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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クトゥルフ神話

殺人記

作者: NARU0040

 十一月十二日 日曜日

今日、明日と雨が続くようだ。今日行う予定だったおうし座の観測は、明日の夜晴れたら行うことにしよう。


 十一月十三日 月曜日

天体観測をしていると顔に虫がぶつかってきた。もう十一月だというのに随分と大きい虫だった、額から少し血が出ている。跡が残らないといいけど…


 十一月十四日 火曜日

朝には傷は綺麗になくなっていた。少し痛むが、支障はないだろう。念のために今日は早く寝ることにした。


 十一月十五日 水曜日

朝目が覚めるとベッドから落ちていた。椅子が倒れているし、体の下敷きになっていたのか右手がひどく痛む。脛を打ってしまったようで今日の体育は見学した。明日には痛みが引いているといいが。


 十一月十六日 木曜日

今日も床で眠っていた。足の痛みは引いたが今度はパジャマの裾が湿っている。僕は夢遊病にでもなってしまったのだろうか。明日は流星群が来るらしい。例年雨ばかりだが明日は晴れるだろうか。


 十一月十七日 金曜日

快晴とはいかないが、例年よりはましだろう。流星群は九時頃から見えるようだ。今から楽しみで仕方がない。


 十一月十八日 土曜日

十時頃までの記憶しかない。どうやらそのままベランダで寝てしまったようだ。寝ている間に望遠鏡が倒れてしまったようで、望遠鏡は無事だったが三脚の足が一本真ん中あたりで折れてしまっていた。明日買いに行くことにしよう。


 十一月十九日 日曜日

三脚を買うついでに星図と防寒着を新しくした。少し高かったが今年の冬は去年より冷え込むと聞いたから対策しておく分には困らないだろう。


 十一月二十日 月曜日

母親が最近物騒なニュースが多いからしばらくの間夜にベランダに出るのをやめるように言ってきた。無理に天体観測をする必要もないが、ダメと言われると気になってしまう。


 十一月二十一日 火曜日

最近物がよく無くなる。使いやすかったシャーペン、旅行先で買った使いもしないジッポライター、小学生の時に買った彫刻刀。掃除のときに間違って捨ててしまったのだろうか。


 十一月二十二日 水曜日

毎日物騒なニュースが絶えない。五日前の水死体、三日前の放火事件、今日は公園の轢死体。どれも近くの町の出来事で学校からも夜間の外出は絶対に避けるように言われた。これではますます天体観測は出来なくなった。


 十一月二十三日 木曜日

制服のボタンが取れてしまった。ふざけていた友人に巻き込まれて何かに引っ掛けたようだ。土曜にでも修理しよう。今日は行方不明者が出たらしい。オカルトサイトではカルト教団の計画的な犯行だと言われているらしい。


 十一月二十四日 金曜日

今日は休校になった。なんでも学校付近で夜間パトロールを行っていた警官が、耳から血を流して死んでいたらしい。月曜日の学校はどうなるのだろうか。


 十一月二十五日 土曜日

カッターシャツのボタンをつけるのを忘れていたが、もう眠いので明日つけることにしよう。


 十一月二十六日 日曜日

また物がなくなっている。裁縫セットの中の待ち針が二本、キャンプ用のガスボンベが一缶、携帯ゲームの充電コード。新しく買う程ではないが、なんだか不気味だ。


 十一月二十七日 月曜日

学校に行くとクラス中が殺人鬼の話題で盛り上がっていた。金曜日から今日まで何もなかったからだ。ネットでは専ら次の事件についての推理大会だ。皆は怖くないのか?


 十一月二十八日 火曜日

今日の授業は二時間目に中断され、全校生がすぐに下校することになった。近くで車の爆発事故があったそうだ。明日もとりあえず休校ということだが、日中の外出も控えるようにとのことだった。


 十一月二十九日 水曜日

今日も休校になった。明日からは地域ごとにバスで送迎すると連絡があった、また何か起こりそうだが大丈夫だろうか。


 十一月三十日 木曜日

バスによる送迎で学校に行くというのは不思議な気分だった。皆謎の高揚感に包まれていたが、連続殺人のニュースが流れた途端に静まり返った。至る所に死体が隠されていたらしく、六人もの遺体がほとんど腐った状態で見つかったそうだ。


 十二月一日 金曜日

連続殺人事件のせいか町中がピリピリとした空気に包まれている。学校でも警察による荷物チェックがあった。犯人はまだ捕まらないのだろうか…


 十二月二日 土曜日

また殺人があったらしい。マスコミの関心が高まってきたのか、家に記者が訪問してきた。母がなんとか追い返したがこれからこういうことが増えると思うとうんざりする。


 十二月三日 日曜日

今日は三人の記者がやってきたが全員追い返した。気分転換にこっそりと天体観測をしたが、殺人事件のことがちらついて全く楽しめなかった。


 十二月四日 月曜日

新しく一件の殺人と二人の遺体が発見された。殺人が起こる範囲が徐々に広がっているように感じる。犯人はやっぱり複数人いるのだろうか。


 十二月五日 火曜日

どんどん物が減っている。日に日に部屋は綺麗になっていく。テントの張り綱一本、懐中電灯、辞典類が三冊、ハンガー一本、お気に入りの耳かき。ゴミ箱や物置の中を探しても一向に見つからない。とても不気味だ。


 十二月六日 水曜日

今朝は男性三人の腐乱死体が発見された。学校でも生徒は事件の話をしなくなった。夜寝付けないという生徒もちらほらといるようだ。警察に尋ねてみても調査中の一点張りで何も答えようとしなかったが、雰囲気から難航しているように感じた。


 十二月七日 木曜日

また事件があった。場所はどんどん遠くになっていく。ネットではいまだにカルト集団の仕業だと言われている。今日は母親が仕事で帰ってこないので久々に天体観測をした。寒かったが空気が澄んでいて今までで一番綺麗に見えた。


 十二月八日 金曜日

夜遅くまで星を見ていたせいで寝坊しかけた。朝のニュースはバスの中で見たが、調査に光明が見えてきたらしい。心なしか皆も少し元気なように感じた。一刻も早く捕まるといいが。


 十二月九日 土曜日

二十代の男が現行犯として逮捕されたようだ。学校からも来週から通常通りの授業を行うと連絡があった。晴れているので天体観測をすることにした。少し曇り気味だったがよく見えた。明日から安心して天体観測が出来そうだ。


 十二月十日 日曜日

犯人の発言により次々と遺体が発見されている。実に一連の事件で十四人もの人間が殺されてしまった。これ以上犯人が野放しになっていたらと考えるとぞっとする。


 十二月十一日 月曜日

皆月曜の朝からとても元気そうだった。先生たちもほっとしているようで、今日の授業は全体的に和やかな雰囲気だった。


 十二月十二日 火曜日

今回の事件で付近に住んでいる人には記者からの取材が殺到したがは母親が全てさばいてくれたようだ。今日も天体観測する余裕がありそうだ。


 十二月十三日 水曜日

生徒が一人行方不明になったらしい。明日は臨時休校として警察の方にも声を掛けて学校付近を調査するとのことだった。もしかしてやはり犯人は複数犯なのだろうか。早く捕まってほしい


十二月十四日 木曜日

また人がいなくなったらしい。今度は新興宗教の自称教祖が行方不明になったらしい。

ネットでは別の組織だ何だと言っていたが、本当なのだろうか。


 十二月十五日 金曜日

またしばらく夜間の外出を控えるようにとのことだ。こんなにたくさんの人を殺して楽しむ奴の気が知れない。


* * *



 こうして遊ぶのもそろそろ一月になる。もう飽きてしまった。



* * *


 ふと気づくと二人の警官に取り押さえられていた。他の三人は鬼のような形相で僕に拳銃を向けている。何があったのだろうか。警官の一人が言う。

「君は何故こんなことをした! たくさんの人に迷惑をかけて、罪のない人間の命を弄んで…おかしいと思わないのか!」

 何を言っているんだろう。僕は何故こんなところにいるんだ? 記憶が朧げだ。

「ふざけるな、お前が自ら自首したんじゃないか! 証拠の品と現場までわざわざ教えて…一体何がしたいんだ!」

 警官の目は何か悍ましいモノを見ているようだ。なにかおかしい。きっとぼくはなにか忘れている。頭の中で何かが蠢いた。今まで忘れていた物が濁流となって押し寄せる。

一人目は執拗に蹴って、二人目は池に沈めて、三人目は全身を穴だらけに、四人目は金属の棒で頭を、五人目は火で炙って。体中に溝を彫って、コードで首を絞め、閉じ込めて火を焚き、耳に針を突き立て、余ったガスでもう一人。時には熱心に二日もかけて勉強し、試しに時間差で吹き飛ばした。絞めて、殴って、殴って、刺して、殴って、突き立てて、殴って、切って、潰して、殴って、焼いて…。

知らなかった。犯人は僕だったのだ。納得も許容もできないけど、人を殺した感触が今でも残っている。

狂ってしまいそうだ。  もう狂ってしまった。

自分は狂ってない。  狂っているから殺した。

僕は何もやってない。  自覚はあるんだろ?

犯人は僕じゃない。  お前が殺した。

犯人はお前だ。  殺したのはお前だ。


もう何も見たくない。

好きにすればいい。


なにも見えない。

元からお前には何も見えちゃいない。


なにもかんがえたくない。

ならやめればいい。


なにもかんがえられない。

知性なんてあったところで。


ぼくはだれ?

知ったことか。


あなたはだれ?

知ってどうする


だれなの?


ねえ


ねえ


 虫が飛んでいく。


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