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第六話その2「白い悪魔がぐいぐい来る」

2020/12/3

第六話その2~第七話その1の構成を大幅更新しました!

それに伴い、第六話その3とその4は削除されております。

「実はユリちゃんにお願いがあって、ここに来たの」


 メグの機嫌が直った後、口調も変えたシアちゃんが改めてお話を始めた。


「お願い?」


 わたしが首を傾げてシアちゃんの言葉をオウム返しすると、彼女は真剣な表情を浮かべた。一体全体何をお願いされるのか。


「とても不躾(ぶしつけ)なお願いだとは解ってるんだけど……、私に野菜を譲って貰うことは出来ないかな……? もちろん、お金は支払うよ」

「……あ、そういうことね……」


 わたしはシアちゃんの言いたいことが解った。確かキリエの説明ではシアちゃんもわたしと同じく料理スキルを取っていたはず。ということは、彼女も野菜を必要としていて当たり前だよね。


 だけど、わたしも料理をするのだ。これはさすがに譲れない。かぶりを振って拒否の意思を見せた。


「ごめんね、シアちゃんには悪いけど、野菜は売れないよ。わたしも料理したいからね」


 申し訳ない、という雰囲気を見せて、わたしはシアちゃんに頭を下げた。


 ん? あれ? シアちゃんが狐につままれたような顔をしているぞ?


「……え? ユリちゃんも料理するの?」

「……そりゃね、だから野菜を育ててるのであって。農業が目的じゃないよ……」


 意外そうなシアちゃんの言葉に、わたしも脱力して言葉を返した。まさかの農業系ガールと思われていたらしい……。


 シアちゃんはちょっと考え込んでいる様子だったけど、わたしではなく、今度はメグの方に顔を向けた。


「メグちゃん、お姉ちゃんの料理、美味しい?」

「……えっと……」


 シアちゃんの質問に、メグは答えづらそうにしながら一瞬わたしの顔をちらりと見た。


 うん、気を遣ってくれるのは嬉しいけど、シアちゃんが期待しているとしたら悪いしね……。


「……正直に答えていいよ、メグ」


 死刑宣告を待つような気分で、わたしは妹に向かって言葉を絞り出した。きっと今のわたしの目は、死んだ魚のようになっているに違いない。


「最初は食べられないレベルだったけど、今は普通に食べられます」


 メグはシアちゃんに向き直り、そんな評価を(さら)してくれた。


 うん、そうか、今の妹の評価が聞けただけ嬉しいかな。さすがに「今も不味い」なんて言われたらショックで立ち直れなくなるとこだった。


 シアちゃんは私たちを後目(しりめ)に「そっか、ユリちゃんも……」とか呟いている。一体何だろう?


「は、話を戻すけど、そんなわけでシアちゃん、野菜は自分が使うから、譲ることは――」

「ユリちゃん、私ね」


 改めてお断りをしようとしたわたしの言葉を遮るように、シアちゃんが口を開いた。どこか真剣な瞳の彼女に、わたしは言葉を続けることが出来ない。


「この町に、レストランを開きたいの」




「……レストラン?」


 どういうこと? プレイヤーがお店を開くってこと?


 わたしたちがシアちゃんの言葉の意味を理解しかねていると、彼女は大手(おおで)を広げて話し始めた。


「ユリちゃんとメグちゃんは、もうこの町のレストランに行った?」


 レストラン――と言ったら、翔竜亭(しょうりゅうてい)だよね。まぁ、他にもあるかも知れないけど。


 わたしはシアちゃんの言葉に、頷いて肯定の意味を見せた。


「キリエに翔竜亭ってところを教えて貰って、そこで食べたよ」

「メグは屋台のごはんしか食べてないなー」


 屋台? そんなのあるんだ?


「メグ、屋台なんて何処(どこ)にあるの?」

「中央広場から西に行ったところに屋台通りがあるよー」


 へぇ、そんな所があったんだね。西側はまだ行ってなかったから知らなかった。


 っとと、シアちゃんの話の途中だった。


「ごめんシアちゃん、話の腰を折っちゃった。それでそのレストランがどうかしたの?」


 わたしは脱線したことを詫びると、シアちゃんは気にしていないように話を続ける。


「二人とも、正直、メニューをどう思った?」


 メニュー、かぁ……。


 と言ったらもう、感想はあれしか無いね……。


 わたしとメグは一度顔を見合わせ、そして二人共シアちゃんに向き直る。


「「肉」」


 姉妹の声がハモった。シアちゃんもその答えを予想していたのか、盛大に溜息()を吐きながら頷く。


「……そうだよねぇ……」


 どうやらシアちゃん、キリエからこの入植地の食糧事情は聞いているらしく、食のメインが肉であることを知っており、自分もファームを持っているみたい。


「でもね、正直言って、このままだとマズいと思うの。食は日々の活動の原動力なんだから、(おろそ)かにしちゃいけない」


 ゴォォ、と翼の背後に炎を燃やしながら、ゆるふわ系少女はか細い拳を握って(いきどお)る。


 わたしたち姉妹はいつもと雰囲気の違うシアちゃんの様子を、若干置いていかれながら「わー」と呟き眺めていた。


「それで、シアちゃんは自分でレストランを作って、皆に食を提供したいと?」


 わたしの言葉に、シアちゃんはコクリと強く頷いた。あ、背後の炎が消えてる。


「プレイヤーだけじゃなくて、NPCも含めて、町の人たちに美味しいものを食べてもらいたいの。そこで、ユリちゃんにも協力してもらおうと思って」

「協力って、野菜の提供? うーん、気持ちは分かるけど、自分でも料理はしたいからなぁ」


 強い意思を持って言うシアちゃんなんだけど……わたしは困ってぽりぽりと頬を掻き、難色を見せた。


 まぁ、腕の良い人が料理した方が、皆が幸せになれるかも知れないけどさ。そういうことじゃなくて、わたしは純粋に料理がしたいんだよね。だから残念だけどシアちゃんに野菜の供給は出来ない。


「あ、野菜はいいから、ユリちゃんにも、いずれそのレストランで料理を作ってもらいたくて」

「はぇっ!?」


 なんかシアちゃんがとんでもない事を言い出して、変な声を上げちゃったよ!


 わ、わたしに、コックになれと!? 料理始めて一か月の人に!?


「わ、わわわわたしの料理を!? そんな、人様に出せるレベルじゃ……」

「じゃあ、早速実力を見せてもらおっか」


 わたしは慌ててぶんぶんと両手を振るも、シアちゃんは問答無用とばかりにインベントリから〈簡易調理台〉、〈キャベツ〉、〈玉ねぎ〉、〈ニンジン〉、〈ピーマン〉、〈(たきぎ)セット〉を呼び出した。


「本当はお肉も入れて肉野菜炒めにしたいところだけど、無いからこれで。じゃあ、四種類の野菜で野菜炒めを作ってもらいます。基本だけど、基本が出来ていないと駄目だからね」


 キリエが「料理にうるさい」って言ってたのは、こういうことね……。


 シアちゃんは笑顔を浮かべているけど、その笑顔が「拒否権は無いぞ」と語っている。


 わたしはまるで人が変わったようなシアちゃんの圧力に屈して、泣く泣く調理を始めたのだった……。




 わたしも所持している〈簡易調理台〉は、簡単に言えば小さめのキッチンだ。


 コンロ一台、フライパン、流し、まな板、包丁、ボウルなどの各種調理器具や調味料が付属している。調味料は足りなくなったら補充する必要があるみたい。


 コンロに火をつけるには〈薪セット〉などの燃料が必要で、燃料の種類によって火を付けられる時間が決まっているみたい。普通に想像出来るのは薪と木炭だけど、ガスとか使えるのかな?


 流しには水道が付いてるし、水は無限に使用できるなど、色々と「どういう原理なのか」と疑問に思ったけど、気にしたら負けだと思い、そこはあえて考えないようにしている。


 さて、シアちゃんも監視していることだし、始めよう。


 それぞれの野菜を水で洗い、しっかりと水を切る。


 皮を剥いだ玉ねぎは半分に切り、端っこをカットしてからトントンとリズミカルに薄切りにしていく。


 ピーラーで皮を()いたニンジンは短冊切りにし、ピーマンはワタを取って乱切りにする。


 八分の一にカットしたキャベツは芯を取り除きざく切りして、野菜のカットはこれで完了。


 ちなみに玉ねぎの残りは〈【五〇%】玉ねぎ〉、キャベツの残りは〈【八七%】キャベツ〉となってインベントリに格納された。なるほど、そういう仕組みか。


「ふんふん」


 シアちゃんが横から一挙一動も見逃すまいと覗いているけど、わたしは気にしないようにして淡々と調理を進める。


 コンロの下にある燃料入れに薪を一セット入れ、コンロの上にフライパンを載せて着火する。一旦強火にしてからフライパンの上にサラダ油を少量入れて、弱火に戻す。


 玉ねぎを投入し、菜箸(さいばし)で散らしながらじっくり火を通していく。玉ねぎがやや()き通ってきたら、キャベツとニンジンを投入する。


「……ふむ」


 キャベツとニンジンに火が通ってきたら塩コショウし、ピーマンを投入、少し火加減を強めにする。ピーマンに火が通ると色艶(いろつや)が変わるので、火を止める。


「……あ、お皿」


 買い忘れてた……。


「はい、お皿」

「あ、ありがと」


 シアちゃんがニッコリと微笑みながら、あらかじめ用意していた幅広な木製のお皿を二枚取り出した。わたしがそれぞれの皿の中にフライパンを傾け、二人分の野菜炒めが出来上がった。



料理


素材:玉ねぎ、キャベツ、ニンジン、ピーマン


調味料:サラダ油、塩、コショウ


品質:五〇


効果:満腹度+一〇〇


製作者:ユリナ



「〈料理〉ねぇ、野菜炒めじゃないんだ」


 まぁ好きなように料理出来るんだし、勝手にゲームのプログラム側が「うむ、この料理は野菜炒めだな!」って判断出来るはずは無いか。


「料理名は作成者が付けられるみたい。まぁ、それは売る時に考えよう?」

「売るのは確定なんですね……」


 わたしは(なか)ば諦めてそう呟いた。シアちゃんぐいぐい来るね……こんな子だったっけ? いやちゃん付けの時もそうだった。こんな子だったわー。


 わたしはシアちゃんが取り出した〈簡易テーブル〉の上に、二つの〈料理〉を並べた。


「で、では、どうぞ」


 いつの間にかシアちゃんとメグの試食により審査してもらうことになっていて、わたしは「自分の食事どうしよ……」などと呟きながら一人遠い目をしていた。


 シアちゃんは真剣な表情でふんふんと匂いを嗅ぎ、皿を傾けたりして眺めてから、やっと箸を手にして、まず玉ねぎを摘まみ、口へと運ぶ。


 次に彼女は、キャベツ、ニンジン、ピーマンの順番に口へ運んでから、「ふーん……」と少し考え込むと、今度は個々には摘ままず、普通に野菜炒めを食し始めた。


 やがて食べ終え、シアちゃんはニッコリとわたしに笑いかける。


「ユリちゃん?」

「は、はい」


 ま、まぁ、悪くは無かったはず。だからそんなに悪い評価は――


「二〇点。百点満点中ね」

「………………」


 わたしの背後でピシャァァァンという雷の音が鳴ったような気がした。おかしいな、今晴れてるよね?


 落雷で硬直したわたしはパクパク口を開け閉めするしか出来ない。あ、メグもあまりの辛口採点に顔を引きつらせてるよ。


「まず、野菜の切り方はいいと思う。ただ、ピーマンは乱切りではなく細切りにした方が、火の通りはいいかな。そこは火の通し方によっても正解は異なるけど。で、問題は野菜を入れる順番で、玉ねぎを最初に入れるのは正解だけど、ここは火の通りが悪いニンジンも一緒に入れた方がいい。キャベツを早めに入れたけど、水が出ちゃうし歯ごたえが無くなっちゃうからこれはNG。その後途中で塩コショウしたよね? そうすると浸透圧(しんとうあつ)で野菜がべしゃっとなっちゃうから、調味は最後の最後だよ」


 シアさん、もうやめてください、しんでしまいます。


「お、お姉ちゃん、メグは美味しかったよ!」

「……うぅ、メグの優しさが身に染みる」


 見習いシェフのわたしは、妹の愛に涙した。


次回


第七話その1「セントリア北の森へ」


です。

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