第70話:人はそれをロマンと呼ぶ
アイリスが鬼気迫る表情でみんなに問いかける。
「ねぇみんな、ちょっと聞いてくれる?」
今は部屋から風呂場へ通じる廊下を歩いている。
俺の質問に先頭を歩くハッシュが振り向く。
「ん? なんだ? アイリス」
俺は先頭のハッシュの疑問に答える。
「ここって…露天風呂なんだよ!?」
「? …だから何だ?」
俺の露天風呂と言う言葉にも未だに首を捻る。
「ハッシュ相変わらず鈍い!」
「いや、突然意味わからんだろ!」
そこに俺の後ろを歩くコリーが歓喜の声を上げる。
「おおぉ! アイリス! そういう事か!!」
「分かった? コリー!!」
「おいおい、コリー…マジか?」
露天と言う言葉に反応するのは男の性だ。
「あったりまえでしょ! イーサは興味ないのか?」
「いや、興味とか…俺は、リーダーとしてだな…」
「???」
そんな会話に今一乗れないハッシュ。
この子はどんだけ鈍いのでしょう。
「いや~、相変わらずハッシュは鈍い!」
「いや、全然わからんぞ?」
そんなハッシュは置いておいてコリーは俺に方針を促す。
「で、アイリスよ、どうする?」
「コリーもやる気満々だね」
「当たり前だ! これは男のロマンだ!」
二人で顔を見合わせ"ニヤリ"と不敵な笑みを浮かべる。
「で、作戦はどうする?」
「向こうにはアリスが居るから…多分、対策を立ててると思うから……こういう方向から、こうして………」
「ま、まさかアイリス?!」
作戦を聞いて宇宙一ナンバーワンの鈍感なハッシュも理解する。
「やっとわかったか、ハッシュ!」
「いや、スージーの裸は誰にも見せないぞ!!」
理解できたハッシュは立ち止まり、こちらに向き直ると構えを取る。
「しかし、これは男のロマンなんだ!」
構えるハッシュに対し悠然と前へ出るコリー。
流石と言うのか本能の赴くままに生きる獣人だからなのか。
その背には男としてのオーラを見た気がする。
「お前だって見たいだろ! 男だろ!!」
そんなコリーの気迫にたじろぐハッシュ。
「お…お…オウ」
そんなハッシュも勢いに飲まれ、否応なく返事をしてしまう。
「よ~し!!」
「いくか!!」
「おおぉ!!」
「おおお///」
4人が円陣を組み気合を入れる。
ここから作戦開始だ。
まずは偵察班からの報告を受ける。
「諸君、時は満ちた」
「ああ…今、女部屋を確認したがもぬけの殻だった」
「と言う事は、ターゲットは風呂場だ」
「よし、作戦決行だ!」
「「「よし!!」」」
素早く脱衣場で衣服を脱ぎ捨てる。
その姿は正に勇者がマントを脱ぎ捨てるかのように勇ましかったと居合わせたおっさんが後に語る。
音も無く、気配を消し男湯と女湯を隔てる壁に取り付くと女湯からは
「アリス、肌綺麗ね~」
「あら、ノルンだってこの胸うらやましいわよ~」
「ヤダあなたの胸だって綺麗な形と色してるじゃない?」
「や~触らないでよ~」
「ミーシャって意外とグラマーなのね~」
「ホント、着やせするタイプよね」
「ちょっと、余りジロジロ見ないでよ~」
「いいじゃない~女同士なんだし~」
キャイキャイ…キャッキャキャッキャ…
等々、男には辛抱溜まらん会話がされている。
4人は右手を握り締め意思を固める。
そして違う所も固めてる。
会話に妄想も股間も膨らむというものだ。
男連中はアリス対策の為に互いに超高圧縮したグランドプロテクションをかける。
さらにイーサは水の精霊の力を借り4人の体を見えにくいように保護する。
この状態で男風呂からフェンスを越えようとするが、フェンスの上部に、電撃魔法が固定されてフェンスを越えたら電撃の犠牲になるよう細工されていたのを見抜く。
そこでコリーが電撃に弾かれない様、同一の電撃魔法鞭を展開し、電撃鞭を避雷針替わりとし電撃鉄条網をクリアする。
全員が女湯の敷地に入ると、予想通りスフィアが張られており中の様子が窺えない。
全員がスフィアを破る事が出来るが、それだと侵入がばれてしまう。
そこで解呪に長けているイーサがスフィアが破れない様、慎重にスフィアに穴を空けていく。
その横では固唾を飲み込みながらみんなが声なき声でイーサに声援を送る
スフィアを割ることなく穴を開けたイーサは、極小の穴に足を入れる。
すると一陣の風が吹き、スフィアが掻き消えたと同時に全員の魔法が解ける。
その風に、湯気が晴れ湯につかっている女と目が合った。
「あら、女湯に侵入なんていけない子たちね」
「この子、人間よ?」
「この子は獣人ね?」
「魔人の子も居るわよ?」
「「「「みんな可愛いわね~」」」」
「「「「うっぎゃ~~~~!!!」」」」
そこにいたのは、齢800歳を超えるサキュバスの女性だった。
長寿な魔人でも800歳を超えているサキュバスは人間でいうと、90歳を超える容姿となっている。
「こんな若い子のエキスだったら少しは若返るかしら?」
「あら、独り占めはダメよ?」
「あら、この子元気ね」
「こんなに若いエキスは久しぶりなんだから…逃がさないわよ?」
その後の光景は4人の名誉のために詳しく記載する事は控えよう。
ただ4人が二度と女湯を覗く事は無かったと言う。
4人は男湯に戻る為にフェンスを乗り越えた所で、アリスの仕掛けた電撃を喰らい数分意識が朦朧としていた。
その時、全員が亡者の声を聴いたと言う。
「あ~ん、逃げられちゃった」
「いつでもおいでね!」
「優しくしてあげるからね」
「また今度ね」
「「「「待ってるわよ」」」」
その頃アリスたちはと言うと。
「はぁ、スーパー銭湯って広くていいわね~」
「本当ね~」
「お風呂もいっぱいあって楽しいわね」
「また来たいわね~」
女子たちは別の街にあるスーパー銭湯に入っていた。
女湯中に色々と仕掛けを施した上で。
「なぁリーダー?」キリッ
「ん? 何だコリー?」キリッ
「このペースだとダンジョンのある森までどの位で到着するんだ?」キッ
「そうだな、この調子だったら1週間って所か?」キリリ
「あまり時間も無い、もうチョット急ぐか!」キリッ
「そうだ!」カッ
「どうしたアイリス!」キッ
「忘れていたが空を飛べる魔法を作ったんだ。それだったらもう少し移動速度が上がるから短縮できる」ニヤッ
「なるほど、では明日はその魔法で時間を短縮しよう!」
「何かっこつけて話してるのよ?」
「もうバレバレなのにね」
「アイリス、後で決闘だから」
「ハッシュ…」
無理矢理決め顔で会話していたのだが、女性陣には意味が無く、冷たい眼差しを向けられる。
「いや、これには深い訳が!!」
「男のロマンに危険はつきもので」
「ごめんなさい~~」
「い、いや違うんだスージー!」
後の男たちは語る。
反撃無効、防御無効の戦いは戦いでは無いと。
こうして男たちの絆が深まったとか。
これもまた、青春の1ページ。
人には触れてほしくない過去があるものです。




