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【アニメ放送中】マジック・メイカー -異世界魔法の作り方-  作者: 鏑木カヅキ
少年期 妖精編

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妖精の森アルスフィア

 翌日の早朝。

 一日ゆっくりしたおかげで疲労はほとんどなくなった。

 姉さんもウィノナも快調みたいだ。

 今日は森の中を歩き回るため、全員が動きやすい恰好に変えている。

 女性陣はスカートからパンツルックに変えて、それなりに簡素な衣服に着替えている。

 もちろんいつもはメイド服を着ているウィノナも、普通の女の子のような服装だ。

 当の本人はなぜかそわそわしながら自分の体を見回している。


「ウィノナ、どうかしたの?」

「い、いえ。いつもはメイド服を着ているので、違和感が……。

 へ、変ではないでしょうか?」

「大丈夫、似合っているよ。普段とは違った感じでいいと思う」


 言うとウィノナは恥ずかしそうに目を伏せた。

 彼女はあんまり褒められ慣れていないんだよね。

 生い立ちを考えれば当然なんだろうけど。

 僕だけでも素直に褒めようと思う。そうすればちょっとずつ自信になるだろうし。

 ふと視線を感じて、振り返ると姉さんがこっちを見ていた。

 姉さんは特に気にした風もなく、馬車に荷を詰めていた。

 やっぱりおかしい。

 父さんと母さんが言っていた通り、姉さんは以前とは違う。

 近すぎた距離が、姉と弟という適切な距離になっているような。

 壁を感じるわけじゃなく、今まで通り親しく、そして妙な心の近さがなくなっている。

 もともと、姉さんは僕に恋愛感情を抱いてなかったのかもしれない。

 それに気づき、姉弟として正しい関係になりつつあるのだろうか。

 なんだろう、すごくもやもやする。

 きっとこれがみんなにとっていいことなのに。

 どうしてこんなにすっきりしないんだろうか。


「シオン先生! そろそろ参りましょうか!」


 ゴルトバ伯爵が待ちきれないとばかりに言う。


「は、はい。行きましょうか」


 僕と姉さん、ウィノナは僕の馬車に乗り移動を始める。

 伯爵だけでなく、ドミニクも同行するようで、彼は昨日とは違って比較的軽装だった。

 ただし剣は帯びているけれど。

 ほかの部下らしき人も数人ついてくるようだ。

 僕の迎え以外にも、護衛役も担うのかな。

 近衛騎士隊って国王直属の部隊のはず。

 それなのに僕たちに掛かりっきりでいいんだろうか。

 伯爵たちは馬に乗り、僕たちを先導してくれることになっている。

 馬車が進み始める。

 いよいよだ。待ちに待った妖精の住まいへ、僕たちは向かうのだ。


「今から行くところって、妖精の森でいいのよね?」

「うん。アルスフィアって呼ばれているみたいだね。

 メディフの旧言語で『幻想の境界』って意味らしい」

「へぇ、素敵な言葉じゃない」


 この世界で幻想的な存在は二つ。

 魔物と妖精だ。

 今は魔法もそこに含まれるが、僕がいなければ魔物と妖精だけがその分類に属していた。

 もちろんルグレや魔族といった存在もいたが、一般的な知識ではない。

 魔物は魔法に、いや正確には魔族の言う『魔術』に深く関わる存在だ。

 生態や実態は謎が多いが、赫夜に大量発生したレイスのこともあるし、間違いなく魔族と魔物は密接な関係にある。

 そして魔物は魔力を持ち、魔法が有効でもある。

 その対とも呼べる妖精の存在は、間違いなく魔法に関連している。

 妖精を見たことは数回あるし、魔力を内包していたことは覚えている。

 口から小さな魔力の玉を吐き出してもいた。

 エッテントラウト同様に、おそらくは魔力をコミュニケーションのために使っているんじゃないだろうか。

 と、ここまではサノストリアで伯爵と話した時に考えついていた。

 もっと調べて、疑問を解消し、仮定を確証に変える。

 そうしてようやく魔法を昇華させることができるかどうかわかる。

 根拠はないが、何かしらの結果は得られると僕は思っている。

 それに純粋に妖精に興味がある。

 あんなファンタジーな存在を調べない手はないでしょ!

 いつの間にか景色は街中から森の中へと変わっていた。

 すでに都市を出ているようだ。


「アルスフィアは町から一時間くらいのところにあるのよね?」

「伯爵がそう言っていたね。それと途中、魔物が出る可能性は低いって」

「人里が近いからかしら。でも自然がここまで多いと、魔物も生息しやすいんじゃない?

 街周辺も森に囲まれているし、隠れる場所なんていくらでもあるし」

「確かにそうだね……何か対策しているのかな」

「多数の兵が哨戒しているのです」


 小窓からドミニクの声が聞こえた。

 彼は馬に乗りながら馬車と並走している。

 早くはないが、多少の速度が出ているのに、僕と彼の距離関係はそのままだ。

 相当な馬術がなければ不可能な技術だろう。


「失礼しました。余計なことかとも思いましたが」


 馬車の窓にガラスなんて入っているわけもなく、会話は筒抜けだ。

 僕と姉さんも別に聞こえていいと思いながら話していたし。


「いえ、気になっていたので助かります。森の中も見回りしているということなら、かなりの人手が必要なのでは?」

「ええ。死角が多いため、魔物が潜んでいないかを確かめる必要がありますから。

 ほかにも不法入国者や人間相手の治安維持の理由もあります。

 人手が必要ではありますが、その分、アジョラムは治安がいいですよ」


 それくらいしないと妖精や自然の保護も難しいだろう。

 良し悪しは別として、上手く回っているということなのかな。


「しかし、人件費は莫大でしょうね」

「否定はしません。ですが、賃金は妥当な額ですし、きちんと支払われていますよ」


 アジョラムだけでなくメディフ全体が自然や妖精保護を謳っている。

 だとすればほかの地域でも同じように、人を割いているはず。

 資金はどこから出ているんだろうか。

 見たところ、それほど何かが栄えているようには見えないけど。


「メディフは医学と技術の国だと聞きましたが、よほどの収益があるのですか?

 そうでなければ賄えないでしょうし」

「おっしゃる通り、メディフは医学が最も進歩している国です。

 怠惰病治療以外には、ですが」


 含みのある言葉に、僕は苦笑するしかない。

 はっとした表情を浮かべ、ドミニクは慌てて頭を下げた。


「失礼しました。これは嫌味ではなく、事実を申しているだけですので。

 もしも不快にさせてしまったのであれば謝罪いたします」

「いえ、気にしてないので。それよりも続きをお願いします」

「ありがとうございます。医療費というのはそれはもう高額です。

 先進医療であれば余計に。ですから医療分野だけでもメディフは多額の収益があります。

 技術的な面で言えば、鍛冶と建築分野が他国に比べて抜きんでておりますね」

「建築に関してはわかりますが、鍛冶もですか?

 自然を大事にしているメディフには、少しそぐわないような気も」

「確かに。そう思われるのも不思議はありません。

 鍛冶は多くの燃料を必要とし、大量の煙を輩出しますから。

 煙は空気を汚し、木々に悪影響を及ぼすとも言われております。

 ですが、鍛冶とは色々な顔があるものなのですよ」


 言っていることがわからず、僕と姉さんは首を傾げた。


「リスティアには雷鉱石がありますね。あの鉱石に似たものがメディフにもあるのです」


 含みがあった。

 なぜわざわざ雷鉱石のことをドミニクが話したのか。

 もしかして僕が雷光灯や鉄雷剣の発案者だと知っているのか。

 知っているのは一部の人間だけのはず。

 偶然か、それともかまをかけているのか。

 僕が無言でいると、ドミニクはさらに言葉を繋げる。


「失礼しました。これではわかりませんね。

 比較的有名ではあるのですが、溶鉱石というものがメディフでは採れるのです。

 それは高熱を発しており、一部の溶鉱石は鉄をも溶かすほどの温度を保っているのです」

「つまり、それを使って鍛冶をしている、と?」

「ご明察通りです。さすがシオン様。ご理解が早い」


 さすがの意味する部分はよくわからないけど、わざと迂遠な言い回しをしていたということはわかる。

 爽やかな少年だと思っていたが、案外食わせ物なのだろうか。

 彼には色々と気になる点がある、あまり気を許さないほうがいいかもしれない。

 そもそも僕はリスティアにとっては重要な存在だ。

 怠惰病治療開発者というだけでも、他国からすれば喉から手が出るほど欲しいはず。

 何かしらのアプローチをしてくる可能性はある。

 まあ、さすがにミルヒア女王が裏で手をまわしているだろうけど。

 現時点でいろいろとね。


 それに一応はメディフで権威あるゴルトバ伯爵の客だ。

 普通の観光客とは違う対応が求められるから、簡単に手出しはできない。

 まあ、何かしてきたら、全力で逃げるなりすればいい。

 僕と姉さんが本気を出せば、追いつける人間はいないだろうし、ウィノナ一人なら抱えて移動も可能だ。

 姉さんは黙して動向を見守っている。

 僕と目があると、わずかに目を伏せて、ドミニクを一瞥した。

 姉さんも何か気になるんだろう。

 ただこういう場合、考えるのは僕の役目だ。

 性格的には姉さんの方がコミュニケーションは向いているんだけど、情報をもとに交渉や会話をするのは僕が担当することが多い。

 冒険者ギルドで大人に混じって依頼を受けていた時、そうしていた。

 それはそれとして、せっかくだ。もう少し踏み込んでみようか。


「ドミニクさんはどうして伯爵の護衛みたいな仕事をしているんですか?

 近衛騎士隊なら、王城勤務か王様の護衛をしているかと思うのですが」

「その件ですが……現在、私の任務は護衛や伯爵の身の回りのお世話なのです。

 これは王であるラルフガング様からのご指示なので」

「伯爵の護衛が、ですが?」

「ええ。伯爵はメディフでは権威ある学者です。

 魔物学、妖精学では右に出る者はいないと言われているほどで。

 その上、王とも旧知の中で相談役にもなっています。

 本人は役職を嫌い、伯爵に甘んじておられるのですが」


 ゴルトバ伯爵ってもしかして思っていた以上にすごい人なのかな?

 考えてみれば国全体で保護している妖精の住処に簡単に入れるような人なんだよね。

 客である僕たちの入場も許可してもらっているし。


「伯爵はあまりに自由といいますか、好奇心に忠実といいますか……。

 今まではアジョラムから出ることはあまりなかったので見逃していたらしいのです。

 ですが先の、怠惰病治療研修会へ伯爵が勝手に参加なさったことで、さすがに放置はできないとご判断なさったようで。

 ラルフガング様は、私に伯爵のお目付け役をやるようにとお申しになったのです」


 伯爵の後ろ姿が目に入る。

 後ろから見てもうきうきしているのがわかる。

 なんか色々と想像できてしまった。

 というか勝手に参加したのか。

 そりゃダメだ。


「……大変ですね」

「いえ、伯爵は素晴らしい方ですから、お世話をできるのは光栄に思っております」


 まぶしいくらいの笑顔を向けられて、僕は目を細めた。

 このイケメンめ……!

 正直、容姿にコンプレックスがある方じゃないけど、さすがに行き過ぎた美形は苦手だ。


「それとシオン様。できれば私を呼ぶときにはドミニクと、呼び捨てでお願いできますか?

 言葉遣いも、砕けて話していただけるとありがたいです」


 ありがたい、か。

 何か事情があるのかな。

 まあ、立場的に敬語で話されるのは気まずいのかもしれない。

 一応、僕たちは貴族で、ドミニクが世話をする伯爵の客なわけだし。

 近衛騎士になるくらいだから、ドミニクも貴族だろうけど。


「うん、わかった。じゃあドミニクと呼ぶよ」

「マリアンヌ様もおねがいします」

「あたしは最初からそのつもりだから、気にしなくていいわよ」


 ドミニクは僅かに目を見開き、そして嬉しそうに頷いた。

 さすが姉さんである。

 不遜なわけじゃないけど、フランクというか。

 姉さんってあんまり敬語使わないんだよね。

 それが失礼に当たらないことが多い。

 姉さんの醸し出す空気か、人格のなせる技か。

 僕が言うのもなんだけど、姉さんコミュ力すごいからな……。


「そろそろ着くようですね」


 ドミニクの視線の先には、開けた場所が見えた。

 鬱蒼と茂った森を向けると、平原が広がっている。

 その平原は数十メートルほどの広さしかなく、その先には更に森が広がっていた。

 僕と姉さんはあんぐりと口を開けた。

 ただだだその森に魅入られていた。

 森全体が光っている。

 森全体が淡い魔力を放っていたのだ。

 エッテントラウトが放出する魔力の比ではない。

 森全体が生きているかのように、魔力を放ち、煌々と輝いている。

 僕と姉さんは呆気にとられたまま、言葉を発することさえできない。


「あれが妖精の森、アルスフィアです」


 説明するドミニクは、どこか誇らしげに見えた。

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[気になる点] 「それとシオン様。できれば私を呼ぶときにはドミニクと、呼び捨てでお願いできますか?  言葉遣いも、砕けて話していただけるとありがたいです」  様付けしてる相手が砕けた口調を要求する…
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