第61話:恐るべしアルフレート学園
間が空いて申し訳ない。
夏休み第二弾という事でホント申し訳ないです。
今日、魔人の国の魔人の学園、王立オージス学園から2人の交換留学生がアルフレート学園にやってきた。
俺は彼らを迎えに学園の入り口に聳える大きな大きな門の脇の小さな門から歩み寄る。
彼らはすでに馬車を降り立ち、学園を眺めキョロキョロしている。
背中には漆黒の龍の様な翼が生え、頭からは人間の人差し指程の角が2本金髪をかき分け、まるで天に威嚇するようにそびえている。
高身長に整った筋肉、端正な顔立ちと甘いマスクの男性。
同じく背中に白鳥の翼のように真っ白な翼が生えてはいるが、背中まで流れるようなストレートな金髪からは角こそ出ていないが、これまた高身長にひざ上5cmのスカートから覗く透き通るような白く細い脚。
何で他種族の男女は美男美女揃いなんだろう?
獣人族は可愛いで表現できるが、魔人は美しいで表現できる。
それこそ高名な画家が何年も費やして完成させるほどに目を奪う芸術作品。
そのモデルが目の前にいる。そんな感じだ。
世界が違えば、悪魔だとか天使だとか言われるような存在と言えばいいのだろう。
そんな美男美女…いや美女を目の前にして齢13歳の少年の目に毒だった。
ええ、私の事です。
もう…もう辛抱溜まりません!!!
気が付くと俺はすらっとした足の女性に早歩きで近づく…それも無意識。
あれ? そう言えば獣人族のミーシャにも同じことをしたような?
その事が脳裏に思い浮かぶその直後、背後から電撃を受けて走っていた勢いそのままに体が地面を2回転、3回転と転がり二人の前で止まる。
「ぐえっっ…」と声を出して仰向けに倒れた。
ああ、やはり天使のような清純なイメージに合った白だな…感激です! 御馳走様です!
女性は「大丈夫?」と、すらりと伸びた白い枝の様な二つの膝を折りながら俺の頬に触れようとしたときだった。
「ダメ!!」と言いながらアリスが近づいてくる。
「まだ帯電してるから触ったら感電するわ」
「あら、やっぱり今のは電撃の魔法? それにしては強力過ぎない? 彼死んじゃうわよ?」
若干引き気味に天使様が心配してくれる。
「それは大丈夫、でも、お願いがあるの、もう少し離れてもらっていい?」
アルフレート学園に到着して早々にこの惨事である。
二人はお互いの顔を見合わせてオロオロしながら言われた通り少し後ずさりする。
ああ、純白が離れていく…そして先程より強力な雷撃が再びアイリスに直撃する。
「ぐぎゃっ!!!」
「アイリスはこの位の魔法では死なない。だから安心して。で、アイリス? もう気が済んだかしら? 頭が冷えないのなら今度はダイアモンドダストで冷やしてあげるわよ」
引き気味の二人に柔和な笑顔を向けた後、鬼の形相を俺に向けたアリス。
アリスは体内の魔力を高速で練り上げると、その魔力を圧縮し掌で展開する。
「す…すみませんでした~」
俺はいつものジャンピング土下座の体勢に移行する。
これも無意識だ。
「ふん!」
と冷たい視線で一瞥する。
「申し遅れました。私アリスと言います。この倒れているのがアイリス。そしてこの方がハーグ副学園長」
俺は頭をアリスに踏みつけられながら自己紹介される。
美少女に踏みつけられて悦る…なんて俺にそんな高等スキル、いやそんな趣味はねー! と声を出さない抗議をする。
そんなやり取りと並行してハーグ副学園長がこちらに歩いてくる。
「ようこそアルフレート学園へ、私がアルフレート学園の副学園長をしているハーグと言います」
副学園長は腰を深く折り挨拶する。
その姿は学園一出来る女(re
その姿を見て後方に控えていた人物も挨拶に応じる。
「わざわざお出迎えありがとうございます。私がオージス学園の学園長サバスと言います」
「まぁ、学園長自らお越し頂けるとは…」
副学園長は聞いてないよ! と言う顔をすると手を口に持って行き、可愛い出来る女を演出すると、再び深く腰を折る。
「いやいや、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ」
「恐れ入ります」
なんせ、この学園長もそれなりに高齢なはずなのだが、その姿まさに美少年。
副学園長も女を出してきたな。
目を見たら分かる。この人の目はハートマークだ。
その空気を感じ取ったのか、オージス学園長は留学生としての二人を紹介する。
「この二人が交換留学生の…」
「アンギラス族のイーサと申します」
「ヴァルキリー族のノルンと申します」
「「宜しくお願い致します」」
二人はビシッという擬音が聞こえてくる位、腰を深く折り挨拶をする。
「いえいえ、こちらこそ。私がアイリスです! 宜しく!!」
そう言いながらノルンの手を握っていた。
その握っていた手の甲に軽くキスをする。
これが英国紳士の挨拶だと心の中で決めつけている。
「…宜しく……あなた、さっき、物凄く強烈な電撃を受けていたのに平気なの?」
握られキスされる手より、先程の攻撃を受けて平然としているアイリスに目が向くノルン。
「あ~全然平気ですよ! ノルンさんの美しさに比べたらあんなの静電気です」
先程の電撃を静電気と軽く言われるアリス。
いや、先ほどまで確かにアイリスを踏んでいた感触が残っているのに、知らない内にノルンと挨拶をしている。
しかもあろうことか手にキスまでしているではないか。
「ほう…静電気と?」
後ろから殺気を感じとっさにスフィアとグランドプロテクションとレベル4魔法マジックバリアを展開し、アリスの電撃に対抗する。
ノルンは本能で危険を感じた。
恐らく今までで一番、それも無意識で体を動かしたのではないか。
そう思う程に素早くスムーズにアイリスから距離をとる。
案の定、アイリスにあり得ないほどの魔法が襲い掛かる。
その魔法を見ただけで自身では再現できないほどの魔力が練られていると理解する。
しかし、その魔法さえ難なく防御しいなすアイリスと名乗った少年の魔法にも驚嘆する。
そんな最終決戦を思わせる戦いを尻目に副学園長が声をかける。
「騒がしくて申し訳ございません。さ、こちらへどうぞ」
副学園長がサバス学園長、イーサ、ノルンを学園長室に案内する。
イーサが、ノルンがほとんど意識なくアルフレート学園の副学園長に促されるがままだったが、オージス学園長だけは体の疼きを止められなかった。
『ふふふ、周りの様子に、二人のあの魔力、これが日常という事でしょう。アルトマン学園長が仰っていた通りのようです。我が学園も更に頂きを目指す余地があるという事ですか。さて二人には期待しますよ』
これからのオージス学園を思うと身震いが止まらない。
そうそう、とまるでついでのように副学園長は後ろを振り向くと
「アイリス! アリス! 落ち着いたら後で学園長室に来なさい!」
と若干起り顔を向けると、アイリスとアリスも
「「はーい」」
と軽く返事をしながら激闘を繰り返していた。
副学園長が振り返ったからイーサとノルンも釣られて後ろを振り向くと、必殺の魔法が飛び交う光景に残りの意識も昇天していった。
副学園長が三人を学園長室へ案内すると叩扉する。
「どうぞ!」
学園長が入室を促す。
「失礼します。オージス学園のサバス学園長と留学生のイーサ、ノルンをお連れしました」
「サバス学園長直々に来られるとは…」
驚きの声を上げながら学園長は右手を差し出すと、サバス学園長もそれに応じるように右手を差出し握手を交わす。
「いえ、イグース学園長に言われてアルフレート学園に大変興味を持ちました。できればイグース学園に留学した二人を見たいと思っていたのですが…その…」
申し訳なさそうに副学園長の方へ視線を送るサバス学園長。
「申し訳ございませんアルトマン学園長。実はいつもの如く決闘が始まりまして…私では止める事が出来ませんでした」
副学園長の言葉を聞き盛大に溜息をもらすアルトマン学園長。
アイリスとアリスの戦いに誰が入れるというのか。
いや、厳密には二人の戦いに割って入れる人物を知ってはいるが、その人物はオージス学園へ留学している。
であるので副学園長を責めることは無かった。
「なんと、それは大変失礼な事を…」
その時、コンコンとドアがノックされる。
「誰じゃ?」
「アイリスです」
「アリスです」
「入りなさい」
「失礼します」
つい先程、激闘を演じていたとは思えないほど、普通に入室してきた二人にオージス学園から来た3人は呆然としていた。
「先程は失礼しました。改めまして、私がアイリスです」
「先程はアイリスが大変失礼しました。私がアリスです。宜しくお願いします。」
先程まで死闘を繰り広げていた同一人物とは思えないほどに、二人揃って深々と腰を折りお辞儀する。
「…あ、ああ、私がオージス学園長のサバスと言います。あなた達がイグース学園を強くした2人ですね?」
「いや、強くしたかは分かりませんが、確かに僕とアリスが留学させて頂きました」
アイリスの言葉を受けると、オージス学園長はにこやかな笑顔を浮かべる。
その笑顔を見て副学園長の目がまたハート形になる。
「今度はこの二人を強くして頂きたくてね」
そう言いながらアイリスとアリスに握手を求める。
「さっきも挨拶したわね。ノルンよ。よろしく」
また決闘が始まってはたまったものではないので、握手されない様にノルンは後ろ手にアイリスとアリスに挨拶した。
「イーサと言います。この学園にもあなたの様に可愛らしい御嬢さんがいらっしゃるとは、宜しくお願い致しますよ」
そう言ってアリスの手を取り手の甲に口づけをする。
それは女性からしたら、美形の男にされたら心底蕩けてしまいそうな行為だったのだが、アリスにしたら背筋に寒気が走る行為でしかなかった。
なぜならば、その行為はアイリスと何一つ違わなかったからである。
因みに故郷であるアルテリアやアルフレートを擁する王都でも女性の手のひらに口づけをする習慣は無いのだ。
その習慣はオージス特有の挨拶なのである。
そういう事なので、アイリスがノルンに行った口づけもノルンは嫌悪感を抱かなかった。
しかしそんな習慣を知らないアリスにしたら魔法を打たれても仕方がない程に恥ずかしい行為なのだ。
口づけの瞬間、イーサはアリスの雷撃を手と口に直接受け感電してしまった。
アリスにしたらアイリスに放った一撃の何100分の1の電撃だから感謝しなさい的な発想だったが、イーサにしたら感電死してもおかしくない程の威力だった。
そして、止めと言わんばかりにアイリスが右手にグングニルを構え刺し貫こうとする寸前だった。
アイリスは生まれ持っての自己中なのである。
自分がする分には良いが、他人がやる事には盛大に怒りを向ける。
しかも、自分より容姿端麗であれば嫉妬も交じって凄まじいものである。
「わわわ! 誰かアイリスと止めるんじゃ!!」
副学園長が「はっ!」として、イーサを守るように覆いかぶさった。
「やめなさいアイリス!!」
不本意ではあるが、アリスがアイリスのグングニルの一撃をアイギスの盾で間一髪防ぐ。
「全く、アイリスもアリスも…相変わらずじゃな」
ガクガクガクガク―――
ただ震える事しかできないノルンと白目を剥くイーサであった。
「副学園長はイーサ君を医務室に連れて行ってくれんか?」
「はい」
副学園長が返事をすると、罰が悪そうにアリスが手を上げる。
「私が治療します」
しかも向こうでは常識の挨拶方法に対して謝罪する。
「あ、そうじゃな。ではアリス頼む。」
「はい。フルキュア!」
イーサの体が濃緑色の治癒の光に包まれる。
「え?! フルキュアですか?!」
サバス学園長が驚いている。
「この学園でもフルキュアを使える子は何人かいますぞ? 多分、交換留学の間にノルンとイーサの二人もフルキュア位は使えるようになって帰ると思いますが、サバス学園長も覚えて帰りますかな?」
余りの出来事に驚き顔を浮かべるオージス学園長。
そして、学園長の提案に苦笑いで返答する。
「で、できれば、お願いできますか?」
「もちろんですじゃ」
「う~ん………」
そんなやり取り直後、イーサが目を覚ます。
「アルフレート学園の女性は恥ずかしがり屋なのかな?」と爽やかな笑いでアリスを見る。
俺は無表情にイーサを見つめると、その周りに青白いファイヤースリングを何千本も展開する。
ファイヤースリングは主の指示を今か今かと待ちわびているようにユラユラと空中で待機する。
学園長が「アイリス! 学園が蒸発してしまうわ!」と叱責しているが、アイリスの耳には届かなかった。
アリスは最早我関せずを貫いている。
その修羅場を見て相変わらずノルンは震えている。