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テンプレの冒険者登録は難しいみたいです

先ほどのやりとりで自分の言葉や文字が相手に通じることがわかった。ここが異世界なのであれば何らかの魔法か能力か、そんなものが働いたに違いない。そのように理屈付けた。


(・・・いったん落ち着いて考えたほうがいいかもしれない。なぜかはわからないが、自分は異世界に飛ばされた。でもなぜ?)


とりあえず教えてもらった郵便局の方向に向かっていく。歩いていく中で街を観察するとともに、今後のことを考えていく。


(・・・誰か、もしくは自然現象的な力で自分は異世界に飛ばされた。目的も分らない。転移させられた物語の主人公ならどうする?)


いろいろ考えていくが、現在いる国のことや魔法のこと、常識について学ぶ必要がある。つまり情報を仕入れる必要があると結論づける。


(・・・物語の主人公なら冒険者ギルドとか図書館とか、そういうことを道行く人に聞いたりするはず・・・でもそれは冒険者ギルドや図書館が存在する前提の話だ。そもそも存在しない、あるいは施設が利用できない場合、相手からは変な目で見られてしまう。そんなことになれば今後相手との関係はやりづらくなる)


(・・・いつまで異世界に飛ばされたままか、わからない。長期間ここで生活するのであれば、できるだけ周りとは友好的に、それこそ最初からこの国で生活する人のように振舞わないといけない)


(・・・今の自分は言ってしまえば不法入国者だ。最初に草原で見た壁と街の文化レベルから察するに、この国には国境とか入国管理のレベルは相当高いはず。現状は無国籍者と変わらない)


(・・・無国籍者に対する扱いがどうなるかわからないが、よくて国外追放、悪くて死刑の可能性がある。問題になる前に身分を証明できるものを手に入れるか、身を隠せるスラム街のようなところを探る必要がある)


最終的な方向性を定めたところで、ふと剣や盾を持った人が歩いているのを目にする。


(・・・剣と盾を持っている。もしかしたら冒険者ギルドのようなところがあるのかもしれない。申し訳ないけど、この人についていけば冒険者ギルドに向かってくれるかも)


少し怪しいとは思いつつも冒険者(?)の後を追跡する。すると剣が交差する絵が描かれた看板(<ノース区冒険者ギルド>の文字も見える)のある建物に男は入っていった。


(・・・ビンゴ!)


心で喜びつつも建物を観察すると誰でも入れるようであったので、恐る恐る中に入っていく。






中を見ると、まるで役所のようになっているのがわかる。カウンターがあり、その前にベンチがいくつも用意されており、カウンターの向こうには事務員が作業をしている様子が目に入った。


(・・・テンプレのようなギルドってわけじゃないんだね。酒場になっていないし、因縁をつけてくるような冒険者もいない)


現実は違うんだなあ、と抜けたようなことを思いながら辺りを見渡していく。すると入り口近くの棚に<冒険者になるには>と書かれた冊子を見つける。随分と都合がいいな、と思いながらも中を見ていく。


(・・・まず年齢要件だけど15歳以上だから問題ないと思う。こんな老け顔を見て12とか13に見られるなら大万歳だけど、問題は年齢を証明するものを出せと言われた時。運転免許証みたいな物があるのかは知らないけど。次の要件は体力・経験か・・・)


その内容に目を通して、ため息をつきながら冊子を棚に戻す。


(・・・予想していたけど体力・経験が何気に難しい。現役冒険者の下で1年以上の下積み経験とあるが、自分のような身元不明の輩を受け入れてくれるとは到底思えない。もしくは現役冒険者との試合で勝利するという要件も達成が難しいだろう。こんな時にチートがあれば別だけど実際問題そんなものはない)


現実の壁に打ちひしがれていると、ふと周りの冒険者の声が聞こえてくる。


「代書屋、読んでくれ」

「はい、一回100イエンね」


ふと頭を上げると冒険者が眼鏡をかけた女にお金を渡しているのが見える。すると男は掲示板に貼ってあった紙を一枚とって女に見せる。


「題名、イバーキ領レッドアンクゥ討伐。依頼主、イバーキ領漁業組合。難易度、C。報酬、20万イエン。依頼主交通費負担」

「んー、報酬交渉はあるか?」

「依頼書に記載なし。受付相談案件」

「おー了解。助かったわ」

「またご贔屓に」


そう言って冒険者は女から離れていった。この様子を見ていて、ふと思いつく。


(・・・一発芝居を打ってみるか)


「ちょっと代書屋さんいいかい?」


そう言って代書屋と呼ばれた女に声をかける。女はそれを聞いてこちらを観察し、「はい、なんでしょう?」と問いかける。


「変なこと聞いちゃうんだけど、代書屋さんになるにはどうすればいいんだい?実は小さい甥が代書屋になりたいと言い出してね。話のネタとして知っときたいんだ。仕事中に悪いんだがね」


これは一種の賭けだった。仕事で忙しいと一蹴される可能性があったので、内心ハラハラだった。だが女は仕事が一段落したのか、もしくはお人よしだったのか、快く教えてくれた。


「珍しいですね、そんなお子さんがいるなんて。ご存知だと思いますが、私たち代書屋は正式には代筆士と言います。代筆士になるには二通り、貴族の資格を持つ方が代筆士になる方法と庶民が試験に合格して代筆士になる方法の二つです。甥っ子さんが貴族資格を有する家の子であれば15歳以上になれば登録できます。貴族資格がなければ、試験を受けて合格すれば登録できます。試験は郵便局に行けばいつでも受験できます。300点満点のテストで、私が受けた時と同じであれば180点以上で合格のはずです」


いつでも、という部分に引っかかったのでさらに聞いてみる。


「試験ってどんなのが出るんだい?」

「文字の読み書きや計算ができれば合格できますよ。ここの依頼書が読めるレベルであれば問題ないでしょう」

「なるほど、でも試験を受けるにはお金やら何やら必要じゃないのかい?」

「いえ、必要なかったはずです。賢帝の時代に法律がたくさんできた影響で役所はパンク状態、代筆士不足です。ご存知だとは思いますが代筆士は貴族の方に不評の仕事です。一方、庶民で読み書きができる人は限られますし、読み書きができる方はもっと報酬の高い仕事に就きたがります。そのため今では試験を毎日受け付けており、試験料も無料、身分資格も必要なく、スラムからも読み書きができるのであれば人が欲しいレベルの人不足です。甥っ子さんの夢を壊すような発言ばかりで恐縮ですが」

「いや、ある意味助かるよ。ご丁寧にありがとう」


こう言って女と別れる。有益な情報が手に入った。身分証明なしに受けられるというのは魅力的だ。問題は試験のレベルだが、この翻訳魔法があれば何とかなるかもしれない。


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