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神様?いいえただの悪魔です。  作者: 次元
第3章:死者の星
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第79話:新たな家族

どこかの映画やドラマみたいに生存者が少ないと思いますか?

私もそう思います。

でも、映画でもドラマでもないし避難場所で死者多数って事で。

決してイベントが多くなるから生存者が少ないわけじゃないですよ。


そ、そんなわけで続きをどうぞ


―――ある作戦。


俺は意気揚々と椅子から立ち上がり、ガッツポーズを二人に向け作戦名を挙げる。


「名付けて"最後の救い作戦"ダ~!」


「「???」」


その作戦名を聞いてガッツポーズから天に伸ばされたコブシを見上げた二人は小首を傾げる。


「だから"最後の救い作戦"です!」


「「はい?」」


疑問の声を上げながら再び逆方向に小首を傾げる二人。

その仕草にホッコリとしたのは内緒だ。


意味不明な作戦名を聞いて最初に口火を切ったのはユウコりん。


「で、何を救うんですか? まさか、基地に打ち捨てられている武器を回収するって言わないですよね?」


さっきの私の話聞いてた? って顔を俺に向けてくるユウコりんは、俺の精孔が開いていれば間違いなくヒソカ並みの禍々しいオーラを立ち上がらせていたのを確認できただろう。


「違う違う。フォレストタウンだよ」


二人は再び「ん??」って顔で俺を見る。

その顔は、何で今更? って顔を向けてくる。


今度はまゆゆが口を開いた。


「こう言っては何ですけど、あそこの人たちは…もういいじゃないですか?」


"いいじゃない"とは直訳すれば"関わるな"って事を言いたいのだろう。

確かに何のメリットも無ければ放置するべき案件なのだが


「確かにね。でも駐屯地の内情、知りたくない?」


そこで真っ先にピクリと反応したのはユウコりんだった。


「どういう事ですか?」


まゆゆは未だにどういう事か分からないので小首をかしげている。


「簡単に言うと、駐屯地との接点を持ちたいと言うか、方針を知りたいと言うか。何にせよ自衛隊が居るなら何かしらの情報はあると思うんだよ。例えば司令塔があるのか。他の大規模な避難場所の安否や有無とかね」


なるほど! と言う目で俺を見てくるまゆゆ。

どうだ、尊敬したか? 惚れ直したか?


「で、その為には、フォレストタウンの人たちをダシに使うと?」


言い方!

確かにそうなので否定はできないが。


「人聞きは悪いがそう言う事。フォレストタウンの人たちに取っても俺たちにとってもメリットしかないからOKでしょ? それに女性だけをあそこに放置って何か忍びないでしょ? ほら、俺達の同級生に良い様にされていたし…」


その事を思い出すと苦い顔をする二人。


「まあ確かに…でも、駐屯地の人たちが受け入れれば…の話でしょ?」


ユウコりんが不安げに質問してくる。


「ん??」


今度は俺が小首を傾げる番となった。


「受け入れない…かな?」


「どうか分からないけど…それこそ駐屯地の人たちの方針に寄るわよね」


うむ…確かに…

そして、極めつけのセリフで俺の作戦を屠ろうとするユウコりん。


「武志さんが駐屯地で司令官だったら、突然現れた難民を受け入れる?」


思考0.1秒。

返答0.5秒。


所謂即答ってやつで回答する。


「無理」


その言葉を聞いてユウコりんが口角を僅かに上げる。


「でしょ?」


「いやいや、でも、普通の自衛隊員だったら民間人を放置して見殺しにはしないでしょ」


「正解」


せ、正解って…今までの問答は何だった?

もしや最近若い子の中で流行っている新手のおちょくりなのか?


確かに俺は普通の人とは違うよ?

でも、極力普通の人。しかも女性を見殺しにするには心は冷徹では無い。

無い…はず。


俺は恐る恐るユウコりんの方へ目を向けて最終確認をする。


「って事で…フォレストタウンの人たちを駐屯地に連れて行く"最後の救い作戦"は?」


ユウコりんがムムムと言う表情をしたのだが目を瞑り熟慮する。

と、次の瞬間、目が開きサムズアップを一つ。


「…了承!」


「よっしゃ!」と意味不明なガッツポーズをした。


「ま、実際問題、フォレストタウンの女性たちはどうでも良いし、駐屯地に自衛隊が居ると分かった時点でどうでも良いんだよね。たださ、美智子さんがさ…」


「え? 美智子さん?」


「ああ、少しの間でも一緒に過ごした人たちの事、少し心残りなんじゃないかな?」


「そうですか? 美智子さんもあの人達を見限って私たちの所へ来たのに?」


「見限って俺達の所に来たからだよ。心配する素振りは見せなくても、少なくとも多少は気になってるだろうし、心残りだってあるだろ?」


「…相変わらず武志さんは優しいですね」


そう言って俺に寄り添うまゆゆ。


「そう…だね」と俺の手を握ってくるユウコりん。


ユウコりんは俯きながら


「私だけじゃそこまで考えられなかった…」


と小さく口にすると手を強く握ってくる。

その手にまゆゆは自分の手を乗せると、優しく微笑みながら


「私も武志さんに言われるまで考えもしなかった…私達ってまだまだ子供だね」


と、悔しそうに、悲しそうにハニカミながらユウコりんの手を握った。

その時だ、俺達が一時避難している建物の外で何かの気配を感じた。

先程までとはうって変わった雰囲気をユウコりんとまゆゆが纏っている。


明らかにユウコりんの表情が鋭くなる。

そのユウコりんの様子にまゆゆも銃を片手に聞き耳を立てている。


俺は何故気が付いたかと言うと…

俺にはこの世で一番苦手な生物、いや、物体がある。

それは昆虫の類。


キバヤシ「あいつらはきっと世界中で人間の営みを監視している宇宙の生物。いや、地球外人工生命体なのだ!」

ナワヤ「な、なんだって~!」


とのやり取りが脳内で勝手に始まる程、俺は昆虫が大嫌いだ。

中でも黒い物体には格別に殺気と寒気が襲ってくる。


不思議なのだが、視界で捉えていなくても気配を感じる事が出来ると言えば分かりやすいだろうか?


病的なまでに過剰に反応する様は、例えGでなくとも、黒い()()を視界にとらえたとき、ビクリと体が硬直するほどに病んでいる。


その感覚は今やGを含む昆虫に限らず、ゾンビや生きている人間にも発揮されている。

恐らく、こんな世界になって気が張り詰めているのだろう…


と、まあ、そんな感覚が外から感じられた。


俺はタケシスペシャル(M4A1タケシカスタム)をユウコりんに渡すと、ユウコりんは首を頷かせ無言で後方支援の為に狙えるポジションへ移動する。


俺は気配のした方向とは逆の裏口から出る。

壁と塀の間は人が通れない程に狭いのでブロック塀を登り表の方へ向かう。


まゆゆはそのままベレッタ92Fを手に、気配の元が居であろう場所の近くのドア横に立ち気配を窺う。


対象はトラックが止まっている玄関正面からの侵入は無理と判断して庭に回り込んでいる。


と言うのも、トラックの荷台に銃器が搭載されており、トラックの荷台が破られると非常に厄介な為、門扉を取り除き玄関に直接トラックの後部が接舷している状態だったりする。

この家は、さすがに俺とユウコりんが選んだ事もあり、壁と塀の距離が狭くゾンビも侵入して来れない。

玄関もトラックが直接取り付いているから玄関も使えない。

そうすれば、自ずと庭でしか出入りは出来ない訳で、警戒するのも庭を重点的に警戒していれば事足りるからである。

そこに引っかかった今回の気配である。


ゾンビであれば警戒した雰囲気を出さず、ただ単に愚直なまでに一直線にうめき声を上げながらこちらに存在を知らせてくれるのだが…。

それが無いと言う事は即ち、生存者と考えられる。

しかも自衛隊の避難命令を聞かない、もしくは避難命令から漏れた生存者となるが、パニック開始から今まで、それなりの期間が経過して生き延びていると言う事はゾンビを相手に修羅場をくぐったか、生存者を相手に略奪したかの二択。

そして俺の答えは後者。


どんな作用が働いているか分からないが、人体のリミッターである脳が食欲だけを訴えている為、筋力だけは人間を大きく凌駕しているゾンビ達。

後さき考えず、自身の骨や筋肉が壊れても力を振るってくるゾンビに接近戦や肉弾戦は無意味だ。


1対1であればバット1本で完勝できるが、複数になって来ると途端に勝率が下がる。

ましてや音に敏感なゾンビを相手に気を抜けばあっという間に囲まれる事必至だ。

そんな中で生き延びているなんて、人間相手の略奪者しか思い浮かばない。


奇しくも今日、見本のような略奪者3名を屠ったばかりだ。

そして我が家の家訓にも『撃たれる前に撃て』が掲げられている。


相手が泣こうが助けを乞おうが撃つべし!

だったのだが…


小さな影が人が通れないような壁と塀の間で蠢いていた。


俺はこちらに向かってくる影を音も無く、塀の上から銃口を向けている。


それは5~6歳ほどの子供。

所謂、幼女と言う奴だ。

生存者と言う事は分かってはいた。

ただ幼女というのは予想できなかった。


俺は塀の上から銃を向けたまま静かに「止まれ」と言うと、泣きそうな顔を浮かべこちらにゆっくりと顔を上げる。

不安と恐怖で今にも泣き出しそうな顔だったので、人差し指を口に当てて「しー」と優しく言うと小さいながらも理解できたのか、小さい両手を口に当てて首を縦に振っている。


俺は猫の様に塀の上で丸まっていたのだが、小さく溜息を一つ出すと立ち上がり裏口の方へ下がる。

裏口を開けると、狭い塀と壁の間をすり抜けるようにこちらに向かってくる幼女。


その姿を見た時、俺は絶句してしまう。

その姿は、余りにも凄惨であり、彼女が潜り抜けてきた修羅場を容易く想像できる。


俺が戻って来た事にまゆゆも出迎えてくれるが、彼女も俺の横に立つ幼女に目を丸くする。

そこへユウコりんもタケシスペシャルを背に戻ってくる。


平時であれば、お母さんと手を繋ぎ笑顔を振りまいていたであろう顔は涙の痕が残る程に薄汚れ、肩下まで伸びる髪の毛は、血が整髪料の様にこびり付き細やかな髪を固めている。

身に着けている小さなワンピースには元の柄の判別も困難な程に、赤黒い血液が染み込み、糊付けされたYシャツの様になっていた。


その姿を見たユウコりんは幼女の前に膝を折り屈むと血を被ったかのように固められた頭に手を乗せる。


「心配いらないよ。よく頑張ったね。御飯の準備するから最初にお風呂入ろう…ね?」


俺への接し方と180°違うユウコりんの優しい笑みに幼女も無言であるがコクリと首を縦に振る。

その返事を笑顔で受けると、小さな手を取ってお風呂場に幼女を連れてゆく。


恐らく、あの幼女と風呂を入る一環として、ユウコりんなりの身体検査が在るのだろう。

今まで生き延びていたのは最近まで大人と行動していたから。

しかし、その大人も餌食となる事件が発生しその時に喰われたのだろう。

そして逃げ延びた幼女の身体に噛み傷があるかどうか…

もしあった場合、ユウコりんは心を鬼にして始末する事を自分から買って出たに違いない。


そんな事を思える中学生って…あり得ないだろ!?

でもユウコりん、いや、俺達と行動を共にする彼女たちは既に中学生と言う括りを越えた強さを持っている。


お風呂場の方へ向かうユウコりんと幼女を見届けるとまゆゆはこちらに振り向く。


「あ、私、御飯の支度するので武志さんは…」


「ああ、分かってる。あの子の着替えを調達してくるわ」


まゆゆは俺の返答に笑顔を浮かべると、頬にキスしてくる。


「気を付けてくださいね」


まゆゆも分かっているんだろう。

明かりの無い夜に外出する危険性を。

もしかしたら幼女を追ってゾンビ達が集まってるかもしれない事を。


まゆゆの心配も杞憂に終わらせるため、いつも通り慎重に行く。

って言ってもそこは慣れたもんで、壁を伝い、壁を越え、各家を物色する。

いつもと変わらない事をするだけだ。

そこに慣れはあるが油断はない。

油断した時点で私の後ろにゾンビが張り付くのだから。


しかし行くところ行くところにあの幼女に合う洋服が無い。

この少子化時代を恨むぞ!

政府が全く無関心だったから子供が少なく老人ばかりな少子高齢化になっちゃうんだよ!

と、心の叫びを上げていた所でやっと庭に小さな自転車が置いてある家を発見する。


早速玄関の方に回ると扉が開いている。

その事だけで俺の油断は0%で警戒度MAXに跳ね上がる。


そこで俺の出した結論。


"子供服は間違いなくあるであろうこの民家に侵入せず、別の家屋を探すべし!"である。


ゾンビなんか居ないかもしれない。

生存者が居ないかもしれない。

何の危険も無いかもしれない。


そんなアヤフヤな未確定要素満載な危険地帯に行く気は更々ない。

この結論が自分の命を永らえる事となる事を、誰に教えて貰った訳では無く本能的に知っている。

強いて言えば"君子危うきに近寄らず"と言った所だろうか。

多分、人からは意気地なしとか根性なしと言われるかもしれないが、噛みつかれれば終了なこの世界で噛付かれても『気合で何とでもなる』のであれば頑張りもするが、そんな熱血的案件は見た事も聞いたことも無い。

そもそも噛みつかれたら痛いじゃん?


って事で、危ない地雷原はさっさと回避して別の所に行こう!




◇◆◇◆◇◆◇◆




「あのメールから数日経ってますけど、未だに還って来ないって事は…」


美智子さんが武志たちの安否を気に掛ける言葉を吐き出す。


あのメールとは俺が縦田基地の状況を伝えるメールに返信されてきた武志からの返事だ。


確かに数日前のメールには今から出発すると記載があった。

にも拘らず、あれから数日経った事にリビングのテーブルを囲う面々の表情が暗くなっている。


そんな雰囲気の中でも俺は特に暗い表情は見せていない。

俺が暗い表情を見せていないからハルちゃんも暗い表情はしていない。


「たぶん大丈夫だと思うよ? 縦田基地での轟音で駐屯地に居たゾンビやこの周りにいたゾンビ達も大移動を開始してるし、それに気が付かない程、武志はバカじゃないしな」


俺の言葉にキヨシが頷く。


「さすが長年一緒に居た人の言葉は重みが違うっスね!」


バカ! と言われて美智子さんに頭を軽く小突かれるキヨシだったが、案外的を得ている。

と言うのも、俺は縦田基地が祭りだと言った所で、武志が目の色を変えてすぐに帰って来るかと思っていたのだが、能々(よくよく)考えてみると、あいつが『祭り=大騒ぎ』に引っかかれば、自ずとゾンビが集まると容易く考え付くだろう。

しかも凡そ中学生とは思えない、特殊部隊所属と言われても妙に納得できてしまうユウコりんが居るんだ。


武志が出て行き、ヒント足りえないパソコンの画像だけで、武志の立ち寄りそうな場所を考え付く洞察力、そこから繋がる行動力。

そして見事に武志を捕まえた捕捉能力にゾンビが蔓延る世界で生き抜く戦闘能力。

どれをとっても常人では計り知れないユウコりん(鬼軍曹)が居るのだから何も心配はしていない。


一見、純情そうで武器の扱いや血なまぐさい事に無縁なように見えるまゆゆ。

それは武志の事や保護するべき対象に危機が陥った時の冷徹までの武器の扱いは中学生とは思えない程に胆力がある。

ゾンビと化した自分の両親を撃ったのもそうだし、キヨシの仲間だった暴走族を躊躇いなく撃ち殺す程に、フォレストタウンに押し入った略奪者に向けた銃口と、躊躇いなく引く引き金の軽さ。


それに生きる事に慎重に身勝手でワガママな武志が居るんだ。

ゾンビに喰われているイメージも生存者に殺されるイメージも全く思い浮かばない。


橋が壊されてようがゾンビが歩いていようが、生きる為にワガママに自分勝手に事を遂行する行動力と知能が備わってる。

そんな武志がタカが数日連絡取れないからと言って、何の心配もしていない。

逆に何を心配をすればいいのか?


もしかしたら今にも突然玄関を開けて"ただいま"って帰って来る気がする。

だから何の心配もしていない。

寧ろ、心配するのは帰ってきた後の行動だ。

あいつはいつも想像の斜め上を目指すからな。

それにまずは盛大にお説教タイムだ!

無断外泊は許しません!


そんな暗い雰囲気のリビングにガチャリと玄関を開ける音が聞こえた。

その音に反応してキヨシ、美智子さん、そしてここ数日で銃の扱いが上手くなったノンたんが真剣な眼差しで銃を構える。


「た…ただいま帰りました~」


下から申し訳なさそうに小さく帰宅の挨拶が聞こえる。


ほ、ほらな?

何の心配もいらないだろ?

心配するだけ損なんだよ。

あれほど言っただろ?

心配無用だって…

皆も心配性なんだからな―――全く、心配掛けやがってよ…


さっきも言ったけど本当の心配ってのはあいつが帰ってきてからの後だよ。

寧ろ帰ってきた後の次の作戦を心配した方が良いって…何だその幼女は!!!!!!




誤字脱字や矛盾等がありましたらご報告お願いします。

あと、こう言う風にしたら良いとかこんな展開も希望等ご意見ご感想もお待ちしております。

評価など頂けたら嬉しい限りです。

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