第78話:帰郷
今回も気持ち長くなります。
7000文字オーバーですが、気長に読んでください。
そんなわけで続きをどうぞ!
インカムをONにしてまゆゆとユウコりんに通信を送る。
「聞こえますか? もうすぐ着くので門を開けて貰えますか?」
「「はーい」」
仲良く返事がハモルと大きな門の上にはユウコりん。
そのユウコりんは狙撃体制に入っており、壁際に居る粘着ゾンビをヘッドSHOOTING!
相変わらず数十メートルの距離であれば例え強風だろうが外すことはない。
彼女は精神コマンド『必中』の保持者なのだろう。
と、一人納得した所で絶妙のタイミングで門が開くと同時に門を潜る。
「遅かったですね。何か問題でも?」
そう言ってくるのは門を開けてくれたまゆゆ。
ゾンビの警戒をしていたのか、ユウコりんが門の上から飛び降りて着地する。
「ホントホント。銃声も聞こえたし何かイベントでもあったの?」
え? 銃声? 聞こえた??
ってか、事件をイベントと捉えるユウコりんって。いやその前にこの門って2tの箱トラックが余裕で潜れるくらい大きな門なのに、M-4カービンを抱えて着地した?
足平気なの? 特殊部隊所属とか関係なくユウコりんの体って何で出来てるの?
野上なの?
冴子なの??
ま、まあ、ユウコりんが普通の中学生じゃない事は分かった。
いや、分かっていた。
俺は先程の出来事を二人に話すと「やっぱりハグレ者ってどこに行っても居るんですね~」とはユウコりんの言葉。
「武志さんが無事で良かったです」とはまゆゆの言葉。
恐らく、その辺の人間には俺を倒す事なんて出来ないと理解している中学生離れしたユウコりんと、普通の中学生のまゆゆとの差だな。
実際問題、特殊訓練を積んだとか凄い修羅場をくぐった人ではない普通の人には俺は倒せないと思うよ。
今までの生活の延長線上と捉えている普通の人であれば、だけどね。
だって普通の人間ってまずは声をかけるのが先でしょ?
俺の場合、声をかけるより身を潜めるか、撃つかの二択しかないし。
そもそも、こんな世界になって暴力が支配する世紀末とは違うが、想像上以外の何物でもなかったゾンビが蔓延っている世界だ。
大抵、生きている人間は助けを乞う人間か、略奪してくる人間のどちらかだ。
だから生きる為にはゾンビも人間も分け隔てなく倒すべしの精神に同調するほど理解ある人間も居ない。
それをこんな環境になった世界になり、考えを切り替える事が出来る人間は早々居ないだろう。
そもそも、俺と宏樹はこんな世界になる前から『良い人でもないけど悪党でもない』から、今となっては何が正しいのか分からん。
映画の世界だったら、間違いなく死にゆくモブキャラなのだが、生憎と現実世界では『良い人と悪い人』を使いこなす人間が一番強いのだろう。
そして、そんな俺たちの考えに引きずられ普通の中学生だったまゆゆは生きる為に考えを変える。
普通の中学生のまま、助けを乞う考えを改めなかったハルちゃんは、宏樹を守ると言う信念の元、考えを改める。(何だかよく分からないが)
普通の中学生の中に紛れていた超人ユウコりんは良く分からん。
彼女が異世界から来たチート人間と言われても、今の俺なら間違いなく信じられるね。
寧ろ、異世界から来たんじゃないかと疑いたいね。
出来ればこの世界が現実ではないと言って欲しい。
ま、今のところは何の問題も無いから現実と言われても受け入れられる自分が怖い。
そもそも、このような世界的大破壊や大壊滅を望んでいた節があるからだと思う。
そう思うと益々自分と言う人間はトコトン壊れているんだなと思う。
とりあえずトラックの荷台も腐肉と言うゴミを処分でき、空の状態になったところで、この屋敷にある銃器を中に押し込める。
と言っても、まだ匂いは残っているのだが荷台の中に入れるのは俺の役目。
こういう臭いってのは水を撒いて洗った位では落ちないんだね。
俺は未だ臭いの残る荷台の中に入り、まゆゆやユウコりんから武器を受け取ると荷台の奥の方へ置く。
種類や弾薬は凄いものがあるのだが、2t車の荷台に押し込むとまだまだ余裕はある。
それでも、食料や飲み物を乗せると多少は埋まるが、それでもその余裕あるスペースを見て、漫喫やDVDのレンタルショップに負けず劣らずの品々を詰め込もうとしたのだが、まゆゆとユウコりんに全部入る訳ないと咎められ却下させられる。
盛大な溜息を吐きながら運転席に乗り込もうとしたら、今度はユウコりんが荷台の方に乗ると我儘を言い出し、未だ腐敗臭のする荷台に乗ろうとジタバタしている。
やれ3人乗りは狭いだの、荷台の匂いなんか感じないだの言っていたユウコりんであったが、まゆゆの真剣な眼差しと、好きな銃を手元に置いていいと言う提案で渋々と言った感じでトラックに乗り込む。
確かに2t車に3人並んで座ると狭いのだが、俺的には隣に美少女中学生が寄り添ってくれるので大歓迎だ。
そんなまゆゆを咎める為に、「私も~」と言いながら、まゆゆの上に圧し掛かり俺の首に腕を回してくるユウコりんにも無下にはできず、中年おっさんの顔は緩みっぱなしだ。
乗り込むとき、狭いだ何だと文句を言っていたユウコりんはどこに行ったのか。
脇に鎮座するホルスターにはSIG228Pが差込まれ、ストックが収縮されたMP5を首から下げ、M870ショットガンを足元に鎮座させ、弾が入った1ケース箱ごと持って乗り込み12ゲージショットシェルを装填している。
その顔はニコニコでご機嫌だったのだが、ロケットランチャー(RPG-7)も席に持ち込もうとした時、流石のまゆゆも咎めたので渋々と荷台に降ろしていた。
只でさえ狭いのに…狭さゆえの恩恵を受けている俺は大して文句は無いけどね。
でも、ユウコりんは戦争でも始めるんでしょうか?
俺のその様子をまゆゆも同意しているのか、苦笑いを向けてくる。
当の本人はショットシェルを装填しながらニヤニヤしている。
うん、怖い。
まだ荷台に若干のスペースがあるんだからお気に入りDVDとかまだ乗るのに…仕方ない。
お祭りが終わったらまた取に来よう。
待ってろよ宏樹!!
ってこの前も言ってたような気が…?
◆◇◆◇◆◇◆◇
「………武志たちはとりあえず、こちらに向かってるようだ」
宏樹はメールを見て状況を皆に説明する。
しかし、その表情は何故か浮かない。
と言うのも、縦田基地から射出されたミサイル? ロケット砲? は基地の周りを四方八方撃ち散らかし、その結果、基地周辺に居たゾンビだけでなく、基地から遠く離れた場所である我が家の周辺。
ひいては駐屯地周辺のゾンビ諸君の耳にも入っている事だろう。
俺が基地から早急な撤退を決めたのも、あの轟音に誘われる様に団体ゾンビに会わない様にするための決断だった。
そのおかげで撤収から帰宅まで、大集団に会わないで済んだのは賞賛に値する。
だって、今は近くの大通りや路地裏にも縦田基地に向かうと思われるゾンビ諸君たちが一方方向へ向けてぎこちないながらも歩を進めている。
そんな状況で武志たちが帰ってくると言うのだから気が気ではない。
普段はのんびりマイペースな奴なのに、祭り事になれば意味不明な機動力を見せるからだ。
比較的大きな川に架かる橋は壊されていると言う事で、上流部まで行くことになるからそれなりに時間も掛かるだろう。
アホな武志でも命と祭りを天秤に掛ける事はしないだろ。
…しないだろ?
…しないよな?
俺が思案していると横からハルちゃんが肩に顎を置いて耳元で囁いてくる。
「麻由ちゃんと裕子ちゃんが居るんだから大丈夫よ」
その言葉を聞き、俺は笑顔で答え頷く。
そりゃそうだ。
犬並みに優れた嗅覚? いや、第6感? ニュータイプ能力?
全てを兼ね揃えていると言っても過言ではない二人が居るんだし、大丈夫だろうと安心する。
精々武志に備わっている能力と言ったら霊感位な物だろうか?
そもそも、自分第一の武志が今の現状を想像できない訳がないと締めくくる。
念のためにメールにもゾンビ大移動の報は入れたし。
パソコンの電源を落し、屋上に上がると忙しなく轟音を上げていた基地の方角も鳴りを潜めていた。
もしかしたら全員避難したのか? それともお食事として召されたのか。
数キロ離れた場所にある基地方面に、今も大通りを見ればゾンビの群れが民族大移動ヨロシクぞろぞろと目指して歩いているのが見える。
恐らくアメ公は真っ先に飛行機に乗って逃げたんだろうな。
問題は飛行機に乗ってない人たちで日本人避難民の事だ。
不謹慎ながらも全滅すれば余計な心配は一つ減るのだが、問題は生存者が居た場合だ。
人に助けを求める人物やその集まりだったら未だしも、略奪者と相成った場合は厄介以外の何物でもない。
恐らく、古今東西からゾンビの大集団が押し寄せているのだから外に居れば間違いなく餌食となる。
しかし基地敷地の中にも建物は幾らでもある。
問題は食料等の消耗品だろうが、その辺の事情も分からないがクリアできればゾンビが解散するまで持ちこたえれば何とでもなる。
安全を確認して外に出れば基地だけに武器も揃っているだろう。
扱える、扱えないは別にしても俺たちにしたら脅威に違いはない。
ま、その辺も武志たちが帰ってくれば妙案を出してくれるだろう。
屋上で様子見をしていたが日も落ちて暗くなってきたので下に降りると、丁度食事の用意がされていた。
4人で今後の話し合いをするのだが、全員が全員、酒を飲みながらの談笑になったので、最終的には武志が帰ってきてから考えようとの結論になった。
いや~やっぱり何かを決める時には武志さんが居ないとダメですわ。
って事で、お前らが帰って来るまで適当に安全に過ごさせて頂きますんで!
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふぇっ…くしゅん!」
むむむ!
このクシャミ、宏樹が何か言ってるな?
そう思っていた所でまゆゆが「宏樹さんが噂してるんですかね?」と俺と同じことを言ってきた。
以心伝心とはこの事か!?
俺達は大通りを避け、橋が壊されていないような小さな川を渡り帰路についている。
と言っても、家に着くまでにそれなりに大きい橋は渡らなければいけない訳で、その橋は恐らく壊されている訳で…
と言う事で、トラックの燃料が無くなる前には、反対岸で再びトラックを接収しなきゃいけなくなるので比較的大きな通りに戻って来れるような道を選びながら進む。
只でさえ道に詳しくない俺が運転しているわけで、更に俺より道に詳しくない中学生に聞く訳も行かず、川沿いを直走っている。
流石に2t車が渡れるような橋は壊されていたりするのだが、上流の方は比較的大きな橋も壊されていなかったのは予想外だった。
自衛隊が任務だとは言え、分散して橋を壊すのも限度があるし、上流なんてもしかしたら目も向けていなかったのかもしれない。
嬉しい誤算に大分遠回りな道のりにはなるがトラックの乗り換えを考えなくて済むので日が沈むまで走破する。
地図を片手にナビゲートしてくれるユウコりんであったが、確かにナビする先の橋は壊されていない。それでも猛スピードを出すわけにはいかず、のんびりと安全運転をした結果、その日は走行中に発見した安全そうな建物で夜を明かすことにする。
そこでのお食事時にユウコりんから考えさせられる言葉を頂く。
それは奇しくも、自宅で宏樹が目にした状況を言い当てたようなもの。
「そう言えば、宏樹さんからのメールで縦田基地が凄い事になってるからすぐに帰ってこい(翻訳済)って意味でしょ?」
「ん? ほんあはんひはったへ」
武志さん行儀悪いです! ってまゆゆに咎められたので、頬張った肉を何度も咀嚼しゴクリと音を立てながら飲み込む。
実はこの食料群、この2tトラックを拝借した時に積載されていた腐肉から、そこは食品加工工場なのでは? と思い、肉目当てで再訪したら、工場内の冷凍庫にキンキンに凍った牛肉がぶら下がっており、お宝GETだぜ! と拝借したものだった。
「失礼。そんな感じだったね」
「しかも、駐屯地に偵察に出ていて凄い量のゾンビに偵察も中止したってあったよね?」
確かにそんな事も宏樹の報告に書いてあったと思いだし一つ頷く。
「で、縦田基地でのお祭り騒ぎ…武志さんはそのお祭り騒ぎって聞いて、何を想像します?」
「ん?」と眉間に皴を寄せテーブルの上に乗せた腕を立てて拳を握りながら顎に乗せ考える。
「多分だけど―――」そう言って両手の指を絡め、祈りのポーズのまま顎を乗せ俺の考えを口にする。
所謂、碇司令ポーズだ。
「基地内で何か騒動があった。例えば避難民の中からゾンビが出たとか。いや、違うな。基地を隔てているフェンスが集まったゾンビの圧力に耐え切れなくなり決壊したか? 基地の中で避難民がゾンビになろうが問答無用で駆除するだろうからな」
まゆゆも、ユウコりんも凡そ俺の予想を肯定する。
「俺は収穫祭=武器の取り放題と解釈したが、今考えれば宏樹のメールに収穫祭と言っていたが謝肉祭と前に着けていたと言う事は………基地の中にゾンビが入り込んで食い荒らしていると見て間違いないだろうな。武器の取得である収穫祭と、ゾンビが食事を得た収穫祭を掛けたんだろうな。それで謝肉祭か~くそ、宏樹の癖にやるじゃないか!」
まゆゆはあのメールの解釈に苦笑いを浮かべるが、ユウコりんは閃いた! って顔をする。
「って事はだよ? 私達と違って武器は銃だけじゃなく、ミサイルとかはあるんじゃない? あとは地雷とか」
「へ…?」
ユウコりんに言われて思わず変な言葉が口から出てしまった。
「そうか…そうだよな?! 軍事基地なんだから、ミサイルくらい普通にあるよな」
「それに、フェンスが破られても地雷があったら―――」
「その地雷でフェンスの被害が広がったら?」
そう言う事か。
フェンスが多少破られてもそこから入って来るゾンビはたかが知れてる。
しかし、設置した地雷によってフェンスが損傷を受けたら…それで一気にゾンビが押し寄せて来たって事もあり得る。
「当然、パニックを起こした状態だったら、普通に狙いを定めると思う? 自衛隊だったらともかく、米軍だよ?」
ユウコりん曰く、世界一の軍備と軍事費を持っていても精密さと冷静さは別だそうで。
例えばアメリカ軍が所持する戦闘機が1万機在ったとしても、使用できる機体はその半分にも満たないらしい。
内訳は整備中であったり修理中であったり初期不良であったり…
しかし自衛隊は稼働可能な兵器は98%を誇るらしい。
壊れたらすぐに修理する。
しかも日本は魔改造が得意な種族らしく、骨董品であるF-4が現役で使用されている。
しかも恐ろしい事に米軍当時最新鋭のF-15が自衛隊機側の老朽機F-4にロックオンされ撃墜判定を付けられたと言う。
軍事費用を湯水のように使用できない日本にとっては使える武器は何でも使い、初期性能以上の成果を出すのだと熱弁された。
「自衛隊の凄い所を挙げたらキリがないんだよ? まずは一人一人の技能が凄くて―――」
これはヤバい!
キリが無いとい言っていただけに終わりも見えない話を始めるユウコりん。
すまん! 俺ではユウコりんを止める事が出来ない!
チラリとまゆゆにアイコンタクトを送り話を中断させる。
「も~」と言いながら頬を膨らますユウコりんに「その話はまた今度ね」と爽やかに返すまゆゆ、マジスゲ~!
「って事で、ミサイルとか色々打ち上げて騒音をまき散らしたと思うのね」
「確かに、宏樹のメールでも"騒がしく"ってあったな」
「と言う事は、武志さんも感じてる通りゾンビが歩き回る今の世界、ミサイルの発射音や炸裂音って数キロ以上響くと思うの。それこそ縦田基地から少ししか離れていない駐屯地へも」
「確かに! って事は、駐屯地に居たゾンビも縦田基地に向かうって事?」
「音が聞こえたら間違いなくそうなると思うよ」
「んん!? そうなったとしたら…俺達、今帰ったら危険じゃない?」
「今の話を聞くと、私もそう思う」
まゆゆも同意してきた。
「駐屯地に居るゾンビがどの位居るのか分からないけど、駐屯地だけでは無く、あの辺一体のゾンビを引き寄せててもおかしくは無いんじゃないかな? ゾンビが数万単位で集まっている可能性もあるわよね」
「数万単位…マジか…」
俺は生き残った生存者が武器を手にした時の脅威を語るが、ユウコりんから生存者の可能性を語られるとそれ以外言葉が出なくなる。
幾らそこに武器が在ろうとも、本来殲滅するべき敵に屠られてまで手にするべきではない。
恐らく、基地に生存者は居ないだろう。
今現在居たとしても、数多の兵器を使用すれば目の前の敵は力なく倒れ伏すだろう。
武器が強力であれば強力である程、使用時の破壊音も大きくなる。
当然、後方では使用された兵器の咆哮に呼ばれる様に食事の順番待ちの列へ更なる敵が並ぶだけ。
そんな中で永遠とも思えるほどに繰り返えされる行動に一般人は耐えられない。
先に音を上げるのは感情を持つ人間側だろう。
―――と言う訳で、ユウコりんは生存者は居ないと結論付けた。
その言葉を聞いて、俺はある作戦を思いつく。
誤字脱字や矛盾等がありましたらご報告お願いします。
あと希望でこう言う風にしたら良いとかこんな展開も等ご意見ご感想もお待ちしております。
評価など頂けたら嬉しい限りです。