第3話 魔法解禁
5歳になった。
ようやく魔法が使える年齢に達した。
待ちに待った魔法解禁の日である。
前日の夜は次の日が楽しみすぎて
なかなか寝つけなかった。
この感覚は中学生の時、修学旅行が楽しみすぎて
前日の晩に寝れなかった感覚と同じで随分と久しい。
それはそうと今庭に来ている
というのもここなら魔法を使っても安全だからだ
「ユーリ、リリィ。D級魔法の『水射』を使ってみましょうか」
「「はい!」」
マーサの言葉に頷き、俺とリリィはゆっくりと深呼吸をする
大丈夫。D級魔法書はもう何度も読んで
詠唱も全部暗記している。
『『水の精霊よ......』』
呪文を唱えつつ、体内の魔力を循環させる
魔力感知と魔力循環はこの3年半毎日欠かさず練習してきた。
暇な時間があればこの2つをひたすら練習した。
幸い時間は腐るほどあった、その結果
魔力感知は目をつむらなくとも常時感じ取れるように
魔力循環は身体全体が沸騰するんじゃないかと錯覚するぐらい、高速かつ広範囲に循環できるようになった。
「「汝の求める水の流れを今ここに現し給え『水射』」」
詠唱直後、身体に行き渡った魔力が手に集中し
手から何かが飛び出しそうな妙な感覚を得た
(いける..!!)
俺は直感でそう感じ魔力を一気に手に集め
本能のままにそれを放出させた!
-バッシャーー!!-
手から水が飛び出した。それも物凄い勢いだ
まるでめいいっぱい蛇口をひねった水を
10本束ねたホースで遠くに
飛ばしている感じだ。
距離にして10m、量にして10リットルぐらいだ。
そして隣をみると
リリィも俺ほどではないがほぼ同等の水を放出させていた。
「あなた...今のちゃんとみたわよね...??」
「ああ...この目でしっかりみたぞ。
普通の子は魔法が使えるようになるまで半年は練習が必要だというのに
ここまでの魔力、そしてこの威力!」
「二人は間違いなく有名な魔術師になるわね!!」
両親がお互い顔を見合わせながら
驚愕の顔を浮かべつつ喜び合っていた
「リリィ、私達ちょっとやりすぎた?」
「そんなことありませんわお姉様。」
いつからかは忘れたが
リリィは俺のことを『お姉様』と呼ぶようになった。
嫌な感じはしないので俺は構わないが。
「あなた!早速明日から話を進めていた家庭教師にきてもらいましょう!」
「ああ、そうしよう。すぐに連絡をとってみるよ」
とうとう俺達の家に家庭教師がくることになった
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そして
家庭教師がやってきた。
「ワシはセブン・イル・フォードという者じゃ。
アクア魔法科大学で30年講師をした後
現在は家庭教師を専門としておる。」
目の前にいる人は如何にも魔法使いという雰囲気を醸し出す
白髪白ひげのおじいさんだ。
深く刻まれたシワからは60年、70年という長き人生を生き抜いてきたことを思わせる安心感と逞しさを感じられた。
「して...ワシが教えることになる生徒さんはどちらかの?」
「先生に教えて頂きたいのはこちら二人です」
父シルバーは俺達の肩に手を乗せる
「はーっはっは。冗談かなにかかの?
生徒募集条件はちゃんとみてくれたかいな。
まず文字の読み書きをマスターしていること。
次にD級魔法を扱えること。
この2つじゃ。」
「私達の娘はその両方ともマスターしていますよ」
シルバーがドヤ顔をしている
親バカかな?
「なんじゃと!?そこまでいうのなら
入門テストを受けてもらおうかの。
テストは識字力テストと、魔力テストの2つじゃ
片方だけ出来てても合格にはならんが
覚悟はできてるかの?」
俺達は頷いた
それなら付いてこいと言われ
おじいさんの後についていく
「よし席につくのじゃ。
先ずは識字力テストからじゃ
机に問題用紙とペンがある。
15分間で全て解いてみなされ」
言われた通り机の上の紙をみると
文字の読み書きから難読文字、類推問題が
50問ほどずらっとならんでいた
「準備はよろしいかの?」
俺達はうなずき
老人の始めという言葉と共にペンを動かした
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※セブン・イル・フォード(老人)視点
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この家に依頼で呼ばれ
生徒が5才児だということを聞かされた時は
またバカな依頼主に無駄足を踏まされたと
頭を悩ませたが
幼き子どもたちの問題を苦とも思わないかのようなこの回答速度をみれば
このわしの考えが間違っていたことを
理解するのに時間はかからなかった。
「それまで!!」
しかしじゃ、ワシは30年間色々な生徒を見てきた
たかが5歳程度で読み書きをマスターしてるやつなど
見たことも聞いたこともない。
ここまでよく真剣に頑張ったと賞賛に値するが
このテストは問題が進むにつれて難易度を高くしている
合格点は7割であるが
この歳ならせいぜい3割できたらいい方じゃないかの
「どれどれ....」
しかし、ワシの予想を大きく上回っていた
二人とも3割正解するどころか
1問たりとも間違えている箇所が見当たらない!
最後の問題は成人でも間違えても
おかしくないというのにじゃ!
「二人とも合格じゃ。
次はD級魔法をみせてもらおうかの」
魔法が暴発してもいいように庭へと向かう
二人ともイエーイとハイタッチをしながらワシについて
庭に出る
D級魔法は魔術の基本である魔力感知と魔力循環が
ある程度できて初めて使うことができる
逆に言えばD級魔法を1つみれば
魔法の基礎が出来ているかどうかがわかるのじゃ
「まずはどちらから試験するかの?」
「お姉様、ここは私から...」
双子の妹が前に出る
たしか名前はリリィと言ったか
双子ということもあり二人とも非常によく似とる
艷やかな金髪のセミロングヘアに綺麗な碧い瞳
違いがあるとすれば妹のリリィのほうが若干背が高く目が細い
そしてクールな印象じゃ
それに対し姉のユーリはとても子供とは思えないほどの
知性を宿した瞳に加えどこか底知れぬ
潜在能力を秘めているように思える
「なんでも好きな魔法を放ってよいぞ?」
では。とリリィが手を構えて呪文の詠唱をはじめる
「水の精霊よ....」
リリィの体内を膨大な魔力が循環し始める
なんだ....!?この尋常じゃないレベルの高密度かつ高速な魔力循環は!
魔術のみを5年以上修行したB級魔道士レベルの域に達しておる...!!!
「汝の求める水の流れを今ここに現し給え【水射】」
ドバッ!
という音と共にリリィの小さな手には不相応なほどの
大量の水が10mの距離を飛び抜けていった。
これはもしかするとワシはとんでもない
金の卵をみつけてしまったかもしれんのぅ...