オラオライジメっ子はダウナーいじめられっ娘に勝てない
「おい、ノロマ昴。購買行ってパン買ってこい」
僕の机をバンと強く叩き、目の前の男は脅す様な目つきで睨みつける。
髪を金髪に染め、耳にはピアスまで開けている……。いかにも現代不良と言った風貌だ。
毎日の様に僕へ様々なイジメをして来るわけだが……。
上から見下す彼を、僕がジッと見つめていると。
「おいおい、ノロマすぎて聞こえなかったか?
俺は腹が減ってんだ、てめえの金で十秒以内に買ってこいや。遅れたらもちろん……ん?」
こんな事もあろうかと、すでにパンは買って置いたのだ。昨日購買でしっかりと。
見下したまま固まった彼に、僕は片手で袋に入ったパンを突き出し。
「ほら、これで良い?」
「……なんであるんだ?」
「さあね」
しらばっくれる僕に困惑をしながら、彼は予想もしていなかったパンを見つめつづける。
しかし、パッケージを見て何かを閃いたのかハッとして。
「……あっ! ……じゃなくて、おい、なんだこれ」
そう言って彼は、ずいと僕の顔に貼り付けるようにパンを押し付ける。
「……何?」
「これ、カレーパンじゃねえか! 俺が食いてえのはソーセージパンなんだよ! 分かったら今すぐ___」
「お求めの物はこちらでしょうか」
「なんでさ」
食べたかったらしいソーセージパンを差し出してあげると、今度は頭を僕の机に叩きつけて来た。
「……で、食べるの? 食べないの?」
「あ? く、食うに決まってんだろ。俺はこれが食いたかったんだからな、はむっ……うま」
パッケージをビリビリに破いて食べている……。
「……美味しい?」
頬杖を突いて、少し気になったので聞いてみる。
「な、なんだよ急に照れるじゃねえか……ま、まあ、美味いんじゃねえの? というか、このやり取りなんかこっぱず……なんだその手?」
「……五百円」
「金とんのかよ⁉︎ ってか高すぎだろ! 前俺が買った時百三十円ぐらいだったぞ⁉︎」
「食べたんだから黙ってよこしな」
「怖っ……。ああもう、何で俺がこんな目に遭わなきゃなんねえんだ……」
目尻に涙を浮かべながら、彼は律儀に財布から五百円玉を出す。
「まいど」
「お、おう……って、ちげえよ! 俺はテメェをイジメに来たんだよ! って言っても、何すりゃ良いんだ……?」
首を傾げて、彼はウンウン唸って考えている。
「……僕にこのゴミを捨てさせるとか?」
「おっ! それだ! それ良いな! じゃあそのゴミ捨てとけよノロマ! はーはっはっは!」
勝ち誇った様に高笑いをして、彼は教室の自分の席へ戻っていく。
いつもならここで机の上で爆睡して……うん、やっぱりだ。
「……今だな」
「何が今なの?」
「わぴゃっぽう⁉︎」
いきなり背後から声をかけられた……。
黒髪ロングの眼鏡……ああ、本読みちゃんだ。
「やあ、心臓が止まるかと思ったよ」
「えー? それって……なんか隠し事があったりするから?」
…………
「ななななな何を言っているのかな、ぼぼぼぼぼ僕はトトトトイレに行こうとしていただだだだだだ」
「バイブレーションになっているよ昴ちゃん」
危ない、この子に知られるのは1番まずい。
どうにかして誤魔化さな
「ところでその手に持っているゴミなんなの?」
「ぐぶぇあ」
何でバレた? ちゃんと後ろに隠していたのに……
「私が捨てに行ってあげようか? 今ちょっと用があるから」
「殺すぞ」
「わー野蛮」
これは僕のコレクションの一つだ。
それを捨てるとか、ガンプラを目の前で粉砕されたときぐらいの怒りは出るぞ。
「ね、ね。昴ちゃんもしかして金髪くんのことすき?」
「……」
超能力者か? ……いやそうじゃ無くて。そもそも僕がアイツを好きだなんてこと……
「赤くなっちゃってるよ昴ちゃん」
「⁉︎」
やばい、隠さなくては。
「……ね、どうなの?」
「……そ、そりゃあ、嫌い……では無いし、むしろ……」
「お前ら何話してんだ?」
いきなり、後ろから声が飛んでくる。
これあれだ。フラグ回収って奴だ。
「あ、金髪くん。今ねえ、金髪くんの」
「きさまの悪事を報告していた」
「やめてくれない?」
彼はオロオロとしながら僕に懇願してくる。
「もう、素直じゃ無いんだからー」
すごいニヤニヤしてくる。なんなんだお前。
「あ? どしたんだメガネ?」
「えっ⁉︎ い、いやなんでも無いよ! あーっ、もうこんな時間! じゃ、二人ともまたねー!」
彼が口を聞いた瞬間、顔を真っ赤にして本読みちゃんは出ていった。
「……? おい、あいつどうしたんだ?」
「知らね」
僕は絶対こいつに負けない。チョキにグーが勝つくらいに必然なことだ。
……なのに、なんでパーがいるのかね