第5話 無詠唱魔法
「以上で算術の授業は終わりじゃ
10分休憩した後、次は隣の部屋に移動するように」
ふぅ...
「案外余裕でしたわね、お姉様」
「そ、そうか?」
「これも全てお姉様に引き算を教えていただいたお陰ですわ」
「いやいや、私は何も教えてないよ」
「またまた、お姉様ったらご謙遜を」
いやいや、ちょこっと引き算の基本を教えただけで
あっという間に足し算・引き算・掛け算・割り算を
マスターしちゃう妹は化物でしょ
俺なにもしてねぇし!
「ところで、次は隣の部屋でっていってたね」
「ええ、たしか隣は空き部屋だったはず」
「だよね。何するんだろ...」
「私が先に行って様子を見てきますわ」
「いいよいいよ、ここは一緒に行こう」
「わかりましたわ、お姉様」
俺達は隣の部屋に向かった
そしてドアを開けるとそこには
俺達の見知った部屋とは違う光景が広がっていた
具体的に説明すると
部屋の壁には幾つもの魔法陣が張り巡らされており
部屋のあちこちに赤・青・緑・黃・橙の色の小さな魔石が
規則的に並んで魔法陣に埋め込まれていた
そしてこの部屋全体が魔力で満ちていた
「お、もうきたかの」
フォード先生がどうじゃといわんばかりに
部屋中央に体を向け部屋の説明をはじめた
「この部屋は魔法訓練場として利用させてもらう予定じゃ
ちゃんとお前さんたちの親には許可をとっておるから安心せい
まず、この地面全体にかけているのはB級回復魔法陣じゃ
この部屋の中に居れば常に魔法の効果を受け
打撲、火傷、擦り傷程度なら1分秒以内に完治
骨折、部分破損程度なら10分以内に完治するぞ」
回復魔法陣!?
つまり怪我し放題ってことか!!
すげええーー
「次に壁には対魔法障壁のB級魔結界を張っておる
B級程度の魔法までなら魔法を打ち消すからの
この部屋内なら思う存分魔法を放てるぞ」
まじで?
じゃあこの部屋でなら好きなだけ魔法撃ちまくって
好きなだけ暴れれて、好きなだけ怪我しまくれるじゃん!すげぇー
そんなことを考えていると
フォード先生と目があった
フォード先生が一瞬ニヤッと笑った気がした
しまった
今の俺は目が凄いキラキラしていたかもしれない
なんかはずかしい
「勿論怪我はしまくっても直ぐに完治はする、じゃが
痛みまで防げるわけじゃないからの
気をつけるんじゃぞ!」
「「はい!」」
「では、少し早いが次の授業を始めるぞ
この授業は『魔法演習A』じゃ」
フォード先生はそういうと
部屋の端へ杖を向けた
「はっ!」
直後、土で出来た的が部屋の端に突如出現した
なんという魔法の構築速度だろうか
先程の黒板の創造といい
目では本当にいきなり出現したようにしか見えない
「あの的にむかって水魔法『水射』を放つのじゃ
先ずはわしが見本をみせよう」
フォード先生は杖を置き
的に向けて手を構える
「っ!」
手に魔力が集中し始めたと感じた直後
凄まじい轟音と共に的が砕け散り、その背後にあった
部屋の壁に5円玉と同様の大きさの穴が空いていた
「ちょっとやりすぎたかの」
えっ....全く見えなかった
この壁の魔結界ってB級の魔法まで防ぐんじゃなかったのか?
それに今詠唱って唱えてなかったよな?
何なんだ、これ本当に『水射』なのか?
それともこれが本当の魔法ってやつなのか?
俺達が学習してきた魔法と全然違うぞ!?
「ふぉ、フォード先生!」
「なんじゃね、ユーリ」
「今のは....」
「D級水魔法『水射』じゃよ」
「詠唱していなかったように思えたのですが...」
「無詠唱魔法じゃよ」
無詠唱魔法!?
俺達が必死に覚えてきた魔法の詠唱は....
「フォード先生!」
「なんじゃね、リリィ」
「『水射』がまったく目に見えなかったのですが
どうしてなのでしょう」
「放出する水の大きさを米粒程度に抑え
速度は時速100km/h程度にしたからじゃ
鍛錬を積めばこの程度誰でもできるじゃろうて」
つまり俺達も魔法の大きさや速さを調節できれば
同じことができるかもしれないということか
「では、ユーリ、リリィもやってみるのじゃ」
えー!
何と言う無茶振り!
これ本当にできるの?
でもとりあえずやってみるしかないな!
俺達は二人並んでそれぞれ的へ手を向ける
とりあえず無詠唱で魔法が放てるのか試してみよう
『水射』を放った時の感覚はなんとなく覚えてる
よし、まずは
体内に魔力を高速循環させる
次にその魔力を徐々に手へ集中させる
その際、手から冷たい水が湧き出るイメージで
魔力を一気に手から放出させ.....
-ビューーー!-
あ、出た!!
「ほほぅ....」
フォード先生が感嘆の声を漏らす
「お姉様!どうやったんですか??
何度やっても無詠唱でなんて出来ないんですけど」
「リリィ、肩の力を抜いて!
簡単だよ、さっき詠唱しながら放った『水射』の
感覚は覚えてるか?その感覚で魔力を放てばできるよ」
「わかりましたわ!やってみますわ」
そういうとリリィは深呼吸しながら
魔力循環させた後手に魔力を集中させた
-チョロチョロ-
「ほぉ..これは...」
フォード先生が再び感嘆の声を漏らす
「お姉様!できましたわ!」
俺はリリィに向けて親指をぐっ!と立てた
「うむ、無詠唱はできるようになったようじゃな
だが魔法の調節はまだまだのようじゃ
この授業では『水射』の魔法を無詠唱かつ
米粒程度の大きさであの的を壊せる威力で放てるまで
ひたすら『水射』の魔法練習のみを行うからの
よろしいかの?」
「「はい!」」
「では、そのまま続けたまえ」
よし!なんとなくゴールのイメージ像がみえてきた
無詠唱で魔法は放つことができた
あとはこの魔法の大きさを米粒程度に調節すること
と出力をあげることだ
まずは大きさを小さくできるかやってみよう
小さく....小さく.....
-シュン-
あれ
小さくしようとすると出力が落ちすぎて
どうしても水の構築が上手くいかない
ひょっとしていきなり小さな水粒を作ろうと
考えるからうまくいかないのか?
じゃあ最初は拳ぐらいの大きさの水玉をつくってみよう
拳ぐらいの水玉....拳ぐらいの水玉...
お、できたできた!
でも形がふにゃふにゃして今にも崩壊しそうだ
これはもしかして球状に維持するために
魔力で形を制御する必要があるのか!
よしやってみよう。
球状になれ...球状になれ...
なんとなく球状になったか...??
この形の制御ってかなり難しい上に
凄い集中力が必要だぞ!?
く、練習しまくるしかないな!
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「よし、今日はここまでじゃ」
時計を見ると18時になっていた
「続きはまた明日にしようかの
今日はご飯をしっかり食べていっぱい寝て
明日に備えて身体を休めるんじゃぞ」
「「はい!ありがとうございました!」」
こうして家庭教師による1日目の授業が終わった