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フレア

 それから一週間。事件から一ヶ月以上が経過した。

 完全に傷が治った母さんが、家事を始めるようになった。

 そして、居間に集まり話し合いを始めた。

 魔法のことや、ゴブリンのことを母さんにはまだ話していなかった。

 傷に障るし、今は静養させようと思ってのことだった。

 経過はよく、傷跡もほとんど残っていないらしい。

 以前と変わりなく元気な様子だった。


「それで、どんな話なのかしら?」

「実は――」


 柔らかく笑う母さんを前にして、僕達は話し始めた。

 父さんに話したように経緯を説明した。

 まったく同じような内容。

 僕達が話し終えると、母さんは言った。


「あらあらそうなの。よくわからないけれど、シオンちゃんの好きにしていいわよぉ。

 それと、ふふ、シオンちゃん、ありがとね。

 お母さん、あんまり覚えてないけれど、シオンちゃんが助けてくれたのね。自慢の息子だわぁ」


 柔和な笑みを浮かべている母さん。

 すべてを受け止めてくれたおおらかさに、僕は感謝した。

 こんなに寛大な親はそうはいない。


「でも、これからは何かあったらお母さんやお父さんに言ってねぇ。

 きっと力になれるし、なれなくても話すだけでわかることもあるのよ」

「うん、今度からはそうするよ。父さんとも約束してるから」

「ふふ、じゃあいいわ。頑張ってね」


 僕達は戸惑いつつも母さんのニコニコ顔を眺めた。

 父さんもそうだけど、僕の両親は寛大すぎる。

 でもだからこそ、僕は自由でいられるんだ。

 強い感謝と敬愛を以て、僕は笑顔を浮かべる。

 そして決意を新たにした。

 これで憂いはない。

 これからはもっと魔法の研究に勤しもう。

 さあ、頑張るぞ。


   ●○●○


 しばらくして。

 家の修理も完全に終え、色々と落ち着いた時期を見測り、また剣術の稽古が始まった。

 マロン、レッド、ローズの全員が集まり、僕は周辺を走り回るだけ。

 魔法の研究がしたいけれど、父さんに身体を鍛えることも大事だと言われ、鍛錬を続けることになった。

 まあ、魔法を使えても、身体が動かないと、後々困りそうではある。

 何があるかわからないし、魔物がまた来るかもしれない。

 だったら鍛えることにも意味があるだろう、と無理やり自分を納得させた。

 ゴブリン襲来から、今まで一度も三人とは会っていなかった。

 僕達は色々と忙しかったし、気を遣ったのかもしれない。

 村の人全員からお礼を言われたり、色々と心配されたりしている。

 それはローズたち三人も一緒で、開口一番、お礼を言われた。

 さて中庭の中心で父さんがマリーを含む四人の練習を見ている。

 僕は外周を走りながら、頭の中で魔法の研究のことを考えていた。

 しかし、マロンとローズは頻繁に僕の方を見ていた。

 それも仕方のないことだろう。

 ゴブリンを倒したのは僕だ。

 しかもその後、母さんの治療の指示をした。

 表立っては何も言われないが、心の中でどんなことを考えているか、わからないでもない。 

 聞きたいけど、聞けない。

 そんな感じなのかもしれない。

 けれど父さんは領民達に詳しく説明していないだろう。

 説明しようがないし、真実を話しても、混乱させるだけだ。

 口外しないように、という話だけはしているらしい。 

 領民の人達は優しいが、全員が全員、黙っているかは疑問だ。

 それでも、今のところは問題はなかった。

 剣術の練習中、頻繁に二つの視線を感じ続けた。

 特にローズの視線はあからさまで、なんというか居心地が悪かった。

 しかし結局、何を聞いて来るでもなく、その日は終了した。

 そして、それ以降も、マロンとローズが僕に事情を聞いてくることはなかった。


「よし! 今日の稽古はこれまでだ!」


 父さんの声と共に、稽古は終わった。

 片づけをして、三人は家に帰っていく。

 何も言わなかった。

 いつも通りではなかったけれど、普通に接そうとしていたように思える。

 今日、何も言わないのならば、これからも何も言わないのだろう。

 もやもやする。けれどそれは僕よりも三人の方が強いだろう。

 汗を拭い、木剣やらを片付け、家に戻ろうとした。

 けれどまだ姉さんは中庭に残り、素振りを続けていた。

 毎日のことだ。

 姉さんは稽古が終わってもずっと一人で黙々と鍛錬を続けている。

 あの日以来、姉さんは変わってしまった。

 普段は普通だけど、剣術に対して、かなり執着するようになってしまった。


「マリー、今日はそれくらいにしておきなさい」

「……まだ、大丈夫。ご飯は戻るから」

「しかしだな」

「一杯、稽古した方が強くなるってお父様も言っていたでしょ?」

「それは言ったが、それには限度が」


 父さんが諌めるくらいに、姉さんは根を詰めすぎているような気がした。

 今回に限っては父さんに同感だった。


「姉さん、父さんがこう言ってるんだし、そろそろ」


 僕が言うと、姉さんは手を止めた。

 わかってくれたのかと思ったけれど、姉さんは僕を睨んだ。

 そんな顔を見るのは初めてで、僕は面喰ってしまった。

 いつも一緒で、仲の良かった相手の怒りが自分に向けられているという事実に。

 僕は酷く動揺し、心臓が早鐘を打ち始めた。


「わかったわよ。シオンが言うなら……そうするわ」


 睨んだのは一瞬だけで、すぐに俯いて、姉さんは家に入っていった。

 その反応に、僕は何も言えなかった。

 ただ動揺し、その場に立ち尽くした。

 するとポンと頭に何かが触れた。


「気にするな。マリーは少し気が立っているだけだ」

「…………うん」


 色々とあったし、怖い目にもあった。

 あんなことに遭遇したら、それは普通ではいられないだろう。

 ゴブリン襲撃後、父さんも母さんも普通にしているが、内心では色々と思いがあるはず。

 僕にも、あれ以来、魔物から自分や家族を守るために、魔法を使おうという考えが生まれた。

 マリーは、魔物と直接対峙した上に、自分を庇って母さんが怪我をしたのだ。

 何も思わずにはいられないだろう。

 もしかしたら嫌われてしまったんだろうか。

 そう思うと、僕は怖くてしょうがなかった。

 それほどに僕の中で姉さんの存在が大きくなっていたからだ。

 僕は父さんと共に、家に戻った。

 気まずさを残したまま、その日は終わりを告げた。


   ●○●○


 火属性魔法、試作段階ではあるけれど、僕はこの魔法に名前を付けた。

 フレア。

 現段階では正式な魔法ではないので、試作フレアと暫定的に呼ぶことにする。

 試作フレアは火と反応した魔力が上空へ向かう。

 そのため攻撃手段としてはまったく活用できないし、何かしらの利便性もない。

 これがまっすぐ飛ぶことが、第一条件だ。

 火力は低いが、鬼火程度にはなるだろう。

 これには更に魔力への意思を込める必要がある。

 つまり『右手から魔力を真っ直ぐ放出する』という命令である。

 帯魔状態から集魔状態へ移行し、六割程度を体外放出する、という流れになる。

 気づいたんだけど、魔力に何かしらの意志を伝達、つまり命令をすると、移動させることができる魔力量が減っているようだ。

 そして、実感はないけど、命令ごとにある程度は魔力を消費しているのかもしれない。

 そこで実験をした。

 限界量の体外放出をできるだけ近くでした状態と、真っ直ぐ離れた場所に向かい体外放出した状態で、魔力量は同じなのかどうか。

 結果は、後者の方が僅かに魔力量が少ないようだった。

 目測だけど、間違いない。

 つまり火力が弱くなっていた。

 離れれば離れるほど火が小さくなる、ということだ。

 現在、一日に発動できる帯魔状態は三十回が限界。

 つまり、三十回までならば試作フレアを発動できるということでもある。

 一応、魔法として扱うようにはできているわけだ。


 真っ直ぐ飛ぶ、火の塊。

 これだけで結構、脅威なのではないだろうか。

 まあ、別に何に使うってわけじゃないんだけど。

 もし、またゴブリンやら魔物がやってきたら、使えるだろうし、役に立たないわけじゃないと思う。

 ちなみに物に使ってみた。

 岩のような硬い物には、当然ながら大した影響はなかった。

 しかし木のような可燃物には効果があり、離れた場所で燃やすことが可能だった。

 ただ、僕が抱いている火属性の魔法のように、触れた瞬間爆発したり、相手に刺さったりはしない。

 ただ触れて燃える、この程度だ。

 それでもかなり有効な攻撃手段ではある。

 相手に松明を近づけるようなものだからだ。

 それを三十回も使える。

 あれ、これもしかして結構強いんじゃ。

 しかし僕のもっぱらの仕事は決まっていた。


「シオン、火をつけてくれるか?」


 父さんに頼まれて、薪に火をつけた。

 そろそろ気温が低くなってきて暖炉が必要になっている。

 そのため毎回、僕が火をつけるようになっている。

 手作業で火をつけるのは時間がかかるし、手間だ。

 そういうことから、僕が火をつけることになっているのだが。

 僕は携帯用の火打石を叩き、試作フレアを生み出し、薪に火をつけた。


「ありがとう、助かったぞ。青い炎は少し違和感があるが」

「うん、なんか地味だけど」

「何を言ってるんだ。こんなこと普通はできない。

 魔法を使えるのはシオンだけだ。すごいことだと父さんは思うぞ」


 褒められているのか、利用されているのか微妙なラインだと思う。

 でも、役に立たないよりはいい。

 ちょっと想像していたのとは違うけど、まあ悪くはないさ。

 しかし次はどうするかと、また行き詰ってしまった。

 火属性の魔法。

 それには点火源が必要だ。

 魔力は気体の可燃物で、酸素供給はされるから問題はない。

 しかし点火源の火打石は必須だ。

 これがなくては魔力に火をつけられない。

 それをどうにかして、何もない状態のまま、魔法を使えればいいんだけど。

 どうしても何もない、あるいは杖のような触媒を使って魔法を使用するというイメージが先行している。

 というか、理想はそれだ。

 火打石を常に持っているのはちょっと格好悪い気がするんだ。

 いや、もう十分魔法を使えているという実感はあるけれど、僕の目的はもっと先だ。

 なんというか大魔法的なものを使えるようになりたい。

 可能か不可能かはわからないけど、あくまで夢は持ち続けていたい。

 とにかく、どうにかして空手の状態で魔法を使えるようにしたいところだ。

 とはいえ、まったくその方法が浮かばない。

 フレアに関しては、これ以上の進展はないかもしれない。 

 行き詰ったら別のアプローチをする。

 それが僕のやり方だ。

 とにかく。

 フレアの研究はここで一旦、保留とする。

 次の研究に移ることにしよう。

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