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【アニメ放送中】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-  作者: 鏑木カヅキ
少年期 王都へ 前編

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遅れを取り戻すように

 一日の大半を治療に費やし、思い出したように休憩をして、また治療。

 早朝にフリッツがやってきては嫌味を言って帰っていく。

 寝る時にはウィノナが恥ずかしそうに、夜の世話をしなくていいのかと尋ねてくる。

 これが毎日続いている。

 正直、辟易としている。

 睡眠時間は長くて4時間。

 効率化をし、両手での治療ができるようになってもそれは変わらなかった。

 計算通りに事は運ばない。

 少しの作業のズレで、時間は費やされる。

 円滑に患者を移動させることができないこともあるし、時として治療に必要な魔力量が多い人が続く時もあった。

 見通しが甘かったのだ。

 結局、計算では一日の睡眠時間が8時間はあるはずだったのに睡眠時間は半分以下になった。

 そして――それでも治療人数は同じか、少し遅いくらいだった。

 本当にギリギリだ。

 何もかもが上手くいかず、僕は内心で焦っていた。

 表面上は余裕があるように見せているけど、胸中は複雑だ。


 家族はいない。

 新たな土地での生活。

 女王からの理不尽な命令。

 魔法は使えず、実験もできない。

 たまにはラフィと話したいのに、彼女も忙しいらしく、ほとんど会えていない。

 自宅に帰ることもできず、休む時は仮眠室。

 嫌味な連中に皮肉やら悪口やらを言われても我慢している。

 ウィノナはよくわからないけど怯えたままだし、なぜか夜伽をするかどうかばかりを気にしている。

 患者達との付き合いもストレスが溜まる。

 彼等に非はない。

 でも仮の医師だとしても、彼等の身上を慮り言葉を慎重に選び、そして対応しなければならない。

 魔力を失うとどうしても精神的にも肉体的にも疲弊する。

 自分の時間がない。焦りばかりが募り、周囲の期待は大きくなる。

 見返りはなく、自己満足だけのために僕は働いている。

 はっきり言って……かなり辛い。


 僕は善人ではない。

 ただ放っておけないから、自分にしかできないから、こうして治療を続けている。

 けれど重い。

 彼等の期待、願い、悲しみ、嫉妬、恐怖。

 それらがすべてに僕に向けられ、僕はそれを消化しきれない。 

 王都サノストリアに来てから、それらは顕著に表れた。

 これが僕の選んだ道だ。

 後悔はない。

 ただ、少しばかり疲れているだけだ。

 弱音は吐けない。

 僕の周囲にいる人達は、怠惰病に関わっている人か、気の許せない人か、僕とは遠い存在だけ。

 だから僕は心の中に本音を押しこみ、黙々と人々を救う。

 今はそれでいい。

 少しの使命感と達成感、そして自分が見つけ、作りだした魔法がこれほどに人の役に立ったという実感だけが僕を癒してくれる。

 今日も治療を終え、僕は仮眠室のベッドに横たわっていた。


 すでに十一日目。

 睡眠時間は三時間まで減らした。

 あと四日、このままのペースではギリギリ間に合わない程度。

 つまりこれから三日間はほぼ徹夜だ。

 そうでなければ全員は治せない。

 時に誰かが言う。

 いつか治せるのだから、根を詰めすぎないようにと。

 しかしそれを治せなかった患者の前で言えるだろうか。

 胸を張り、すべてを出し切り、それでも無理だったと、そう思えるのならば少しは自分への慰めになるかもしれない。

 でも、僕はまだやりきっていない。

 僕は善人ではない。

 だけど、悪人でもない。

 そして臆病者や卑怯者にはなりたくない。

 だから自分に嘘を吐いて、人を傷つけ、見捨てたという事実があれば自分を責める。

 そんな未来は嫌だから、僕は全力を尽くす。

 それだけのことだ。

 これが善行だから、人のためだからと考えているわけじゃない。

 姉さんなら、もしかしたら人のためだからという理由だけで助けるかもしれない。

 でも僕は理屈が先に浮かんでしまう人間だ。

 だからよほどのことがない限り感情で行動できない。

 ……魔法に関しては別として。

 僕はじっと天井を見上げた。

 頭がまともに働いていない。

 眠気が強い。身体の疲労が色濃い。


「明日から、もっと頑張らないと」 


 誰に言われたからでもない。

 僕は僕の意志でここにいて、僕の意志で治療をしている。

 バルフ公爵や女王の命令だからじゃない。

 従ったのは僕の意志だ。

 誰の責任でもないし、誰のせいでもない。

 僕が決めたことだから、誰も恨まないし、誰かに責任を押し付ける気もない。 

 僕がやるのだ。

 僕は目を閉じた。

 数秒の間、身体がずんと重くなり、徐々に意志が沈んでいく。

 そうしてすぐに僕は眠りについた。


   ●○●○ 


 十二日目。期限まであと三日。

 早朝に起床した僕は、治療に勤しんでいた。

 処置室となっている大部屋にて、僕の立ち位置は決まっている。

 やや長方形型の部屋の端にはベッドがズラッと並んでいる。

 僕はその壁際、中央のベッドの横に立っている。

 左右には一つずつベッドがあり、そこに患者が横になっている。

 左右の手を二人の患者の胸に置いて、治療を始める。

 右手は1分30秒くらい。

 左手は3分ほどに短縮している。

 これ以上は難しいようだが、かなり成長していると思う。

 問題は残りの治療人数。

 おおよそ2500人。

 3分で三人治療できるので、2500分で全員を治療できる計算だ。

 つまり徹夜で治療をすれば二日もかからずに治療ができる。

 しかしこんな単純計算が通じないことはこの十日ほどでわかっている。

 必要魔力量が400近くの人もおり、その場合は右手でも2分以上必要だ。

 移動時間もあるし、常に同じ結果を出せるわけでもない。

 それに現在の僕の所持魔力は50万ほど。

 休憩なしで考えると、魔力を回復することは難しいためかなり厳しい魔力量だ。

 患者全員の魔力が100だったとしても25万必要になる。

 魔力量が400もある人は稀だけど300ならそれなり、200なら結構な数がいる。

 そのためもしかしたら三日の間に、少しばかりの休憩が必要になるかもしれない。

 とにかく余裕があるわけではないということだ。


「よし。この人は大丈夫。次の患者さんを!」

「は、はい! す、すぐに!」


 慌てて次の患者を運んできた看護師達。

 手つきはあまりよくない。

 しかしそれも仕方がないこと。

 僕と同じように働き続けている人はほぼいない。

 怠惰病患者につきっきりになる人はまずいないし、休みが必要だ。

 交代制のため、常に僕の手伝いをしているわけじゃないということ。

 怠惰病患者の治療が進んでいることもあり、医師や看護師達は別の診療所に配属されることも多くなってきた。

 なぜならば、怠惰病治療の補助は、経験豊富な医師や看護師じゃなくてもできるからだ。

 治療自体は僕がするし、手伝いをする人は運ぶだけだったり、患者の様子を判断したりするだけ。

 効率化を求めれば同じ人を配属し続けるべきだろう。

 しかし医師や看護師の存在は非常に希少。

 怠惰病患者の介護のためだけに使うことはできないという判断が下ったのだろう。

 実際、僕が来る前にそれぞれの施設で働いていた人達は、半ば強引に働かせてもらっていたという面も強い。

 それは怠惰病が治療不可能の奇病であったためだ。

 しかし今や、怠惰病は治療不可能な病ではない。

 その上、命の危険は少なく、治療自体にもリスクはない。

 必要なのは僕だけ。

 そう理解すれば、人員を割かなくなるのも当然だった。


 一応、女王には進言した。

 しかし医師達を遊ばせておくわけにはいかないらしく、結局、医師は減少し、新人の看護師やボランティア達の手伝いへ移行した。

 彼等はよくやってくれている。

 でも、効率化を考えれば、かなり遅れていることは間違いない。

 次の患者が運び込まれた。

 1分程度の遅れ。

 しかしこれが重なれば、徐々に時間はなくなる。

 焦りが生まれるが、僕は歯噛みして押し殺す。

 新人の看護師達やボランティアの人は一生懸命やってくれている。

 ウィノナも運ぶのを手伝ってくれたりしている。

 以前はプロがいたが、今は違う。

 素人であるウィノナであっても手伝ってくれるだけでありがたい状況だ。

 余計なことを考えるな。

 今は治療に集中しろ。

 そうして僕は必死に患者達の治療を続けた。

 増え続ける不安を見ないようにしながら。

 

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― 新着の感想 ―
過労死ってこうやってなるんだなと
主人公が自分に厳し過ぎて、読んでてかなしい(涙
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