2-2 イラストのことなど
>出版に至るまでの作業と注意点
まあ、ざっくりと順番を書いていくと、
プロット提出→企画会議通過→執筆ゴーサインで書き始める→その間、イラストレーターさんの選定→執筆終了→ゲラ(原稿の刷り出し)出し、校正作業→イラスト完成→出版作業終了
多少の前後はあっても、だいたいこんな感じになるわけですが、我々webからの出版組は、いきなりもう、校正から入ることが多いです。
普通と違って、前段階をいくつか飛ばしていますね。
初めて書くという方も多いわけで、そうなると意外に校正作業で手間取ることもあるかもしれません。
つまり、初校から来て……場合によっては再校、そして三校とゲラと格闘する校正作業が続くわけですね。
再校、三校というのは、一度の修正作業では完了せず、また編集部にゲラを戻して、さらに修正し、また貴方に戻して作業――これが二度三度と続くことを言います。
再校までは普通ですが、三校となると、修正が長引いている感じですね。
受け取ったゲラには、自分の書いた小説が、ページごとに最後まで刷られているんですが、そこに編集さんや外部委託された校正員さんが、どっと赤字を入れてくれているわけです。それを見て、直すべきところは直します。
そのあたりのやり方は各社とも、多少ズレや方針の違いはありましょうけど、校正作業がないところは皆無でしょうから、これは絶対、皆さんが経験することでしょう。
この時、誰が一番校正の責任を負っているかというと、そりゃ貴方自身です。
なんだか扱いによっては一番下っ端の気がしても、なんかあった時に一番責められるのは、通常は貴方ですしね。
だって、契約書にも「作品の内容に責任を負うこと」的なことが、たいがいは明記されていますし。
とはいえ、編集さんによっては、「ここは直せ!」と強固に主張される場合もあります。
貴方がいくら、「いや、ここであの子の性器を全開露出するのは、作品の方向性上、不可欠なのだ。これは必要なエロ!」と主張しても「いいから直せっ」と言われたりするわけです。
本当にそういう場合があるんですよ。
この時、今挙げたエロ方面の例ですと、大抵は担当さんの方が正しいです。
いかに必要だろうと、ライトノベルというジャンル上、許されない表現はあるわけですから。
(とはいえ、その境はかなり曖昧なんですけどね)
そうでない場合も、他にいろんな例があります……一番多いのは、「差別用語だから」というケースでしょうか。
これも、直した方がいいですね……各社とも、そういう表現にはかなり敏感です。
つまらないところで意地張ってもしょうがないです。
ただ、それらの微妙なケースを全部除いても、なおかつ「いや、ここはこうしろ!」と強要してくる場合もなきにしもあらずです。
どの「まずいケース」にも当てはまらないのに、いくら説明しても、全然聞いてもらえないと。
ごくごく少ないケースですけど、そういう場合もあるんですよ。
こういう時、貴方の取る道は二つしかありません。
一つ、「わかりました、直します」と素直に直すか……あるいは、「あくまでこれでいきます! でなきゃ出せません」と強弁するかです。
個人的には「そこまで作業が進んだ以上、直すべきかな」とは思います。
ただ……人によってはどうしても譲れないものはあるかもしれません。先のことをよく考えて、決断しましょうね。
それと、イラストなどの選定です。いやぁ、これは楽しみですね(笑)。
気持はよくわかります……自分の小説のキャラがイラストになる……これを楽しみにせずして、なにを楽しみにするのかと。
ただ、これも各社によって対応は微妙に違います。
「編集部で決めましたから」で終わりの場合も、多々あります。あるいは、担当さんの方針で決めちゃう場合もありますね。
しかし……貴方に訊いてくれる場合も、割と多いです。
こういう時、ひどくぶっちゃけた訊き方をされるので、心の準備が必要です。
「ところで、イラストレーターさんの希望とかあります?」
本当に、こういう感じです。直球すぎて、即答が難しいです。
前もって心の準備と、意中の人の脳内リストアップをしておきましょう。
こうして訊かれた場合、望みの人がいるなら、遠慮せずに希望を告げた方がいいですよ。
通る場合も多いんです、本当に。
「好きな人はいる……いるけど、大物過ぎてな」とか、遠慮は無用です。
無理な時は、普通にどんな人だろうと無理ですしね。
ただ、担当さんが「でも、その方だと作風に~」などの意見を述べられたら、一応、素直に耳を傾けましょう。
反論するにしても、よく担当さんの言葉を吟味してからです。
第三者視点で見ると、本当に「それはないわー」という場合もありますから。
貴方がご自身で創造したキャラを語る時、まずバイアスがかかってると思って、間違いありません。当然ですね、他人を語るわけじゃないんですから。
そして、晴れてイラストレーターさんが決まり、これも各社によって差がありますが、下書きの段階で、貴方に「ちょっと見てください。こんな感じですが?」と打診が来たとします。
貴方がそこでわくわくしつつキャラの下書きを見て、「俺のイメージぴったり!」という場合は、なんら問題ありません。いや、おめでとうございます(笑)。よかったですね、どんどん作業を進めて頂きましょう。
しかし、見た瞬間「おいおいおいおいぃいいいいいっ」となる場合もあるかもしれません。一例ですけどね。
「俺の○○ちゃんがこれかっ。有り得んだろうっ」とか、とっさに思ったりとか。
私的例じゃなくて、あくまで一例ですよ?
……くどく繰り返した後、その例ですが、「全部やり直せっ」と鼻息も荒く訴える前に、少し考えましょう。
まず、貴方の脳内イメージを百パーセント完璧に絵で再現できるイラストレーターさんは、世界のどこにも存在しません……しないのです。そこを、理解しましょう。
「それでも、何度も修正のやりとりして、限りなく俺様の理想に近づけることはできるっ」
という意見もあるかもしれません。
ええ……まあ、できるでしょうね。無限の時間と無限の労力をかけさえすれば。
しかし、出版社も商売で本を出しているわけですし、しかも編集部のスケジュールは、だいたいどこでもタイトです。
編集部によっては、「その月に出すはずの書籍の校正を、まだ月初めにやっていた」という場合だってあるんです。
(私自身が経験済み)
当然、編集部内は殺気立ち、昼夜を問わず、ギスギスした空気が漂います。
貴方の担当さんは既に徹夜二日目で、自宅にすら帰れず、同じパンツ穿いたままの状態かもしれません。
これもまた、「あるあるあるあるっ」ですね。
そんな中、ようやくイラストの下書きが上がり、霞む目と震える指で、貴方に添付メールしたとします。
――三秒後に「俺の○○ちゃんはもっと胸がでかいっす! 描き直してくださいっ」と怒りマックスの文体で返信があったとしたら……まあ、担当さんがどう思うかは、想像できるかと。
ていうか、今私が想像して、ぞっとしました(汗)。
あと、イラストレーターさんも、特に印税が入る(入るところもあります)わけじゃないし、そう高いとはいえない単価で描いて下さっているかもしれません。
なのに、リテイク×10とか×20とか、いい加減、やってられなくなるでしょう。
「もうあの人と組むのはご免です」と言われても、不思議はありません。
だからそこは、進行スケジュールを見て、空気読みつつ、希望を言いましょうということです。
ちょっとくらいの不満なら、「誤差の範囲内」てことで、納得しましょう。
何度も見ているうちに、意外とそっちのキャラの方が、脳内自分絵より好きになることだってあります。本当ですよ!
もちろん、「でもでもっ。小説内容の説明とキャラの絵が違うしっ」という時もあるといえばあります……でも、そういう場合は、文章の方を直してあげる手もあります。
するとほら、貴方のお陰で、素早く上がったじゃないですか?
冗談ごとではなく、これもまた「あるあるあるあるっ」のケースです。
(貴方が無理を言っているわけではなく、本気で「この絵はどうなんだ?」という場合は……私から言えることはありません。つ、次があります、次がorz)
ただ……世の中には、本当に「可能な限りイラストは、私の脳内キャラに近づけます」という方もいるそうです。
大抵の場合、そういう方は売れている人ですね……そりゃまあ、売れてもいないのに要望だけ出しても、スルーされて終わりですから。
でも、そういうのって皆さんにはお勧めしません。
売れている間はいいかもしれませんが、十割打者の作家さんって世に数えるほどもいないはずなので、まず売れなくなる日が来ます。
同じシリーズで一生行くなら別ですけど。
そうではない場合、次にコケた時、編集部と担当さんがどういう対応をするかは……だいたい予想できますよね。
それでも、「どうせweb小説は、二作目を出させてくれないだろ? 使い捨てだろうがっ」と思われるかもですが、やはり個人的には「妥協できるところはしましょうね」と思います。
出版は、一人の作業じゃないですし。
大勢の人の協力があって、初めて本が出るわけですしね。