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【アニメ放送中】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-  作者: 鏑木カヅキ
幼少期 魔法開発編

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魔物討伐 3

 荒い息、肌に絡みつく汗の感触。

 鼓動は激しく、肺は悲鳴を上げている。

 身体中に疲労が築盛しているのに、僕は強引に足を動かした。

 魔力も枯渇しそうだ。

 身体は怠いし、思うように動かない。

 でもそんな嘆きは現実を変えはしない。


「シオン!」


 数メートル先でコボルトと戦っている姉さんが叫んだ。

 僕は指示を待たずに、魔力を練り、即座にラインボルトを放つ。

 両の手から放たれた電撃は、コボルト数体に向かう。

 触れると同時に、魔物は悲鳴を上げ、痙攣しつつ、地面に倒れた。

 もうどれくらいの敵を倒したのかわからない。 

 集落は多分、五つ目。

 百体以上は倒している。

 もちろん、大半は父さんかグラストさんが倒しているんだけど。


「おらぁっ!」

「ふんっ!」


 父さんとグラストさんは僕達の近くで、コボルト達を簡単に倒している。

 父さんは基本に忠実な片手剣。

 グラストさんは短剣の二刀流。

 双方共に、あまりに強すぎて参考にできそうにない。

 姉さんもすごいが、二人は格が違う。

 おかげで僕と姉さんは比較的、楽にコボルト達と戦えていた。

 と、僕は片膝を地面に着いた。

 ああ、だめだ。

 もう魔力切れ寸前。

 これ以上使うと、動けなくなる。

 もう精神的に限界が近く、何もしたくないという衝動に駆られていた。

 それから一分程度経過した。


「……ふむ、全滅したらしいな」

「さっきので終わりかよ。歯ごたえねぇな」


 父さんとグラストさんはまだ足りない、とばかりにため息を漏らしている。

 しかし僕と姉さんは結構、ギリギリだ。


「はぁはぁ……お、終わったの?」

「み、みたい、だね」


 二人で常に連携をして戦った。

 阿吽の呼吸という感じで、戦うことができたと思うけど僕達にとっては初戦。

 かなり覚束なかったし、課題は無数にある。

 それでもかなりの成果を出せたと思う。

 コボルト達はさっきので全滅か。

 集落の中には魔物の気配はない、と思う。


「……もう、無理……疲れたぁ」

「僕もだよ……さすがに、限界」


 僕と姉さんは隣り合って、地面に座り込んだ。

 姉さんは毎日のように剣術の稽古をしているし、身体も鍛えている。

 僕も常に走るようにして、体力には自信があった。

 それでも全然足りなかったようだ。

 父さんとグラストさんは息切れもしていないし、余力が十分にあるようだった。

 あの二人に追いつくのは相当に大変そうだ。


「でも、あたし達も戦えるってわかったわね」

「うん。それだけでも今日の戦いには価値があったよ」

「そうね……でも、もっと強くならないと。色々とわかったし」


 姉さんも姉さんで自分の課題を見つけたらしい。

 やはり練習と実践は違う。

 実践の方が、気づけることは多い。


「さて、私達はコボルトの耳と戦利品を集めよう。おまえ達は休んでいなさい」


 父さん達は、集落内にあるコボルトの盗品なりを物色するようだ。

 コボルトにはそれなりに創作能力があるが、人間ほどではない。

 価値があるものを所持しているとしたら盗品か、鉱物などの資源になるだろう。

 敵の本拠地を叩いた場合、戦闘後、戦利品を集めることが基本だ。

 ということで、父さん達は集落内を探索するらしい。

 僕達は動く元気は残っていないので、休憩だ。

 しばらく休んでいると、呼吸が整う。

 けれど気怠さはまったく治らない。

 明日は動けないかもしれないな、これは。

 なんて考えていた時、僕は不意に顔を上げる。

 何かのきっかけはなかった。

 何となく、でも無意識の内に、僕は一つの天幕に視線を奪われた。

 立ち上がり、ゆっくりとそちらへ移動してしまう。


「シオン、どうしたの?」

「わからないけど、何か……ありそうな」


 根拠はない。

 けど、何かが僕に語りかける。

 こっちにおいで、と。

 僕はふらふらと天幕に向かうと、中へ入った。

 そこは骨と木で作られた飾りが幾つも置かれていた。

 やや豪奢に見える内装で、もしかしたらそれなりに高い地位のコボルトが住んでいたのかもしれない。

 姉さんと共に薄暗い内部へ入る。

 しかしふと、特の方に光が見えた。

 僕は導かれるようにそちらへ向かった。


「シ、シオン、暗いし危ないわよ!」 


 声が少し震えている。

 魔物はいない。

 しかし、暗いところは怖いらしい。

 姉さんは僕の腕に捕まり、恐る恐る進み始めた。

 僕は光のすぐ傍へ移動する。

 そしてその正体に気づくと息を飲んだ。

 鳥かごに入った人型の生物。

 体中を発光させており、悲しそうに俯いている。

 座り込んでおり、背中に生えている羽がしなだれているように見えた。

 それは人、女の子の形をしている。

 しかし目や髪の色が人のそれではなかった。

 一度、遠目だけど見たことがある。

 彼女は『妖精』だ。

 彼女は僕に気づくと、恐怖に身を震わせた。

 コボルト達に捕まっていたのか?

 不意に近づくと、僕達から離れるように、妖精は反対側へ移動した。

 その時、ふと気づいた。

 彼女が放つ光は、鳥かごを照らしてはいなかったのだ。

 薄暗く、何とか周囲は見えるが、彼女の光は辺りを照らしていない。

 つまりそれは魔力の光であると、僕は直感的に理解した。

 妖精は魔力を帯びている。

 ゴブリンもそうだったし、さっきまで戦っていたコボルトもそうだった。

 魔物には魔力が備わっていた。

 まあ、近づくのは危険だから、魔力反応があるのかまでは試していないけど。

 それよりも、今は妖精だ。


「な、何、この子」

「多分妖精だと思う」

「妖精? そういえば前にあんた、そんなことを言ってたわね。

 魔物、とは違うのかしら」

「どうかな。でも魔物ほど危険じゃないんじゃないかな。多分だけど」


 明らかに僕達を恐れているし、むしろ弱い生物のようだ。

 しかし、よほど怖い目にあったのだろう。

 相当に衰弱しているし、身体も汚れている。

 怪我はしてないみたいだけど。


「それでどうするの? その……妖精のお店があるってことは、多分、売れるんだろうけど」

「あまり気が進まないなぁ」


 妖精屋に興味を持っていた僕が言うのもなんだけど、生き物を売るのは抵抗がある。

 特に相手は人型だし。

 偽善というか、気分的なものというか。

 それにかわいそうだし。


「逃がしてあげようか」

「シオンがそうしたいなら、いいんじゃない?」


 姉さんは少し嬉しそうに笑った。

 どうやら同じ考えだったらしい。

 僕は鳥かごに近づいた。

 すると妖精はガタガタと震えながら、口元に小さな魔力の光を生み出した。

 なんだ、あれ。

 幾つも生まれては消えていく。

 それが断続的に続き、やがて見えなくなった。

 僕は疑問を持ちつつも、檻を開ける。

 鍵も必要なく、すぐに開けることができた。

 コボルトにはそういう知識や器用さはないんだろうか。

 鳥かごを開くと、僕達は少し離れる。

 すると妖精がこちらを見て、目をきょろきょろと泳がせ始めた。

 じーっと僕を見ていたが、恐る恐る立ち上がる。

 そのまま鳥かごの入り口まで行き、警戒しつつも外に出た。

 そして次の瞬間、妖精は羽を動かし、飛び上がる。


「あ、やっぱり飛ぶんだ」

「……綺麗」


 無数の光の粒子がゆっくりと地面に落ちる。

 幻想的で目を奪われた。

 妖精は自由になったことが嬉しかったのか、僕達の頭上で飛び回っていたが、やがて空中で制止する。

 そして口元に魔力の光を生み出すと飛び去ってしまった。

 このまま無事に帰れるといいけど。


「思ったより元気でよかったわね」

「そうだね。それに妖精が見れたのもよかったよ」


 妖精がどういう存在なのか、という好奇心はあった。

 しかし最近は魔法の研究、発見や、グラストさんの手伝いやらがあり、そこまでは気が回らなかった。

 妖精、魔物。

 その二つにおいて、もっと知るべきだろう。

 まあ、それはもう少しだけ先になりそうだけど。

 そんなことを考えていると、マリーが小さく悲鳴を上げた。

 咄嗟に振り返ると、マリーがよろめいている姿が見えた。


「だ、大丈夫? 怪我でもしてたの?」

「う、ううん、ちょっとふらついただけ。疲れてるからだと思う」


 確かに僕も相当に疲労している。

 僕も姉さんも鍛えているとはいえ、まだ子供だ。

 初体験ばかりで余計に疲れているし。

 僕はマリーに近づき手を貸そうとした。

 しかしマリーはやんわりと僕の手を拒絶する。


「んっ、大丈夫。歩ける」

「そう。だったらいいけど」


 彼女の言葉通り、問題なく歩けるようだ。

 怪我をしている様子はないし、やはりただの疲労だろう。

 僕は内心で安堵し、マリーと共に、父さん達のところへ戻った。


   ●○●○


 帰り道のこと。

 僕達は、疲労から徒歩の速度が明らかに低下していた。

 そんな中、視界に入ったものに、僕は足を止める。


「どうしたんだ、シオン」

「父さん。あそこ、湖がある」


 僕が指差す先、そこには何の変哲もない湖があった。


「そうだな。森なのだから、珍しくもないだろう」

「あそこにエッテントラウトっているかな?」

「いるだろう。ここら辺の湖には大概はいるからな。それがどうかしたか?」

「うん。ちょっと寄っていいかな? 調べたいことがあるんだ」

「それは構わんが」 


 僕は父さんを許可を得ると、湖に向かった。

 そこは普通の湖。

 特に目立った特徴はない。

 そして今の時期は、エッテントラウトの産卵期ではない。

 つまりトラウト達は求愛行動をしない。

 それは魔力の光を生み出さないということでもある。

 別にいいんだそれは。

 まあその方が、確実ではあるけど。

 僕が知りたいのはそこじゃない。

 僕は湖をじっと見つめる。

 見つめる。

 見つめて見つめて見つめる。


「シオンは何をしてんだ……?」

「さあな。私にはわからん」

「何かを見てるみたいだけど」


 三人が僕の後ろで動向を見守っている。

 僕はしばらく湖の底を見つめていたけど、立ち上がった。


「わかった。帰ろう」

「もういいのか?」

「うん。調べたいことはわかったから」

「結局、調べたいことってなんだったの?」


 姉さんの問いを受けて、湖を一瞥した。


「この湖にいるエッテントラウトが、魔力を持っているのか、それを知りたかった。

 わかったよ。この湖にいるエッテントラウトは、魔力を持ってない」


 僕は長い間、魔力を練る鍛錬をしていたことで、対象の魔力量をある程度、感知できるようになっていた。

 ゴブリン、エッテントラウト。

 マリーやローズ。

 僕自身。

 魔力を放出、あるいは帯魔状態にならなくとも、魔力は身体を巡っている。

 目を凝らせば、魔力を持っているのかどうかということを、僕はわかるようになっていたのだ。

 だからわかった。

 この湖には魔力を持っている生物はいない。

 つまり。

 自宅近くの湖に生息するエッテントラウトしか魔力を持っていない、ということ。

 あの湖に何かがある、と考えるべきだろう。

 今はそこまでしかわからないし、そこまでわかれば十分だ。


「じゃあ、帰ろう」


 僕が言うと、三人はちょっと戸惑っていたけど、すぐに気を取り直した。

 湖を出発して、僕達はイストリアに帰還する。

 そしてギルドで達成報告をし、僕達は自宅へ戻った。


 ○依頼内容 :コボルト討伐

  達成条件 :五体以上討伐。

  報酬額  :五体につき、5,000リルム

  実討伐数 :百十二体

  総合報酬額:112,000リルム


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