3-4 売れた先に見えるもの
……ていうか、タイトルが大仰ですね。
こういうこと書くと、「そもそもおまえは売れたのか?」という話になります。
しかも、この売れた売れないは、人によって基準値が違いますし、どの程度の実売を出そうと、安易に売れたと断言できるものではありません。
というわけで、ここはあくまで、仮定の話として進めましょう。
これを読まれている貴方が、もしもweb小説でデビューしたと仮定します。
そして、幸いにも「まあまあ売れたと言えないこともない?」という程度の部数を捌けたとしましょう。
そうですね……まあ、増刷も何度かあり、少なくとも大きな書店ではだいたい自分の本が見つかる程度には出回った……そのくらいです。
なんか初期の目標値にしてはショボくね? と思われるかもしれませんが、いえいえ、なかなかそこまでいくのも大変です。
今でこそweb小説は、四六判で最初から最低一万部くらい刷ることも珍しくありませんし、文庫だともう少し多いことでしょう。
しかし、(正確には書きませんが)私は初版が数千部程度でした。
すくなっと思われるかもしれませんが、(まあ私への期待値もありましょうけど)四六判の本に限って言えば、通常はそんなに少ない数じゃありません。
大きな出版社さんでも、七千部とか普通です。
純文学などになると、もっと少ないことでしょう。
その代わり、定価が跳ね上がったりしますね。
話が逸れましたが、別に今の基準に合わせて、スタートは一万部でも構いません。仮に一万部と仮定しても、全国の書店さんに出回る数ではないので。
しかし、増刷を何度か重ねて多少売れると、部数が増えて、あちこちで見かける事態も起きます。
そして、おそらくこうなった時に、エッジがあるのとないのとでは、差が出ると思います。
そこには、遅まきながら気付く要素、つまり「話題性」というやつが絡んでくるからです。
これも私が勝手に呼んでいるだけですが、これって本当に不思議な要素で、別に当初は売れなくても、時にはこの話題性という神秘の力があったが故に、時間経過とともにガンガン口コミが広まって、売れたりするんですよ。
書籍以外の世界でも、たまにメディア化が決定した作品が、その時点ではまださほど広まっていない時もありますが、そういうことが起きるのは、メディア化する側がこの「話題性」に期待しているのも大きいことでしょう。
言い換えると、「この作品は化ける!」という期待値です。
逆に、話題性に乏しい書籍だと、例え数万部くらい売れて一時的に書店でランキング入りしても、割と早めに売り上げが収束して、いつしか完全に終わった――そんなことにもなりかねません。
よく書籍の帯に、宣伝のために「衝撃の問題作」と書いてあったりしますが、「それはアレだろ、パチンコ屋さんの本日開店! と同じようなもんだろ?」と思いきや、本当に凄い勢いで話題が広がることもあるんです。
もちろん、そこには版元さんの売ろうという努力も大きく作用しているでしょうけれど、作品それ自体に力がないと、仮に費用をかけて思いっきり宣伝したところで、本当の意味での起爆剤にはなり得ないと思います。
事実、別に小説に限らず、その他のメディアでも、散々宣伝して広告費に巨額を投じた割に、結果を見れば鳴かず飛ばずだった。
そういう哀しい例は、ごまんとあるはずです。
つまり、このよくわからない謎の要素は、どうしてどうして、馬鹿にできるものではありません。
小説でなくて恐縮ですが、前に例に出したコミックの「進撃の巨人」なども、そういう話題性豊富な作品の一つではないかと思います。
……まあ、このタイトルも好きな方もいれば嫌いな方もいるかと思いますが、少なくともタイトルを知らない人はあまりいないことでしょう。
もちろん、アニメ化などのメディア展開のお陰で広がったということもありましょうけれど、やはり作品の底力がないことには、ここまでヒットしなかったのではないかと思います。
ここで話は戻りますが、だからこその、エッジです。
おそらくそういう話題性を持つ作品の多くは、必ずといっていいほど、作中になにかしらのエッジがあるはずです。
特になにもないけど、なぜか爆発的に広まって、皆が知るようになった――という作品は、皆無とは言わないまでも、かなり少ないことでしょう。
エッジがなくても売ることは可能ですが……でも、やはりあった方が絶対にいいですよ、というのはこういう意味においてです。
もちろん、自分自身のやる気も違ってきます。
あった方が意欲的に書き進められることでしょう。
とはいえ、今はこのエッジもなかなか取り入れるのが難しい時代になっています。
web小説だと特にそうで、それまでになかった珍しい要素を取り入れてどっと読者さんがついた途端、良くも悪くも、我も我もと同じくそのエッジに飛びつく……そういうことも起きます。
インターネットなどがない場合、流行が起きたとしても、もう少しその速度は遅かったと思うんですけどね。
今だと恐ろしい勢いで広まった挙げ句、たちまちwebに溢れることになります。
なろうさんの登場以降、そこから巣立った作品が、新人賞受賞作より売れることも珍しくなくなりましたが。
やはり私は、新人賞は新人賞で、あった方がいいと思っています。
本当に、上手く両立できないものかと思うんですが。
でも最近は、なろうとタイアップして――というタイプの新人賞も増えてきて、むしろ旧来の新人賞は減る傾向にありますね。
私が言えた義理ではありませんが、ちょっと寂しい気がします。
……ややこしい話が増えたので、この項目の最後に、デビューした後に、おそらく貴方が言われそうなことも書いておきますね。
編集さんが第一に望むのは、「売れるシリーズ物」です。
一冊で百万部売れるような本も世の中にはありますが、普通は一冊で売れる数字には限界がありますし。
だから、多くの編集さんは「シリーズ物」を望まれます。
シリーズ化して二巻以降が出れば、再び一巻も売り上げが伸びていくんですよ。
ですから、デビュー作を書く時には、以下のことに注意しましょう。
――最後にキャラが全員天に召され、作品世界は完全壊滅、あとにはぺんぺん草も生えていない……こういう終わり方は、できれば、やめておきましょう。
どうせ売れた場合は、「それで、二巻はいつ頃になりますかっ」と勢いよく言われるに決まっています。
ですから、できればデビューする段階で数冊分くらいはあると心強いことでしょうね。
前の項目でも書きました。
メディア化などの決定をするのは、業界側の人である、という事実もありますね。
つまり、エッジがあった方がよい理由の根本は、このあたりにもあります。




