4-2 記念に本を出せたらそれで満足
見られていると言えば、編集さんも人間ですから、大勢の書き手さんを抱えるようになると、全ての人に同じ間隔で同じようなスケジュールで出版依頼をする、というわけにはいきません。
もちろん、出版予定は編集会議などで決めるわけですが、売れてる人優先になるのは仕方ないことかもしれません。
手元に過去の売り上げのデータがあって、Aという書き手さんよりBという書き手さんの方が遥かに実売で上回っていた……となると、どうしてもBさん優先になることもあるでしょう。
Bさんがシリーズ化した作品を書いているとすれば、「Bのシリーズを優先で」というわけです。
それを「公平じゃないっ」などと憤っても、仕方のないことです。
ただ、売り上げはそう変わらないはずだし、実際に大きく差があるわけじゃないけど、なぜか他の人が優先になる……という場合は、これまで書いたような「編集さんとのやりとり」を思い出して、自分に問題なかったかどうか、顧みてみるのもいいかもしれません。
自分の方にこそ原因があったというケースも考えられます。
とはいえ、最近だとこちらの態度がどうあろうと、人気を得た小説のシリーズが終わったら、そこで終わり――というのが普通になってきてますね。
余談ですが、最近のwebからデビューする人の中には、一冊目が売れて編集さんが勢いよく「早速、二冊目を!」と持ちかけても、「もう満足ですから」と書くのをぱたりと止めてしまう方も多いそうです。
正直、聞いた時には「まさか」と思ったのですが、本当に最近ではさほど珍しくもないそうです。
「元々、作家になりたかったわけじゃないし、記念的に出せたらそれで」
「周囲の人に自慢できたらいいので~」
そういう風に「ずっと書き続けるつもりは元からない!」という書き手さんが増えているそうなのですね。
これは特に、webからデビューした方に特有だそうです。
なにしろwebの場合、新人賞応募よりも、格段に簡単に小説をアップして、第三者に見てもらえますから。
なろうさんのようなサイトができた今では、以前に比べて敷居も低いし、挑戦しやすいわけです。
お話ししてくださった編集さんは、「一冊で満足」な方達をかなり疑問に思っているご様子でしたし、私は私で「出版予定が宙に浮いたなら、代わりに私に書かせてくれないかなあ」などと、見当違いのことを思ったりしましたが――。
しかし、後から考えると、そういう方達の姿勢を責めることはできないなと思います。
というのも、売れている間は次々と「出しましょう!」と言われますが、いざ売れなくなると、そこであっさり切られてしまうのも、昨今の出版業界なのです。
出版社で新人賞を受賞した書き手さんですら、次作が出せない方もいらっしゃいます。
つまり、全部が全部そうとは言いませんが、基本的に我々webからのデビュー組は、使い捨てが多いのです。
以前はそうでもなかったですが、最近は本当にそういう傾向です。
web小説のみを出す出版社さんなら、なおのことそうでしょう。
これも、web小説からデビューした方が増えた、一種の反動かもしれません。それだけデビューする人が増えたということで、今や我々の代わりは後から後から来るわけですから。
であるからには、「一冊出せたら満足なんで」という方が中にいたとしても、誰が責められるでしょうか。
今後を考えれば、「一冊は出せたし、ここで満足して、とっとと固い仕事を見つける」というのが、実は一番賢いやり方かもしれないのです。
「とりあえず、よい記念になりました」的な。
だって、どう転んでも先の見通しは立たないわけですしね。
人生設計まで考えるなら、むしろそうすべきかもしれません。
売れてた人気作が終わったら、「じゃあね。他のを出したかったら、またがんばって、webで人気とろうね」で切られるのなら、最初から「今後のこと」に期待しない人が増えるのも不思議はありません。
今の状況だと、「これだけでご飯食べていきます!」というのは、非常に狭き門だと言わざるを得ないのです。
この文章を読む方達の中には、大真面目に専業を目指している方もいることでしょう。
夢を持つ方にあまり厳しいことは書きたくないのですが、現状を正直に語るなら、どうしても以下のように言わざるを得ません。
新人賞受賞してさえ、売れ行き次第で一冊で終わることが皆無とは言えない今、webからデビューした我々が長く生き残るのは、はっきり言って至難の業です、と。
この道一本で行こうと考える方は、今のうちから「想像以上に厳しいんだ」と考えておきましょう。
生き残りを目指すなら、せめて最初から新人賞で勝負するのが、最善かもしれません。
もちろんその場合でも、そのレーベルで過去に出している方が、どのくらい生き残っているかをチェックしておいた方がいいですよ。
各社によって、方針というものがあるでしょうし。




