ちょっと先のお話「みんなで巨大熊狩り、ふたたび」
初投稿です。
よろしくお願いします(*- -)(*_ _)
巨大熊の爪の一撃は、翳した打刀の〈黒鉄〉ごとわたしの身体を弾き飛ばした。衝撃に遅れて身体が宙を舞う感覚を覚える。
「ユリナさん!」
先程まで先頭で熊の攻撃を一手に引き受けていたビーチェさんの焦った声がドップラー効果で聞こえる。うん、どれだけ飛ばされたのわたし。
冷静に天地がどちらかを把握して身体を捻り、膝を曲げ、足から大地に軟着陸して転がりダメージを吸収する。リアルじゃ今は絶対に出来ない動きだ。
自分の居る位置を把握しようとすぐに周りを見渡すと、どうやら巨大熊から五メートル近くも弾き飛ばされていたようだ。凄いね、打刀で攻撃を受けただけでこんなに飛ばされるんだ。
「……おっと」
わたしの横すれすれを、熊に向かって一直線に矢が通り抜けていく。相変わらずクーちゃんはわたしに厳しいね。彼女を振り返ると、矢筒から矢を取り出しながらツンと顔を逸らされた。うーん、ツンツンが可愛い。
巨大熊の方を振り返ると、再びビーチェさんを攻撃しているようだった。でも巨大熊の特殊行動を考えるとケイトが危ない。この熊さん、HPが一割を切った後の特殊行動として、ヘイトをガン無視して近くにいる敵を攻撃するようになるんだよね。
「ケイトさん! そっちに行きます!」
おっとそう考えている間に巨大熊がケイトの方を向いたようで、ビーチェさんに〈ヒール〉をかけ続けていたシアちゃんが慌てた様子で叫んだ。タンクのビーチェさんやVITも上げているファイターのキリエなら鎧を着ているから兎も角、AGI型のスカウトであるケイトが熊の一撃を受けたら大ダメージだ。
でもこの距離ならアーツを撃てるだろう。わたしは手にしていた打刀の〈春雷〉と〈黒鉄〉を一旦鞘に納めた。刀に属する武器は納刀状態から攻撃することでダメージが上がるためだ。
「〈イグニッション〉!」
メグが「あれがターゲットだよ!」とばかりに熊を燃やしてくれた。〈発火〉のバッドステータスに陥ったために熊さんの姿が夕闇の中でも煌々と照らされ、位置が分かりやすい。ありがとう妹よ、愛してるからね。
わたしは腰だめに熊の方へと正確にターゲッティングする。照準はOKだ。
このアーツは、「攻撃力は高いが後の隙が大きい」という癖がある。だけど、止めを刺すならちょうど良い。攻撃後に隙があろうが構わないだろう。
「〈インクリーズ・アジリティ〉」
お、ミクちゃんが打刀の攻撃力を上げるバフをかけてくれた。彼女を振り向くことなく、わたしは「ありがとね!」とだけ答える。
「さて、今回も止めは貰おうかな。いくよ!」
巨大熊とその向こう、夕日が沈み切ろうとしている地平線目掛けて、わたしはアーツを発動させるショートカットの言葉を口にした。
「〈紫電一閃〉ッ!」
その瞬間、わたしの身体は音速を超え、熊へと一直線に翔けていった。
次回
第一話その1「VRMMORPGってなんですか?」
です。
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2020/10/08 追記
小説の表紙をhi様(Coconala)に描いて頂きました!