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祝、「冒険者」

「ふぅ今日はここで野宿ですかね」


木が一本だけ立っている何も無い草原に息を吐き腰を下ろすフィーネとアルネ。俺は野営の準備の為リュックから折りたたみ式のテントを取り出す。


親父が旅をしていた頃に使っていた物を少し改良してより小さく、住み心地の良いものにした。3人では少し小さいがそれでも背中に地面を感じるよりは良いと思う。


「俺はそこら辺で動物狩ってくるからお前らはここで休んでろ」


草原と言っても動物は住んでるわけで見ればちらほらクマやイノシシがいる。え?草原にクマやイノシシがいるのはおかしいって?…いや、だっているんだもんしょうがないじゃん。


「わ、わたしも行きますよ!」

「却下、アルネを一人にするのか?」

「僕がクマやイノシシに負けると?」

「……フィーネ行くか」


アルネは俺の野営の準備を変わりに行い、フィーネは俺と動物狩り、今晩の食べ物を調達に行く。


「あっ、お姉ちゃんこれ」

「ありがとうアルネ」


アルネが取り出したのは組み立て式の斧槍(ハルバード)。俺特製の武器だ。斧槍とは槍の先端の下に斧が付いており状況に応じて使い分けることができる。それに組み立て式なので分解し、小さくすることも可能だ。


9つの部品に別れ長さの調節もでき、最大4メートルにもなる。


俺とフィーネは取り敢えず近くにいたクマを最初のターゲットとした。動物と侮る者はまずいない、その2メートル以上もある巨体、雑魚モンスターの5倍ではきかない、パワー。冒険者に成り立てのひよっこでは即死まっしぐらだ。


「今晩の食料です!」


しかしフィーネは舌なめずりし、目の前のクマに斧槍を構える。クマを臨戦態勢に入り腰を低くする。


「ふふっ、それではお命頂戴致します♪」


瞬間、俺の隣にいたフィーネはたった1歩でクマの腹下へと潜り込みそして


「せえぇぇい!!」


突き一閃。クマを見事串刺しにする。固くはないが柔らかくもない皮膚をたったの1突きで、沈黙させた。俺の出番はなさそうだ。


それから1時間、目に入った、入ってしまったクマやイノシシはフィーネによって駆逐され、肉となった。美味し部位を大量に、食べられる部位を少し、袋へと入れた。


辺りは暗くなり場所空間認知がしにくくなる。しかし、ポツンと1つ灯りがある。アルネがいる場所だ。まぁそれがなくても迷うことは無いけど。


「アルネー!お待たせー!」

「おかえりお姉ちゃん、レイ兄。今日は大量だね」


俺とフィーネの両手にある大量に肉の入った袋を見る。


「ただいま、今日はゴロゴロとクマやイノシシがいたからな。まぁ多いに越したことはないだろ。お前ら人一倍食うし。」


サッと視線を逸らすフィーネとアルネ。この二人の食べっぷりときたら本当に目を見張るものがある。俺の4倍、じゃきかないな、5倍?6倍?それぐらいに食べる。


「あ!き、今日はレイシャが料理担当ですよ!た、たのしみだなー!」


バツが悪そうに話をそらす。褒めれば何でもいいと思うなよ。俺は大きな鍋を取り出す。ちなみにこれも折りたたみ式だ。火は魔法とかで何とかなるけどこういう物とかは魔法で作るより自分の手で作りたい。


鍋に先程狩ったクマ肉を豪快に入れ、フィーネ特製の調味料を入れる。料理が下手なフィーネは他に何か料理に関与できることはないか、と思案した結果、調味料に至った。


オリジナル調味料の出来栄えは本当に凄い。正直マジで美味しかった。こんな美味い調味料作れんのに何で料理は出来ないんだと聞いたら


「料理と調味料は似ていて少し違うんですよ!私には恐らくその差すら埋められないほどの、料理スキルの無さがあるんでしょうね!!」


とドヤ顔で言ってきた。お前将来嫁ぐ時どうするんだよって言ったら不思議な顔でこう言われたよ。


「え?レイシャが私を貰ってくれるんじゃないんですか?」


うん。料理しないなら俺もらわないからね。


暫くして全ての料理が出来上がりなんちゃってテーブルの上に乗せる。


「んじゃあ3人の出会いに感謝して」

「「「いただきます」」」


満天の星空のもと俺達は楽しく談話しながらホカホカの熱い料理を食べた。つい最近まで想像もつかなかっただろう。これも全部


ーお前らのおかげだ。


今は食べ物について口論する、アルネとフィーネを目を細めて見つめる。一年前とは比べ物にはならない程綺麗になった二人に俺は嬉しくなった。この二人に会えて良かったなと心から思った。


夜は3人でくっつかって寝る。心地の良い雰囲気に目蓋が重くなる。


おやすみ。


「ゃ、シャ…イシャ……レイシャ、朝ですよ」

「レイ兄早く起きないとおはようのチューするよー?」

「ふぁー、二人ともおはよう」


俺たちの朝は早い。俺達の目的は冒険者の街テルペントに行って冒険者登録をすることだ。登録はどこでもできる訳ではなく。専用の受付がある場所でないと登録はできない。


俺達がいた村からテルペントは4日ほどかかるらしい。情報源は俺の親父が作った本だ。いつか旅をする俺の為に作って取っておいてくれたんだ。


「テルペントはこの草原を抜けた先にあるらしいからあと数時間もすれば着くな」


テントを仕舞い、準備を終える。昨日残った肉はこの場に置いていく。もうそろそろあいつが俺達の場所に来るからな。フィーネとアルネは物欲しそうに俺の持った肉を見つめるがやるつもりはない。


ガックリと項垂れる二人に俺はウォレンの実で作った飴を渡しそれで我慢してもらう事にした。


「それじゃあ行くか。」


軽くなったリュックを背負い3人並んで歩く。この辺にいた動物達は既に狩りつくしてしまったので何も見当たらなかった。


暫く歩くと少し先に門ののような場所が見えた。


「おっ、あれがテルペントの街っぽいな」

「おぉー!中々オシャレな感じだね!何か綺麗な飾り物とか欲しいなー!」

「私、久し振りにお風呂に入りたいです」


それぞれの期待を胸にテルペントの門を潜った。

そこは人で賑わい、鎧やローブ、様々な服を着た人達が大勢いた。冒険者の街ならみんなこうなのだろうか。


少し街を歩くとチラチラと視線が刺さるようになる。


「ねぇ、あれ…」

「魔族かよ、」

「何でこんなとこにいんだよ」

「でもめっちゃ可愛くね?」


ヒソヒソと囁く声の中に魔族の単語がある、恐らくフィーネとアルネだろう。さっきまでワクワク顔だった二人はいつの間にか下を向き暗い顔をしていた。


俺は苛立った。無性に腹が立った。


「うるさい連中だな、フィーネアルネ。雑魚が喚いて耳障りだから早く行こうか」


俺はにこやかに二人に笑いかける。二人は一瞬呆気に取られたけど直ぐに俺の両腕に抱きつき笑った。少し頬が紅潮しているのは気のせいだろうか。


あの場から少し歩くとフィーネとアルネは俺に礼を言ってきた。


「何だ礼なんか言って。」

「だって僕達の為に言ったんでしょ?すごく嬉しかった…だからありがとう!」


アルネは満開の笑みで俺に笑いかけた。その笑顔はとてつもなく魅力的で可愛かった。


「フィーネ、アルネ、これだけは言っておく。俺はお前らが魔族でも何も気にしてない。迷惑何て思ってない。もしなんか言われたら言い返してやれ。魔族?それが何だ?俺は立派に生きてるんだ!!ってな!」

「「うん!!」」


二人は元気に頷いた。これからも魔族やら何やらとイチャモン、問題が起きることもあるだろう。だけどその時は俺がこいつらを守ってやる。そう決めた。


俺達3人は冒険者が依頼やクエスト、ダンジョンなどを受注、モンスターなどのアイテム換金、を行う場所、冒険所(アドバール)にやってきた。それはもちろん冒険者登録をする為だ。


「冒険者登録ですか?それではこちらの紙に記入をお願いします」


お淑やかな雰囲気を醸し出し胸を強調するような服に男達の目線が集中している。人当たりの良さそうな笑み仕事のできる人なんだなと思った。


そして受付嬢のお姉さんに髪を渡された。


「「「………え?」」」


見事に三人の声がハモる。


「あっ!すみません!ついうっかり「髪」を渡してしまいました!!こ、こちらにご記入をお願いします!!」


慌てて髪を取り、紙を渡してくる受付嬢。アルネは開いた口が塞がっていない。相当ビックリしたのだろう。


「す、すごい濃いねあの人」

「いや、流石にビックリしたよ。髪を渡してくるって。ドジっ子なんかじゃ隠せないぞあれ。」


思わぬハプニングもあったがこうして俺達は冒険者登録を終え晴れて冒険者になった。


親父を追いかけるためのスタートラインにやっとついた。これから、俺達の冒険(たび)が始まる。


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