ラクシュア・L・ミルヒア女王の書状
●封蝋書状
『アウグスト・R・バルフ公爵宛』
まずは先の騒動解決への尽力、ご苦労。
イストリアでの一件により世界中に赫夜の存在を知らしめる手助けとなったことは幸いであった。
貴殿も知っている通り、魔族の出現は想定していたが、しかし起こり得るとは思いもよらず。
だが『白髪の女』の言は真実であると、大臣共に思い知らせることとなった。
本題に入る。世界中に広がる怠惰病の治療法を確立したという報告を受け、王都でもいち早くその医師を招へいせよという意見が出ている。
だが怠惰病発症は我が国だけでなく、他国でも発生しており、自国内で閉鎖的に治療を行えば、国際問題に発展することは間違いない。
千年前の記述通りであれば赫夜の日に魔族が新たに出現することとなる。
魔族という共通の敵がいながら、味方であるはずの国同士で争えば致命的になるであろうことは明らかであり、他国との関係悪化は避けるべき事案だ。
また医師であり魔法使いのシオン・オーンスタインを輩出した我が国は別としても、他国の患者を治療する場合、優先順位が問題となる。
隣国から等という理由で他国が納得するわけもない。下らなくも由々しき問題だ。
そこで各国から選りすぐりの人材を我が国へと集め『教育』することとなった。
わかっておる。魔力の有無の確認や教育者の不足が懸案だ。
しかし時間はなく、怠惰病患者はイストリアの比ではないほどに存在している。
各国の王や貴族達の心情を慮る理由以外にも、世界的に患者達がおり、その治療が可能な人物はシオン・オーンスタインしかいない。
三十の日が昇れば王都へ各国の『選ばれし者』達が訪れる。
彼等を教育し、怠惰病治療を行えるように鍛えることが急務である。
シオン・オーンスタインは直ちに王都を訪れ、そして『選ばれし者』の教育を施せ。
これは決定事項であり、覆りはしない。
まずは怠惰病患者の治療を最優先にし、その後、魔族への対策を練ることになるだろう。
また魔族討伐、怠惰病治療に関しての褒賞は王都で与える。
こちらは『選ばれし者』達の世話や通常業務で手一杯だ。護衛部隊はそちらで選出せよ。
わかっておるだろうが、シオン・オーンスタインを決して逃がすな。
唯一の希望であるシオン・オーンスタインを決して手放してはならない。決して。
世界の命運は彼の者が握っているのだから。
ラクシュア・L・ミルヒア






