3-2 編集さんは、小説のどこを見ているか
もちろん、各レーベルで重視するポイントが違うでしょう。
ファンタジーに強いところもあれば、それ以外を重視するところもあるかもしれません。
というか、一昔前には、素のファンタジーはよほどの特色でもないと、受賞作が出ない場合もありました。
もはや、ブームはとうに去ったと見られていたからです。
とはいえ、これはあくまでもそこの編集さんの多くがそう思っていたという話ですよ。実際は、その当時から様々なファンタジーを望む人達はいたことでしょう。
無論、今は出版社も事情が違います。
「ファンタジー、どんと来い!」という感じではないかと。
このことはまた他の項目で書こうと思いますが、もちろんこれは、多くのweb小説がそっちのジャンルで大きな成功を収めたのが大きいでしょう。
書店さんに並んだ時、現実に大きな売り上げを記録するなら、古い主義主張に囚われている場合じゃないですしね。
(個人的な意見ですからね、くどいですが)
それで話は戻りますが、どうしてただ面白いだけでは新人賞に通らないのか。
それは、編集部というか編集さんの多くが、常に「新しいもの、あるいはこれまで読んだことがないような視点の作品」を求めているからです。
私はよく、編集さんと話している時に、こういうことを言われました。
「売り出す時に、何か特色があると、売りやすいんですよね」
「○○から出たあれ、今まであまりなかったですねぇ(褒め言葉)」
「なんでアレが売れるんでしょうね、以前にもあったでしょうに(私が言われたデス)」
「進撃の巨人、あの手があったかと驚きました」
最後はコミックの話ですが、全部、本当に聞いたことです。
これらに共通することはただ一点、「新しい何かに着目した(あるいはしたい)」というところですね。
私はこれを勝手に、「エッジ」と呼んでいますけど。
私の呼び方で話を進めて恐縮ですが、そう、この「エッジ」です。これを最も重視されているはずです。
一番いいのは、「全く誰も聞いたことがないようなネタであり、かつ売れそうなもの」ですが、誰も触ったことがないどころか、聞いたことすらないようなネタは、そもそも常に冒険です。
売れるかどうかわからないし、データも皆無なので、ちょっと怖すぎです。
いきなりラノベ市場に「アンドロメダの片隅で生まれた、ある少年の物語」とか乱入されても、困るわけです。
ガチガチのSFならアリかもしれませんが、ヒロインどころか地球人が出てこないようでは、売れる気がしません。
自ずから、この「エッジ」にも制限はあります。ややこしいですが。
だから、ネタは既存のものでも構いません。
そこは妥協してくださるでしょう。
でも、せめてそこに新しい視点、「エッジ」のあるもの……こういうのが、選考では強いはずです。
もちろん、相応以上の文章力と、最後まで読ませる面白さに加え、編集さん一同が「これは売れそうっ」と思ってくだされば、なおいいです。最高ですね。
新人賞であるからには、やはりなにか新しい視点の物語を、バーンと書いてほしい。
それが、おそらくは大勢の編集さんの共通認識でしょう。
そして、前に書いた「求めるものは面白いもの」という指針には、明らかに編集さん達のこの要望が入っている――そう思って間違いないです。
webじゃなく、公募の新人賞しか目指していない方は、こんなこと私が指摘しなくても、とうに知っていることでしょう。
(余談的にここに書きますが。まあでも、webで大きな人気――それこそ、数千数万の読者がついているような方は、タイトルそのままで新人賞に応募するのもいいかもですね。私が書いたエッジのことは忘れて)
ただ、そう言われても、「新しい視点」ってどういうものなのか? と困る方もいるかもしれません。
むしろ、私自身も困ります。
そういうのが得意とは言えないから、新人賞では選考通過止まりだったわけですから。
でも極端な話、「ファンタジー世界で消防士さんが活躍する話」とか、あまり聞きませんよね(あったらすいません)。
今ふと思いついたのはなぜかというと、前に「ファンタジー世界で裁判関係者が~」という設定の受賞作があったのを思い出したからです。
……これは極端な例でしょうけど、材料の一つ一つは既存のものかもしれないけど、その材料を組み合わせて、あまり見かけないものを生み出す……というやり方はアリかもしれません。
実際、物語の各材料は既存のものだけど、総合して一つの物語として完成すると、なぜか斬新に見える、ということはよくあります。
小説ではありませんが、私が勝手に呼ぶ「メシネタ(食事関係のネタ)」でも、似たやり方の作品はあると思います。
同じメシネタでも、ただ単に食事のことをつらつら書くより、「ダンジョンで取れるもの、例えばスライムを工夫して料理っ」などの視点を入れると、いきなりエッジ度が跳ね上がる気がします、はい。
(勝手ながら、コミックの人気作を取り上げさせて頂きました)
少なくとも、「全く誰も見たことないし、想像もできないし、読んだこともなかった作品」よりは、売れる可能性も高いことでしょう。
やはり、同じ材料でも工夫してエッジを出すのはアリかもしれません。
それだと、かなり幅が広がることでしょうね。
今まであまり見なかった組み合わせを用いて、エッジを出すのはアリかもしれません。
それだと、かなり幅が広がることでしょうね。
ただし、一つ注意してください。
熱心に毎日書き、新人賞受賞すること「のみ」に夢中になった挙げ句、大きなポイントを考慮しない、あるいは全く計算に入れない場合があります。
こういう方は、お世辞ではなく、元々天性の才能をお持ちの方が多いです。
それこそ、文章力では私などが及びもつかない方も多いと思います。
私が言う「エッジ」なども、楽勝で生み出す才能にも長けています。
そして、実際に見事受賞してしまわれる――これもまた、「あるあるあるあるっ」ですね。嫌みで言うのではなく、実力相応の結果といっていいでしょう。
ただ、それで実際に売れるといいんですが、なぜか売り出すと全然売れなかった、という場合もあるかもしれません。
この「売れる売れない」という書き方はいやらしいし嫌いなんですが……しかし、我々がデビューした後の命運を左右する、重大なキーなのです。
編集さんは、決してこの部分を無視しません。むしろ、できないと言っていいでしょう。
ですから、否応なく書くしかないし、忘れてはいけないことなんです。
売れない場合、なかなか新作も出せなくなりますしね……。
文章力は当然、編集さんが求めるどころか、むしろ唸るような「エッジ」も存分に持つ、でも売れない――そんな例が仮にあったとします。
それは多分、読者さんの存在を全く考えないからではないかと、「個人的には」思います。わざわざ括弧書きにしたのは、言うまでもなく私的な意見に過ぎないからですよ。
もちろん「こういうストーリーにすれば、あるいはこういうキャラを主人公にすれば、読む人は楽しんでくれるかな?」と思いつつ書いたところで、全然売れない場合はあります。それは避けられません。
「会ったこともない読者さんのことなど、考えられるわけない」と言いたい方もいらっしゃることでしょう。
よくわかります。
でも、「読む人に楽しんでもらいたい」ということが貴方の頭のどっかにあると、書いている途中、いろんな部分で注意するようになるのも事実です。
「ここでこんな長いシーン入れたら、冗長になって、面白さが半減するかな?」
「キャラの独白が多すぎだと、話がわかりにくいな」
「ここにもう少し周囲の描写を入れないと、みんながどこに立っているかすら、わからないかもな?」
……全て一例ですが、こんな感じで考える癖がつくかもしれません。
貴方が自然と読者の心を掴むような才能のある方なら、別に今書いたようなことは読み飛ばして大丈夫ですが、そうでないなら、ちょっとだけ意識してみてください。
そうすると多分、前よりは読者に優しい物語が書けるかもしれません。
そうでなくても、決して貴方にとって無駄にはならないことでしょう。
(というか、私もできていないので、あくまで理想論ですからね。自分に言い聞かせるセリフですからね、これ)
もちろん、天才は別ですよ。
天才は既成概念の全てを打破します。
エッジマックスで、文章力は神業、そして売れば爆売れ……こういう方を、天才と言います。
そういう方は、むしろ今までのやり方を変えるべきじゃないです。
でも――技巧方面の天才はいても、売れる部分を含めた十割打者の天才は、ちょっと少ないかもしれません。