第83話:魔王軍始動
塔の最上階からの眺めは晴れている時でも曇っている時でも最高だ。
今日は天気が悪いようで、地上では雨が降っていた。
しかし、この塔から見る眺めは雲海が広がり時々光の条を作り輝く雷が神の怒りの様に自己主張する。
雨が強ければ暴風とまではいかないまでも、結構な強風が吹いているはずなのだが、なぜかこの塔は揺れもしない。相当な上空にあるのにもかかわらず地上よりも安心して生活が出来る。
実際、地震が起きても地面同様に揺れるだけで、振り子の原理で大きく揺らぐことも無ければ倒壊する事も無い。
完全に常軌を逸した建造物だ。
この原理が解明できれば、軌道エレベータとか難無く作れるだろう。
そんなこと思いながらお茶を啜っていると、この星の未来を、宇宙全体を左右する重大な第一歩を、みたらし団子を口に含みながら右手にお茶を持ち、まるで普段の会話と変わらぬ様に軽くアリスが話をし始める。
「んで、これから宣戦布告する訳なんだけど…」モキュモキュ
「「「「お、おう」」」」
「「「「う、うん」」」」
みんな、アリスの軽い発言に戸惑いを隠せない。
しかも餅食いながらだし。
「な、なあアリス?」
「ん? なに? ハッシュ」
「これってある意味、魔王軍最高幹部の軍議だよな?」
「ん~、まぁそうなるわね」ズズズ
アリスは口の中の無たらし団子をこれでもかと言う程、咀嚼するとお茶で喉に流し込む。
ついでに胸を軽く叩いている。
だから言ったんだよ。『頬張り過ぎ』だって。
「少し話の切り出しと言うか、雰囲気と言うか何と言うか…軽くない?」
みんなも首を縦に振っている。
なぜなら、予め魔王軍の軍議を執り行う! とドヤ顔で宣言していたのだ。
アリスも少し俯き考え込むと、胸のつかえが取れてすっきりしたのか、さっと顔を上げ無理矢理に厳格な顔を皆に向ける。
「…我は魔王! この世界を支配する為に降臨した!! この世の全ては我のモノ! 矮小なる生物は我の手のひらで―――」
「…いや、そうじゃなくって…」
アリスは立ち上がると尊厳を以て口にするのだがハッシュに強引に口上を止められる。
「む~…我は魔王! 生きとし生きる全ての存在は我のモノ成り!!」
「―――アリス」
スージーは憐れみの眼差しでアリスの頭を撫でる。
「ふ、普通に話をしよう? …ね?」
スージーは幼女に優しく諭すかのようにアリスを扱う。
ミーシャもノルンも憐れみの眼差しでアリスの肩を叩く。
「ちょ…何よ。普通に話したら軽いって言われるしどうしたらいいのよ!」
確かに切り出しは軽かった。
しかしアリスの口上は本来、俺たちにではなくこの星に住む住民に向けられるもの。
ハッシュもその事を指摘していたのだがアリスには伝わらないようで…。
「いや、すまん! アリス、俺が悪かった」
「私たちも、なんかごめんね」
なぜか謝るのはアリスではなく話を聞いていた皆になる。
「もう、いいよ…普通に話をするからね」
違う意味でノリノリだっただけに不意に崖から落された気分のアリスはじんわりと目に涙を浮かべている。
その光景を観るだけで俺の顔はにやけてしまう。
「アイリス、何にやけてるのよ」
アリスは頬を膨らめてこちらを睨むのだが
「何でもないよ」
そう言いながらアリスの頭を撫でる。
アリスに睨まれても怖くないし、寧ろ可愛いなと思う。
そうなると自然と頭を撫でるのが習慣になっているのだった。
「ふん」と言いながらホンワカするアリスを見て、すっかりツンデレが板についたと思う。
「で、宣戦布告だよね」
スージーが話を戻すためにアリスに問いかける。
「そう、これから宣戦布告をするつもりなんだけど、みんなの思念も織り交ぜて全世界のみんなに届けるからどのような宣戦布告がいいか意見を聞きたくってね」
「そうだな、まずアリスは人類だけを敵にするつもりじゃないんだろ?」
「うん」
「俺たち獣人にも宣戦布告するんだろ?」
「うん」
コリーが苦い顔をアリスに向けるが、アリスは軽く受け流し返事をする。
「当然、魔人にもだよな」
「うん」
コリーと同じようにイーサもアリスに質問するが、これまた軽く受け流し返事をする。
ハッシュはそんなやり取りを眺めながら思考し口を開く。
「話を聞く限りでは500年前にアイリスがやった宣戦布告でいいんじゃないか?」
「そうよね。それが一番無難だった訳でしょ?」
それに賛同するようにスージーが後に続く。
アリスは「うん」と返事をして言葉を続ける。
「人間、獣人、魔人が手を取り合い魔王を倒す。これが一番ベストだね」
俺は昔の方法を話す。
みんなも"うんうん"と当時の話に聞き入る。
「で、必ず神が勇者を降臨させるからそれを殲滅させると」
「そうね。もう神に邪魔はさせないんだから!」
「でもよ、どうやっていがみ合ってる者同士をくっ付けるんだ?」
本来の目的はそこだ。
最終的には差別のない世界。
これを目指す。
いや、どうやっても差別は発生することは仕方がない。
しかし、関係する国民ではなく、絶対的地位と力を持つ神を名乗る輩が介入するのが問題なのだ。
しかも信仰により自分の力を上げるためと言う理由など以ての外。
「んとね、簡単に言えば皆にRPGをやってもらおうかなって」
「「「「「RPG?」」」」」
「ロールプレイングゲーム」
「ゲーム??!!」
「ちょっと、アリス、ゲームって??!!」
スージーがアリスに言いよる。
これから開戦し、人々が不幸になる事を想像してみんなも険しい顔をしている。
それをゲームだなんてあまりにも人の生き死にに関して無心ではないか。
ハッシュやコリーなど今にも飛び掛からんとする体勢だ。
「まぁまぁ、俺も説明するね」
アリス、さすがに言葉を選ぼうよ。
俺たち(アルを含むチート組)だったそれでも良いけど、みんなは当事者なんだから。
「おう、そうしてくれ。ゲームって何だよ」
ハッシュは相当御冠の様だ。
皆も同様に憤怒とまではいかないが顔を顰めている。
「ハッシュとスージーは人間代表。コリー、ミーシャが獣人代表。ノルン、イーサが魔人代表。それぞれで冒険をしてもらいたいと思うんだよ。」
アイリスの言葉にみんなは不機嫌な顔を更に顰める。
「は? 魔王軍はどうするんだよ!」
ハッシュは席を立ち詰め寄る。
「それは魔王様が何とかしてくれるよ」
「ふふふ…我に任せよ!」
空気を読まないアリスが魔王様を演じる。
「ね、アリス…じゃなかった。魔王様もやる気だし」
腑に落ちない表情のハッシュは乱暴に座り直すと乱暴にこちらに質問する。
「…で、具体的にどうやるんだよ…」
「それは~…」
少しもったいぶった感じで俺は皆の顔を眺め、説明をする。
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―――その時は来た。
この星に住む全ての人々に絶望を。
そして、救済のラッパが吹き鳴らされる。
「この星に住む全てのモノよ! 我は魔王なり!! 我は欲する! 生きとし生けるものの絶望を! 我は望む! 神のしもべの殲滅を! 悪しきものよ、貧しきものよ、世界を憎むものよ、我が望みを叶えてやろう! この世を混沌に、全てを始まりに。原始の世界に! 無の世界に!! 我に刃向う者は死しても魂を永劫縛りつけ地獄の苦しみを味わせてやろう! さあ、嘆きの歌を、滅びの舞を我に捧げるのだ!」
こうして全世界の人々の頭の中に魔王の宣戦布告がなされた。




