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【アニメ放送中】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-  作者: 鏑木カヅキ
少年期 王都へ 前編

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謁見

 城への道は入り組んでいる。

 その理由は襲撃があった場合、できるだけ敵を城へ近づけさせないためである。

 その上、人ごみのせいで遅々として進まなかった。

 そのため城へ到着するには一時間近くを要することになった。


「これがサノストリア城……」


 窓から外を見ると城郭が見える。

 跳ね橋は降りており、見えるだけでも数十の兵士達に守られていた。

 城壁はかなりの高さがあり、ブーストとジャンプを併用しても届かないかもしれない。

 思っていた以上に堅固だ。

 規模もかなりのもので、木造の城門も相当な厚みがあることは間違いない。

 外から、城の塔が一部見えるだけで、全景は明らかにならない。

 城なんて初めて見たからこれがこの世界で一般的なのかどうかはわからない。

 けれどなんというか圧倒された。

 馬車が停止する。

 前方で何やら会話が聞こえ始めた。

 どうやらゴート隊長が門衛達に事情を説明しているようだった。

 恐らくさっきと同じように書状を見せるんだろう。

 しかし思った以上に時間がかかっている様子だ。

 馬車が止まってもうすでに十分は経過している。


「何かあったのかな?」

「さてな。一応、招へいの命は下っているが、今日、この時に到着するとは思わんだろうからな。

 準備が整っていなかったのやもしれん……こういうことはよくある。

 高貴な相手ならば尚のことな」


 皮肉めいた口調だったけど、僕は言及しなかった。

 貴族には貴族の悩みや考えがあるのだろう。

 僕は一般的な貴族とは違う生活をしてきたから、ラフィの思いはわからない。

 しかし長い。

 このまま待ち続けてもいいけど、せめてもう少し街並みを見たいところだ。

 窓越しだと一部しか見えないし、もどかしい。

 少しくらいならいいかな。

 そう思い、僕は不意に馬車の扉を開けた。

 まず目に入ったのは人の群れ。

 そして無数の家屋。

 甘いニオイに、馬車の往来。

 人の喧騒。雑踏。

 活気はイストリア以上であり、熱気にたじろいだ。

 リスティア国はどちらかと言えば気温が低めだ。

 しかしこの場には熱があり、一瞬で汗が滲むほどだった。

 これは気温と言うよりは人々の活力の賜物だろう。

 思わず、馬車を下りて街中を散策したくなる衝動に駆られた。

 だがその願いは叶うことはなかった。


「シオン様! 馬車は入れないようです。

 申し訳ありませんが、ここで下車していただき、城内へは徒歩でお願いいたします」


 門衛と何やら言い合っていたゴート隊長が馬車まで駆け寄ってきた。

 イストリアの兵とはいえ数百人いるから、簡単に入城を許せないのかもしれない。

 ちょっと釈然とはしないけど、仕方ないか。


「わかりました」

「では行きましょう。私と数名が城内へお供いたしますので」

「数名だけですか?」

「申し訳ありません。どうも他の兵士達は城内へ入れないようで。

 万事終えるまでは近場で待機する、という形で何とか折り合いをつけまして」


 全員はさすがに無理だろうが、数名だけとはちょっと少ない気もする。

 城内には兵舎もあるだろうに。


「イストリア兵に対しての扱いにしては厳重ですね」

「ええ、私もそう思います。しかし今の時期ですから、そうなってもおかしくはないでしょう。

 なんせ、各国の公人、高官、貴族達がサノストリアへ訪問しているようですので。

 我々はしばらくの身分証明の後に、一時的に王都へ滞留することになるでしょうが……」


 選ばれし者、か。

 各国で選出された『怠惰病治療の研修を受けに来た人達』だ。

 それに伴い、魔族の襲撃に関しての話し合いもあるのだろう。

 各国の王の訪問はないが相当な地位の人達も足を運んでいるらしい。

 これをどうとらえるべきか。


 この大陸には五国が存在する。

 僕達が住まう小国、リスティア。

 医学と技術の国、メディフ。

 騎士の皇国、ロッケンド。

 鉄の国、プルツァ。

 そして大陸最大規模の軍事国家、大帝国アドン。

 更に海を越えた遥か東にはトウという珍しい文化を持った国があるらしい。

 すべての国の中で、リスティアは最も国力も人口も国土も小さい国らしい。


 王達が集結しない理由は判然としないが、恐らくはそれだけ事態を重く見ていないということなのだろうか。

 対外的な怠惰病治療研修会の開始日は約二十日後だけど、正確にその日に王都へ入る人ばかりではない。

 すでに多少の外国人の受け入れは始まっているだろう。

 とにかくそういう理由から、兵士達がピリピリしているのかもしれない。

 普段よりも警戒レベルが高くなっていることも頷ける。

 例え自国の兵士だったとしても、それは兵士を装った他国の要人暗殺を目論んだ暗殺者かもしれないのだ。

 リスティア国内で他国の要人が殺されたら、責任を問われるのはリスティア女王である。

 自国内の兵士達を王都へ多く集めている理由もわからないでもない。

 その任務のためにイストリアの兵の一部は王都へ派遣されている。

 僕を護衛をしてくれた人達もその一部だ。

 ミルヒア女王か。

 一体どういう人なんだろうか。


「とにかく入りましょうか。時間もないでしょうし」

「ええ。ではこちらへ」


 ゴート隊長を先頭に、僕とラフィ、それと数名の兵士と共に城門へ向かった。

 長い跳ね橋を通り、重厚な門前に行くと、重低音と鎖の鳴き声と共に道は開かれる。

 城門は徐々に持ち上がっていった。

 僕達は意を決し、門衛達の案内に従い、城内へと足を踏み入れた。


   ●○●○


 城内の一室に案内され、十数分。

 今度は侍女数人の案内により僕だけが謁見の間に向かう。

 ラフィの心配そうな顔に見送られ、僕は一人、赤絨毯を通り、現れた巨大な扉の前に立った。

 謁見の間であることは間違いない。

 サノストリア城の印象を一言で言えば廊下ばかり、ということ。

 廊下があり、脇に扉がある。

 それだけの説明で足りるくらいに長い廊下と扉があるばかりだった。

 もちろん豪奢な家具やら小物やらがそこかしこにあることも間違いないけど。


「こちらで女王様がお待ちです」


 侍女達が扉の横に避けて、頭を垂れた。

 どうやら一人で入れということらしい。

 緊張している。

 これ以上ないくらいに緊張している。

 身体が軽く震えているくらいには緊張していた。

 しかしまごまごしていてもしょうがない。

 女王を待たせることもできないし。

 覚悟を決めるしかないか。

 僕は扉前に立ち、深呼吸をすると、扉の脇に待機していた兵達に視線を送った。

 すると兵士達は謁見の間への扉を開いてくれた。

 視界が広がる。

 目の前に城内でも最も華美な絨毯が伸びている。

 左右にずらっと並んでいる兵士達の視線が集まる気配を感じた。

 正面には玉座が一つ。

 そこに座っている人物を真っ直ぐ見つめずに、僕はやや視線を落として、ゆっくりと前に進んだ。

 謁見時の作法は父さんに聞いている。

 それは助かったけど、ぶっつけ本番でもある。

 緊張が著しい中で、僕は必死に頭の中で作法の順序を反芻していた。

 歩く時はゆっくり。

 視線はやや低め。

 許可があるまで女王を見てはいけない。

 女王から十歩程度の距離まで行き、片膝を地面につける。

 視線を落としたまま、声がかかるのを待った。

 無言、無音。

 まさか作法を間違ったのかと思うほどに、空気が張り詰めている。

 しかし何も言えず、僕は黙して何かが起きるのを待った。


「貴様がシオン・オーンスタインじゃな?」


 透き通った声が頭上から聞こえた。

 思った以上に若い。

 しかし年齢は父さんよりも上だと聞いている。

 精神年齢では僕よりも年下だろうけど、その声から伝わる威厳は年齢なんて感じさせない。

 僕は半ば反射的に答えた。


「はい。シオン・オーンスタインにございます」

「よくぞ王都へ参った。まずは面を上げよ」


 言われるままに僕は視線を上げた。

 正面、やや離れた位置には十段ほどの小さい階段がある。

 その上には玉座があり、そこに座っている女性が僕を見降ろしている。

 女王ラクシュア・L・ミルヒア。

 一目で僕は視線を奪われてしまう。

 彼女は圧倒的に美しかった。

 肩にかかる銀糸が光を反射してキラキラと輝いている。

 真っ白な肌に薄く乗った桜色。

 整いすぎた造形に、誰もが目を奪われる。

 しかし真っ直ぐに見据えることができる時間は僅かだ。

 大半の人間は彼女の容姿に着目するだろうが、僕は違った。

 なぜなら『女王は魔力を纏っていたからだ』。

 怠惰病に罹らずとも魔力を持っている人は極稀にではあったけど存在していた。

 ローズもそうだし、それ以外にも。

 本当に数えるくらいだったけど。

 僕は思わず凝視してしまっていることに気づき、慌てて視線を僅かに落とした。


「妾はラクシュア・L・ミルヒアである。

 此度の怠惰病治療、そして魔族迎撃、ご苦労であった。

 獅子奮迅の活躍であったと聞き及んでおるぞ」

「もったいないお言葉です。しかし偶然が重なった上、多くの方々の尽力あってのこと。

 私だけの功績ではございません」

「謙虚な。貴様の為し得たことはすでに知っておるのじゃ。

 過ぎた謙遜は嫌味になる。甘んじて受けるがよい。

 先の一件に対して、報酬を与えねばなるまい。

 すでにこちらで用意しておるのでな、受け取るがよい」


 女王は隣に立っていた恰幅のいい男性に向かい、小さく頷いた。

 大臣辺りの地位の人だろう。

 頭部はやや髪が薄くなっているが、威厳ある髭が彼の自信を表しているように見えた。

 見た目は太ったおじさんなのに、眼光は鋭い。

 報酬か。

 事前に聞いていたけど、どんなものかは知らない。

 お金かな。それとも何かの物品だろうか。

 物だとちょっと困るな。

 女王からの頂き物を保管するために気を遣うし。

 内心、ドキドキしながら僕は女王の言葉を待った。

 大臣らしき男性が懐から羊皮紙を取り出した。

 広げて、視線を滑らせる。


「リスティア国、都市イストリアにおいて怠惰病患者の治療方法の開発、並びに治療、加えて魔族襲撃への対応、魔族の迎撃という功績を収めたシオン・オーンスタインには『王都サノストリア内に存在する屋敷の贈呈』と『二侯爵位を与える』こととする。

 一切の異論は認めない。これはリスティア女王であるラクシュア様の意向である」


 ほんの少し室内がざわついた。

 謁見の間には兵士以外にも気位の高そうな人が並んでいる。

 彼等は文官なのだろうか。

 文官達の大半が動揺しているようだった。

 ということはこれは女王の独断で決定したこと?

 今の今まで秘匿にしていたということなのか。

 もしもそうならどうしてそんなことを?

 いや、それよりも屋敷と爵位って、どういうことだ?

 そうだよ。これはおかしい。

 幾らなんでもおかしいだろう。

 なんで名誉貴族の息子である僕に、いきなり二侯爵位を与えることになるんだ。

 二侯爵とは、公爵の一つ下の序列であり、侯爵では公爵と同音のためわかりにくいということから、二という言葉が頭についたらしい。

 二侯爵は立派な上級貴族だ。

 下から男爵、子爵、伯爵、二侯爵、公爵、大公となっており、二侯爵ともなれば国内で有数の貴族でなければおかしいくらいの地位だ。

 田舎貴族、しかも名誉貴族の息子である僕が貰える爵位じゃない。

 一代で築ける家柄としては著しく逸脱している。

 例外であることは明白だった。

 女王と大臣らしき男性以外のほとんどが狼狽している。

 それは僕もだ。


「静まれ! 女王の前であるぞ!」


 大臣の怒号に一瞬にして静まり返った。

 何この人、怖いんだけど。

 僕は内心で萎縮してしまっていたが、表には出さずに無言を通した。

 とにかくこれは決定事項らしい。

 僕が異を唱えても逆効果になるだけだろう。


「シオン・オーンスタインよ。女王のお言葉だ。もちろん、受けるであろうな?」


 大臣は僕を睨みつつ言う。

 威圧感満載の声音だった。

 予想外のことだ。

 はっきり言って心がついていってないが、断るわけにはいかないことはわかる。

 女王が何を思ってこんな報酬を出すつもりなのか、考える時間はない。

 僕は逡巡しながらも頷き、


「ありがたく頂戴いたします」


 と答えることしかできない。

 ちらっと女王と大臣の顔色をうかがう。

 少し安堵したような表情が見えた気がした。


「ではこれよりシオン・オーンスタインは、二侯爵となる。

 また二侯爵となるが領地は与えない。与えるは爵位、家屋、侍女のみとする。

 加えて交流会、地域間会議への参加権はなく、発言権も認めない」


 再びざわめきが広がる。

 どうやら父さんと同じような立ち位置になるみたいだ。

 しかし二侯爵であることは間違いないが、名誉貴族のようなものらしい。

 それを明言はしていないけど。

 周囲の文官達の表情は少しだけ和らいでいた。

 僕みたいな新参者が貴族達の中に参入すれば力関係が崩れるかもしれないと危惧したのかな。

 そんなことをするつもりもないし興味もないんだけど。

 とにかく煩わしい立場になるわけではないようで、一先ずは安心かもしれない。

 楽観視はすべきではないと思うけど。


「報酬は以上となる。次に今後、貴様に与える任についてじゃが。

 まずは王都内に存在する怠惰病患者の治療にあたれ。詳しい話は侍女から聞け。よいな?」

「はい。早急に対処いたします」


 むしろそのために来たと言っても過言ではない。

 まずは王都内にいる患者達を治療するべきだと考えていた。

 僕の返事に、女王は満足そうに頷く。


「ではオーンスタイン卿、近う寄れ」


 僕は訝しがりながらも即座に指示に従った。

 話があるのならこの場ですればいい。

 何かあるのだろうか?

 そう思いながらも数歩前に進んだ。

 制止の声が聞こえない。

 まだらしい。

 更に数歩進んだ。

 後五歩の位置。

 近い。

 父さんに聞いていた距離とは違う。

 よほどの信頼関係が築けていなければ許されない距離。

 そこまで行っても女王の声は聞こえない。

 更に一歩。

 まだ聞こえない。

 更に一歩。


「そこでよい」


 近くで声が聞こえる。

 階段の踊り場に跪いている僕の視線は地面に向けられているが、その先には女王の足が見えた。

 彼女まで三歩程度。

 僕が暗殺者なら、彼女は一瞬の内に殺される距離。

 それなのに女王はこの距離を僕に許した。

 僕を信頼しているはずもない。

 だって会うのは今日が初めて……じゃない、のか?


「あの赤子がよくここまで育った」


 声にはっとして、僕は思わず見上げた。

 女王は柔らかい笑みを浮かべて僕を真っ直ぐ見据えていた。

 彼女の瞳には僅かな母性が浮かんでいる。

 思わず僕はその姿に見とれて、言葉を失った。

 ああ、そうだ。

 僕は一度、女王に預けられていたのだ。

 その後、父さんと母さんが僕を子供として育てることになったのだから。

 彼女は僕の過去を知っている。

 女王の近くで聞こえる声に、僕は耳を傾けた。

 先程まで浮かべていた表情は消え、厳めしくなっていく。


「シオン。しばらく魔法は使うな」


 僕にだけ聞こえる声量でそう言った女王は、すぐに親しみのある女性の顔ではなく、威厳ある女王の毅然とした姿へと変わる。

 魔法を使うな? 

 一体どういうことだ?

 怠惰病治療のためには魔力が必要だし、治療魔法に関してのことじゃなさそうだ。

 じゃあ、他の魔法のこと?

 僕は視線で女王に疑問を投げかけたが、彼女は答える気はなさそうだった。

 今のところ大きな不利益がないからとりあえずは従うけど……どういう意図があるんだろうか。


「下がってよい」


 言われて僕は大きく一礼すると、ゆっくりと立ち上がった。

 終わるのだという思いが込み上がると、焦りのままに足を動かす。

 そのまま謁見の間を後にすると、一気に疲れが押し寄せる。

 扉が閉まると同時に、大きく息を吐いた。

 終わった。

 緊張したぁ。もう本当、これで勘弁してほしい。

 形式ばった場は苦手だ。

 何とか終えたという思いが脱力感を生み出す。


「ではこちらへ」


 待機していたらしい侍女達が僕を案内してくれた。

 部屋に戻るのだろう。

 早くラフィと話して気を抜きたい。

 そんな思いが強く顔を出してしまい、僕は女王の言葉を忘れてしまっていた。

 彼女が与えてくれる、いや与えてくるものを、正確に把握していなかった。

 そんなことにも気づかず、僕は解放感だけを味わいながら侍女達の後ろに続いた。


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― 新着の感想 ―
王都の持ち家と二次爵位と侍女が褒美? え? もしかして種馬扱い?(汗
[一言] 家と地位だけってとんでもないブラック企業だなw 領地=歳入がなくてどうやって家とか使用人とか維持していくんだよ?
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