第76話:みんな魔王になる?
―――再びカリン塔に戻ってきた。
キャノンはちゃぶ台を布巾で綺麗にすると、お茶の準備を始める。
ってかこのちゃぶ台を使うのかよ。
そんなハッシュのツッコミに、拭いているから大丈夫と事もなげに言い放つキャノンに一同無言となる。
「さて、お前たちの疑問に答えるか」
そう言ってキャノンはちゃぶ台にお茶を入れた湯呑を置いた。
皆が乗っていたのでノルンは再び布巾で拭く。
「さて、座って話そうか」
皆はちゃぶ台を囲むように床に直接座るとキャノンが座布団を差し出してくれる。
普段から椅子に座ってるみんなは何かおさまりが悪いのか色々な体勢をするが、結局胡坐になる。
「さて…単刀直入に言うと、お前たちをこの世界に呼んだ理由は…特に無い」
「「「え!?」」」
皆が声を揃えて驚いた。
「ん? 何で驚いている?」
「いや…な?」
「ああ、俺たちは意味も無くこの世界に飛ばされたのか?」
「意味も無く飛ばされたのではなく、お前たちが訪れたんだぞ?」
俺たちはダンジョン攻略を思いだす。
「あ、そう言われれば、ダンジョン攻略とか…」
確かに、俺たちがこの世界に転移した元の元凶はあのダンジョンで、そこを攻略しようと言ったのは…
ん? 何でみんなで俺を見る?
一番ノリノリだったアリスまで俺を見るとか、酷くね?
しかしみんな俺からフイッと目を逸らすと、追求する意味を諦めたのか
「そっか、ダンジョンが実は異世界との共有空間で、そこにたまたま俺たちが来ただけなんだよな」
「そうだよな~…ダンジョン攻略してみたかったな~」
そうそう、ここに来たのは俺のせいじゃないよ。
俺だけに罪を被せるとかどんな拷問ですか。
「ところで、ここへ来たのも何かの縁。冒険が出来るかどうか分からないが、お前たち魔王やってみないか?」
確かに、思った方向と大分違うがこれは大きな縁だろう。
恐らくキャノンは俺たち5人組の誰かと関わっていると思うし。
「…は?」
「え?」
「何を言ってる?」
「俺たち悪者になるのか?」
「魔王って素敵な響きね」
「憧れだな」
「まぁ、ノルンとイーサは魔人なんだからそうなるか」
「また魔王やるの?」
「そう言えばアイリスは元魔王だったな」
元魔王と聞いた瞬間、キャノンの髭がピクリと動くがそれに気が付いたのは俺とアリスだけ。
しかし、キャノンの反応に敢えてツッコまなかった。
「ねぇキャノン、それ理由がある訳よね?」
アリスは確認の為にキャノンに理由を尋ねる。
「―――ある」
キャノンは若干言葉を溜めるとその理由がある事を力強く断言する。
「もしかして、神と戦うつもり?」
アリスの言葉にみんなの表情が険しくなる。
「「「「え?! 神と戦う?!」」」」
俺たちの過去を事を聞いたみんなは顔が強張ってくる。
アイリスとアリスの天敵、不俱戴天の仇のような存在の"神"と名乗る連中。
そんなのと敵対するにはあまりにも実力が伴っていないとみんなは理解する。
「神って強いんだろ? 面白そうだな」
そんな中にも薄ら笑いを浮かべ気合の入るおバカが若干一名。
「ハッシュ…あんたいつから戦闘バカになったのよ」
「また神とケンカするのか」
俺は面倒くさそうな顔はするものの、今度こそコテンパンのギッタギタにしてやると熱い闘志を燃やす。
「ああ、アイリスは前世で神と戦ったんだっけ?」
「それでここに飛ばされちゃったけどね」
そこで凄い顔をこちらに向けるのは魔人族のイーサ。
「は? どういう事だ!?」
イーサとノルンは会話についていけないぞと疑問の顔を濃く浮かべる。
「あれ? そういえばイーサとノルンには言ってなかったっけ? 俺、前世で神とケンカしてこの世界に飛ばされちゃったんだよ」
「飛ばされたと言うか、転生させられたのよ」
サラリと過去を語るアイリスとアリス。
「どんな波乱な人生なんだよ」
ハァ~~と肺の奥から吐き出されるイーサとノルンの特大溜息。
「その話を聞いて前にも思ったけど、それって神に殺されたって事じゃないの?」
ハッシュがマジマジと俺の顔を覗き込む。
「え? いや、そういう事じゃないと思うんだけど…あれ? 俺って神に殺されたのか?」
その時だ、アリスが肩をポンと叩く。
「あまり深く考えない方がいいわよ」
「そ…だな」
「でも、なんで前世の記憶が継続してるの?」
「そうだよな、なんでだろう? 加護が付いてるからじゃないのか?」
コリーが腕を組み首を傾ける。
「そうなの? アリス」
俺の疑問にアリスが答える。
「まぁ、半分合ってる」
ってか何でアリスはそんな事まで知ってるのか…?
って半分ってなんだ?
「あれ? 違うの? 俺はてっきり魂に記憶が刻まれてると思ってた」
俺の記憶は魂に直接書かれているから記憶が消えないと思っていたのに、どうやら違うらしい。
「厳密には、アイリスの記憶はサーバーに記憶されてるの。だから転生して魂が別の体に取り込まれても魂とサーバが繋がってる限りは記憶の継承が行なわれるって訳」
「だそうです」
俺は考えることを放棄した。
「全然分からねえよ! アイリスもなんで他人ごとなんだよ」
ハッシュが盛大に突っ込んで来る。
「いや、あまり深く考えた事がなくって…」
「そもそもサーバーって何だよ?」
「電脳展開型タブレットが接続してる大本だよ」
ハッシュも思考を停止したようです。
「まぁ…良く分からないが」
俺も理解はしていません。
理解はしていないけど、言葉をキャノンに投げかける。
「キャノンは分かるんじゃないか?」
俺はスッと目を細めてキャノンの方へ視線を向ける。
その視線を受けるとキャノンは細い目を大きく見開く。
「簡単に説明すると―――」
皆が頭を傾けていたのでアリスは親切心で説明するが俺が間一髪制止する。
この説明が今日中、いや明日中にも終わるとは思えないからだ。
「あ! アリス!! その話はまた今度で…ね?」
「そ、そうよね! 今度で良いでしょ? ハッシュ!」
「お、おう!! 今度で良いぜ!!」
ハッシュもスージーもその辺は理解があるようで、俺に追随するように話を合わせてくる。
「そ、それよりも、キャノン、どういう事なの?」
アリスの話を強制終了させるため、キャノンに話を振るスージー。
ナイスアシストです。
「もう!」
この話をしだしたら何日も説明し続ける事が容易に想像できたので、強引に話を逸らす。
スージーとハッシュ、ナイス連携だったよ!
俺はアリスに見えないよう二人に向けてサムズアップすると二人も答えるようにサムズアップで返答する。
「あ、ああ。さらっと凄い事を語っていたが…そ、そうか、アイリスは天界に居たのか。 もしかしてアリスも天界に居たのか?」
イーサとノルンは無理矢理納得する表情をする。
「私は神じゃないわ。 女神様の加護があるだけ」
なぜここで胸を張るのかよく分からないアリスを華麗にスルーするキャノンは話を続けた。
「そういえば、お前たち、戦闘時に魔力を消費しない魔法を使っていたな? それと、俺ならサーバも分かると言ってたな」
俺は無言ながらも首を縦に振るとキャノンの目を強く見つめる。
うん。
確かに言った。
凡その想像はつくが、果たしてどんな答えなのか待ち望んでいるとキャノンから提案された。
「ちょっとお前たちの能力をスキャンしても良いか?」
「ライブビューみたいなものかな? 俺は良いけど」
「私も問題ないわ」
「「「俺もいいぜ」」」
「「「私もいいわよ」」」
みんなもキャノンの提案に許可を出す。
なぜかノリノリで。
「どれ…。 なんと!! やはり加護とはアスラ様の加護だったのか!! しかも全員が加護持ちだと?」
「「え?!」」
驚きの声を上げるノルンとイーサ。
「俺とノルンも加護が付いたのか?」
いや驚く所はそこじゃない。
ノルンとイーサにしたら天地を揺るがすニュースなのだが。
今さら後付けの加護には驚かない。
どちらかと言えば驚きよりも納得の方が大きい。
それよりもキャノンの口からアスラの名が出た事が驚き。
と言うか俺の予想ではある意味納得もあるが。
「え? キャノンはアスラを知ってるの? アリスどうなの?」
俺はアスラでもあるアリスの方へ顔を向ける。
「いや、私は知らないわよ」
アリスは首を数かい横に振る。
そんなやり取りを確認してキャノンは話を続ける。
「いや、アスラ様にはあったことは無い。しかし、カノン様の加護も暗黒女神の慈愛だった」
「カノン様? …カノン??!!」
やっぱり。
カノンかカインのどちらかだとは思ったんだけど予想通り。
「ん? やはりカノン様を知ってるのか?」
俺の表情にキャノンも合点がいったようである。
「いや、それは俺のセリフだよ! カノンを知ってるのか? カインは?!」
カノンを知ってるなら一緒に行動しているカインも知ってるはずなんだけど。
「カインと言う方は知らないが、カノン様は私の師匠であり名付け親でもある」
ん?
話の辻褄が合わなくなってきてないか?
ここ数百年でカノンと別行動をした記憶がないのだが?
いや、別行動はしているがキャノンの話だと数年は従事したような話しぶり。
数年も別行動をしていないという意味ではある。
「…どういう事だ? お前、何百年も生きてるって言ってたよな? カノンが名前を付けたっていつの話だ?」
「大体500年位前だな。 カノン様の名に似せたキャノンと言う名前をくださったんだ」
どんどん頭が混乱してきた。
「500年前って、全然つじつまが合わない…アリス、分かるか?」
「ん…多分、私たちの宇宙とこの宇宙は時間の進みが違うと思うわ」
時間の進みが違う?
時間って普遍的なモノじゃないのか?
確かに超重力等の干渉により時間の進みが遅くなるのは分かる。
もしくはこの場所が制止している世界ならばあり得る話でもあるが、制止した世界がそもそも存在するのも怪しい。
しかも時間のずれがこんなにも顕著に表れる世界って…
「そんな事があり得るのか?」
「時空を歪めるほどの超重力や高エネルギーが存在したらあり得るわ、でも、その状態を人工的に何百年も維持するのは不可能よ」
「だよな…」
「おい、俺にはチンプンカンプンだぞ」ヒソヒソ
「私だって同じよ」ヒソヒソ
「こんな話、だれか理解できるのか?」ヒソヒソ
全員首をフリフリ
時間の流れはよく分からないがそのカノンの行方は?
そう思いキャノンに質問してみる。
「で、カノンはどこに居る?」
「400年ほど前にどこかに行ってしまったんだ」
「どこに行くって言ってた?」
「いや、何も、仕事が出来た…と言って」
あのカノンの事だ。
あいつは口数が極端に少ないからな、本当に端的に言われたんだろう。
「そっか」
「アリス知ってたのか?」
「多少なら知ってるわ。でも、どこで何をしてると言う事は分からない」
「その辺はアルさんが動いてくれているし」
「アルが!?」
「アスラ様はオーリオンを抑えるために天界に残ってるのよ」
ヤバい、俺も話についていけない。
「おう、また話が凄い事になってるぞ」ヒソヒソ
「本当ね」ヒソヒソ
「俺たちには全く理解できない」ヒソヒソ
「天界って…」ヒソヒソ
「何なのこの二人は」ヒソヒソ
「道理で化け物じみてるはずだわ」ヒソヒソ
俺は皆の方へ顔を向け説明する。
「今、アリスが言った神が今回の俺たちの敵なんだよ」
「え?!!」
皆が驚いて俺の方へ一斉に顔を向ける。
「だから、神を相手にするんだからお前たちに魔王になれって言ったんだよ」
「え?!!」
キャノンのセリフで一斉にみんながキャノンの方へ向く。
そんな激しく首を振っていたら首を痛めてしまうよ?




