4-1 売り上げは筒抜け
……海外ドラマのナレーションでありましたが、もちろん、この場合の意味は似て非なるものです。
今の時代、各社の売り上げはかなり細かいところまで共有されていて、昔のようにトボけることができないのですね。
たとえば、そういうデータの一つに、パブラインというものがあります。
これは、飲み屋さんが共同で作る組合というようなものではなく、大手書店さんが、全国の自社書店で売れた本のデータを、各社に公開しているわけです。
もちろん、有料で。
データを売るという考え方自体、かなり先を読んでいたような気がしますが、今やほとんどの出版社さんはこのデータを見て判断材料の一つにしているようです。
このパブラインで何がわかるかというと、私はデータそのものは見られませんが、知っている方に教えてもらったところでは、(本の)入庫量と販売量と売れ行きのパーセンテージがわかるようです。
つまり、仮にあるタイトルが100冊入荷して半分売れたら、入荷量100、販売量が50、50パーセントは売れたということですね。
もちろん、パブラインは全国規模ですから、数字はもっと巨大になると思います。
ある程度の規模の書店でその本が売れない場合、まず場所によってそう大きく差が出るとは思えないわけです。
発売後一週間もすると、だいたいの「総売上予測」ができるというのは、このデータ上の数字を見てのことでしょう。
だから、我々がデビュー後の1冊目で、「あ、もしかして俺やらかしたかも(売れなかった)」と思って、他社さんに営業かけたとして、「あのタイトル、売れました?」と訊かれて、「まあ、ボチボチです……てへへ」とかごまかそうとしても、あちらさんにはモロバレだということです(汗)。
(古いタイトルだと、すぐには数字がわからないかも)
なら最初から訊かないで欲しいという話になりますが、なぜかお尋ねになる編集さんが多いのは、試されているのでしょうかね……。
しかも、わかるのは販売量だけではなく、たとえばデータ提供元によっては、「書店でその本を買った人が、他に同時に買っていた本のタイトル」とか「買った人のおおよその年齢、男女別」など、驚くほど細かいところまでデータ化され、各社に提供されているようです。
こうなると、あの作家さんは女性読者が多いとか、逆に男性読者さんが多くて、購入年齢層は高めとか、全てが透けて見えてしまいます。
近年、なにか爆発的なヒットが出た場合、そのジャンルがたちまち各社から多く出るようになっていますが、言うまでもなく、このデータ共有のお陰……もしくは「せい」でしょう。
web物書きとしては、なにか既視感がある話ですね。
つまり今現在、web上の巨大投稿サイトさんで起こっていることは、実は形を変えて現実の販売流通においても起こっているわけなんです。
話は少し逸れますが、例えば貴方がなにか大ヒットと言えるような本を出したとします。まあ、仮に悲恋系の恋愛物としておきますが。
すると、その本が「売れた」というデータを見た各社は、後追い的に同じことを試みようとする時があるわけです。
……いわゆる、二匹目のドジョウ? そんな感じですね。
この場合、内容をその売れ線に寄せていくのはもちろんのこと、装丁(本のデザイン)も問題の本に近づける努力をしたりします。
二冊並べるとやべーぜ、みたいな……一例ですけど!
そこまでやるかと思われるかもしれませんが、実際、こういうやり方はある程度、売り上げに繋がる(場合も)あるようです。
もちろん、とうに売れた本のブームが終わっていたら、効果ないと思いますが。
(こっそり余談ですが、このあたりのことを頭に入れておくと、「あいつ、最近になって急に売れ線のファンタジーに契合しやがった!」と作家の誰それさんに苦いものを感じる前に、「ぬう……さては、編集さんに勧められたかな?(汗)」と逆にその方の心情を案じたりできるようになりますよ)
今、各レーベルから出ているライトノベルのタイトルをそれぞれ見ると、大きな傾向があるのがわかるかと思います。
無論、「昔と比べてえらくファンタジー系が(略)」という傾向ですね。
前に書きましたが、もちろんこの傾向も、そっち系の売り上げが著しいからに他なりません。
他のジャンルをもっと出せと言われるかもですが、本当に出してみても「さっぱりでした!」というデータが着々と積み重なると、編集さんも書き手さんも、ため息をついて素直にデータを参考にするしかありません。
特に、データを直接見ることができる編集さんにおいては、そうでしょう。
自分でどう思っていようと、(あるジャンルの)データ上の数字がガタガタだと、なかなかゴーサインは出せません。
売れる可能性が低い以上、度を超えたリスクは冒せないわけです。
今だと、学園物のジャンルがかなり売れない傾向にあるそうです……もちろん、売れてる作品は売れてるんですが、我々が思う以上に、一時期よりタイトル数は減っているようですね。
皮肉なことにこのデータは、web上の投稿サイトにおける、だいたいの読者さん達の好みと、そう乖離しないように思います。
webでファンタジーが爆発的に流行れば、実はリアル世界の書店でも、その手のジャンルが増えるのです。
両者は決して、仮想とリアルなどではありません。両方、現実です。
ファンタジーが溢れた現状を嘆く方は多いですし、そのお気持ちもわかりますが、しかし、真実は「我々(読者と書き手の総数)全員が、今の大きな流れを作っている」ということを、忘れないようにしたいです。
例外は当然のようにありますが、例外の方が少数派だから、こうなっているわけです。
実際、webに不人気ジャンルで投稿したところ、「面白いとかつまらない以前の問題で、そもそも読者が読みにこないです……」という経験をした方は多いと思います。
カウンターに閑古鳥が鳴くわけですね。
ただし、書き手である我々の立場から見た場合、悪いことばかりではありません。
逆に言えば、「今、どういうものが市場で受けているか?」という指針は、デビューした人の立場から見れば、割と簡単にわかってしまうわけです。
早い話、担当さんに訊けばわかることでしょう。
もちろんこの場合は、「○○さんの好みは?」などと、当人の嗜好を訊いても駄目で、「あの酒場組合みたいなやつのデータでは、どうなってます?」と訊くのが正解かと思います。
別に本気で書きたいものを捨てて売れ線に契合しろというのではなく、聞いた情報を自分で咀嚼して、参考にすればいいかと思います。
どちらかというと、市場の傾向を何一つ知らずに飛び込む方が、よほどまずいような気もしますし。
こういう質問は「少しでも売り上げに貢献したい」という本人の希望の表れでしょうから、担当さんも別に妙に隠すことはないと思いますよ。
データそのものは別として、大まかな流れは、親切に教えてくださることでしょう。
ただ、やはり「売れるとか売れないとか別にして、自分が好きなものを書きたい」という気持は、書き手ならほとんどの人が持っているかと思います。
個人的には、別にファンタジー嫌いじゃないし、むしろ好きな方なのでいいんですが、それでもたまには違うものを書きたいと思いますし、実践した時もありました。
「どうしても学園物がやりたいんだっ」という場合、挑戦するのもいいと思うんですが……ただ、今の状況だと、なかなかゴーサインが出ないかもですね。




