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Web小説デビュー  作者: (こちらでは)名無しの物書き
ポイント1 避けては通れないお金の話
3/21

厳しい状況にある、webデビュー組

 世の中は広いので、おそらく「不肖わたくし、本になって世にさえ出れば、お金などビタ一文いりません!」という方もいらっしゃることでしょう。


 実際、私もデビュー前は、ちらっとそう思ったことがありました。

 とにかく、なんでもいいから本を出したいんだ! という純真な気持ちが高じて、そんな気分――になることもありました、ええ。


 でもやはり多くの方は「俺はこれで食っていきたい!」という気持がおありじゃないかと思います。

 そのためには、否応なくお金のことは避けて通れません。





 そこで、簡単に印税関係のことを書いていきます。

 まあ、調べればわかることでしょうけど、なかなかこの「お金関係」も多肢にわたっているので、私が知る限りのことを書きますね。

 あ、ここでいきなり横道に逸れますが、なぜかこの「お金関係」については、「相談の上で決めましょう」という話は、まずないです。

 そこは最初に覚悟してください。


 会社によってやり方が決まってますし、新人さんなのに「ちょっと相談したら、めちゃくちゃ上げてくれた!」という美味い話もない……ないはずです。

 どんなにネットで大ヒットしてようが、普通は最後の最後……それこそ、実際に出版する間際になって「では、これが契約書です!」と薄い紙を頂き、その紙面に書いてある印税率で「ああ、これがもらえる額か」と想像できるのみです。

 下手をすると、契約書が出版の後から来る場合もあります。もちろん、これも出版社様によりますが。

 とにかく、出版業界はなかなか修羅の道ですよ……え~、話が危ない方向に逸れたので、戻します。




 まず、超基本というか、誰もがご存じの作家さんがこの手の解説をする時、多くはこう書く、あるいは語られるはずです。


『あのね、本はね、刷った部数で印税の総額が決まるわけ。売り上げじゃないんですよ!』


 こういう感じですね。 

 この場合の計算式は実にわかりやすく、例えば定価が千円(例えばですよ!)で、印税率が一割なら、一冊につき、百円入るわけです。

 一万冊刷れば、百円×一万で、百万円になりますね。

 もちろん、本当に支払われる段階になると、そこから税金などが引かれるので、最後に手元に残るお金は、もうちょい少なくなりますけど。

 しかしここで正確を期す意味はないので、まあざっくりと、そういうもんだと思ってください。


 ――ただし、これはあくまで「そういうやり方もある」という話です。

 よく皆さん、このように説明されますが、おそらく今の出版業界だと、もう少し複雑です。くどいほど繰り返しますが、もちろん上記のような計算式でやっている出版社さんもあります。

これまた、誰でも知っているような大きな出版社さんだと、普通にこのような方法で支払ってくださるところが多いですね……ちゃんと例外もありますが。


 よほど売れている方なら、印税率も一割を超えるかもしれませんが、まず新人でいきなりそれ以上ということはないはずです。

 少なくとも私は、寡聞にして知りません。

 ただ、今現在出版に至っている数多くのオンラインノベルのうち、かなりのタイトルは、そういう「普通のやり方」ではないはずです。


 どういうやり方なのか……その辺を書きましょう。

 これも、決して一つではありません。

 自分の知っている範囲で書きますね。


 まず、割と多くの出版社様が採用しているのが、「実売印税」というものですね。

 これもまた、ある意味ではわかりやすいです。

 刷った数ではなく、「売れた実売数で計算して支払うよ」というわけです。

 ということは、仮に千円の本を一万部刷ったとして、印税率が一割だったとしても……実際に売れた本が千部だったら、十万円(税金別)しかもらえないわけです。

 そこまで売れないなんて、まさかあるまいと思われるかもですが――。


 アニメのDVD売り上げで、「ランキング外」とかあるじゃないですか。あれだと、計測された日数の中では、せいぜい数百枚くらいしか売れてない場合が普通に存在するわけです。

 当然、書籍もまた、同じく可能性はあります……大いにあります。

 思いっきり売れない時には、そんな事態になることが皆無とは言えません。


 まあ、そこまで売れないと、そもそも最初から「売り上げがまっったく予想できない作品」でしょうから、一万部も刷ってもらえないはずですが。

 四六判で一万部というのは、実は想像以上に大きい数字なので。

 あと、印税一割と言いつつ、これも会社によって違います。

 再び仮の話ですが、「千部までは、印税5パーセントね」なんて場合もあるわけです。


 これはどういうことかというと、「実売印税にさらに条件足して、千部を超えるまでは、印税率は一冊につき5パーセントね。もちろん、実売で」ということです。

 当然、「いくら売れようが、印税は5パーセント」という場合もあります。

 ……こうなると、さらにもらえる額が減りますね。

 ただし、こういうやり方を採用している場合、多く売れると、もちろんボーナス的に印税率を上げている場合もあります。


「実売で一万五千部超えたら、印税12パーセント(数字は仮)」とかですね。

 だから、売れた場合は、大きいです。 

 それと大事なのは、「本が売れたかどうかは、すぐにはわからない」という点であります。そりゃそうですね、本が並んだ時点では、予言者でもない限り、その場でどれだけ売れるかなんて、判明するはずありません。


 その時点でわかっているのは、ただ「これだけ刷って、これだけ出荷した」という数字のみであります。

 一週間も経てば、だいたい見えてしまいますが、少なくとも正確な数はある程度の日数が過ぎないと、わかりません。

 そこで――実売印税の場合は、実際にもらえるのは、かなり後のことになる……この点を注意してください。


 これ、大事ですよ!


 間違っても「明日のご飯にも困ってる状態です(涙)」という人が、そのやり方の出版社様に飛び込んではいけません。

 命に関わりますから!

 今月出して来月に支払いとか、このやり方を採用している場合、まず無理だし、不可能でもあります。

 もしやっているところがあるとすれば、(後で説明しますが)それは同じ実売であっても「保証印税」という場合でしょう。


(余談ですが、実売ではなく刷り部数で支払う出版社の場合も、支払いは出版月の翌月とか、出版月の翌々月とか、結構、やり方が違いますよ。勇気ある人は、最初に訊いてみましょう。というか、切実な人は正直に話して、訊いておいた方がいいですよ)




 ここまで読んで、「くわっ! 実売印税、最悪やんけっ」と思った方、少し待ってください!

 これはこれで、利点もあるのです……いや、本当にあるんですよ。

 まず、「実売だから、最初に挑戦コミで多めに刷れる」という大きなアドバンテージがあります。

 つまり、本来「普通のやり方だと八千部も刷れない(四六判の話です)けど、うちは実売印税だから、一万五千部刷りますよ!」という豪快なことも、(場合によっては)有り得ます。


 この場合、売れた時は想像以上に大きいです。

 世の中、「予想外に売れた!」ということも、なきにしもあらずなので、「最初にヤバいほど思いっきり刷ったのに、なおかつそれがほぼ全部売れてしまったっ」という場合だって、起こり得るのです。

 こうなると、「用心深く刷った普通の印税」の場合よりも、頂けるお金が桁違いに増えてしまったという、奇妙な逆転現象が起きます。


 だから、「俺の本なら、楽勝ですぐにバカスカ増刷っ」というくらい己に自信のある方は、期待して飛び込むのもいいかと思います。

 ……ただし、言うまでもないことですが、逆に「めちゃくちゃ刷ったのに、売れたのはその一割以下」という場合も、世の中にはあるわけです。

 あるどころか、こっちの方が可能性大きいかもですが。


 両極端なんだということを、挑戦する前に頭の隅に置いておきましょう。

 当然、どちらのケースが多いかは、言うまでもありません。

 なるべく、支払い方法は最初に訊いた方がいいですね。

 契約書は最後の方しかもらえませんし。



 次、保証印税という不思議なシステムです。

 いや、不思議ということもないんですが、おそらく知っている方は少ないかもなぁと、ちょっと思いました。

 これはどういうことかというと、実売印税には違いないんですが、「最初に《保証印税》として二千部分、○○円だけ、支払いますね」ということです。

 つまり、仮に出版して鳴かず飛ばずでも、とにかく刷ったうちの、二千部分は必ず支払いますよ、という意味なんです。

 あとはどうなるかというと、二千部(仮)以上の実売が出た場合に限り、追加で支払って頂けます。

 売れない場合は、最初にもらった保証分だけですね。


 ただ、これも実売印税に近いシステムなので、支払いはすぐというわけにはいかない場合が多いはず。

 早くて数ヶ月後というところではないでしょうか。

 そして、安易に「保証印税だから、少なくとも素の実売印税よりマシだ」と思い込まない方がいいです。

「必ずこれだけ支払います」という枷を作ることで、素の実売印税より、用心深く刷るようになるのは当然なので。

 出版というのは、残念ながら、最初からリスクがつきものなのです……。


 最初から売れるのがわかっているようなシリーズ物は別ですが、そうでない限りは、必ずこの「さっぱりでしたぁ」という、哀しい結果がつきまとうのです。

 しかも、こういう結果は、皆さんが想像する以上に多いです。

 近年は、全体的に特に。

 ……話を戻しますが、最初の一冊目を保証印税で契約し、それがシリーズ物の一巻(になる予定)で、かついざ売り出したら保証印税分にも届かない売り上げだった、という結果になれば――。

 後は推して知るべしだということだけ、覚えておいてください。

 ということは、世に出ているシリーズ物は、それなりに厳しい売り上げのハードルを越えているということですね。

 ただし、そのハードルの高さは、これまた各社によって違うでしょうけど。


 あ、それと……私は一つ、大事なことを書きませんでした。

 最初の方で散々、「大手の場合は~」みたいな書き方をしたですが、「なら大手出版社なら、必ず刷った分だけ10パーセントの印税をもらえるわけな?」とは思わないでくださいね。

 ……大勢が知っている有名レーベルでも、普通にそれ以下ということがあります。

 むしろ、「え、あそこはそうなんですかっ」と、話に聞いて驚いたことも――まあ、多くは書きませんが、それくらい印税の幅と、支払い方法は広いということですね。

 複数の子会社を持つ有名出版社様の場合、それぞれの部署で違う、ということもあったりすると聞きます。

 すいません、この部分に関しては又聞きになるので、断言できません。

(ただ、大手だけど「実売印税でした」というケースだけは、さすがにないかと思います)


 だからそこら辺は、打ち合わせの時にご自分で尋ねましょう。「同じ○○社だし、あそこと同じだよね」と最初に決めつけず。

 訊いた結果、予想より多くても少なくても、その金額のみで判断せず、他のことと合わせて判断するのがいいと思います。

 中小の出版社さんにはそこなりのよさがありますし、有名出版社様も当然、「各書店の棚を多く確保済み!」というような利点が、ありましょう。


 貴方がもしどっかーーんと売れれば、多くの費用をかけて、宣伝してくださるかもしれません。そういう体力は、大企業ならではのものです。

 それと――これも重要ですが、デビュー間際である自分は、まだなんの実績もないのだ、ということを忘れてはいけないと思います。

 一冊たりとも(まだ)売っていない……そこを悟りましょう。

 今でこそ、ネット上での人気が売り上げとある程度比例することがわかっていますが、それも、まだごく最近のことです。


 むしろ、「俺の(あたしの)本を出してやるというここは、素晴らしいトコだなあ」くらいに思っていても、バチは当たりません。

(とはいえ、どうしても「ここは無理」と思えば、ネット人気次第で、他へ行けたりするのも、今の時代ですが……それでも、謙虚さは忘れない方がいいかと。今がよくても、いつもヒットするとは限りませんし)

 ただ、印税に関しては「今は少なくても、いずれは上がるかも……」という考え方だけは、してはいけないと思います。

 おそらくそこでお世話になる限り、印税率はよほどのことがない限り、変わらないはずです。

 最初に実売印税採用してる会社にあたると、仮にそこがどんなに大きくなろうと、あくまで実売印税でありましょう。

 後から普通の印税に変更とか、ないです。

 誰だって、あえて茨の道を進みたくないですからね。


 そして、この項目の最後に、二つほど書いておきます。

 一つ、大事なのは契約書です。

 この出版契約書がどの段階で出てくるか、注意しておいてください。たまに、驚くほど最後の最後まで出てこない時があります。

 本が書店に並んでるのに、契約書なんか来てないや、みたいな。

 なぜ注意を促すかと言うと、出版業界は基本的に口約束の世界です。


「天城さん、今度新作書いてください」とか依頼され、あるいは何かの企画にゴーサインが出たとして本当に書いても、それが実際に出版されるかどうかは、この段階ではなんの保証もありません。

 それどころか、書き上げた時点でも、保証なんかないです。

 先方が「やっぱり……うちも最近苦しくて」と言われて、無かったことにされたとしても、文句の言いようがないわけです。

 だって、単なる口約束ですしね。


 基本的に物書き側は立場が弱いですし、そうなると「わかりました」と言うしかないわけですよ。

 ただ、契約書を交わした後だと、多少、話は変わります。

 そこに「これだけ刷って、これだけ払いますよ」と書いてあると、さすがに出版社さん側も、その契約を守る義務が生じるわけです。

 とはいえ、まあ大抵の場合、契約書が出てくるのは一番最後あたりというのは変わらないのですが(だからこそ、最後なのでしょう)。


 くどいほど書きますが、書き上げて出版予定日が決まった時点くらいで、まだ契約書が来ていなければ、尋ねておきましょうね。

「いつ頃、頂けますか」と。普通の商取引では、当たり前のことだと思いますし。

 そして――拘束力があるのはなにも出版社さん側だけじゃなくて、我々の方にもあるということを、覚えておきましょう。

 例えば、契約書交わした後で、「やっぱり他社で書きます」というのは、さすがに問題があると思います。


 そして、二つ目。

 おそらく皆さんが知りたいのは、「お金のことはまあわかったけど、結局、食っていけるのか?」ということじゃないかと。

 この質問を、各社の編集さんに(理想論抜きで)すると、おそらく皆さん口ごもるはずです。

 もちろん、食べている人だっています。

 例えば、作家と聞いて、皆さんがぱっと頭に思い浮かんだ有名作家さん……まあ、そういう人は、普通にこれだけで食べている方達でしょうね。


 ただ――そういう人は、非常に少ないです。想像以上に少ないと思っていて、間違いありません。

 一時……そうですね、一年とか二年とか……長くて三年とか食べられたとしても、おそらくそのあたりで先行きが厳しいのが見えてくるかと。

 おまえはどうやねん! という話ですが。い、今のところは食べていけてます(汗)。

 ただし、今後、なんらかのしっかりした見通しがあるとか、そういうのは全然ないです。太平洋を、明かりナシのボートで横断している感じでしょうか。

 ……て、暗い話ばかりすると、せっかく夢を持って書いている方達に悪いので、最後の最後に一つだけ、明るい希望を。


 出版してヒットを飛ばした場合、割と食べていけるし、持続力がありますよ!


 ただ、このヒットも、「数万部売れました」くらいでは、ちょっと心許ないです。

 せめて、二桁万部くらいどっかーんと売れると、「すわ、あの作品が売れたっ」という話があちこちに広まり、メディア展開(コミックその他)などの打診も、いろいろ来るかと思います。

 そうすると、しばらく忙しく過ごし、かつ生活も安定するでしょう。

 ……かなり宝くじ的な話になっちゃいますが、でも悪いことばかりじゃないわけですね。常に希望と夢はありますから。


 お互いに、がんばっていきましょう――いやホントに!

 


↑では、割と気を使って書いてますが、補足的に書いておきますと、実売印税は避けた方がいいです。

というか、ぜひとも避けましょう。

身も蓋もないですが、本当に。


なぜそう思うか?

実売印税でよしとなれば、そのうち出版社の大半がその方式になってしまう恐れがあるからです。

今だって、「あそこがそうなら、うちもそれで行こうやないか!」てな会社が増えていて、笑えません。

真面目にやってる会社さんが馬鹿を見る世の中になってほしくないし、そもそも、これがスタンダードになれば、本気でプロを目指す書き手の多くは、途中で死にます。



 比喩的な意味ではなく、専業作家を続ける限り、高確率で死にます。



 生存率は、恐ろしく低いことでしょう。

 そんなシステムを全部の会社がとるなら、そうならざるを得ません。

 あ、もう一つ。

 実売印税を採用する出版社さんは、おそらく契約書のどこにも「実売印税」とは書いてません。

 遠まわしに、それがわかる程度。

(ていうか、鈍い私は、もらうまで気づきませんでしたorz)


 もし貴方が選べる立場なら、ご自分で先に訊いて、それから判断しましょう。

 絶対に、絶対に!


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