5-2 いざ書く前に意識してほしいこと
ランキングに入る道しるべができることの、なにがそんなにまずいのでしょう?
まあ……まずいと決めつけたものでもありませんが、しかし、こう考えてみましょう。
ランキング入りだけを目指すあまり、このキーワードの利点のみに目をつけ、小説を書こうとしたとします。
となると、例えば「ハーレム(人気キーワードその1)」「ファンタジー(同じくその2)」「勇者(その3)」……仮にこれが上位キーワードだとしたら、これだけを組み合わせて、小説を書くわけです。
いきなり小説に手を出す人が、そんなことしても上手くいかないんじゃないか? と思われるかもしれませんが、いえいえ、そうとも限りません。
全く書いたことがない人でも、ゲームやラノベは案外体験済みのはずです。
ここでものをいうのは、書き手のセンスと工夫かもしれません。
挑戦する人がラノベ好きな方だとして、最初からある程度、「勇者は例えば、ゲームに出てくるような勇者をバージョンアップした感じでいいな」とか「ハーレムはわかりやすいな……ヒロイン増やせばいいわけだ」とこのように、ご自分がこれまでプレイした経験のあるゲームや、読んだことのあるラノベを参考にして、ある程度の道筋は、もう最初からできてしまうわけです。
そもそも、どのような複雑なストーリーであろうと、あらすじをさらに簡略化し、骨格からキーワードを抜き出すところまでまとめてしまうと、世の人気作には驚くほど多くの類似点があるものです。
キーワードというヒントさえもらえれば、前に書いたようなエッジを完全に抜きにしたとしても、「異世界に転生した少年が、特殊能力を経て勇者として覚醒し、大勢の少女に囲まれる話」など、割とすぐに物語の骨格を思いつくわけですよ。
この一例はあまりにも単純なストーリーかもしれませんが、なまじ読者の大勢が好むキーワードが盛り込まれているため、案外ランキングでは善戦するかもしれません。
無論、そこから先は書き手の腕も必要でしょうが、多少の素養――筆力を含めたいろんな素養が最初からあれば、かなり有望です。
どうしても足りない部分とか、あるいは「ここはどうだろう?」と思うところは、ランキングの他のタイトルを参考にすれば補完もできます。
そして――身も蓋もないことを言うと、高い筆力は必ずしも絶対条件ではありません。あるにこしたことはないですが、こと投稿サイトのランキング入り(だけ)を目指すなら、プロ並みの筆力がなくても、どうにかなる場合もあります。
……ショッキングな話かもしれませんが、これも全て、最初からキーワードという絶対的な武器があるが故の、アドバンテージでしょう。
多くの読者が好むとあらかじめわかっている方向に、舵を切る……だからこその、優位性です。
もちろん、書き手が「いや、キーワードがどうの以前に、自分は元々そういうジャンルが好きだ」という場合もありましょうけれど、やはり小説サイトに同じ方向性のジャンルが集うのは、キーワードとランキングの力が大きいと言えるはずです。
そういうやり方を、私は否定する気はありませんし、ちょっとほのめかしたように、キーワード以前に、元から好きな方もいるでしょう。
実のところ、私もゲーム的なファンタジーストーリーは大好きです。
だから構わないと言えば構わないのですが……できれば、常に自分なりのエッジを探して取り入れるようにした方がいいかなと。
これも、私自身が課題としていることなので、偉そうに語れませんが。
それに、世に出て大ヒット――それこそ、宣伝やアニメ化等のバックアップなど全くなしに、いきなり数十万部以上の売り上げを記録する作品は、大抵の場合、作中に何かしらの強いエッジがある時が多いです。
(ただし、前に書いたように、一度このエッジが明らかになると、たちまちにして皆が群がるのもまた、避けられないことですが)
もっと贅沢を言うなら、あえて現代の売れ線を外し、キーワードなどもあくまで参考程度に留め、「あまり書き手がいないジャンル」や、「かつて流行したけど、今はさっぱり」のジャンル等、投稿サイトで不人気なジャンルに挑戦するのもいいかもしれません。
ちなみに一例として書いた、「かつて流行したけど、今はさっぱり」のジャンル……これについては、一昔前までファンタジーが該当してました。
そうです、今の堂々たる主流であり、投稿サイトの花形ジャンルです。
今はそうでも、少し前まで本当に、ファンタジーは見捨てられた状態だったんです。皆無ではありませんが、ひどく少なくなってたんですよ……信じ難いことに。
かつてはあんなに大ヒット作が何作も出たのに、ある時点を境に、ファンタジーは書き手が減少の一途を辿りました。
しかし、出版社がいかに見捨てようと、潜在的には多くの読者がいたからこそ、ファンタジーは再びここまで盛り返したわけです。
今現在でいうと、学園物なんか、それに当たるかもしれません。
ファンタジーが復権した結果、学園物は減少の一途を辿っていますから。
(しかし、かつてと同じく、潜在的には多くの読者さんがいるはずです。再び学園物が最大人気ジャンルになる日も、来るかもしれません)
もちろん、勇気ある人はあまり誰も手を出さないジャンルを開拓するのもいいでしょう。
当たった場合、貴方の小説が業界のブレイクスルーとなり、かなり長くシリーズが続くかもしれませんよ。
おそらく、前にちらっと例に挙げたメシネタ(私的命名ですからね)なども、最初に挑戦した人は、そこまで大ヒットするとは思わなかったんじゃないでしょうか。
当然、後から追従する書き手も大勢いますが、売れている方は皆さんそれぞれ、なにかしらエッジを取り入れている気がします。
とまあ、いろいろ書きましたが……結論として、「キーワードを頼りすぎない方がいいですよ」と言いたかったわけです。
あまりにもそれに頼りすぎるより、参考程度にしておいた方が、最終的には他の人より抜け出られる可能性が高いです。
もちろん、私が何度も挙げたエッジは、なにも「新しい方向性」だけとは限りません。
そうではなく、単純に登場人物――つまり、キャラで出したって構いません。
一読して、深く読者の心を掴むようなキャラ……「これまで読んだ中で、一番好きだ」と思ってもらえるキャラ……これもまた、立派なエッジです。
エッジの意味を取り違えないでくださいね。
投稿サイトに投稿する場合、編集さんがどう思うかは、全く問題ではありません。読者の多くがどう思うかが、最大の問題なのです。
なにしろ、投稿サイトに多いライトノベルは、元々が「キャラクター小説」です。
本当の意味でキャラが立つ小説は、想像以上に読者の心を掴むと思います……これまた、私自身が目標にしている段階ですけどね。




