第48話:真剣勝負は殺し合いではありません。
ハッシュの前に光の粒が集まり、人の形を形成してゆく。
光の渦から視界がはっきりとしてくる。
何だか、全校生徒とか講師とか学園長とか居た気がした。
しかし俺は今、それどころではないのだ。
俺は転移魔法が終了後、スフィアをかけ引きこもっている。
これである程度の時間は稼げるはずだ…その間、出来る限りの作戦を練るんだ。
ああ見えてアリスは俺と同等の力をつけてきている。
転生前の状態には程遠いが、それでも経験値で言ったら結構なレベルだと思う。
しかも自分で言うのも憚られるが実力で言えばこの世界では最強の部類だと思う。
そんな経験値だけで言ったら無限大の俺と同等の実力を身につけてるアリスが俺を本気で倒そうと追って来てるはず。
流石に殺されはしないだろうが…いや、殺す気だ。
死んでも生き返らせればいいと考えてるはず。
これはヤバい。
留学生を見送り余韻の残る学園長を始め、全校生徒が見守る中、まさに命の存続をかけた戦いが始まろうとしている。
俺以外の人にしたら何が何だか分からず、一様にアングリと口を開き固まってる状態なのだが。
グランドプロテクション、ディカプル、ビーフアップ、マジックバリア。
身体強化魔法を複数展開した所でスフィアが破られる。
究極防御魔法と言う仰々しい字名が付いたスフィアなのだが、簡単にアリスに破られる事に皆さんもフリーズ状態。
俺は魔法剣(雷)を展開し、大きく息を吐き出す。
が次の瞬間、なぜか目の前にアリスの魔法剣(雷)とレベル4魔法スタンアロー、雷撃が俺の体中に命中していた。
アリスはこの短い間に、レベル6魔法タイムスタンプと全攻撃に対して必中のエクスカリバーを付与していた。
"レベル6魔法タイムスタンプ:5秒間、自身を中心とした半径10m以内の時間を停止させる"
「ぐがががが! ま、魔法にエクスカリバーも付与できるなんて…そんな裏ワザ…」
「真剣勝負じゃないのが悔やまれるわ」
アリスは鋭い眼差しでアイリスを見据える。
当のアイリスは複数の電撃を受けて痙攣している。
時々アイリスに帯電していた電気が紫電のように放出している。
一瞬の出来事で何が何だが分からんと言った状況。
皆にしたらいきなり魔王が現れ、成長前の勇者を足蹴にしていると言えばわかりやすいか。
そんな中でもハッシュは若干引きつつも魔王化したアリスに勇気を絞り話しかける。
流石は後付けに加護を貰った非公認勇者。
周りもハッシュを勇者と褒め称える。心の中で静かにだが。
「おいおい、アリス…アイリス死んだんじゃないか?」
「死んだら蘇生させればいいだけよ。それより、ハッシュ久しぶりね」
アイリスに向ける顔から一転、女神のような微笑を浮かべるアリス。
そんなアリスに、アイリスが語った人の事を思い出す。
"こんな人(神)が居るんだよね。その人は軍神で三面六臂(三つの顔に六つの腕)でさ、憤怒、悲憤、祝福を司るんだけど、怒らせると超怖いけど普段はすっごく優しくてきれいな人なんだよ"
アイリスの言葉を鑑みるに…目の前にいるアリスじゃん! と思わなくもない。
こちらに向けられている表情は優しい穏やかな顔だからハッシュは引き攣りながらも笑顔で返す。
「お…おお」
「スージーも久しぶり」
「う…うん…」
「「相変わらず仲がいいな(いいわね)」」
スージーの表情も笑顔を浮かべてはいるが若干引き攣っているようにも見える。
「「そんなんじゃないよ」」
先程まで電撃を加えられ虫の息(見た目は死人)のようだったアイリスも「あてててて…」と体を起こす。
あんな状態で普通に体を起こすアイリスも大概化物だ。
と思いながらも、いつも通りに声をかける。
「おっ? アイリスも目が覚めたのか?」
「アイリス…今度は真剣勝負よ! 今だったらアイリスに負ける気がしない!」
「すいませんでした!!」
俺はすかさずジャンピング土下座を敢行する。
今だったらアリスに勝てる気がしない。
もうね、背後にアスラの影がちらつくんですよ。
アイリスのそんな様子を見かねてアリスに気を静めるように声をかける。
だって、つい今さっき交換留学生と悲しくも再会を誓い送り出したというのに、この二人は…
雰囲気を察して副学園長がアリスを制止する。
「アリス、もうその辺で良いでしょ」
大きな溜息の後、ハーグ副学園長がアリスを制止すると、姿勢を正し学園長へ向く。
「学園長、ただいま、イグース学園との交換留学の随伴より戻りました」
副学園長の言葉に一拍間を置くが、体を正し服学園長に向き直る。
「ご苦労じゃったな、副学園長」
校庭に集まった全員がアリスの御仕置に若干引き気味。
しかし、それもいつも通りの通常運転だと思い出すと自然と笑い声が響き、帰還の労いをする。
「アイリスとアリスもご苦労じゃったな」
「いえ、ありがとうございました。学園長」
俺とアリスは最早定番となった敬礼を学園長へ奉げる。
「今日は良く休むと良い」
「「はい」」
この世の最後と思った災いも薄れ、和気藹々な空気となるにアイリスも笑顔を浮かべたが、アリスに肩をポンと叩かれる。
「じゃぁアイリス、続き!」
「いや、本当にすいませんでした」
ジャンピング土下座もアリスには効力が無いようで、笑顔のまま魔法剣(雷)を構える。
その様子にすかさず俺はハッシュの後ろに隠れる。
「ハッシュ~助けて~」
最高圧縮された魔法剣を向けられハッシュも唾を飲む。
流石にあの高威力な魔法剣を振るいはしないだろうと考えるが、しやしかし、相手はアリスだぞ。
油断するなと魂が警笛を鳴らす。
アリスの神経を逆なでしないように努めて冷静にアリスを落ち着かせる。
「ま…まぁ、アリス落ち着け」
「そ…そうよ、アリス、何があったの? 訳を教えてよ。大体想像は出来るけど…」
「ハッシュ、スージー…実は…」
スージーもアリスを止めるために加勢してくれる。
そんなスージーに心から礼を言う。心の中でだが。
訳を聞いて学園長もヤレヤレと首を振ると、副学園長に顔を向ける。
「…副学園長、少し話があるので学園長室に来てもらえるか?」
「承知しました」
「アリス、アイリスを殺すではないぞ? では行こうか副学園長。みんなも解散じゃ」
「はい」
学園長と副学園長は何事も無かったかのように校舎の仲へ入って行く。
残された学園生は解散と学園長に言われたがアイリスとアリスの攻防を笑顔で見守っている。
普段好き放題しているアイリスが攻められるなんてこんな面白イベントは無いと、ある意味みんなの娯楽と化している事をアイリスもアリスも知る由もない。
「よし! 私がアイリスを抑えてる、今の内よアリス!!」
「ハッシュ…助けて~」
「無理だ。俺にあの二人は止められない」
「行くわよ! アイリス!!」
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「本当にすびばせんでした…」
服が燃やされ、髪の毛は帯電しているようで逆立ち、時折ピシピシと放電している。
皮膚は真っ黒な煤に覆われ、凡そ常人であれば何度死んでいるか分からない。
そんな状態に初めは笑顔だった学園生も、徐々に笑顔が消え、頬が引き攣る。
自分には関係ないと分かっていても目に涙を浮かべている子もいる。
そんな状況なのにもかかわらずアリスは追撃を加えようとしている。
「最後はアイリスの心臓に戒めの十字架でも打ち込もうかしら」
「ぼうじばぜう! ごべんだざい…」
「も…もう許してあげたら? アリス」
「もう許してやれよ、アリス」
流石にこんな姿になるまで続くと思っていなかった2人。
スージーに至っては心の中でアイリスに懸命に謝っていた。
「フン、2人に免じて許してあげるわ。フルキュアー」
「ああぁ…今回ばかりは死ぬかと思った」
いや、死ぬだろ! と突っ込んだのは、ここに居る全員だ。
「しかし、相変わらずだな~お前たちも」
「本当ね~登場早々に殺し合いしてるし」
「でよ、ちょっとイグース学園の話を聞かせろよ!」
「そうそう、みんなも聞きたがってるわよ!」
「うん、じゃぁ…」
俺達は何事も無かったかのように皆との再会に喜びながら大広間に移動する。
イグースでの出来事の最大の関心事と言えばやはり討伐時に現れた進化種の進化種の話で持ち切りとなる。
「で、最後の討伐の時に、レオファングの進化種の進化種みたいのが出てきてさ~」
「ほうほう!!」
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イグースでの出来事を聞いたハッシュはアルフレートでも話題になっているある話を話題にする。
「実はこっちでもお前らの言う進化種の進化種ってのが発生してな。で、王都が本格的に動き出したって話だぜ?」
「へ~王都が?」
「おう、それを討伐した学園も王都に呼ばれるかもしれないとか学園長が言ってたぜ?」
ん? 今サラっと凄い事を言ってたような気がするが?
「…え? 進化種の進化種を…? 誰が討伐したの??」
俺はリオレイア希少種風ベリオロスを思い出していた。
普通に戦ったら結構厄介なモンスター。
それを倒したと言う事で正直驚いた。
まさか王都と学園生が総出で討伐したとか…かな?
「ああ、俺とスージー、ローグ、キャサリン、ポーラ、ロイス、ルイーズ、モンドとイグース学園から来た留学生2人で討伐したんだよ。」
「「ええ!! マジで!!」」
久しぶりにアリスとステレオになった。
アリスも本当に驚いたのだろう。
「おう、最初はお前たちに応援を頼もうかと思ったんだけど、何とかなったから呼ばなかった」
「「へ…へ~…そうだったんだ」」
俺はキラキラした目でハッシュを見つめる。
「な…なんだよ」
怪しむ表情のハッシュをしり目に、俺は両手を合わせ揉み手をする。
「いや~、1回手合せしてもらえる?」(人´∀`*).。:*+☆
ハッシュは一瞬、眉間に皴を寄せる。
「俺が?」
「うん」
「アイリスと?」
「うんうん」
もう、これでもかと言うほどアリス直伝のキラキラビームを出しまくった。
そんな様子にアリスも火が付く。
アリスは俺と同じ所作でスージーににじり寄る。
「あたしもいい?」(人´∀`*).。:*+゜゜+*:.。.*:+☆
「え? あたしがアリスと?」
「うん」
クッ…流石に本家アリスのキラキラビームには敵わないか…
それでもパパには効果絶大だったんだが。
ハッシュとスージーの中でも、いつか手合せをしたいと思っていた節があったようで、渋々了承してくれた。
「「でも、殺し合いじゃないぞ(わよ)!」」
「「分かってる分かってる」」
俺とアリスは揃って右手を前後にフリフリと動かす。
その動作に、途端に不安がるハッシュとスージー。
ハッシュとスージーの強い要望を笑顔で聞き流しながらアリスと話し合う。
まずどこでやるか、魔法だけなのか、剣だけなのか、両方良いのか等々、大まかなルールをアリスと話し合いながら紙に書き記す。
その紙を二人に見せると、今度は4人でルールを決める。
簡単に、魔法も剣も何でもアリ。
但し、相手を死に至らしめたら負け。と決定。
そもそも普通は殺したら負けってレベルじゃないと思うんだけどね。
話を聞いてた学園生も俺たちの会話の内容に徐々にボルテージが上がってくる。
こうなればジェットコースターよりスリリングなアトラクションだぜ! って感覚なのだろうか。
そうと決まれば! と俺とアリスは立ち上がり屈伸に背伸びそして準備運動をする。
、
「なんか、準備してるけど…?」
「まさか…これからか?」
「「うん」」
ノリノリの俺達に呆れ顔のハッシュとスージー。
お前ら、さっき帰ってきて早々大立ち回りをした挙句にすぐさま俺たちと手合せ?
って感じで呆れ顔で眺めてくる。
何で考えてる事がわかったかって? 昔から言うでしょ。"目は口ほどにモノを言う"って。
ハッシュも諦めたかのように「分かったから…とりあえず荷物を部屋に置いてからな」と俺達に促す。
それはもう色々諦めたかのような雰囲気を醸し出す。
そんなハッシュとスージーの心知らずか、はたまた気が付かないふりをしているのか、気持ちいい程に透き通る声を発する。
「「はーい!」」
俺とアリスは大急ぎで寮へ戻り自分たちの荷物を部屋に放り込むと大広間までダッシュで戻る。
このやり取りを聞いて全校生徒もドキドキしている。
規格外の強さを持つ黒狼の進化種の進化種を「フェンリル」と名付けた。
そのフェンリルを討伐したハッシュとスージーが、これまた規格外のアイリスとアリス相手に勝負をするからだ。
室内訓練室には全員(見物人)が入れないので屋外訓練所を使用した。
騒ぎを聞きつけた学園長と副学園長を含めた講師達も呆れ顔半分、心躍る顔半分で見物している。
「なんか、スゴイ大事になってるね」
「…そうだな」
その様子は差し詰めアルフレート学園天下一武道会決勝戦。
「じゃぁ、あたし達からやろ?」
アリスは待ちきれないのか、ソワソワした落ち着かない様子で手を上げて先陣を宣言する。
「わかったわアリス。負けないわよ」
「私も本気でやるよ!」
「でも、殺さないでね」
「大丈夫、死んでも蘇生してあげる」
「いや、そういう事じゃなくって…」
スージーは自分たちで決めたルールをもう忘れちゃったの? って顔をアリスに向ける。
「そうね」と思い出したかのように後頭部を掻くアリス。
ついでにテヘペロ。
その仕草にスージーは誰にも聞かれる事が無い程小さく「アイリスに似て来たわね」と呟く。
「その前に誰が審判やるの?」
至って冷静なスージーの御尤もな言葉に俺とアリスは言葉を無くす。
だって、審判って必要? って思っていたからだ。
そんな状況を見かねたのか副学園長が口を出す。
「審判は私がやるわ。まったく、休めって言われてたのにいきなり勝負とかあなた達は疲れを知らないの?」
やれやれと二人に歩いてゆく副学園長。
本気で疲れた態度をするのは年の功か。
いや、本当にお疲れのようです。身も心も。
そんな副学園長に軽くお願いする。
「あっ、副学園長」
「宜しくお願いします」
「いい二人とも、ルールは簡単。実戦形式で何でもアリ。ただし! 殺したらダメよ」
誰から受け取ったか分からない紙を見ながら副学園長がルールを確認する。
先程、4人で決めたルールが記載されている。
「ッチ」
「あ…アリス、殺すつもりの勝負だったの?」
「そ……そんな事ないよ」とコロコロ笑うアリス。
「スージーを殺すわけないじゃん?」
尚も笑顔を絶やさず右手だけをフリフリしているアリスに、完全に疑いのジト目を送るスージー。
…嘘ね…副学園長が審判に入ってくれて助かったわ。
「それと、紙には書いて無いけどギブアップしても負けよ」
副学園長がルールを加える。
それに同意しなければ今回の"戦闘訓練"はなし。と言っていたのでアリスも承諾する。
しかし、今回の勝負を"戦闘訓練"と位置付けるとはさすが出来る女の副学園長。
「「わかりました」」
「では始め!」
副学園長が大きな声で開始の合図を送ると、生徒たちの割れんばかりの声援がこだまする。
自宅作業のためにストックが無くなってきた。
普通は逆なんだろうけどね。
自宅での執筆ってどうしてモチベが上がらんのだろう。




