2-1 最初に会う人
もちろん、出版社の編集さんですね。
そしてこの場合、最初にいろんな人に会うことがあったとしても、本が出るまでずっとやりとりするのは、基本的に一人のはずです。
つまり、貴方の担当になる人です。
この方が、貴方の最大の味方となる場合もありますし、むしろ敵だと思ってしまう場合も出てくるかもしれません。
……この関係が上手くいってる間は言うことないですが、一度亀裂が入ると、目も当てられません。
それも、大抵の場合は、貴方の方が被害甚大です。
なぜか仲が良い噂よりも、喧嘩の噂の方をよく聞くのが、この両者の関係なんですが。
だいたい、作家さん側が口にする不満は似通っている気がします。
「メールしても返信遅いですorz」
「最初は素早い返信だったのに、出版以降、レスポンスが(あるあるあるあるっ)」
「そもそも返信すらねーよっ(涙」
「他に担当してる某氏には手厚く宣伝して、俺は」
「俺は、この場面で彼女のパンツを下ろしたいのに、担当は『やめんかあああっ』と意見するっ」
「イラストが合わないのに、聞いてくれないぞガッディーム!」
ありがちなところを書きましたが。
この中で、内容の変更を求められるというのは、オンラインからのデビューだとむしろ少ないかもしれませんね。
だって、人気を買われて出版に至るはずですから、下手に弄るのは、担当さんも避けると思います。
まあ、その他はよく聞きますね。
……まだまだあるでしょうけど、「全部おまえの経験?」と思われたらアレなので、この辺でやめておきます。
当然、今挙げたような例は、ワタクシ個人のことではありません(強調)。
本題に戻りますが、これらの不満でめらめらと胸中で怒りをたぎらせる前に、一つ、以下のことを頭に入れておくと、いいかもしれません。
まず、貴方の担当さんが「貴方だけを担当している」という可能性は、皆無のはずです。少なくて数名、多くて二十名(本当です)以上の担当作家がいると思っていて、間違いないです。
むしろ、「私の担当さんは、私しか担当していない」という人がもしいたら、そっちの方が危ないです。
よほど、会社自体が暇ということですから。
普通は皆さん、複数担当で忙しいです。
しかも、たまたま現在進行している出版予定作が一作ならいいですが、これも大抵、複数同時進行となります。
作家Aは来月出版、作家Bは再来月予定、作家Cはなんと今月だよ。今日はもう三日なのに、ちくしょうっ!
――なんてことも、あるかもしれません。
そうなると、どういうことが起きるか?
当然ながら、担当さんのPCには、自分が担当する作家さんからのメールが、日夜ジャカスカ届くわけですよ。
その中で、「今返信しないと、もう出版企画自体が吹っ飛びます!」というような、緊急のメールは、実はごく少ないはずです。
中には「今日観た映画、おもしろかったです!O(≧∇≦)O 」という、用事がどうの以前に、全然空気読まないものまで含まれるかもしれません。
いや、本当に。
担当さんは友達じゃないんですが、ふと気の迷いでそんな風に思って、メールしちゃう時もなきにしもあらずでしょう。
(例えばの話ですよ)
とにかく、そんなこんなで、担当さんはいつも大忙しというわけです。
本当は、進行について伺いメールした貴方にすぐにも返信したいのに、それが物理的に無理で、心の内で泣いてるかもしれないわけです。
……すいません、ちょっと今のは有り得ない例えでした。認めます。
とにかく、だからメールの返信が遅かったり滞ったりするのは、それなりに理由があることなのですね。
まずはそこを理解しておくと、燃えさかるバーニングファイヤーも、多少は弱まるはず。
メールするなとかいうことではなく、返信がない場合は急かさずに、少し待ってみましょうね、と言いたいわけです。
それなのに、喧嘩ごしに「俺様に返信はよっ」などと追加メールを続々と送ると、担当さんも人間ですから、当然、ぶち切れます。
「小僧っ。貴様、既に三日完徹の俺が、遊んでると思ってんのか!?」
――という感じに。
いやホント、お互いの誤解から生じて、ついには亀裂が――というパターンが非常に多いと思うので、まずは「相手も忙しいですよ」と書きたかったわけです。
では、編集さんは常に正義かというと、無論、そういうわけでもないです。
普遍的というか、かなりよくあるパターンとして、「ふいに(返信の)レスポンスが悪くなる」というのがあります。
ネットでスカウトされ、一冊目を出す時は割と担当さんも気に入ってくれて、ノリノリで打ち合わせも終了、イラストは人気絵師さんに決まり、校正を経て無事に出版したとしましょう。
ここまではいいとして、問題はその後です。
二冊目を出した直後くらいから、なぜか微妙に担当さんの態度に変化が出た――と感じる時があるかもしれません。
メールを送っても今まではすぐに返信があったのに、なぜか数時間、数十時間と間が空くようになり、そして最後には返信それ自体がおぼつかなくなる。
考えたくはないですが、そんなことがあるかもしれません。
そしてそういう時に、「そういえば天城って奴が、こういう時は『あまり担当さんを急かすな』とか書いてたよな? なら、ここは一つ、僕もじっくりと構えよう」と覚悟を決め、正座に全裸待機でいつまでも向こうからの連絡を待つ!
……なんてことをしてる場合じゃないですよ?
それはアレです、私が少し前に書いた時とは、事情が異なります。
貴方は今、限りなく高確率である状態にハマってます。……こういうのをフィンランド語で「切られた」と言います。
もう、そういう運命が見えた時点で「悪いですけど、うちからこれ以上出すのは無理ですよ」という、意思表示の可能性が高いです。
もう、はっきり申し渡してくださると話が早いんですが、必ずしもそういう通達がない場合があります。
別になんの告知もないし特になにも言われてないけど、なぜかメールのやりとりが途絶えたよ? え、僕の新作プロットはどうなったん?(汗)
こういうケースがあるわけです。
まあ、誰だって言いにくいですよね、やる気に満ちあふれた作家さんに「あんた、もううちで出せないよ、さよなら」とか言っちゃうのは。
だからこその、現象なわけです……多分ですけど。
では、なぜ一巻出版時には和気藹々だったのにこういうことが起こるかというと、言うまでもなく、二巻出しても売れなかったからです。
この二巻は、三巻だったり四巻だったり、あるいはシリーズ完了時点の場合もありますが……まあ、そのいずれかの時点です。今は一例。
これは冗談ごとではなく、実は最近のwebノベルからの出版で、「続刊がいきなり売り上げ大幅ダウン」というのは、割とよく見られる現象だそうです。
あくまでも一つの例ですけど、一巻で一万五千部ほど刷ってそこそこ売れたのに、なぜか二巻だと前の実売の半分も売れなかった……そんな世にも恐ろしいことが、よくあるそうですよ。
原因はわかりませんが、多分なろうに代表される小説サイトでは、人気のジャンルがかなり固定化されているので、書き手さんに読者が集まるのも早いけど、離れていくのも早い――そういうことかもしれませんね。
昔と違って大勢が同じジャンルで書いているわけで、別に一人に拘る理由が、あまりないわけです。
(くどいですが、これはあくまでも一例です。引き続き二巻以降も売れる人だって、大勢いますよ)
こうい音信不通状態になった場合、正直、もう一度オンラインでがんばり、再び不死鳥のごとく出版を目指す、というのが一番早いかもしれません。
担当さんにあくまで縋ってみるという手は、お勧めしませんし、現実的ではありません。
これはまあ、担当さんの立場から見ると、無理もないかもです。
仮に、貴方が出した二巻がそんな感じでコケても、担当さんの方はあくまで貴方を推したいとします。
しかし、利益を追求する編集部(引いては出版社)としては、二巻でコケた人を、そのまま引き続き出そうというのは、ちょっと考えてしまうことでしょう。
いえ、少し前までは普通にあったんですけどね。
「今回は……まあ、そういうこともあります。でも、気持を改めて、またがんばりましょうね。プロットを詰めて、新作にかかろうじゃないですか」
……こういう感じで、再びやり直す機会が与えられていました。
野球じゃないけど、三振してももう一度打席に立つ機械が与えられてたんです。
有名な作家さんの中にも、「何十冊も増刷かからなかったけど、辛抱強く出すうちに、ついに人気が!」という方もいたはずです。
でも今、文芸の方は知りませんが、少なくともライトノベルの方では、あんまりそんなことにはならないはずです。
webノベルをメインで出している出版社だと、特に特にそうです。
ネットの人気を見込んでスカウトし、二巻目(一巻は大抵、まあ売れるんですよ)で残念な結果になった。
こういう場合は――
「う~ん……よし、次いこう!」
こんな感じになっちゃうと思います。
もちろん、この場合の「次」とは、貴方の新作のことではなく、「次のweb作家さんに期待だな」という意味です。
実際、まだまだ売れそうなwebノベルも、探せばありましょうしね。
この部分は本当に、昔とはだいぶ事情が変わっていると思います。
(新人賞受賞で出すと、少し事情が違うでしょうね。新人賞の場合、自社で手間と時間とお金がかかっているので、さすがにまだ、一作で見放すこともないかと思います。あくまで、現時点)
ただ、そういうやり方がスタンダードになってくると、どうなるか?
人気のあるwebノベルを引っ張ってくるのが当然になり、売れなかった場合「またwebでがんばりなさい」というのが当たり前になっていくかもです。
それが一番早いし、売り上げに貢献しますからね。
実際、今書いたような兆候は、既に見えはじめています。
理想を言うなら、企画段階から練って新作を出すというやり方と、web人気を見込んでスカウトする……この二つがバランスよく両立するといいんですが、今だと後者の方が明らかにリスクが低いんですよ。
何を出しても売れるような有名作家さんは別ですが、そうではない場合は特に。
webから出版した私が言えた義理じゃないですが、これは本当に、時代の流れとしか言いようがないです。
て、かなり話が横道に逸れましたね。
というわけで、貴方が売れなかった場合、担当さんもお手上げに近いという話でありました。
そういう場合は、また他社に営業をかけるなり、再び初心にかえってwebでがんばるなりして、気持を切り替えた方がいいです。
あと、これはとても大事なことですが、貴方が売れなかった場合、担当さんも無傷ではすまないはずです。
ダメージは貴方の方が大きいとはいえ、売れない本を出してしまった場合、担当した編集さんが被害皆無ってことはないんですよ。
(ただし、社を上げてウェブ小説のランキングから引っ張ってきてるだけなら、別です)
社内評価だってあるでしょうしね。
もしも売り上げが赤字になれば、会社にだって損害かけているわけです。
その意味でも、そういう事情で返信のレスポンスが落ちた時は、貴方自身が新たな挑戦を始めましょう。それが最善だと思います。