムシの様に丸まっている。
(夜が怖いのだろうか・・・?)
俺は、ずっと汚い泥の上に座って少女を見ていた。
すると、少女はとうとう涙を流してしまった。
「ゔぅ、ひっく・・うわ~ん!」
「ど、どうしたんだよ!?」
「よるになったら、こわーいまものがでるんだよ!いやー、まだしにたくないよぉー!」
「・・・」
少女は「わんわん」と泣き叫んだ。
俺はソッと慣れぬ手つきで少女の頭を撫でた。
「だ、大丈夫だ」
「?」
「俺が守ってやるから!」
「!」
少女は驚いていたが、すぐヘラっと笑った。
涙もいつの間にか少女の瞳からは消えていた。
「あなたはわたしの、きしだね!」
「騎士・・?」
「そう!」
すると少女は充電が切れたようにパタッと俺の方に倒れて来た。
一瞬、何かの病気かと思ったが、ただ「スゥスゥ」と眠っていて俺は安堵した。
こんな最悪な世界にも女神のような愛らしい子供が居るんだな、と俺は思った。
この世界”セレステア”は読者に取っては異世界だろう。
俺に取っては無慈悲な世界だった。
神も善人も居やしない、悲しい世界。
(愛らしい・・・)
この時僅かに俺は微笑んだ。
なんて久し振りに笑ったんだろうか・・・――
「んっ」
目を薄っすらと開くと、視界に飛び込んだのはあの少女だった。
「あ~、おきたぁ!」
「お前・・・」
「あ、なまえいってなかったねぇ。わたしはミオラナだよ」
「俺は・・・サジータ」
「へぇ、いいなまえだね!」
「・・・」
俺は何故か知らない部屋のベットに座っていた。
(ここは・・・?)
すると部屋のドアから一人の女性から現れた。
「あら、起きたのね」
「お前は・・・?」
「ミオラナのお母さんよ」
「・・・」
「現状が分って無いのね?」
「わたしがねー、あなたをかったのー」
「か、買った!?」
俺が寝てる間に一体・・・。
俺は目をパチクリと瞬かせるしかなかった。
もう、足枷が付いていない事に気づいた。
(解放された・・・?)
俺は心が温まるのを感じた。
ふと「あら」とミオラナの母が眉を寄せた。
「どうしたの?」
「え」
「泣いているわよ?」
「え」
俺は頬に触れると生暖かい涙が流れていた。
これは歓喜か?
分からない感情。
ふとミオラナが俺のベットによじ登り、ヨシヨシと俺の頭を撫でた。
「つらかったよねー、もうだいじょーぶだよー」
「っ!?」
少女に慰められるのは恥だが、とても嬉しかった。
「ありがとう・・・ございます・・・っ」
俺は泣きながら礼を言った。
何度も、何度も。
ミオラナは驚いて心配している。
「サジータ君。育てる条件として、この子を守ってくれるかしら?」
「・・っはい」
そんなのお安い御用だ。
前までなら嫌がっていただろう。
けど俺は、きっとあの子に恋をしてしまった。
大切で。
愛おしくて。
守りたくて。
しょうがない。
「勿論・・絶対守る」
俺はミオラナを抱きしめた。
強く、けど優しく。
「守ります、ずっと。ずっと」
ミオラナの母は優しく笑った。
ミオラナは俺に抱かれるのは嬉しそうだ。
その後知ることになる彼女は、この世界にある国の次期女王という事を。
勿論、命を狙われ、それを守る俺も危険だ。
だけど命を救われた身。
「絶対に守り切る・・・命に代えても・・・っ」
俺は今誓った、あの茜色の空に・・・――
しかし、無力な俺では彼女を助け切るのは難しかった。
俺が十歳になって、ミオラナが八歳のある日の事だった。
ミオラナが誘拐されたのだ。
今でも、あの時の恐怖と絶望を鮮明に覚えている。
あれは一緒に遊んでいたんだ。
一瞬、俺は目を離していた。
そしたら消えた。
「俺のせいだ・・・っ!」
俺は、あの時何度も自分自身を殴って責めた。
しかし、ミオラナの母は俺を責めなかった。
だけど、こうは言った。
「ミオラナを助けて頂戴」
なんで?なんで俺を責めない?
しかし悲しむ、自分の無力さに悔やむ時間なんて無い。
俺はコクリと頷いて、全力で走って探した。
当てのない探し物。
どんなに脚が痛くても。
どんなに肺が千切れるように痛くても。
俺は走って叫んで探した。
「ミオラナ。ミオラナ!ミオラナァァァァ!!」
何処へ行ってしまったんだ。
俺は涙を流した。
(ミオラナ・・・何処・・・?)
ふと、雨が降る。
ザァザァと段々激しくなっていく。
ミオラナは寒がっていないだろうか。
泣いてはいないだろうか。
心配で心配で仕方が無い。
遠のきそうな意識の中、一つの記憶が鮮やかにサジータの頭に蘇る。
『サジータァ!』
『どうしたというんです、ミオラナ』
『わたし、もしもゆーかいされたら「サジータァァ!!」ってさけぶわね』
『縁起でも無い事言わんでくださいよ』
その時、ミオラナは笑っていた。
俺は思わず笑ってしまった。
「ハハッ、本当に起きるなんて・・・。ミオラナは予言者なんでしょうか・・・?」
俺は涙を流しながら雨と涙で濡れた体を動かして、また探し始める。
そして探しながら多くの記憶とミオラナの笑顔が頭の中に蘇る。
『サジータ!』
『もう、サジータったら』
『サジータ、フヘヘ』
あぁ、ミオラナ・・・。
また、あの笑顔を見たい。
あの柔らかい唇で俺の名を呼んでほしい。
「ミオラナ・・・」
『「サジータァァァァ!!」』
「え?」
今のは幻聴か?
俺は焦ったが冷静に考えた。
「サジータァァァア!!」
「ミオラナ!?」
俺は急いで声のする方へ走っていった。
心の中で俺は何度も何度も彼女の名を呼んでいた。
愛おしい我が主の名を。
俺が向かった先は古びた倉庫の中だった。
そこには二人の野盗がミオラナを殴っていた。
そして、その周りではニヤニヤと笑っている野盗が何人も居た。
その光景を見て、俺は憤怒した。
野盗達はすぐ俺に気づき、ニヤリと笑った。
「おー、兄ちゃん。どうしたんだぁ?」
「黙れ」
「あ?」
「ミオラナを放せ」
「やー、英雄気取りかぁ!」
「ひゅー!」
野盗は俺を煽る。煽る。
(うるさい!)
俺はすぐ近くに居た野盗を力任せに殴った。
すぐ野盗は気絶した。
(なんて弱い・・・)
野盗達は驚いている。
「てんめー!」
「やっちまえ」
俺は襲ってくる野盗を殴り蹴って、痛めつけた。
いつの間にか野盗を全員倒していた。
(ミオラナ・・・っ)
俺はすぐミオラナに駆け寄った。
「ミオラナ・・・」
俺はグッタリとしたミオラナを抱き上げて、安否を確認する。
微かに息をしていて俺はホッと安堵した。
体中には傷や殴られた痕。
耐え抜いた証が痛々しく残っている。
「ミオラナァ・・っ」
俺は誓ったあの時の様にミオラナを抱きしめた。
強く、だけど優しく。
「目を・・覚まして・・・ミオラナ・・・っ!」
「んっ」
ふとミオラナが目を覚ました。
俺は、また涙を流した。
「良かった・・・っ!」
「ん、サジータ?」
「はい、そうです。サジータです!」
「!」
ミオラナは嬉しそうに笑った。
「フヘヘ」と声を漏らして笑った。
そして俺に抱き着いた。
痛いのか少し顔を歪めて笑っている。
俺も抱き返す。優しく、ふんわりと。
「・・・すみません、ミオラナ」
「きゅうに、どーしたの?」
「守り切れなくてゴメン。・・こんなに傷を負って。・・・俺が居ながら・・・」
「サジータ・・・?」
「一生懸けて償うから。一生守るから。もう一生、傷を負わせたりしないから。・・・本当にゴメン」
「サジータ・・・わたし、だいじょーぶだから」
「この命を懸けて一生ミオラナを守る。俺はミオラナの物だ」
俺はそう告げてミオラナに跪いた。
ミオラナは驚いていたけど、嬉しそうにしていた。
「ありがとう、サジータ!」
あぁ、その言葉だけで俺は救われる。
貴方に生かされた命、貴方の為に使います。
この命の灯が消えるまでずっと。
ミオラナの入学も卒業も成人式も結婚式も全部見届けるから。
貴方は笑っていてください。
それだけで俺は救われる。
貴方が幸せなら、俺の恋心は報われ無くて良い。
お願い、幸せになって。笑って。
「愛しています、ミオラナ」
大切で愛おしいミオラナ。
貴方の為なら修羅の道も歩いて見せよう。
「ずっと貴方が幸せに笑っていけるように守りますから」
この一方通行の片思い答えなくていいから。
「安心してください」
報われぬ恋心は捨ててしまおう。
ミオラナの幸せと笑顔を守ると、俺は誓った。
空が茜色に輝く世界で・・・――。
読んで頂けて感謝感激です。
また、自分の物語を読んで頂けたら良いな、と思います。
応援、感想・・・全部お待ちしております!
読んで頂き、ありがとうございました!!