三人の出会いに。
仕事中、冒険者のざわめきが響く冒険所。私は後輩の猫族の同僚に突然肩を叩かれ振り向く。
「よかったんですかリルさん。あの3人に頼んで」
あの3人にっていうのは恐らく数十分前に私が独断で依頼したあの魔族の少女二人と少年のことだろう。
猫族の後輩は仕事が手につかないと私に忙しなく聞いてくる。他の職員もさっきの話を聞いてか慌ただしい。
レイシャアルム。新人、未だ冒険者になったばかりの少年はその初めての冒険で大蜘蛛を倒して帰ってきた。しかも4体と言った。例外は突然起こるもの。いつ、どこで、どうやってなどの情報は一切なく忽然と現れる。
修羅場を潜り抜けた冒険者でさえ正常な判断が欠いてしまう例外に臆した様子もなかった3人。
初めてあの三人を見た時、私の中に突然雷が走ったように全身が唸った。私の勘でしかない、けれど確信があった。いつか、この子達は必ず歴史に名を刻む物語を残すと。
「大丈夫。……あのレイシャって子、私の憧れた冒険者の人にそっくりなの。顔立ちとか、少し面影も見たかな」
「あぁー、たった1人で、しかもAAながらSランク指定の魔物を倒した冒険王と言われる人ですか?」
そう。私の憧れた、大好きな冒険者。世界を巡り数々の逸話を残した、生きる伝説と言われた男。今では所在が分からず共に旅をしていた女性とひっそり暮らしているのでは、そんな噂が流れている。
その男、冒険王はいつもこう言っていたらしい。
「何で?冒険をするのかって?はっ!そんなもの決まってんだろ!!その先に俺の求める道があるからだ!確証?そんなもんねぇ!視えてしまう道より自分で作る道の方がいいからな!!それに補正された道なんか歩いて楽しいか?楽しくねぇよな!!人間みんなそんなもんさ!!気楽にいこうぜ!!それはお前の道なんだから!!」
曖昧、単純、呑気、しかし誰もがその言葉に打ち震えた。何でかは分からない。しかしその言葉に、求めるものが冒険の先にある。この言葉に、誰もが冒険者を夢見て憧れた。
「あの子達には帰ってきたらご馳走してあげようかしら。」
ポツンと呟いて、仕事に戻る。いつもの営業スマイルを崩さずここへやってくる冒険者を笑顔で迎える。
ー冒険所へようこそ。
ーーーーー
「レイ兄〜お腹空いた〜」
「この依頼が終わったら腹が破裂する寸前まで食わせてやるからもう少し辛抱してくれ」
ポツン、ポツンと水が落ちる音が洞窟内に響く。汗を拭い、探知に引っ掛かった場所へと向かう。
3階層。俺とフィーネ、アルネは受付嬢、リルさんの依頼の為ダンジョンに潜っていた。正直駆け出しの冒険者にこんな内容のクエストは無理に近い、いや十中八九無理だろう。けれどリルさんは俺達、駆け出し冒険者にこのクエストを依頼した。
あの人は多分、何か感じたんだろうな。俺達3人から、他とは異質の何かを。
既に3時間、2階層までの掃討は完了した。大分時間はかかったと思う。言い訳をすると別に例外モンスターに手間取った訳ではない。下に降りる階段が見当たらなかっただけ。
ダンジョンにおいて下に降りる手段は階段のみ。しかしその階段はランダムでどこに置かれるかは不明なのだ。
3階層の掃討も完了した時の俺の疲労は4割ほどだろうか。親父のトレーニングを続けていてよかった。心から親父に感謝しないとな。
ーありがとう、親父。
「フィーネ、アルネ下に行くけどそろそろ本腰入れて討伐に向かおう。もしかしたらもっと強いやつがでてくるかも。気合い入れろよ!」
「りょーかいレイシャ!!」
「うん!!」
ーーー数時間後
辺りは既に暗さを帯び気持ちの良い夜風が俺たちを迎える。
街にはちらほら冒険者の酒を飲んではしゃいでいる声、女の人に捕まり何だか卑猥な店に連れていかれる男性と色々だった。
けれど、街の風景はとてもとても綺麗だった。明るくその場を照らす電灯。家から溢れ出る微かな光の影。街は彩られた。
「綺麗だね…」
「うん、僕こんなの始めてみた…」
二人は感動しているのか目を爛々と輝かせている。正直俺も胸がドキドキしている。こんな綺麗な風景は村では見たことがなかった。
冒険。俺が冒険の旅を始めてから新しい事ばかりだ。そしてそこには必ず
ー出会いがある。
親父の言っていたとおりだった。そして、悪い気もしなかった。良い気もする。あぁ、本当に旅に出てよかった。あの村にいたら知らなかったことだらけだ。それもこれも全部
「(お前らと出会えたからなんだ)」
俺を冒険へと連れていった、連れて行ってくれた二人の少女の魔族。俺は二人の少女の名を呼ぶ。
「フィーネ、アルネ」
「どうしたんですか?」
「んー?どうしたの?」
俺は心から、今言わなければ、と。夜の灯りに照らされながら二人の少女、フィーネとアルネに向けて言葉を紡いだ。
「俺と出会ってくれて…ありがとう」
一瞬の静寂。周りの音が聞こえないような感じになった。フィーネとアルネは俺をみて今までよりすごく魅力的な笑顔で笑った。
「こちらこそ、私達と出会ってくれて、ありがとうございます。レイシャ。」
「僕達は前からずっとそう思ってるよ♪出会ってくれてありがとう、レイ兄。」
あぁ、俺は多分、気付かないうちに冒険をしていたのかもしれない。
ーこいつらと出会うための冒険を。
夜の心地の良い雰囲気に浸かりながら俺達は三人並んで冒険所へと向かった。
親父、親父の言っていたとおりだったよ。楽しいな、冒険の旅って。