2-3 web小説は、編集さんにどう見られているか
これはまあ、私がいろんな編集さんにお会いした時に、話していて感じたことです。
当然ながら個人差がありますし、今から書くことが全ての編集さんの共通認識というわけではありません。
中には、私の印象と真逆の感想を密かに持つ方もいるかもしれません。
いや、本当に別にここで書くことが真理とは限りませんからね。私という名無しの物書きの一印象としてお読みください。
……という長い前置きの後、いよいよ私が感じたことをざっくりと書きましょう。
そうですねぇ、web小説について――
「いや、次々に興味深い小説を本にすることができて、幸いですっ。昔と違って、いい時代になりましたねっ。今後、どんな作品が来るのか、楽しみですよ!」
などという感想を持つ方は、私の知る限り、皆無でした。
むしろ、かなり前になりますが、ある編集さんは私を前にして「なんでアレが売れるんでしょうねぇ」と、こちらが感涙にむせぶようなことを言ってくださいましたね!
決して皮肉で言うのではなく、なかなか書いた本人の前では言えないと思うのですが、まあポロッと出ちゃったというやつでしょう。
誰しもそういうことはあります。
もちろん私は、その時も引きつった笑顔で「はあ」と言いました、ええ。
しかし、奇しくもこのご発言は、おそらくほとんどの編集さんの感想を代弁しているのではないか? 私はそう思っています。
別に、それをここで暴き立て、非難しようって話じゃありません。
新人賞だけを見てきたのに、ふいに洪水のごとくweb小説が商業世界に溢れるのを見て、その幾多の違いに、眉をひそめる部分があったのでしょう。多分ですけど。
実際、かつては「あんなものが売れるはずない」と言われた時代も、確かにあったはずです。
ここで、少し話が逸れます。
一つの例として挙げますが、例えば「小説家になろう」という巨大投稿サイトさんがあります。
ご多分に洩れず、私も大いにこちらにお世話になっているのですが、それは今は置いて。
だいたいにおいて、なろう発のweb小説は、タイトルからしてインパクト大なんですよ。
これも一つの例にすぎませんが――
「異世界に飛んだ俺がいきなり仲間に裏切られ、勇者と戦う羽目になった件」
みたいな長いタイトルが、ちらほらあります。
あ、上は今私が考えたタイトルですが、近いのあったらすいません。ジャンル的にあっても全然不思議じゃないので。
それで、このタイトルですが……どうしてこうなるかというと、これ、必ずしも書き手さん本人が好きでやっているとは限らないのです。
普通の、「小説家になろう」というサイトをご存じない方は、まずここが理解できないと思います。
理解できないから「いやぁ、馬鹿なタイトルだなあ」と、笑っちゃうわけですね。
実はこういうタイトルが増えたことには、涙なしでは語れない経緯があるんですけど……外から見ると、そんなのわかりませんしねぇ。
なぜこうなるかというと話は簡単で、それくらい一気に内容をタイトルにぶっ込まないと、投稿してもたちまち流れて読んでもらえないからですね。
カクヨムでも同じなんですけど、トップページに載った更新作品は、すぐに流れちゃうんですよ。なにしろ、投稿人数が多いので。
となると、少しでも人に読んでもらおうと考えるなら、タイトルもぱっと見て内容を理解できるものにしようとするわけです。
それで、どうしても長くなると。
もちろん、短いタイトルの方もいますが、そういう場合は、他の面で工夫していることでしょう。
このカクヨムにもありますが、キーワードなどですね。
これも、必然的に「読者の多くが飛びつくもの」に集約されていきます。結果、残ったのが今の人気ジャンルの幾つか、というわけです。
わかりにくかったら、こういう例えではどうでしょうか。
貴方は、読者の一人だとします。
そして、「小説家になろう」という大きなお皿に、色とりどりのお菓子が山盛りあるとします。もちろん、お菓子の一つ一つは、いろんなジャンルの小説ですね。
ただし、このお皿はちょっと普通の規模ではありません。
大皿には、実に数十万という、莫大な量のお菓子が山盛りになっているんですね。
レストランのビュッフェじゃないですが、大皿の脇にはお菓子を供給した人達(これが書き手さんです)がいて、貴方達がどのお菓子を最も手にするか、目を皿のようにして観察しています。
好まれる味のお菓子があれば、素早くそれを継ぎ足すつもりなのです。
そりゃそうです。
誰も食べないお菓子を供給したって、腐るだけですしね。
で、貴方を始めとする大勢の読者さん――こちらも、数十万、あるいは数百万の単位ですが、とにかくそういう大勢の人達がお菓子の大皿に手を伸ばした結果、「もっとも好まれるお菓子が見極められ、次々にその味のお菓子が補充されるようになった」と。
今なろうで起こっていることは、そういうことだと私は思います。
「俺は誰にも読まれなくても、投稿してたらそれでいい」という人も中にはいますが、あれだけの数の読者さんがいて、本気で誰にも読まれないと、さすがにへこむことでしょう。
そもそも、「読まれなくていい」なら、投稿しませんしね。
となると、最初は強情だった人も「ちょ、ちょっとなろう読者の嗜好を研究するかな? そしたら、少しはブクマ(ブックマーク)も増えるかもだしぃ」となるわけですよ。
かくして、数十万の書き手さんが、日夜研鑽して、読者という名の客に合うお菓子を作る工夫を始めます。
ある意味、生き残りをかけたバトルロワイヤルですね。
ここで、「いやぁ、ネット世界の小説は恐ろしいことになってるなあ」と、納得するのは、ちょっと待ってください。
この現象がもし、ネットだけの特有な話だったらいいんですが……なろうで大きな人気を得た小説の多くは、(程度の差こそあれ)書籍化したら、普通に売れちゃうんですよ。
それも、各書店の販売ランキングを総ナメにして駆け上がる勢いの作品も、別に珍しくありません。
○○賞受賞作品より売れちゃうことだって、別に普通にあります。
……こういう結果がようやく認知されてきたからこそ、いまこうして、カクヨミさんのように、投稿サイトを立ち上げる企業も出てきたのだと思います。
一昔前の出版業界だと、「え、ウェブで人気? へぇ……で、それがなに?」という感じだったことでしょう。
もちろん、今だって「いやぁ、なろうに多いジャンルの小説じゃなくて、私は別のが読みたい」という読者さんも、大勢いることでしょうけど。
ただ、今のところ販売実績を見る限りでは、なかなか「あれはwebだけで流行ってる、特殊な小説群」とは、言いにくいものがあります。
ただ、読者としての編集さん側から見ると、「う~ん……なんで売れるかねぇ」と疑問に思うのも、無理もないことなのです。
このあたりの事情、どうしてそうなるかを、次に書きたいと思います。