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あの日、出会った時からずっと。

あの後、おれは先に湯から上がり脱衣場に入る。

まだ入っていたいからとフィーネとアルネはまだ温泉に浸かっている。


浴場の扉を閉め、脱衣場に上がる。俺は大きく深呼吸をして今も鳴り止まない胸の鼓動を必死に抑えようと試みるが全く止まる気配がない。


「ふぅ…これ以上あの場にいたら俺気絶してたな…」


あの二人と密着していたんだ、ここまで気絶していない自分を正直褒めたい。


女性との免疫なんかあるわけが無い俺。ちゃんと喋ったことのある女の人はここ11年で数える程しかいない。


元々ウォルナ村は子供がそんなにいなかった。しかも同い年くらいの女の子は2人ぐらいしかいなかったような気がする。最近ではリルさんやミントさんとも話したけど、正直ちゃんと話せているか、少し緊張してた。


そんな俺が裸の美少女魔族二人と密着されて、き、キスまでされたのに気絶していないんだ。褒めてくれ。


俺は髪を乾かし俺達の部屋に行く。荷物やらなんやらは全部職員の人が持ってってくれたらしい。


「確かここの角を右に…あ、ここか」


目印の猫の手をしたドアノブを見つけ手をかける。施設の雰囲気から外れた異類なドアノブに少し驚きはしたが部屋の方が気になりドアを開ける。


中に入ると特に目立ったものはなくザ・普通という印象だった。


でも、豪華な部屋に入れられても落ち着かないからこの位が一番丁度いいな。そういうのも考えての計らいなら普通に感謝だな。


俺は二人が帰ってくるのを待つその間、これからの計画を立ててみた。


正直俺が気になるのは最強と呼ばれる3大クランの1つ、魔法最強の「星々の彼方」。少し調べてみた所、A以上の者は少なく見積もって10にはいるらしい。曖昧な理由はクランの情報があまり開示されていないからだ。目撃した人はBランク級の魔物を瞬殺だとか、地形を変えたとか様々なことを言っている。


「星々の彼方」のクランリーダーの名は、ファルネ・エナーリア。AAAランク冒険者で、この街で彼女に勝てる者はいないと言われている。


しかしあまり表には出て来ずクラン拠点にずっといるらしい。理由は分からない。


「この人たちに会ってみたいなぁ…」

「この人達とは誰ですか?」


いつの間にいたのか、部屋には既に着替え終わったフィーネとアルネが俺を凝視していた。俺はビックリし椅子から落ちそうになる。


「もう、レイシャは集中するとすぐ周りが見えなくなるんですから」


フィーネとアルネは俺が集中し始めてからもう30分は経っていたと教えてくれた。ただ、二人は俺の邪魔を一切しないように静かにしていてくれた。


俺はフィーネとアルネに謝りと、礼を言うと、二人は苦笑しながら許してくれた。本当に気が利く、村でもたまにあった。何時間も集中している時もあったらしいが、二人は決して邪魔をせずに俺のそばにいてくれた。ビックリするくらい健気で、ビックリするくらい優しい。


「揃ったことだし魚料理、食べに行こっか。」


俺はフィーネとアルネに向き直り二人が楽しみにしていたであろう料理を食べに行こうと提案する。


フィーネとアルネはみるみるうちに目が輝き顔がパァっと明るくなる。少しでもこいつらに恩を返さないと、俺は二人に何も返せてないから。


「はい!!行きます!!」

「行くー!!」


俺達は部屋を出て従業員の人にリルさんから聞いた魚料理の店の事を伝えると直ぐに場所が分かり教えて貰った。施設の二階にある「魚一本」と書かれた店がリルさんオススメの店らしい。


二階に上がるとすぐ目の前にその看板があった。

俺達は暖簾をくぐり、その戸を開ける。


「いらっしゃい!」


入ると元気の良いおじさんの声が俺たちを出迎えた。俺、フィーネ、アルネは空いている席に座りメニュ表を探すが


「お、あんたらここに来るの初めてだね?ウチはメニューがなくて完全オススメ制なんだよ。」


へぇ、今どき珍しいような気がする。余程自信があると見た。俺はそのおじさんにおすすめを頼みおじさんは「あいよ!」と返事を返す。


20分、調理場からは良い臭いが漂ってきてお腹が早く食べたいと俺に訴えかけてくる。人一倍食べフィーネとアルネはもう既に涎が垂れ、待ちきれないという感じだ。


そしてオジサンが顔を出し、香ばしい香りと共に料理を持ってくる。


「ほい嬢ちゃんズに坊主!この店自慢、選り取りみどりの魚料理だ!!さぁ食いな!!」


俺達の前には刺身、塩焼き、東洋の方で生まれた寿司という物、他にも色々な料理が出された。


「「「いただきます!」」」


俺達はいつもの礼を終え目の前の料理にがっつく。そして1口目。食べたことのない、感じたことのない未知の味、美味さが俺たちを襲う。


「んんーー!!!おいしいです!!」

「だね!本当にすっごくおいしい!!」


二人は既に2品平らげ目にも止まらぬスピードで料理が無くなっていく。オジサンは目を丸くし有り得ないという表情で二人を見ていた。

わかる。分かるよその気持ち。俺も最初はめっちゃ驚いたから。


「はっは!!何だその気持ちいい食べっぷりは!!良いねぇ嬢ちゃんズ!!よし、今日は特別だ!!3人には腹が膨れるまで目一杯食わせてやる!なぁに金はいらねぇ!!」


おじさんの太っ腹発言に俺達は目を輝かせて感謝を述べる。


それから本当にいっぱい、いっぱい、いっぱい食べた。俺達はふぅと一息、パンパンのお腹を擦りながら息を吐く。


こんなにも美味しい料理は初めて食べたかもしれない。そんな料理を腹が一杯になるまで食べられた。


満ち足りた気分に浸りながら横をみると、ははっ、どうやら二人も一緒らしい。


「それじゃあ、また来るねおやっさん!」

「また来ます!ありがとうございました!」

「本当美味しかったよ!じゃあねー!!」


少しの食休みをして俺達は店を出た。俺は経緯を持っておやっさんと呼ぶことにした。


部屋に戻ると、フィーネはドサッとベットへと倒れ突然ジタバタとし始める。


「こんな良いことが続くなんて!ふぁ〜…本当に生きてて良かったです」


俺は寝転んでいるフィーネの横に座りその隣をぽんぽんと叩きアルネに来るよう促す。

アルネは走って駆け寄り俺に抱きついて俺の膝の上に座る。まぁこれでもいいか。


「それもこれも、ぜーんぶ…レイシャに会えたから何ですよね…」


昔を思い返すフィーネの頭を優しく撫でる。するとフィーネは俺の手を掴みギュッと握る。


「汚れた、傷だらけだった私達に、ぶっきらぼうながらも大きくも優しい手に、冷たくも優しい心を持ったレイシャに救われた。」


俺は静かにフィーネの語りを聞く。


「そうだね、あの時から、僕達の人生は変わっていった。レイ兄に出会ってから様々な出来事、それも楽しい事がいっぱいあった。昨日の事のようにレイ兄に教わったことは覚えてる。」


アルネから紡がれる言葉。そんな風に思っていてくれたのか…。


「きっと私達はレイシャ、貴方に会うために生まれてきたのかもしれません。貴方に会うために私たちはゴミのように見下され、殴られ、蹴られ、唾を吐かれたのでしょうね。」


ツラかったけど今ではいい思い出。レイシャに会う為の試練だったと言うならお釣りがじゃんじやん来ますよ。


「レイシャ、あの時私が懇願し、願った時、私の唇、奪いましたよね?」


俺はウッと思わず声を上げる。怒っているのだろうか、恐る恐るフィーネを見ると、フィーネは…笑ってた。


「大丈夫です、怒ってませんよ、知りたいだけです。…何故、汚く、干からびた、なんの価値もなかった私の唇を奪ったんですか?」


ん?汚い?干からびた?何を言っているのだろう。


「意味が分からない。あの時、俺はお前の唇がとても魅力的に見えた。決して折れず、生にしがみついたお前らは、凄い魅力的だった。」


嘘偽り何かじゃない。心から、本気でそう思った。小さくも死に抗い続けた二人、フィーネだったから反射的に唇を奪った。


すると、フィーネの目からは一滴の涙がこぼれ落ちる。アルネは俺の膝から降りて、目で訴えかけてくる。わかってるよ、言われなくても。


俺はフィーネに体を向けフィーネの涙を拭う。その手を、感じるように、生きていると実感するようにフィーネは頬にのせる。


「……ありがとう、本当に…ありがとう」


「レイ兄は多分僕達に恩があるって思ってるだろうけど、それは僕達も一緒。ううん、それよりもっといっぱい、感じてる。レイ兄に会えて良かったって。」


「私達はあの時から、旅に誘われたあの時から、貴方に、レイシャに全てを捧げると誓った。決して離れないと誓ったんです。」


アルネ、フィーネから紡がれる言葉。強く、強く、訴えかけてくる二人。


「だから、レイシャお願いがあります。」


俺の目を見つめ、問いかける。


「もう一度、今の私に、アルネにキスをして貰えませんか?」


二人は静かに目を閉じる。俺にすべてを委ねるように。


…あぁ、そうか。出会ったんだな…


「レイシャ、アルネ。俺と、出会ってくれてありがとう。」


「はい…」

「うん…」


そして俺は二人の唇に、キスをした。フィーネとアルネを感じるように。

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