表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/28

AAランク冒険者。

朝日が昇り始めた時間、俺達は朝の訓練(トレーニング)を始める。街での訓練は危険と思い少し離れた草原で行うことにした。


一昨日の休みのおかげで蓄積されていた疲れはまるで無かったように消えてなくなり体がいつもより軽く感じる。


俺は雑に作った訓練用の斬れない刀を構える。

俺対フィーネ、アルネ。剣術だけで言えば二人よりは上手いと断言出来る。


2歳から剣を触ってた、いつも親父の剣閃は視てきた。そのせいもあって動体視力も常人とは違うものだ。


「いきますよ、レイシャ!」

「…こいよ」


左右から攻める作戦か、まぁ真正面からはまず俺から取れないって分かってるしな。


「だがあめぇ!」


俺はアルネが足を踏み切ったのと同時に跳躍する。一瞬空中で固定された姿勢での回避はほぼ不可能。


横に一閃、斬れずとも当たれば結構痛い。俺は怪我をしない程度に当たる直前威力を緩める。


「お姉ちゃん!」

「チッ!誘ったのか!」

「いつまでも同じとは思わないことだよレイ兄!」


直後アルネは構えた剣の軌道を予知していたようにズラし剣の柄で俺の斬撃を止める。


それを見越していたように俺の背後を取っていたフィーネが斧槍(訓練用)で大振りに縦に振り下ろす。


俺は何とか体を捻り回避して地面を転がる。

レイシャを逃した斧槍は空を切り地面へと突き刺さる。砂塵が舞い、微かに破れる服。


「同等、それ以上の者との訓練で手加減は相手を侮辱しているのと同義。レイシャ、本気できてください」


俺は笑い謝罪する。すまない。認めよう、


ーー 二人、なら手加減はいらんよな。


一呼吸置き、刀を構え直す。瞬間、二人の前からレイシャが消える。


「アルネ後ろです!」


アルネは反射的に身を屈め後にいるであろうレイシャに足払いをする。だが、円を描くようにアルネの足は一周する。


フェイク。アルネの後ろにあったのは殺気のこもった鞘。直後私の背中に激痛が走る。


「グッ…!」


私は痛みを緩和するため体を流れるようにして地面を転がる。


「はぁ、はぁ」


見えない。


実を言うと私は魔法で目を強化してた。ズルいけど。でもレイシャの実力は知ってるから。ここ1年での訓練でレイシャと私達の勝敗は384戦、


144勝240敗。完全に上をいかれてる。


何が足りないか、元々魔導師よりだった私とアルネの身体は近接向きではなかった。それでも、私とアルネは覚えたかった。レイシャと並んで戦えるようになりたかったから。


私達が訓練で勝ったのは全部魔法での訓練。1回も剣での訓練ではレイシャに勝ったことは無い。


ー勝ちたい!


痛む体を叱咤し立ち上がる。まだやれるから。


「はぁぁぁ!!」


ーーーーー


「また負けたよー!」


いつもの様に訓練終わりの特製ジュースを飲む。サッパリした味わい、カイナの実を使ったオリジナル。喉を潤すにはうってつけだ。


俺は埃まみれになり転がっている二人を見下ろす。正直今日のは焦った。あんまり手加減しなかったし。


「今日はいけると思ったんですけど…まだまだ足りなかったですね」


1歩、いや2歩も3歩も上をいかれた。完璧に、また、大敗した。


「まぁやっと1年で体が出来上がったんだ。一応これからってところじゃないか?」

「まぁそうだけど…悔しいものは悔しいの!!」


ギャーギャーと転げ回るアルネ。訓練で完璧に打ち負かされるといつもこうだ。俺とフィーネは苦笑しながらジュースを飲み干す。


汗に濡れた服。冷えて体を壊さないために宿屋に直行する。街に着くと既に開店の準備を終えた店が見られた。


おジジ、おババの世間話。朝の体操。子供を起こす親の声。街はもう賑わい始めてる。


急いだため汗をよりかいた。先に風呂に入ったフィーネとアルネを待ってる間下に降りて宿の女将に一週間分の宿代渡す。


「確かに受け取ったよ。それで、今日はダンジョンに潜るのかい?」

「そうですね、今日は天気も良いのでクエストでも請けようかなって思ってます。」


年齢不詳の女将。顔は20代と言われても全く違和感のない顔。しかしどこかお母さんオーラを感じさせるその包容力。


この宿屋は創立30年らしいから多分40歳より上…あっ、考えるのやめよ。めっちゃ睨んでるよ、ちょー怖いって。ごめんなさい。


暫く雑談していると上からひょこっとフィーネが顔を出す。


「レイシャーお風呂あがりましたよー」

「おう、今行く!それじゃあな女将さん」


階段を登り部屋に向かおうとすると、女将さんに止められる。


「あんな可愛い子二人、絶対に泣かせるんじゃないよ?」


言われなくても。


「分かってるよ」


俺はニッと笑い二階へと階段を駆け上った。


風呂から上がり朝食を摂る。窓から差し込む光がいい感じに部屋を照らす。


朝の雰囲気。この独特な雰囲気は割と、いや結構好きだ。外から聞こえる痴話、八百屋の声。日常を感じさせる。


朝食を終えると今日はクエストに行く、とフィーネ、アルネに伝える。


「具体的には決めてないから取り敢えず冒険所(アドバール)に行くか。」


「「はーい!」」


ーーーー


「あっレイシャさん、それにフィーネさんも!おはようございます」


扉を開けてから直ぐに気づいて駆け寄ってくるリルさん。まだ他の冒険者の人を相手していたのにすっ飛んできた。あの人目に見えて落ち込んでるけどいいのか?


いつものアルネ無視からの睨み合い、口撃戦が始まり暫く傍観する俺とフィーネ。じゃれ合い程度から、暴走してちょっとヤバい用語とかが出てくると俺とフィーネはアルネを、リルさんは他職員の人に止められる。


最近恒例となってきているこのやり取りに他の冒険者の人は笑って見ている。いい傾向だ。魔族と知っても普通通りに接してくれる人はなかなかいない。


それは冒険者でも例外ではなかったが、テルペントではそういった事があまり、無かったので少しビックリしていたところはある。


そして話を切り替えリルさんにクエストの発注を頼む。俺達は連日のダンジョン潜りでDランクまで上がった。それによって受けるクエストも増えたはず。俺は少しの期待感を混ぜてリルさんの返答を待った。


「そうですねぇ、これとかどうです?商隊の護衛、募集してるの3人ですし種族問わずとも書いてありますから。それに強者求むとも書いてます。ピッタリじゃないですか!」


種族問わず、ここは重要だ。クエスト内容において種族での壁はやはりある。森人族(エルフ)は肉関連、竜人族(リザードマン)は器用系、種族特有のしきたりなどによってクエストが受けられないこともある。


だから事前にクエスト内容には、~族は✕~族は○など書いてある事も多い。パーティーでの内容には結構書いてある。


「それじゃあこれにします!」


「はーい、それではまず依頼内容をお浚いします。クエスト内容は商隊(キャラバン)の護衛。場所はテルペントからトルネリア。報酬は金貨1枚と銀貨40枚で種族問わず、と。」


中々好条件のクエストだ。護衛クエストでここまで出すとなると割と高価なものとかの護衛か?でもDランクのクエストだからそこまで高い物は積まれてないと思う。そしたらB以上のクエストになってるだろうし。


リルさんに御礼を言って一先ず依頼先へ向かおうとした時


「あぁー?なんだか魔族臭ぇなぁ!?」


扉から4人組のパーティーが入ってくる。男性3人に女性1人のちょっと珍しいパーティーだ。


「うわっ!何だ何だ!?本当に魔族臭ぇな!!臭すぎて鼻が曲がりそうだ!!」


明らかにフィーネ、アルネに向けて言っている言葉。


我慢だ。フィーネ、アルネが堪えているのに俺が我慢しないなんて情けない。今は事を荒らげるべきじゃない。


「つか、あの魔族の中に一人ガキが混じってるぞ!?ギハハハ!!!こりゃ傑作だ!!」


遂には俺達に眼を飛ばし笑う始末。他の冒険者は何かを言おうとしてくれているが黙っている。多分それはあいつらにぶら下がっているBランクプレートのせい。


全員Bランクのパーティー。下手に手出しすれば自分達はやられると分かっているから。その結果の傍観。


さんざん喚く冒険者にさすがの職員達も怪訝な目を向ける。


するとフィーネは俺の裾をちょんちょんと触る。俺はフィーネの方を向くと


ーちょっと行ってきます


目でそう言ってきた。別に止める理由は無い。あいつが言う分には何も文句はないさ。俺はフィーネの背中を何も言わずに押してやる。


ーあぁ、行ってこい。


フィーネはコツコツと喚く冒険者の前に歩いて行く。それを止めようとする冒険者もいたがフィーネの歩く様を見てその手を止める。


「はぁ、煩いです。私達に文句があるならそんな喚かずに真正面から言ってください。」


「あぁ?」


開幕からの真正面突破。フィーネらしいっちゃフィーネらしい。


「煩いんですよ。周りに迷惑が掛かっているのをお気づきではないのですか?」


首を傾げ、え?もしかして目見えないの?とでも言いたげなフィーネに怒りを表す。


「てめぇこそ魔族が出しゃばってくんじゃねぇよ!薄汚ねぇ魔族風情が人間様に口答えかぁ?いい度胸じゃねぇか!あぁ!?」


威嚇しているのか、顔を近づけ喚き散らす。でも何故か後ろにいるパーティーの女の人は頭を伏せ泣きそうになってる。


このパーティーの男達とは明らかに毛色が違うのに何で一緒にいるのか不思議だ。


「魔族?それが何です?魔族だって汗水流して仕事だってします。楽しく、会話をしながら食事だってします。明日はどんな事があるんだろうとワクワクしながら目を閉じ寝ます。強くなろうと傷つきながらも必死に訓練(トレーニング)だってします。魔族だって、…私達だって立派に生きているんですよ。」


勇ましく、堂々と、私は魔族だ、と。それでも立派に生きているんだと、強く、強く言葉にする。

傍観していた冒険者はフィーネの言葉に目を見開く。


分かっているはずの事を言っているだけ。この街にだって少しは存在している魔族。でもその当たり前の事を忌み嫌われている魔族から聞かされた。いつだって悪しき者、穢らわしいと両断された者から。魔族を代表する様に。


強く生きる、まだ16の少女の言葉に冒険者は打ち震える。


直後フィーネの華奢な体が吹っ飛ぶ。そして、吹っ飛んだフィーネを見てゲラゲラと笑う下賎な輩。


「それが何だ!?もし魔族がそんな人間の真似して生きてんなら早く絶滅してほしいなぁ!?」


俺はその言葉を聞くと自然と心臓が停止するように心が静かになる。


…もういいよな。十分我慢、したよな。


「レイ兄、ダメだよ。」


俺のしようとしている事を瞬間で察知し腕を掴むアルネ。アルネだって怒っている筈なのに、それでも心に留めているそのメンタル。本当に凄いよ。


ーでも俺は無理そうだ。


「あ?何か文句あんのか?ガキぃ?」


近付いてくる俺に気が付いたそいつは威嚇するように言葉を吐く。


俺はその男の顔面を蹴りあげる。


「グガァァァ!!」


「…その汚い口を閉じろ。」


扉を抜け外へと吹っ飛ぶ男。それを見て怒りを全面に出す仲間の男二人。


「てめぇ!!殺すぞ!?」

「死にやがれ!!」


俺に喚きながら襲いかかってくる男達。

あぁ、五月蝿い。


「がはぁ…!」

「グボォ…!」


俺は足を引っ掛け転ばす。力のまま地面へと激突する二人の男に刃を落とした刀で、斬る。


「は、はぇぇ…」

「な、なんだよあれ…」

「あんなのがDランクかよ…」


他の冒険者達はレイ兄の剣速に驚愕する。僕でもさっきのはギリギリ見えたくらい。


僕は倒れたお姉ちゃんに治癒魔法をかける。ゲホゲホと咳き込むお姉ちゃんだけど異常はないから大丈夫。それよりあの冒険者大丈夫かな?刃を落としても骨は折れるし、レイ兄、殺さない程度に


ーお姉ちゃんのやられた分、殺り返してね。


「おい」

「「ヒ、ヒイイィィ!!」」


完全に怯えきった目の前の男達。殺気を全開にしておるだけなんだが。これだけで腰を抜かすのか。ヤワすぎる。


他の冒険者には別に向ける意味は無いから向けてないけど何だか震えてる。怖いのかな。


「別に殺さないよ、だけど…五体満足で帰れると思うなよ?」


俺は刀を構える。


「レイシャ!もうダメです、やめてください!!」


俺の後ろから聞き馴染んだ声が聞こえる。フィーネが、倒れた体を起こし叫んでいた。まだ痛むだろう体で俺に歩いてくる。


「もういいですから。私は大丈夫です、だからレイシャの手でこんな事は辞めてください」


フィーネが俺に向けた顔は悲しい表情だった。

そうだ、俺は、フィーネが、俺に出会う前にされた事をしていた。蹴られ、殴られ…俺がそれをやってしまった。


俺は刀を落とし男達に近づく。


「すまない。やり過ぎた。」


これでいいか?俺はフィーネの方を向くと満開の笑顔で迎えてくれた。アルネは物足りなそうに見つめてたがフィーネのチョップで「わかったよぉ」と退く。


扉の外に吹っ飛んだ冒険者は血管が浮き出し、顔を真っ赤にして戻ってくる。


しかし倒れている男二人を見て血相を変えて踵を返す。全てが丸く収まりかけた時。男達が去り際に言葉を吐く。


「クソが!!次はこうはいかねぇ!!…ったく、ガキの親はどんな教育してんだか!どうせガキ同様屑何だろうな!?」


俺を怒らせるためだったのか、そんな言葉を吐いた。


「…取り消せ。」


俺は帆楼丸を抜き男達に跳躍する。フィーネの、アルネの、俺を止める声が聞こえる。だけど、無理だ。


俺の大切なものを罵倒し傷付けた挙句、俺の憧れの冒険者、親父まで馬鹿にされた…ふざけるな。


「殺す!!」


俺は男達に向かって剣を振る。しかし、当たる直前、目の前に来た男によって止められる。


「人殺しはいけないよ、」

「……どけ!!」


俺の剣をいなして、後ろの屑を庇うように立つ知らない男。そして再び傍観していた冒険者がざわめき立つ。


「俺の大切なものを傷付けた挙句に俺の憧れる冒険者…親父を!!!馬鹿にしたそいつらを!!俺は許す事ができない!!」


「君の憧れはお父さんだったんだね…」


感慨深げに顎をさする男。


「お父さんは?」

「死んだ」


クソ、何なんだコイツ。俺は後ろのやつに用があるってのに!


「君のお父さんは殺しをさせる為に君を育てたわけじゃないだろう?冒険者なら等しく夢を見る。お父さんは君に夢を見て欲しかった、そうじゃないのかい?」


その言葉に我にかえる。俺は親父の形見の剣、帆楼丸に手を掛ける。


「なぁレイシャ!お前がいつか旅をする時には俺の愛刀、帆楼丸を持っていけ!そして寂しいこと、辛いことがあったら手を掛け思い出せ。お前の隣にはいつも俺がいる!!ってな!!」


あぁ、ごめんな親父。そしてありがとう。

キラっと反射する帆楼丸。お安い御用、そう言っている気がする。


「もう、大丈夫だね?」

「…ありがとう、ございます」


止めに入ってくれた男の人はニコリと笑い駆け寄ってくる。後ろの冒険者は叫びながら出て行った。


これで本当に一段落着いた。するとフィーネとアルネが鬼のような形相で俺の元に駆け寄るとダブルクロスチョップをお見舞いしてきた。俺はそれをサッと回避する。


「なっ!そこは避けずに食らう場面ですよ!!」

「もうレイ兄は!!少しは考えて行動してよ!!」


そして「「心配したんだから!!」」


と俺に抱きつく二人。駆け寄ってきた男の人は静かにそれを見守ってくれた。


暫くして落ち着いた二人だけど中々離してくれない。しょうがないからこのままお礼をするとしよう。


「あの、さっきは止めに入ってくれてありがとうございます。もし誰も止めなかったら多分俺、あいつらを殺してた」


胸の内を静かに語る。


「そうだね、まぁ何事も無かったんだ。結果オーライだよ。ははっ」


そう言って笑う男の人。見るとまだ呆然と立ち尽くしている冒険者達が多い。そして全員の視線は俺の目の前にいる男の人に集中している。


「あ、そう言えば名前を言っていなかったね。」


ローブを脱ぎ隠されたプレートが目に入る。


ーAAランク。


「僕の名前はカル、カル・グレイン。星々の彼方に所属するAAランクの冒険者さ。」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ