第9話:将来
誤字報告ありがとうございます。
さて今日も頑張るぞと席についた所で邪魔が入る。
「今日空いてたら設計書手伝って下さい」
むむむ、今日の作業が出来んではないか(仕事しろ!)
ってな事で1話だけ改修。
俺は4歳になっていた。
殆んど寝ていた赤ちゃん期とは違い、既に試練その1から試練その4(表でお遊戯)も無事に看破。
因みに試練その1は未知なる世界に通じる扉を開けよ。
試練その2は扉の先、無限回廊(廊下)を走破せよ。
試練その3は無限回廊の終着地点(両親の部屋の扉)の扉を開き神の祝福を受けよ。
1歳を過ぎたあたりで初級の試練を突破。
その後の試練も挫折を味わいながらも着実に前へ進み、紆余曲折を経て現在に至る。
うん。本当にあっという間だった。
こう鑑みると寝てたようで寝てない気もするが…
どうしてこうも楽しい時間は過ぎるのが早いのか。
こんなんじゃ俺の青春時代もあっという間に通り過ぎてゆくんじゃないか?
そう考えると将来に多少の不安を感じなくもないが、動けるときは動こう。
そしてゆくゆくは神を倒してハーレムか!?
いや、ハーレムなのか!!
女神さまでハーレム………
と思ったところで女神から連想したアスラの姿が浮かび一気に冷静になる。
そんなどうでも良いあるはずの無い未来を思い描きながら庭を走り回っている。
この頃になると、ある程度安定して飛んだり走ったりが可能になってきた。
粗方、試練をクリアした俺は新たな冒険に出ようと思う。
そこで俺を温かく見守っている父親に剣の稽古を申し出た。
「父さん!! 剣の稽古をして~!」
しかし、父親は眉間に皺を寄せ鋭い視線してるのだが涙目で睨んでくる。
「アイリス! 父さんではなくパパと呼べと言ってるだろ!!」
ロックの言葉に半分呆れた様子で母親であるサマンサがロックに小言をこぼす。
「何を言ってるのですか? あなた。アイリスの呼びやすい呼び方で良いじゃありませんか」
サマンサの冷たい視線を受けながらも、まるで子供のように駄々をこねる
「パパがいいんだもん!!」
どうやら、伯爵の城に行ったとき伯爵の娘がパパと呼んで甘えていたのが羨ましかったとか…本当に親バカでバカ親だ。
いや、マジで子供だ…
マジメンドクセーとか思いながら、仕方がないと妥協し幼児スキル"天使の微笑み"を向けたのだが、ロックには効かなかった。
…様子を見るに"天使の微笑み"は効いてるようだが、それよりもバカロック希望の「パパ呼び」の方が勝ったようだ。
俺もこの問答を待っていては先に進めないと、意を決してロックの希望を叶えてやることにする。
いや、マジメンドクセー。
「パパ! 剣を教えて~(甘え声そして抱きつき)」
パパと呼ばれて鼻の下を伸ばすロック。(顔は真剣な眼差しだが周囲にモロバレ)
「なんだ、アイリスも剣を覚えたいのか?」
「僕もパパみたいに強くなりたいんだ」
自身を最愛の息子に褒められ、さらに鼻の下を伸ばす。(顔は更に真剣な眼差しだが周囲にモロバレ)
「アイリス~」
そういって抱きついてきた。
むっ…ここは我慢だ!!
剣を教えてもらうための試練なんだ!!
本当は剣術とかはチート仲間のカノンに覇王流剣術とか教わってるから負ける気がしないけど。
ではなぜ剣の教えを乞うかと言うと…想像してみ?
俺冒険したい⇒出かける⇒ばれる⇒怒られる⇒監禁。
な?
そうならないように、安全圏内を冒険をしても怒られないようロックに剣術を教えてもらってある程度の強さを示す。
そうすれば冒険が可能だろ?
ついでに幼児スキル"甘えた声"を発動すればチョロいと思うんだ。
「あなた、剣術なんてアイリスには早すぎませんか?」
え? 予想外の展開!? ママがクレームを付けるなんて!
ヤバい! 色々理由を付けられて危ないことはダメと先延ばしされる予感がした。
俺の冒険の書はこれからなんだよ~今までの冒険なんて復活の呪文が3文字ってレベルの冒険なんだ。
頼むからダメなんて言わないでママン!
仕方がない。
ここは少し早いが青年期スキル"キリッ"を発動して堂々と男らしくママを説得しよう。
「母上! 俺もう4歳だよ!」
「でもね~?(は…ハハウエ?!)」
頬に掌を当てながら顔を傾けるサマンサを納得させるようにロックが俺に条件を出してきた。
「よしアイリス! パパに攻撃してみなさい! その様子で剣術がまだ早いかどうか見極めよう」
「本当! パパ!!」
願ったり叶ったりの提案がロックから齎された。
ここはママに有無を言わせずパパに抱き付く。
最愛の息子に抱き付かれ、さらに鼻の下を伸ばす。(顔は更に真剣な眼差しだが周囲にモロバレ)
そんな親ばかを発揮しするロックはこう見えて準男爵の地位を承る程の猛者であり、元王立騎士団長でランクAという生粋の武人だった。
その猛者を相手にできるのだから、アイリスも腹黒い笑顔を隠さない。
ついでに言えば、ママにも納得して頂ける提案をロックがしたのだから無理矢理にでも戦って見せる必要がある。
それに脳筋の始祖カノン…あ、間違った。
覇王流皆伝(ある意味始祖)のカノンに習ったとはいえ4歳と言う年齢にも関わらず、今現在、自分自身がどれほどの腕なのか試してみたくなっていた。
二人で木刀を肩に背負い意気揚々とまるでこれから親子揃って釣りに出かけますよと言った感じ。
体の大小の違いはあれど、木刀の担ぎ方から歩き方まで同じだった。
それを見ていたサマンサは「やっぱり親子ね」と二人を微笑ましく見送っていた。
木刀を振り回しても危なくない距離まで歩くと木刀を構える2人。
「パパは攻撃しないから、遠慮せずに攻撃してみなさい!」
ロックから有難くも嬉しい申し出に俺もニコリと笑顔を浮かべる。
「分かった!!」
背中からこの体には多少長すぎる感は否めない木刀を上段の構えにした後、木刀の握りを絞り込むよう俺は慣れ親しんだいつもの構えを取る。
「…む?」
ロックはアイリスの誰に教わったか分からない構えを前に防護姿勢を取る。
殺気の籠らない、しかし、相手を確実に切り伏せる覚悟を思わせる気配。
恐らく、歴戦の勇士にしか感じ得ないような違和感だっただろう。
アイリスは訝し気味な父親の防御姿勢を見て、右腿あたりに隙が生じているのを発見!
すかさず右腿に剣を叩きつける。
「うぉ!」
余りの唐突の攻撃に慌てたロックだったが、流石は歴戦の勇士。
カン!
簡単に防がれてしまった。
その流れで今度は右肩に隙が生じたので右肩を狙うが
「ぬぉ!」
カン!
これも簡単に防がれた。
やっぱり力もないし、スピードも無いから簡単に防がれてしまうんだな~……。
少し落胆…いや大分落胆したのだが、4歳と言う事を割り切り、懸命に攻撃をする。
こんな感じで隙が生じた個所を何度か攻めたのだが、案の定、全て防がれてしまった。
所詮4歳の体か…剣術はまだダメかな?
転生する前はそれなりにチートだった俺の永く長い鼻がポキリとあっけなく折られました。
これがカノンたち脳筋が言ってたジレンマってやつか。
確かに力ではない技を極めたら、転生後の筋力が無い状態でも"柔よく剛を制す"で勝てるんだろうな。
どうやら俺は魔力に頼ってたのび太君ですよ。
あ~あ…俺の冒険への道のりはまだまだ長いと痛感した次第な今日この頃でした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ロック目線
「パパみたいになりたい」って、アイリスは可愛いな~も~~
さすがに4歳の剣なんて当たる訳は無いし、逆に全て防ぎきって「パパすご~い!」とか言われてムフフフ。
そんな邪な考えと余裕は数分後に消え去ってしまった。
「…む?」
殺気はない、が、しかし…なんだ…いや何てことない、ただの子供の構えだろ?
しかし俺の中の本能が警笛を鳴らす。
「なっ!」
先程の油断はとうに消えた。
何だこの剣は。
無駄な力みが無いから構えも攻撃も自然体!?
「ぬお!」
一番防御が難しい、俺の気がそれてる箇所へ攻撃?!
「くっ!」
今のところは防いでいる。
しかし、今の所…と言うだけで全ての斬撃が危うい。
気を抜いていたら当たる!!
何故だ?!
スピードも力も無い斬撃が…
寧ろ、アイリスの姿を見るに木刀の重さに振り回されているだけなのだが…それでいて自然体…?!
「うぉ!」
今のは危なかった!!
完全に当たる剣筋だった!
何故だ!?
何故か反応がワンテンポ遅れてしまう。
しかし、当たる訳には行かぬ!!!
顔は余裕を見せているが実際は一撃一撃が非常に危うい。
スピードも重さも無い斬撃なのが余計にロックを惑わせる。
こ…このままでは……!
か、かくなる上は…!!
「よし! それまで!!」
その言葉に、アイリスが残念そうな顔でこちらを見ている。
「4歳にしては結構いい太刀筋だ! さすが俺の息子だな! アイリスは天才かもな~。よし、約束通り剣を教えよう!」
アイリスが満面の笑みを浮かべてジャンプするほど喜んでいる。
ふふ、アイリス…本当に可愛いな~おい!
しかし…しかし危なかった………。
本当に危なかった。
途中で止めなかったら間違いなく一本入れられていたかもしれん。
―――俺も一緒に修行をやり直しだな………。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あとちょっと…いや、難しいか?
これでは! …くっ、ダメか。
しからば…これで! これも防ぐか。
ならば…。
「よし! それまで!!」
くっそ~…結局1回も当たらなかったよ…剣術は当分教えてもらえないかな………。
まだまだ"未熟"とか言われちゃうのかな。
しょんぼりしていたアイリスに向かい冷や汗タラタラのロックが肩に手を置く
「4歳にしては結構いい太刀筋だ! さすが俺の息子だな! アイリスは天才かもな~。よし、約束通り剣を教えよう!」
思っても見ないロックの言葉に、本気で嬉しいアイリス。
「本当!! パパ!!」
「ああ、筋力トレーニングはまだまだ先だが、剣術は教えてあげるぞ!」
「宜しくお願いします! 師匠!!」
「パパって言わなければ教えてあげない!」
「宜しくお願いします! パパ!(ここで抱きつき)パパは強いね!! 一回も当てられなかったし、やっぱりパパすご~い!」
その時のロックの笑顔が引きつり気味だったのは知る由もなかった。
―――――その日の晩
「サマンサ…」
いつもは見せない真剣な眼差しと、低い声にサマンサも一瞬何事かと体を硬直させる。
「どうしたのです? あなた」
「アイリスは本当に天才だ」
サマンサは何事かと体を強張らせ身構えたのだが、何て事は無い、毎日何度も口にするロックの言葉に肩の力を抜くと、小さく鼻から息を出す
「今更何です? あなたはいつも"アイリスは天才だ"っておっしゃってるじゃないですか」
尚も、俯き加減に真剣な眼差しをするロック
「いや、今日初めてアイリスと剣を交えて確信した。アイリスは紛れもない天才だ」
「浄化儀礼のときにそんなのは分かってるじゃないですか」
「確かに魔力9500で属性がヒーリングマスターと聞いた時はあまり実感が無かったが、こと剣術に関しては俺も自信が無い訳ではない」
何を当たり前の事を言うのだろうとサマンサはロックを見つめる。
「そりゃそうですよ。あなたは王立騎士団長を務め、数々の功績を残したんですよ?」
確かにロックは数多くの功績を残し、自身の腕前だけで準男爵の地位を受け、領民の信頼度も期待度も高い。
「そんな俺が今日、アイリスの剣を受けて危うさを感じた。しかも、一撃一撃全てにだ」
眉間に薄く皴を寄せ訝しげにロックを見るサマンサなのだが、剣術に関して嘘を言わないと言う事も理解している。
「アイリスの才能はそれほどなのですか?」
「間違いなく、そこら辺の剣士より実力は上だろう。但し、木刀での話だがな。真剣を扱うには力が足りない。しかし、筋力トレーニングは骨格がある程度成長しなければできない。それまでに俺の剣術を授けるつもりだ」
ロックの内から来る決意をサマンサは瞬時に理解し、心から信頼できる誠実な1人の男を想い出す。
「あなた、騎士団長の時みたいに目が輝いてるわね」
それを聞いて薄く笑うロック。
「そうか?」
「そうですよ」
「うふふふ………」
「わははは………将来が楽しみだな」
「そうですね」
幸せを噛みしめ笑顔で肩に寄り添うサマンサ。
ロックはサマンサの華奢な肩を優しく包み込み、頭部に軽くキスをする。