力の影響
合成魔法に関して、簡単な経緯と結果、それと各魔法の名称は以下の通りだ。
◆合成魔法の組み合わせ
・魔力+魔力=相乗魔力
…【魔力量と魔力濃度の向上】即時発動
・(魔力+魔力)×フレア=ツインフレア
…【相乗魔力を費やしたフレア。フレアの上位版】即時発動
・フレア×放出魔力=ボムフレア
…【フレアに魔力を接触させたフレア威力は高いが、瞬間的】数秒後発動
・(魔力+魔力)×フレア×再度の放出魔力=ダブルボムフレア
…【再度の放出魔力によってフレアを爆発させる。威力は高い】六秒後発動
・(魔力+魔力)×ボルト=ラインボルト
…【相乗魔力を費やしたボルト。ボルトの上位版】即時発動
・ボルト×放出魔力=威力減少
…【空気抵抗により、電流の威力が減少。実用性はない】即時発動
・フレア×ボルト=個別現象
…【互いに干渉せずに発動した】即時発動
ここまでが先日に発動した魔法の一覧だ。
尚、ベース魔法は右手、サブ魔法は左手だ。
そうでないと合成することができないか、魔法として発動することが困難だったためだ。
念のため、フレアとボルトを掛け合わせてみたけど、やはり変化はなかった。
フレア、ボルト同士でもやってみたけど、結局合成はしなかったし。
さて、現在、僕はイストリアのグラストさんの店にいる。
いつも通り、雷鉱石の精錬の手伝い中だ。
一度、着火したら、しばらくはその火を絶やさないでおけるので、あまりやることはない。
まあ、それでも僕がいないと青い火はつけられないため立ち会う必要はある。
「いつも悪ぃなシオン。それにマリーも」
「いえ、これも仕事ですから。持ちつ持たれつということで」
「あたしは大して苦でもないわよ。シオンがいるし」
僕の腕に捕まるマリーを見て、グラストさんは苦笑する。
「ほんとおまえら仲良いのな」
「ふふん、だってあたしはシオンが大好きなんだもん。当然よ」
なぜか鼻を慣らしている我が姉。
将来が心配になりそうだが、僕としてはもう何も言えない。
「そうか。まあ、家族ってのは大事な特別な存在だ。大事にしな。
特に、自分にとって味方になってくれる家族はな」
何か、含みがあるような気がした。
グラストさんも大人だ。
過去に色々なことがあっただろう。
それが何かは追及するつもりもないけど。
話していると、ドンドンと何かを叩く音が聞こえた。
どうやら訪問者が来たようだ。
「ったく、誰だ? 店は閉めてんのによ。悪ぃ、ちょっと外すな。
それ、しばらくは放っておいて大丈夫だからよ」
精錬窯を指差して、グラストさんは鍛冶場を出て行った。
「お客さんかしら?」
「多分、そうなんじゃない? 修理を頼みに来たのかも」
「グラストおじさん、精錬日はお店を閉じてるみたいだし、大丈夫かしら」
「かなり儲かってるみたいだから、大丈夫じゃない?
即売してるみたいだし」
そうなのだ。
販売してから、発雷石と雷光灯はすぐに売り切れてしまうらしい。
それだけ人気があるとか。
僕としては実感がないけど。
グラストさんとの約束だし手伝ってるだけだからね。
報酬もあるし、まあいいかな、程度の認識だ。
「ねえシオン」
「なあに、姉さん」
「シオンは魔法を色々と使えるようになってきてるじゃない?
もっと色々使えたらどうするの?」
「どうって……もっともっと使えるようになりたい、かな?」
「じゃあ、もっともっともーっと使えるようになったら?
ずーっと使えるようになるだけでいいの?」
「……それは」
どうなんだろう。
自衛、防衛の手段として魔法を使いたいという思いはなくはない。
ゴブリン襲撃以来、僕の中ではそういう考えが生まれていた。
だからただ使いたいから研究しているという目的以外も僕の中にはある。
でもそれでどうするのか。
姉さんはそれが聞きたいのだろう。
この力、魔法。
ただ使う。誰かを守るために使う。
でも、もしも使う機会がもうないとしたら。
ただ自己満足のためだけに使うのだろうか。
「この雷鉱石もシオンがいないと鉄雷にできなかったじゃない?
それに魔法がなければ、あたし達はゴブリンに殺されていた。
魔法があたし達を助けてくれた。それはシオンでなければできなかったことだと思うの。
別にいいの。シオンがしたいようにしていいと思う。
でも、なんだろう。魔法ってすごい力をシオンが見つけて、もっと別の何かのために使ってもいいのかも、って思っただけ」
「もっと別の何か……?」
「例えば、ほら、人助けとか?」
僕は思わず吹き出してしまった。
あまりに率直で純粋な考えだったからだ。
それが不服だったのか、姉さんは頬を膨らませた。
「何よ、笑わなくてもいいじゃない」
「ごめんごめん。確かに、そういう使い方もあるね。
今も人助けをしているという点では間違ってないわけだし」
「ええ。魔法はとても便利。でもとても危険でもある。
使い方を考えるべきだとは思うけれど、でもだからこそ助けることもできるんじゃないかしら」
「……まるで父さんみたいな口ぶりだね」
「ふふ、そうかもね。シオンの好きにしたらいいというのは当然だけど。
でもシオンの家族としてはもったいないな、とは思うのよね」
「あまり広めるのもよくないかもしれないよ?」
「そうね。とても扱いは難しい。
お父様も言っていたけれど、特別な力は良くも悪くも周りに影響を与えるから。
簡単なことじゃないことはわかっているけれど、それでも何かないかなって思うのよ」
姉さんの言いたいことはわかる。
友人や家族に何かの才能がある人間がいたとしよう。
その人間が才能を発揮せずに暮らしていたら、もったいないなと思うかもしれない。
魔法は才能かどうかは置いておいて。
この力を自分が使いたい、自衛のためという目的以外で使う、か。
そこまでは考えたことがなかったな。
今回のグラストさんの手伝いで、魔法には更に色々な可能性が詰まっていることを知った。
閉鎖的な研究だけではわからないこともあるのだろうか。
実験的な理由だけでなく、別の意味もあり、他の行動をとってもいいのかもしれない。
「だぁら! 無理だって言ってんだろ!」
突然、グラストさんの声が聞こえた。
何があったのだろうか。
僕と姉さんは鍛冶場を出て、店の方に向かった。
玄関には、グラストさんと、細身で気弱そうな男性が立っていた。
男性はぺこぺこと頭を下げて何かを頼んでいるように見えた。
「そ、そこを何とか、お願いします!」
「だ、か、ら! 雷鉱石の加工に関しては秘密だ!
誰にも教える気もねぇし、誰かと共同で商売をするつもりもねぇ!
生産量を増やす予定もねぇし、何を言われてもそれは変わらねぇよ!」
「ま、間違いなく、もっと売れます! こんな商品は初めてです!
国内だけでなく、他国でも人気が出るのは間違いありません!
わ、私と共同で生産すればもっと稼げるんですよ!?
上級貴族になるのも夢じゃありません! 店の一つや二つ、簡単に買えるんですよ!
それどころか名誉商人になれるかも! い、いえ商人ギルドの幹部級の功績にも!」
「例えそうでも、おまえの案に乗るつもりはねぇ!」
「で、でしたら、生産方法の情報を売ってください!
それだけで数千万リルムの価値がある! い、いえ、一億リルム出しましょう!
どうです!? あなたの目標である大型店舗の購入も可能になりますよ!?」
「断る! 帰れ!」
グラストさんは悩む様子もなく、即座に言い放つと、男性を追い出してしまった。
「ったく、しつけぇっての!」
苛立ったまま振り向くと、僕達の存在に気づいた。
「っち、見られちまったか」
「今のは?」
グラストさんは気まずそうに視線を落として言った。
「シオンの発案した商品が、かなり人気があってよ、街中で話題になってんだ。
販売したら即完売ってのは話しただろ?
噂が都市中で広がって、王都の方にも届いちまったらしい。
んで、話を聞きつけた商人が交渉をしにきたんだよ。今までも何度もあったんだけどよ」
「なんかすみません……」
「お、おい、シオンが謝ることじゃねぇ。むしろいいことだ。これだけ売れる商品はねぇ。
俺としては助かるし、これ以上、欲を出すつもりはねぇよ。
元はおまえのアイディアで、おまえのおかげでこうして儲けられるんだからな。
だから断るのはいいし、これくらいは何の問題でもねぇ。
ただよ、本当にいいのか? 世間的には俺の功績になっちまってんだが……」
事前にグラストさんには話している。
発雷石と雷光灯の開発、雷鉱石の精錬に関しては、グラストさんが発見して、グラストさんが開発したことにして欲しい、と。
父さんの言葉通り、僕の力が知られてしまうという危険性があるということ。
そして僕としては名声を求めているわけじゃないということ。
その二つの理由から、グラストさんの功績にして欲しいと頼んだのだ。
だから、僕の存在は露呈していない、と思う。
まあ、数日に一回、訪問しているからもしかしたら誰か目撃しているかもしれないけど。
でもまさか、子供の僕がその開発者だなんて思わないだろう。
僕が即座に頷くと、グラストさんはきまりが悪そうに視線を逸らした。
「まあ、懸命だ。子供が商売の世界に足を踏み入れるのは危険だしよ。
金に汚い連中は、子供だろうが利用する。儲かることには貪欲だ。
誘拐されて、無理やり生産に付き合わされるなんてこともあり得るからな」
「それは怖いですね。気を付けないと」
「もっと怖がりながら言ってくれ……。
まあ、それくらい肝が据わってなけりゃあんな頼みごとしてこないか」
「もう一つの頼み事は今日ですよね?」
「ああ、残りの雷鉱石を精錬したら、行こうか。心の準備はできてるな?」
「ええ、もちろんです」
「あ、あたしも大丈夫」
姉さんは僕の腕をぎゅっとつかんだままだ。
少し、震えているように見える。
「姉さん、無理しなくても」
「ううん、やる。じゃないとダメ。ずっと引きずるから」
まだ姉さんは十歳。
それなのにこの胆力はどこから湧き出てくるのか。
姉さんの決意を僕が台無しにしてはいけない。
大丈夫。もう、大丈夫だから。
「安心しろ。俺がいる。情報収集もしてるから、ほぼ安全だ。
問題はガウェインとエマちゃんだけどよ」
「父さんと母さんには知らせていません。いつも通りの感じで出てきたので、問題ないかと」
父さんごめん。
今日、僕は初めて、父さんとの約束を破ります。
でも正直に話せば、父さんは絶対に反対するだろうし。
今じゃなければいけないのかと言われば、ノーと答える。
けれど、いつかはやらなければならないことだ。
時期は尚早かもしれないけど、タイミング的には悪くないと思う。
それにグラストさんもいる。
きっと大丈夫。
「そうか。まあ、万が一はねぇよ。もしバレたら、俺が一緒に謝ってやる。
なあに、半殺し程度で許されるだろうよ」
カカカと笑いつつ恐ろしいことを言う人だ。
「でも、本当にいいんですか? すごく迷惑をかけるのに」
「ああ、構わねぇさ。俺達がガキの頃も同じようなことをしたもんだ。
その時は、もっと危険だったからな。あの親してこの子ありって感じだな」
父さんも昔はやんちゃだったらしいことは聞いている。
あまり詮索をするつもりはないけど、ちょっと興味はあるな。
姉さんは自分の腰に帯びている剣を握っていた。
表情は硬い、しかし決意も同じだろう。
鍛冶場に戻り、雷鉱石の精錬を完全に終えた僕達は、店を出た。
「じゃあ行くか。魔物退治に」
グラストさんの声に、僕と姉さんは同時に頷いた。






