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「お嬢様! 朝でございます。お目覚めください」


 んー、お母さん、喋り方変えた?

 お上品だけど、すごく不自然だよ。


 そんなツッコミをしたいけれど、あいにく私は寝ぼけて舌が回らない。


「むにゃむにゃ」


 仕方ないからむにゃむにゃと言いながら半目を開けてみると、驚くことにそこは私の部屋ではなかった。


「え」


 一瞬で目が覚めてしまった。

 起き上がると、アキバにいそうなメイド服を着た女の人たちが五名ほど、びっくりしたようにこちらを見ている。


「あ、あの」


 私が言いかけたのを、まるで阻止するかのように。

 彼女たちは、揃って「おはようございます、お嬢様」と言い、深々と頭を下げた。


 思いっきり、ずっこけてしまった。



 30秒後。私は、彼女たちに連行され、長い廊下を歩いていた。いや、歩かされていた。


 連行されながら思ったのだが、どうやら私はかなりの幼児だった。メイドさんたちの腰くらいまでしか身長はなく、目線を平行にすると、見えるのは彼女たちのスカートのベルトのみである。そして、自分の顔から床までの距離がとてつもなく近い。身長的に、6歳くらいと推定してみた。


 メイドさん(?)たちはみんな歩くのが速いので、かなり足が痛い。私はほとんど駆け足状態だ。こちらは幼稚園児なのだから、少しは気を使ってゆっくり歩いてくれてもいいのに、みんな構わず歩いていく。しかし、初対面の人に向かって「おんぶ」も「抱っこ」も要求できず、私はひたすら短い足を動かして前に進んだ。


 それにしても、この廊下。本当に先が見えない。

 遠近法を理解したければ、この廊下に来れば良い! というレベルで、終わりが見えません。



 これはなんなんだ。


 朝起きたらいきなり違う家に飛ばされ、私はお嬢様なんて鳥肌が立つ名称で呼ばれている。そして、足が短いということも無視され、ハイスピードで長い廊下を歩かされている。


 悪夢を見ているようだ。


 あれ、悪夢といえば、さっき悪夢を見ていたではないか。


 そう、モナカの食べ過ぎで死ぬという悪夢である。


 そういえばその時、神様とやらが「皇国の皇太子アルヴィン皇子を殺せば、もとの世界で蘇ることができる」とかなんとか言っていた気がする。


 改めて周りを見てみる。赤い絨毯の引かれた廊下。壁に飾られているのは金の額に入った絵画。素晴らしい装飾の施された天井。そして、足の長いメイドさん五人。


 あれが本物の神様とも思いたくないし、この状況を本当に認めたくはないけれど、どうやら私は違う世界に転生してしまったようだ。転生を「てんせい」と読むか「てんしょう」と読むかはあなたにお任せする。今はそれどころではないのだ。


 正直、何を信じたら良いかは不明だが、この世界に居続けたらむず痒くて蕁麻疹が出そうだ。そして、私は現実世界に戻りたい理由がある。その時はよくわからなかったけれど、今ならはっきりと言うことができる。


 やってやろうではないか、そのミッション!!


 ミルキー皇国だかミルメーク王国だか知らないけれど、皇太子アルヴィンをさっさと殺してお家に帰るのみだ。






 状況を、整理したい。


 まず、悪夢のような話だが、私は現実世界で一度死んだ。最中を食べている最中に死ぬなど、全くもって笑えない話だが、これはひとまず事実として受け入れよう。


 そして何故か、神様の恩情によりこちらの世界で息を取り戻した。


 こういうのって普通、こちらの世界でも熱とか出すものなのでは!? とツッコミたいけれど、あの神様のことだからそこまで気を使えなかったのだろう。


 そのせいで、私は今の自分の名前や家族関係もわからないまま、朝から転生という超ハードモードにぶち込まれている。


 神様に対する怒りは感じるが、私のバイブスを思い出そう。聖徳太子の名言、「心の怒りを絶ち、おもての怒りを棄て、人のたがふを怒らざれ。」

 要するに、怒るなということだ。


 なんとか怒りを鎮めた私は、未来について考えることにした。とにかく今大事なのは、これから出会う人たちに私が転生者だということを悟られないよう、うまく振る舞うことである。できるだけ無難に無難に。当たり障りのない人物としてこの体の前持ち主の生活を引き継げたらいいな、と思うばかりである。


 もちろん、皇太子アルヴィンを始末して、現実世界に帰宅するのが最終目標だが、17歳まではまだ時間もありそうだし、それは気長にやればいいかと思う。


 そういえば、17歳の誕生日をすぎると全てが無効になるとか神様が言っていたが、それは元の世界に戻れなくなるということだろうか? それならば、17歳までにミッションクリアできるように計画を立てておかないと。まったく。分かりやすく説明してくれないと理解に苦しむよ。。。


 そんなふうに思考を巡らせていると、廊下の終わりが見えた。


 いや、正確にいうと、廊下の突き当たりに巨大なドアが見えたのだ。このドアを開けた先にもまた廊下がある可能性もないとはいえないけれど、私の本能と願望が、この先にはもう廊下はないと告げている。


 ドアは非常に豪奢な模様が彫られており、両側には騎士っぽい人が無表情で仁王立ちしていた。現実世界では騎士さんなんて見たこともないので、その威厳ある様子に驚いてしまった。推定身長110センチの私には、ぶっちゃけ彼らが巨人のように見える。


 私がドアの前に到着すると、おもむろにメイドさんたちが二手に分かれて、両側の壁にそって並んだ。


「え」


 私がドアの前で戸惑っていると、メイドさんの中でも一番大柄で番長っぽい人がこう言った。


「我々は外でお待ちしておりますので」


 え、5分間も一緒に歩いた仲なのに、私に一人で行けというのですか?




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