第二話その4「にゃんにゃんとガチンコバトル」
投稿第四回目の二部分目です。
視点はユリナに戻ります。
よろしくお願いいたします。
「そこのボスと戦ってる人!」
突如わたしの背後から響いた女の子の声にびっくりしたものの、山猫の右前肢から繰り出される爪を、冷静に摺り足で後ろに躱した。
ボス? ボスって何? マフィアとかのアレ?
「何だか解らないけど、わたしに話しかけてる?」
「そうだよ! ヘルプ必要!?」
もしかしたらわたしに話しかけたのかな的な質問に、背後の人は思った通りの答えを返してくれた。ヘルプ? ということはこの状況を打破するために何か手伝ってくれるという事なんだろうか。
視界に映っている装備の耐久度のうち、打刀を見ると大体半分くらい残っているのが分かる。打刀は他の武器に比べて耐久度が低いらしく、相手の攻撃を受けたりしているとすぐに壊れるらしい。その証拠に、さっき山猫の爪を試しに受けてみたらめっちゃ減ってたしね。
対して山猫のHPはまだ六割以上残っている。背後に居る女の子がどのような人物か解りかねるけど、この状況で助けてくれるというならお言葉に甘えた方がいいかも知れない。倒すまでに武器が壊れちゃうかも知れないし。
「えっと、助けてくれると嬉しい。武器が保つか解らないんだよね」
「オッケー! パーティ招待するから承諾して!」
その言葉と同時に、パーティの参加意思を確認する半透明のウィンドウがわたしの視界に現れた。わわ! 視界の邪魔に!
慌てて視線と意思でクリックしつつ、大きくバックステップした。今まで居た場所を山猫の左前肢が素通りしていく。危ない危ない。
さて、大きく間合いが開いたので、さっき取ったばかりのアーツを試してみよう。
「〈居合〉ッ!」
打刀を持つわたしの右腕が、わたしの意思とは関係なく横薙ぎに振るわれた。その太刀筋から衝撃波のようなものが生まれ、一瞬で二メートル程離れた山猫を切り裂く。
「グォゥッ」
山猫が少し怯んだ隙に、ブラウンのショートボブの中に特徴的な二本の黒い角を生やし、背中には一対の蝙蝠を思わせる翼、そしてお尻には太く黒光りしたトカゲの尾を持つ少女が、わたしの隣に並び立った。これは竜人のドラゴニアっていう種族かな? 彼女の武器は二メートルもあろう重そうな槍で、胸甲を身に着けているため、槍を構える姿は本当の戦士のようで様になっている。
「え、あんたダメージ受けてないの?」
ん? ああ、パーティを組んだからHPが見えるようになったのか。名前のところにキリエと表示されている竜の女の子が驚いてる。
「まぁ、全部避けてるからね。ダメージは受けてないよ。……っと」
話している間にまた山猫が襲い掛かってきたけど、筋肉の動きから先読みしていたわたしは、右前肢の爪を左に躱すと同時に、逆に斬り付けた。
おっと、攻撃後の隙を狙って首をもたげてきたけど、甘い。その時既にわたしはあなたのお腹の横に潜り込んでいるのですよ、山猫さん。
というわけでお腹をばっさりぽん。あ、なんか〈クリティカル〉って表示が出た。
「すっご……」
ん? なんかヘルプに来てくれたキリエちゃんが呆然としてるぞ。そこに居たら危ないぞー。
あ、気付いたらしく慌てて爪を槍で受けてる。ちなみに山猫と相対する方向が変わったので分かったけど、もう一人のパーティメンバーである「シア」って人はキリエちゃんの後ろに居る、白い翼を持つエンジェリアの女の子でいいのかな。
まぁ、パーティ欄を見れば分かるけど、一応自己紹介しておこうかな。
「わたしはユリナ、よろしくね」
「あたしはキリエだよ、よろしく」
「わ、私はシアです!」
執拗に山猫の右前肢を斬り付けながらわたしが自己紹介すると、二人ともちゃんと返してくれた。うん、ちゃんと挨拶できる子はいい子だ、たぶん。
わたしはダメージを受けていないけど、見た目重そうな(と言ったら怒られそうだけど)キリエちゃんは避けきれずに爪によるダメージを受けることが多い。その度に彼女の背後から「〈ヒール〉」という声が響く。たしか〈ヒール〉は〈神聖魔法〉のサブスキルで回復効果があるんだっけ?
それにしても、さっきから右前肢を執拗に狙っていたおかげで、山猫さんはそこからの攻撃が出来なくなった模様。ふふ、狙い通り。
「〈マルチピアーシング〉!」
キリエちゃんの何回も槍で突くアーツに山猫さんが怯んだ隙を見計らって、わたしが今度は左前肢を執拗に狙う。いい連携ができてるね。
ん? なんか山猫の瞳が輝き出した。倒した? いやいや、まだHPが一割くらい残ってるしねぇ。
「まずっ、攻撃パターン変わった! あいたたたたた!」
「うわっ! 山猫が急に暴れ出した!」
キリエちゃんが悲鳴を上げ、わたしも巻き添えを食らわないように慌てて少し下がった。いや今までも暴れてたんだけど、動きがいきなり素早くなって、爪を振るう回数が上がったのだ。キリエちゃんが痛がるのも無理は無いよこれは。
わたしも山猫の隙を見つけることが難しくて、地味にカウンターで斬り付けるに留まっている。マズいね、途中から攻撃が全部キリエちゃんの方に向かうようになっちゃってるし、このままだと彼女が死んじゃう。
「ごめんなさい! MP切れます!」
「うっ……、マジで? あとちょっとなのに……」
背後から届いたシアちゃんの声に、キリエちゃんが悔しそうに唸る。彼女の頭の上に表示されたHPを見ると、結構危険な域に達しているような気がする。
「キリエちゃん、下がって! わたしが攻撃受けるから!」
たぶんシアちゃんの役目を考えると、MPが切れるってことはこれ以上回復できないって意味なんじゃないかと理解したわたしは、キリエちゃんの代わりに攻撃を受けることを提案した。
でも、なんかキリエちゃんはバツが悪そうな顔をしてる。
「いやー……、ヘイト取っちゃってるから、無理かな……。こうなったら最後、捨て身の一撃を――」
アーツを準備しているのか、キリエちゃんが山猫の隙を窺って最後の一撃を画策し始めた時に、後ろからシアちゃんの「えっ?」って声が聞こえた。
ん? 何?
「〈ファイア・アロー〉!」
あ、この声は――
驚くキリエちゃんを追い越して、炎の矢が山猫の眉間に突き刺さった。
その一撃でHPの尽きた山猫は、光と共に消滅していった。――お? 視界にレベルが八に上がった旨のインフォメーションが表示されてる。開拓ポイントもたくさん貰えたみたい。
「助かった、ありがと、メグ」
「えへへー」
振り返ってわたしが微笑むと、妹も嬉しそうに満面の笑みを返した。
次回
第二話その5「過去が追いかけてきた」
です。
いよいよシリアス部分ですね。