居酒屋で小声で話されても聞こえない時ってあるよね
セージュ区で仕事を終え、今夜の予定を考える。
(・・・久しぶりにパブにでも行くか)
そう考え、パブへと向かう。パブというのはイーランド連合王国で生まれた酒場である。主にビールや軽食を提供しており、カウンタであらかじめお金を払って注文する。まあこの国ではパブと聞くと風俗店をさす場合もあるのだが、今日は行かない。
パブの扉をあけると、結構混んでいる。仕事終わりの冒険者やら商人がすっかりできあがっている。
「いらっしゃいませ。何にしましょう?」
「カロナとフィッシュアンドチップス」
「はい、かしこまりました」
そう言って店員はカロナと書かれた瓶ビールの蓋を栓抜きで開ける。カロナの瓶の口に8分の1にカットされたライムをさす。それからフライドポテトと白身魚のフライを皿に盛り、カウンタに乗せる。それを手に取り、適当な席へと向かう。
席に座ると、瓶の口にさしていたカロナを親指で押し込むようにビールに入れる。ライムがビールに落ちるとき、ライムの果汁が炭酸の気泡をまとう。ライムの果汁がビールにしみこんでいく。カロナはラッパ飲みして飲むのが一番うまい。瓶を口につけ、ビールを舌の上で転がす。ライムの酸味とビールの苦みが口全体を支配する。それが喉に流れ込み、爽快感が突き抜ける。
フライドポテトと白身魚のフライも揚げたてで、ポテトのほくほく感が失われていない。白身魚の外はさくっとしていて中はふっくらしている。ポテト、ビール、白身魚、ビール、ポテト・・・このルーティーンがたまらない。
こんな感じで食事を楽しんでいると、横から男三人の声が聞こえてくる。
「後輩君、政治学の本は好きなものを読めばいいと思うんだ」
「先輩はどんな本は読んでいるんですか?」
「へへっ」
どうやら3人とも大学生か私塾生のようだ。この世界も大学と呼ばれるものが存在する。まあ、大体は皇国大学に進学し、他は私塾に進学する。頭が悪いと私塾生というわけではない。私塾に進学する人間は、皇国大学よりも私塾の先生の下で学びたいという理由で進学するらしい。要は、変な人間が集まりやすいのだ。
三人組の様子を見てみる。先輩と呼ばれた男は頭頂部が怪しい。その先輩と話していた後輩君は顔が怪しい。そして会話には入ってこないが、二人の話を横で聞きながら、たまにへへっと笑っている男は挙動が怪しい。三人とも何か怪しかった。
「そうだね、最初ならアンデューソン「へへっ」とコーだね。「へへっ」モーグンソーも必読だし、ノーチェックも読「へへっ」むべきだし、・・・・おい、大丈夫か」
同じことを思った。こいつヤ●でもやってんじゃないのか。頭頂部の怪しい男はそう言ったが、●クやってそうな男はそれに対して「へへっ」と言いながら、煙草を吸う。それ本当に煙草か?それはおいといて、頭頂部の怪しい男は非常に早口で言葉が聞き取りにくい。さらに周りが騒がしいのもあって、聞き取れない部分もある。
「まあ、あいつのことは放っておこう。あと、これは読んどいたほうがいいだろうな。『文化の衝突』って本」
「作者は誰ですか?」
「ハ・・チ・・・コ・」
「えっ、誰ですか?」
「ハミチ●コ」
「えっ」
「ハミ●ンコ」
私はビールを噴き出した。後輩君も噴き出した。ヤ●男も噴き出した。
いや、外国人っていろんな名前の人がいるしな。おまけにここは異世界。偏見はいけない。後輩君は落ち着きを取り戻し、再度大きな声で確認する。
「先輩、ハミチン●ですか?」
「・・・そう!」
何がそうだよ。絶対違うだろ。そう言いたい気持ちは山々だが、本当にハミ●ンコかもしれない。
「先輩、本当にハ ミ チ ● コ ですか?」
「さっきからそう言っているだろ。人の話を聞けよ」
ついに●ク男は耐えきれなくなったのか、腹を抱えて笑い出す。後輩君も笑い出す。私も笑い出す。
「なんだよお前ら!本当におかしいよ!」
そう言って先輩はふてくされた顔でチョリソーを食べていた。これが私と先輩、後輩君、ヤ●男との出会いだった。ちなみに、あの後調べてみたんだけどハミチンコではなくハムチントンです。




