僕達が野菜を嫌った理由は……
「いただきます」
阿部のんちゃんは異世界人である。
とある事情で地球で過ごすことになっている。
パクッ
のんちゃんはどこにでもいそうな外見ではない。小学生の可愛さとしてはずば抜けており、その可愛さは誰もが触れたい、ストーカーしたい、独占したいほどのかわいい姿。将来は容姿端麗確定させた、プリティー小学生である。ゴスロリ姿最高である。
そんな可愛い少女だって。
小学校で給食を食べる。普通というか、地球の日常を送っている。今日はそんな時のお話である。
「ピーマン食べないの?」
「ピーマンの色とか、苦味が嫌なんだよねぇ」
「野菜炒めで綺麗にピーマンだけ抜くの、大変だと思うけど……」
「それでも嫌なの!」
隣の子がピーマンを残す。
「ピーマン無理ぃっ」
「あたしはにんじんもダメ」
「野菜は嫌だ」
それだけではない。野菜というのはどうしても、子供に好かれん食材である。健康や美容に良いだなんて、こんな10年ほどしか生きてない奴には分からんのですよ。
のんちゃんも小学生というわけだが、のんちゃんに食わず好き嫌いはない。確かに給食はあまり美味しいとは言えないけれど、こちとら異世界を滅ぼしたり、今日食べる物に四苦八苦していた頃もあった。
お金を差し出して、提供されているという有り難味。のんちゃんは良く分かってしまう。
子供にしてはかなりの経験をしてしまっている、のんちゃんである。
「食べないと大きくなれないよ」
「野菜だけ食べてもしょーがないし」
定番文句も、定番文句で返される。
時や状況を経験し、そんな好き嫌いは消えていくもの。少なくとも、その対応を人は生んでいく。大人の話はまた今度だ。
のんちゃんは思う。そして、胸張って伝える。
「よーし!だったら、のんちゃんが美味しい料理を作ってあげる!ピーマンを使った料理!食べてみて!!」
◇ ◇
のんちゃんは可愛いだけじゃなくて、家事だって一流なのよ。
こんな平和な日本という国にいても、料理と食事は毎日三食、ありがたやである。
友達連れて、家庭科室をちょっと占拠。
エプロン姿ののんちゃんも可愛いくて、男子生徒までホイホイである。まぁ、手伝いとして、
「買い物ありがとう」
「いえいえいえ!」
「のんちゃんの手料理を頂けるなら!」
食材を買って来てもらった。
「お手軽!のんちゃん手料理、その1」
ダダァンッ
「野菜たっぷり炒飯!!のんちゃん手料理、その2」
ダダァンッ
「野菜ミックスの卵焼き!!のんちゃん手料理、その3」
ダダァンッ
「冷たい氷入りの麦茶!!」
小ネタなノリをしながら、今日のレシピを伝えるのんちゃん。そんなレシピなんてもんはないんだが……。のんちゃんのアドバイスである。
「野菜が苦手なのは分かるよ。克服しろなんて言わない。だから、のんちゃんは野菜を刻みまくります。一口サイズではなく、細切れに!」
のんちゃん。包丁でたまねぎ、にんじん、ピーマン、ネギ、ベーコンをガンガン細切れにする。小さなホールにそれぞれ具材を分けておく。あと、炒飯用の卵と、卵焼き用の卵を2つ割っておく。
こんなところからであるが
「細切れってちょっと大変で地味だけど、食べやすくするにはこれが簡単なの!分かる?苦労するんだよ!」
作り手の苦労や手間を見せること、知らせることで、子供というのはようやっと知れる。
「噛まないで飲み込める工夫が、好き嫌いを克服する一歩近道かな。まず食べさせること」
食べろというより、食べやすいようにしてあげる。とても優しい母親のようである。
料理の姿勢はもうそれである。
「ご飯と一緒に混ぜて炒める。強火じゃなくて、中火。急いで作ろうとすると、味って悪くなるから。炒めて、塩胡椒、醤油。……苦手だったら、炒飯の元で良いんだよ」
今度は卵焼き。
卵は事前に溶いておき、フライパンに油をひいておき、中火から弱火。細切れにした野菜を卵に入れてから、フライパンに流し込む。フライパン全体に卵を流し渡らせてから、塩。あるいは醤油。
「のんちゃんは簡単な卵にしてるけど。好きな食べ物と一緒にすれば、なんでも美味しいよ。ハンバーグや天ぷら、サンドイッチとかね」
綺麗に卵を巻きながらフライパンから、まな板へ。包丁で切って皿に並べる。
炒飯も同様。氷入りの麦茶も忘れない。
「どう?簡単な料理だけど。まぁ、食べてみてよ!」
綺麗に主食、おかず、飲み物が並んでいる。給食よりも綺麗に並べられている事も含め、なんかありがたい。
「いただきます」
「い、いただきます」
そういえばのんちゃんは、ちゃんと『いただきます』を言う。なんで?って、食べられる感謝をするからである。
のんちゃんの手料理を食べてみれば、
「お、美味しい!」
「食べやすい薄味!」
「全然、ピーマンの味がしない!むしろ、良い食感がでていて、美味しい!!」
好評であり、
「えへへへ、そうでしょ?野菜だって美味しいんだから」
のんちゃんの笑顔と励ましも見れたら、サイコーだ。好き嫌いの意識は減っただろう。
そして、子供達は理解する。ちゃんと料理されたものはとっても美味しい。でも、野菜は苦手だ。つまりは……。
「全ては母ちゃんの料理がマズイから、野菜を苦手にしていたということ!」
「分かる分かる!ピーマン使った料理が大抵マズイのって、お母さんの腕が悪いからなんだ!」
「ピーマンって分かるほどの切り方!味付けだった!」
好き嫌いがあるのは、お母ちゃんの料理がマズイから!!
「それ。お母さんが泣いちゃう。慣れてみたり、いっそ自分で作るようにしたら?」