第2話 魔法禁止
さらに半年が経過し
俺達は1歳と6ヶ月になった。
言葉はほぼ覚えた。
文字も難しいもの以外は読めるようになった。
これも母親の読み聞かせと大量の本という
勉強資料のおかげだ。
だが、まだ文字が読めることは両親にはだまっている。
何故ならこんな1歳半の子供が言葉も喋る上
文字もスラスラと読んでいたら
親からすれば不気味でしかないだろう。
俺が親ならそんな子、怖いし嫌だ。
だから黙っている。
絵本をよんでもらいながら「おー!」とか「しゅごーい!」
っていってるぐらいが丁度いいのだ。
しかし、俺だって精神年齢は20代後半
目の前に『D級魔法書』って書いてある本があれば
読みたくなるのも当然だろう
俺が急にこの本を読むのを我慢できなくなった理由があるのだ
実は先程
外の世界が気になり椅子によじ登って外を見ていた時のこと。
窓から見える外の世界は見渡す限り自然がいっぱいで
俺達が住んでいるところは間違いなく田舎であること。
そして他の家と比べうちの家は建物はもちろんだが庭も大きいということが分かった。
やっぱりお金持ちなのだ、やったぜ。
そして庭では母親のマーサが両手を前に突き出しながら
落ち葉を"操って"いた。
そう、落ち葉を操っていたのだ。
俺は思わず2度見した。
まるで魔法だ、落ち葉がまるで風に吹かれたように
それでいて規則正しく一箇所に集まっていくのだ。
まるでじゃなくて
紛れもなく風の魔法じゃないのか....?
そしてもっと驚いたのが次だ
マーサは落ち葉が一箇所に集まったのを確認し
ブツブツつぶやいたかと思うと右手から
火の塊を放出したのだ。
見てしまった...
あれは火の魔法だ!!これを魔法と呼ばずになんと呼ぶ!
ここまで見せられては自分も魔法を使ってみたくなるのが
精神年齢20代後半の男の子というものであろう。
俺は走って2階の母親の部屋に向かった。
そして目指すは本棚にある『D級魔法書』
しかし俺はまだ1歳6ヶ月の子供
1m以上の高さにある本には手が届かない
俺は近くの椅子を探し運ぼうとするが動かせない
赤子にとって椅子はあまりにも重かったのだ
「ねえね!なにしてうの?」
横を見るとリリィがいた。
リリィは1歳半にして、俺ほどではないが
意思を持って話すことができていた
それ以外にもハイハイは卒業し、しっかり2足で歩けている。
驚異的な成長速度である。
これこそ本物のバケモノになりかねない。
俺は妹と違い、生前の記憶という大きなアドバンテージを今はもっているが
このまま行けば妹のリリィは俺なんて大きく追い越し
俺の手の届かないぐらい成長してしまうかもしれない
今のうちに俺はできるだけ妹との差を開けなければならない。
そのためなら、今のうちになんだってやってやるさ
とりあえず目の前の目標はなんとしても達成させよう
「リリィ、この椅子、押すの手伝える?」
「うん!」
なんてできた妹だろうか。
俺なんて生前この年の時に何をしてた?
記憶なんてないが、恐らくハイハイぐらいしかできてなかったはずだ。それに言葉も単語すらろくに話せてなかっただろう。
「せーのっ!」
リリィと俺は二人で力を合わせて椅子を動かした
ゆっくりではあるが少しずつ本棚へと近づいた
(よし、このままいけばいける!)
そう確信したその時
「あぶない!」
椅子がバランスを崩し
「バタン!!」という音と共にリリィに直撃した
「うえーーん!!うぇーーーん!!」
「今の物音はなに!?どうしたの!?!」
凄い慌てぶりで、母親のマーサがやってきた
「椅子がリリィに..」
状況を説明した
「リリィ!?大丈夫?痛いわよね...
今手当てするから我慢してね...
『光の精霊よ、力失いしかの者に祝福を与え給え【回復】』」
マーサが呪文なようなものを唱えた瞬間
手から淡い光が放たれ、その光がリリィの傷口を優しく包み込む
「リリィ...どう?痛いのましになった?」
「あれ...?いたくない..!」
リリィはイスをぶつけた傷口を何度も触わり
痛みが引いたことがわかった途端
泣き顔がにぱーっと笑顔に変わった
回復魔法....だ
間近で初めて魔法をみた...
やっぱり魔法ってすごいよ!
この高揚感はなんだろう!
凄くワクワクしてきた!俺も早く魔法使いたい
「ママー!私にも魔法教えて!」
この世界での俺の1人称は『私』だ
だって一応女の子ですもの。
「うふふ、ユーリったら好奇心旺盛なのね
ひょっとしてこの本を取ろうとしてイスを動かしてたのかな?」
マーサはそういいながらD級魔法書を本棚から手に取った。
「ママ!それよんでー!」
チャンスである。
ここぞとばかりに猛プッシュしてみる
「うーん。この本はまだ少しはや...」
「ままー!よんでよんで!」
難色を示した瞬間、今度は俺ではなくリリィがおねだりした
まさか、リリィも魔法に興味が!?
いや、いくらなんでも1歳半で興味もつのは早くないか?
いや、リリィなら有り得るのか。
「しょうがないわねぇー。でも少しだけよ?」
「「やったー!!」」
妹よナイスだ!
マーサはD級魔法書の触りの部分だけを読んでくれた
それによると
・5歳未満の者は魔法を使ってはいけない
・魔法の階級は下から順にD・C・B・A・S・SSが存在する
・魔法には5大属性(火・水・風・雷・土)が存在する
ということらしい。
「ママ!どうして5歳未満は魔法使っちゃだめなの?」
「それはね、魔法が危険なものだからなのよ
これは大昔にあった話なんだけど...」
そういうとマーサは語り始めた
今から150年前
魔法発展時代、人間は魔王や魔物に対抗するべく
魔法の研究に膨大な金と人材をつぎ込んだ。
そしてその時行われた研究の1つとして
幼少期における臨床魔法行使実験があった。
具体的には産まれて間もない赤子から齢6才の子供を
100人程かき集め、無理矢理魔法を使わせるとどうなるかの実験を行っていた。
その結果5歳以上の子供はみな正常に魔法を使えるようになったが
4歳未満、特に3才未満の子供が魔法を使おうと呪文を唱えると
どういうわけか魔法が暴走し爆発を起こすのだ
そしてその暴走を起こした子供は大怪我を負い、その後遺症として魔法が使えなくなることがわかった。
簡単にまとめると
5歳未満で魔法を使うと魔力暴走により大怪我する可能性があるので、魔法は5歳になってから!ということである。
他にも5歳未満は物の分別がつかず、魔法で危険な事件を引き起こすということもあるだろう。
「じゃあ魔法つかっちゃだめなんだ...」
ちょっと残念であるが、そういう決まりなら仕方ないかもしれない
「そうね...魔法、つまり詠唱はしちゃだめだけど
魔力感知と魔力循環なら魔法を使うわけじゃないし
安全だから練習してもいいわよ」
「ほんと!?やったー」「わーい」
ところで『魔力感知』と『魔力循環』ってなんだろうか
「ねーままー。まりょくかんちってなにー」
俺が疑問に思ってたことをリリィが聞いてくれた
よくできた妹だ。
「魔力感知ってのはね、魔力の流れを感じ取る力なの
実際に体感してもらったほうが早いわね
...二人とも目を閉じてごらん?」
俺とリリィはマーサの言うとおり目を閉じる
「そしてそのままゆっくり深呼吸してー
はい、すってー。はいてー。すってー。はいてー
そしたら私から何か感じない?」
「あっ....」
なんか言葉では言い表せれないなんか妙なオーラを感じるかもしれない
リリィをみてみると
「おおー」みたいな顔していたので
恐らく上手く感じ取れているのかもしれない
「二人とも上手く感じとれたみたいね。
その今感じてるものが私の魔力よ。
今はうっすらしか感じ取れないと思うけど
何度も練習すれば目を開けたままどんな小さな魔力でも
感じ取ることができるようになるわよ」
なるほど。何度も練習すればいいのね
でも魔力を感じ取れるようになることは
そこまで重要なことに思えないのだが必要なのだろうか
「ねえママ、魔力感知が使えるといいことある?」
「もちろんよ!魔法が見えるようなるわよ」
え?魔法ってもともと目に見えるものじゃないのか?
「例えば風魔法、空気を操る魔法だから目には見えないでしょう?
だから魔力の流れが分かれば魔法が見えるわ
それに熟練した魔法使いなら、相手が魔法を発動する前の
わずかな魔力を感じ取りどんな攻撃をしてくるか
ある程度予想できるのよ。
だから、今後自分の身を守るためにはこの魔力感知は
必要不可欠なのよ」
なるほど
つまりこの世界では魔力感知を鍛えることで
敵の攻撃を予測したりして身を守れるってことか
これは頑張るしかないな
このあとマーサは
魔力循環についても教えてくれた
どうやら魔力循環とは
言葉の通り自分の体内にある魔力を体内で循環させることのようだ。
魔力を血液と置き換えるとイメージしやすいかもしれない
運動したり、お風呂に入ったりすると
血管が伸縮して血液の循環を感じることができるだろう
恐らくそのイメージで体内にある自分の魔力を
血液のごとく循環させればいいのだろう
そして俺は今魔力循環を試みている。
(血液のイメージ...血液のイメージ...)
すると不思議な感覚に陥った
血管と似た、第二の血管がうっすら形成されていく感覚だ
なんだかいけそうなきがする!
俺はそのまま形成された第二の仮想血管に魔力を注ぎ込んだ
「うそ.....」
マーサが口を手で多いながら驚きの表情を浮かべる
もしかして魔力循環上手くできたのかな?
「パパー!ちょっとこっちきて!ユーリとリリィが!!」
マーサが部屋を出てパパを呼ぶ
となりにいるリリィも魔力循環が出来ている様子だし
そんな大げさな!とも思ったが
もしかするとこの歳で魔力循環出来る事は異常なのかもしれない
「マーサ!どうした!何事だ」
俺達のパパ、シルバーがやってきた。
パパはマーサと同様20代後半の若さであり
身長はマーサより15センチ高い180である。
高身長イケメンである。
俺も男の子に生まれていれば将来こんな高身長イケメンに育ったのかもしれない
実に惜しいことをした。
「パパ!ユーリとリリィが魔力循環を使えるのよ!」
「おいおいママ、そんなわけあるわけないだろ?
ママも冗談が上手くなったものだな!ハッハッハ」
「冗談なんかじゃないわ、ほら二人とも
さっきの魔力循環やってみて?」
俺達は言われた通り、さっきと同じように
魔力循環を行った
「これはたまげた!
マーサ、お前が初めて魔力循環出来たのはいくつのときだ?」
「え?私は4歳の時よ」
「俺なんて6歳のときだぜ。
もしかしてうちの子達は天才じゃないのか!?」
「ええ!きっと天才に違いないわ!!」
「そうと決まったら来年にも家庭教師を...」
「それは流石に早すぎるんじゃないかしら」
「そんなことはないと思うぞ!
このまま放っておくと才能の持ち腐れになってしまう」
なんだなんだ
話がトントン拍子で凄い方向に進んでしまってる
やはり案の定というべきか
この歳で魔力循環は早すぎたのか
でもまぁいっか。
この世界で本気で生きるって決めたんだし
出来る事は精一杯やっていけばいいんだ。
そうしよう!