第38話:獣耳と仲良くなりたいのに
今日からイグース学園での初授業。
「アルフレート学園からリハウスしてきました。アイリスと言います。まだまだ分からない事だらけですが宜しくお願い致します。」
「アルフレート学園から交換留学生としてきました。アリスと言います。アイリスと同じ12歳です。宜しくお願いします。」
パチパチパチ…
授業を始める前に軽く自己紹介をしたのだが全く反応がない。
ネタが古すぎたのか?
午前中は通常授業を行う。
俺とアリスは隣同士の席で授業を受けている。
そうするとアリスからトランスファー(念信)が届いた。
「コリーの時はあまり感じなかったけど、この教室の人たち、ずいぶん人間が嫌いなのね」
「何でだ? と言うか、何で分かるの」
「狼の群れの中に狐が入り込んでるような疎外感を感じるわ」
アリスの例えが分かりやすそうで分かりにくく、でも凄く納得できた。
「ミーシャ曰く、馴れ馴れしいのはダメって言ってたから、うかつにも話しかけられないよね。アリスから話しかけたらどうなのかな?」
「男でも女でも同じでしょ? 後は、午後の模擬訓練でどう出てくるかね」
「アリス、ケンカ売っちゃダメだよ」
「私からは売らないけど、売られたら買うしかないでしょ」
「アリスにも獣人の血が入ってるのかな?」
「どういう事?」
「ケンカ好き」
「私からケンカは売ってないでしょ」
「俺にはよくケンカを売ってくる」
「あれは真剣勝負」
「あぁあれ、ケンカじゃないんだ…」
「当たり前でしょ」
「でも、この前は真剣勝負と言うより殺し合いに近かったよね」
「真剣勝負ってそういう事でしょ」
まぁ、完全に理性が飛んでいたんだから否定はできない。
主に敵対心とか憎さとかでなく『酒』のせいで。
「仮に死んでも生き返らせられるから問題なし」
「…そ、そうだね」
確かにレベル5呪文バディックスを使えば瞬時に生き返らせることが出来るのだが…。
自然の摂理がどうとか言っていたオーリオンの言葉が耳に残る。
ってか人の命、生き返るからと簡単に殺すのは道徳的にどうなのでしょうか。
「アイリス! アリス! ちゃんと聞いてますか?」
「「ハイ! 聞いてます!」」
獣人の講師、さすがに獣人だけあって色々なカンが鋭いな。
いや、聴覚が鋭いのか?
そしてお昼の時間。
普通、転校生がやってきたら、その日は転校生に群がったりしないか?
なんでこんなに静かなんだろう?
やっぱり、人間は嫌われてるのかな?
周囲から視線は感じるが、どことなく腫れ物に障ると碌な事が無いと言ったむず痒い感覚。
イグース学園の大広間で食事を摂っているとそこにコリーとミーシャの姿が見えた。
やっと見知った顔に遭遇出来てこの針の筵状態から脱せると盛大に手を振ってコリーとミーシャを呼ぶ。
「おお、アイリスとアリス! やっぱり2人だけで食事か?」
「やっぱりって?」
ニヤニヤした表情のコリーと、どことなく、いや、思いっきり警戒した視線のミーシャ。
「獣人はよそ者には警戒するって言っただろ?」
「あぁ、人間だからって訳ではないのかな」
「まぁそれもあるが、獣人って言ってもいろんな種類が居るんだよ」
「そもそも獣人って狼、犬、猫、兎とか多種多様でしょ? 獣人として大きな括りは同じだけど、別もんなのよ」
ミーシャ姉さんが俺にではなくアリスに向かって話している。
何気にそう言うのは傷つくんですけど。
まあ、初対面の俺の接し方を考えれば警戒されても仕方なしか。
嫌われてると思わず警戒されてると考える俺って能天気でしょうか?
「だから、みんな人とか獣人とかそんな括りでは区別はしてないんだよ。そんな括りを気にしてるのなんか人間位なもんだぜ?」
コリー兄さんはちゃんと俺に向けて話してくれる。
それだけで傷が癒されるのだからモフモフは正義だな。
コリーからそんな言葉を聞いて、人間へ抱いている偏見とかは無いのか? と考えてしまう。
「そうだったんだ…でもクラスの人たちとどうやって打ち解けて良いか分からなくって馴れ馴れしく話したら余計に警戒されちゃうでしょ?」
俺の言葉に警戒を強めるミーシャ姉さん。
そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ、ちゃんと弁えてますから。
「あはははは! 問題ねえよ! 今日の夕方には仲良くなれるって」
「え? なんでそんな事言い切れちゃうの?」
「午後は模擬訓練だろ? そこで俺とお前が手合せする。そうすれば、そんな悩みなんか消えてなくなるって」
俺の疑問にコリー兄さんがにこやかに笑いながら説明してくれる。
「獣人ってのは、基本強い奴が好きなのよ」
手合わせと聞いてミーシャ姉さんの心の扉が少し開いたのか俺に話しかけてくれる。
ってか、話しかけてるというよりは親の仇を見る様なそんな表情だったのは俺の心に仕舞っておこう。
「アイリスとアリスの強さが分かれば向こうがほっとかねえよ」
「じゃぁ、アイリスと私が真剣勝負をして見せるのはどう?」
おいおい、あんたはどんだけ俺と戦いたいのだよ。
あの時も酔ってるとか関係なかったんだな、きっと。
「いや…あれは逆に引く」
二人が天井を見上げ思い出したかのように顔に影が掛かる。
「…そうだ! 俺とミーシャが戦うのはどう?」
その言葉を聞いてミーシャの耳が警戒を強めるように前面にピンと立てている。
眉間に皺が寄り口も半開きになり鋭い犬歯が剥き出しになる。
「うるさい」
「黙れ」
「絶対いや」
コリー、アリス、ミーシャに完全否定された…。
「それよりよ…お前らの真剣勝負ってあれは殺し合いじゃないのか?」
「そう、殺し合い」
「いや、アリス…俺はそうは思ってないんだけど」
俺は手でイヤイヤと横に振り盛大に否定する。
「でも、真剣勝負は真剣勝負! アイリス相手に殺さないように手加減したら此方が不利」
どこの世界に幼馴染と殺し合いをする人がいるのでしょうか。
「でもよ、万が一相手って事になったらどうするんだ?」
「アリス一生後悔しないの?」
コリー兄さん、ミーシャ姉さん、頼むからもっとアリスに言って下さい。
そんな俺の願いもむなしくアリスはあり得ない事を軽く言う。
「大丈夫! 死なないから」
おいおいアリスさんよ。
この世界では死んだら生き返らないのが常識なんですよ。
しかもそんな秘密は笑顔で言うもんじゃございません。
「…は? 意味が分からねえ」
「死者を蘇生する魔法を使えばいいだけ」
「あ…アリス、それ内緒な魔法!」
「あ、そっか… じゃぁ今の話は無かったことで」
アリスさん、余りに無理がありますよ…
「まさか死者を生き返らせることが出来るのか? んなわきゃないか」
少し小バカにしたような言い方をするコリー。
うん、冗談だよ。そんなことある訳ないでしょ。と誤魔化してみるも。
「死んだ人を生き返らせる魔法を作ればいいんだよ」
とアリスさんは仰います。
もうこの子バカなの?
内緒って言ってんのに話を広げてどうすんのよ。
「魔法を作るとか簡単に言ってるけど、魔法の得意な魔人でも簡単には作れないのよ?」
コリーとミーシャが憐れむような視線をアリスに送るがアリスは意を介せずあっけらかんとしている。
そういう事ですコリー兄さんミーシャ姉さん。
アリスが言う事は本気にしないで下さい。
「あ、そうだったの?」
そのアリスの態度に、もしやの意味を含めて俺に視線を送るコリー兄さん。
「もしかして、魔法を作ったことがあるのか?」
んな訳ないでしょうと言いかけたところでアリスさんの爆弾発言。
「うん、ここに来る前に転移魔法を作ったよ」
アルフレート学園では学園長も含めてその辺は寛大だったけど、今はイグース学園に来てまだ1日目ですよ?
しかも俺たちってまだ孤立してるんだから余りそういう所は抑えめの方が良いと思うんだけど。
「はぁ~~~~~? 転移魔法ってなんだよ!?」
「はぁ~~~~~? 転移魔法ってなによ!?」
コリーとミーシャが大きな声で驚くから食事中の皆が一斉にこっちを見る。
周りの視線に失礼と会釈して穏便に済ませようとするコリー。
「おい、その魔法ってそんな簡単に出来るのか?」ヒソヒソ
「どうなんだろうね? それなりに大変だったと思うけど」ヒソヒソ
「その魔法は内緒の魔法なのか?」ヒソヒソ
「いや、アルフレート学園長も知ってるし、副学園長も知ってるわよ」
「アルフレートの友達も使えるし、全然内緒じゃないよ」
「そうなのか…今度俺にも教えてくれ!」
「あっ! ずるい!! 私にも教えてよ!!」
「「良いよ!」」
アリスの口角が上がり「じゃあ授業が終わった後に特訓ね」と言うと、やったとばかりにコリーとミーシャが喜ぶ。
おいおい、アルフレート学園でアリスの特訓と言う言葉を聞いて喜ぶ人は誰一人いないんだぞ?
いや、若干二名は居るか。
「おっアリス良いのか?」
「ありがと~アリス!」
可哀そうに…今日、あの二人は寝れないぞ。
「アイリスも付き合ってね」
「え~~~~~~~~!!!」
コリーが笑顔で俺の肩に手を置き「頼むぜ」と言ってくる。
くっそ…やっぱりこうなるのか。
フン! 笑ってられるのも今の内なんだからな!
大広間にアイリスの悲鳴が響き渡り食事中の皆が一斉にこっちを見る。
「うるせーな」
「食事くらい静かに食えないのかよ?」
「人間って食事も静かに取れないんだね」
「うるさいのって嫌い」
「人間って下品なのね」
違う意味で獣人から嫌われていくアイリスだった。




