第19話:言い逃れと修了試験参加
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翌朝、俺はアリスに昨日の事件に関して精神的なトラウマが残っていないか聞いてみた。
するとどうでしょう。
『???』を頭に一杯浮かべ小首を傾げる様子。
トラウマどころか心に全く残っていなかった事のびっくりです。
ある意味将来大物になりそう。
アリスの心に傷が無く俺も一安心。
そんな俺とアリスは案の定と言うのか予想通り学園長室に呼ばれた。
―――コンコン(はあ、超憂鬱)
「入ってよいぞ」
俺とアリスは恐る恐る学園長室の扉を開け中に入る。
そこには学園長を始め、副学園長や各高等科の講師もいた。
みんな俺とアリスを交互に見やっている。
その眼はどう見ても昨日の事を聞きたい目だ。
「さてと…」
そう言いながら学園長は椅子に深く座りなおした。
右手は顎鬚を、左手の人差し指は肘掛を規則正しくコツコツとノックしている。
「まずは、昨日の件だが…講師全員に代わり礼を言う。アイリスとアリスのおかげで生徒は怪我もなく事件を解決できた。」
アルトマン学園長の言葉に安堵して俺とアリスは口から軽く息を吐き出し、肩の力が抜ける
「が…その~何じゃ…」
学園長は何か言いずらそうに言葉を詰まらせる。
規則正しくリズムを刻んでいた左の人差し指も動きを止めていた。
右手は相変わらず顎鬚を弄っていたが…。
そこで副学園長が訊ねてきた。
「アイリス、アリスまずは単刀直入に言います。あなたたちのステータスを見せてもらって宜しいですか?」
俺はアルトマン先生の方へ顔を向ける。
アルトマン先生が静かに頷いたので俺もアリスも「ハイ」と答えた。
通常は一個人のステータスを覗き見ることは許されるものではない。
それは個人情報保護法の無いこの世界でも個人の情報を見る事はある種タブーとなっている。
って事を、アルトマン先生が初めてライブビューをした時に教えてくれた。
それでも見せてくれと言ってくる程に今回は重要事なんだと理解できる。
だから頭が痛いんだけどタブレットの魔法は流石に教えることはできないが、タブレットの魔法と同じことを再現できるから誤魔化せることは出来るだろう。
俺とアリスがステータス公開を了承すると各先生がライブビューを唱える。
そこでザワザワしだす。
また魔力が上がってるだろうし、属性と加護にも驚いているんだろうな。
そう思っていたのだがどうやら違うらしい。
「スペンサー先生、魔力以外確認できましたか?」
「いや、ローズ先生は?」
「私も魔力しか見れません」
「フェルナンド先生は?」
「いや、私もです」
「しかし、魔力が30000って…?」
「アリスも16000を超えてますよ…」
違う意味でざわめいていたようだ。
昔、アリスが俺に対してライブビューを使用した時に魔力しか確認できなかった事を思い出す。
…本当に魔力の差で読み取れる内容に差が出るんだな。
―――あれ?
学園の講師達が揃って俺とアリスの魔力しか確認できないの?
アリスの顔を見たらほんのり笑顔になってる。
さてはこいつ、先生達に勝った! とか思ってるんじゃないか?
「この二人は既に我々よりレベルが上なんではないか?」
「いや、魔力に対して耐性があるんじゃないか?」
先生達はそんな言い訳みたいな会話をしている。
みんな、5歳児より弱いと認めたくはないようだ。
俺が逆の立場だったらと考えて、妙に納得する。
「私も読み取れたのは属性まででした」
そして副学園長が俺たちの属性を公表する。
「アイリスはヒーリングマスターEx」
「アリスはマジックギャザーEx」
「「「「「!!!」」」」」
出来る女のハーグ副学園長の言葉に講師達は一様に唖然としている。
「ヒーリングマスターって…法王と同じ?」
「この年ですでに法王の器を??」
「マジックギャザーだって…?」
「こんな年で…」
「どうなっているんだ??」
本来、講師が生徒に対してライブビューを使うのは12歳の修了試験を終了した時に、その子の能力や属性に合わせて、どの高等科を推薦、推奨するのかを確認する為なのだが。
―――――マジックギャザー。
昔、学園に来る前にアルトマン先生に聞いたアリスの属性。
魔法を作り出す者、魔法を集める者、魔法収集家、賢者、言い方は多様にあるが、総じて『魔法を極めし者』に到達する事の出来る属性だそうだ。
これを聞いた時、アリスも大概チートだと思った。
「学園長は知ってらっしゃったんですか?」
「ん? …まぁ…の」
「どうして教えて下さらなかったのですか!?」
副学園長がアルトマン先生に詰め寄る。
他の講師達も同様に学園長に視線を送る。
アルトマン学園長は少し誇った様な、気まずそうな顔をこちらに向けると、キリッとした真剣な眼差しを講師達に向ける。
「お前たち、一つ尋ねるが、この二人の能力を聞いてどうする?」
「王都に報告するべきでは?」
「そうだそうだ」
「当然ではないですか! こんな素晴らしい人材を王都、いや、王に報告すればそれだけで学園の優位性が約束されます」
アルトマン学園長は講師達の物言いに深く溜息を一つ吐き出す。
「じゃろ? そう思ったから言わなかったのじゃ」
「どういう事ですか?」
「王都に行けば間違いなく最高の英才教育を受ける事が出来るんですよ!」
顎鬚を弄っていた右手が止まると、学園長はゆっくりと立ち上がる。
「王都に行けば間違いなく最高の英才教育を受ける事が可能…じゃが、"国の為に"との名目で洗脳の様な教育が始まるじゃろう。まるで最強兵器を作り上げるかのようにな。」
学園長は立ち上がったまま天井を見つめた後、外に通じる窓へ視線を向けると流れる雲を見る。
「それが分かってて、こんな優秀な存在を手放せるか? この二人は人類の希望になるかもしれんのじゃぞ?」
「…それは…そうですが」
「優秀な人材を集め育てるのが学園の使命です」
「ええ、それを放棄しては、学園の存在意義が…」
講師達は学園長の言いたい事は理解できるが、各々思った事を口にする。
「この子たちが王都に行く、行かないを判断できるまでこの学園でこの子たちを育て、導いても良いのじゃないか? わしは自分たちの判断で行動できる子供を育てたいのじゃがこれは教育者としての信念じゃな」
「「「「「………」」」」」
各々言いたい事を言っていた皆が押し黙ってしまう。
「それに、長年教師をやっておるが、こんなに教え甲斐のある子もそうはおらんぞ? しかも、この子に負けない様に自分も教えられるのじゃ。わしはこの年でも、この子たちには教えられてばかりじゃよ」
講師達は学園長の言葉を噛みしめると、それぞれ顔を見合すと、最後に俺とアリスに視線を向けてて小さく溜息を吐き出す。
「分かりました。学園長。私も現役の講師です」
「子供たちに自分の持てる全て、教えられること全てを教える」
「生徒がそれを覚えてくれた時の感動は忘れられません」
「私もこの子たちに教えたいです。そして私が叶えられなかった魔法も…もしかしたら使えるかもしれないと考えると…―――心が踊りだします」
アルトマン学園長は右手を再び顎鬚を撫でると、深い皺を寄せながら満面の笑みを見せる。
「分かってくれたかの」
してやったりの学園長に一矢報いる為、副学園長が一つ提案を出す。
「でも条件があります。この子たちに12歳からの修了試験を受けてもらっても良いですか? 但し、魔法科だけでいいです」
「む、それは構わんが、ワシは試験など必要ないと思うが?」
「他の生徒との差別が無いようにです。試験も無く12歳を超えた授業に参加したら良く思わない生徒もいると思いますので」
それもそうかと、天井を仰いだ学園長は副学園長の条件を了承する。
「まぁ、そうじゃの。それで良いか? 二人とも」
「「ハイ」」
ハイと答えた後だったが、俺は静かに右手を上げながら上目使いで副学園長を見ながら自分の希望を言ってみる。
「あの…でも剣技の試験も受けてみたいです」
子供の上目使いに"出来る女の心"を射抜いたのか、俺の意向を肯定した後、担当の先生に促してくれた。
どうやらここにきて俺は新スキル『ショタの上目使い』を覚えたようだ。
「どうですか? スペンサー」
「それは問題ないですが…5歳では体格差もありますし、運動量も…」
問題ないと言う言葉で、半ば強引に学園長も了解してくれた。
「まぁ、参加させるだけさせてみても良いじゃろ?」
スペンサーと呼ばれた講師は、諦めの表情で俺を見やり、頭を掻きながら了承してくれる。
「分かりました」
アルトマン学園長は少し自慢げに大丈夫と言った理由を皆に話す。
「因みに、知ってるとは思うがアイリスはロックの子じゃからな普通の5歳とちょっと違うぞ」
ハッとした表情を浮かべたスペンサー
「ロック隊長の!? そういえばそうでしたね。アイリス、隊長に剣術は教えてもらっていたのか?」
「ハイ。アリスも一緒に習ってました。」
「そうか…アリスも参加するか?」
「ハイ!」
今日一の返事を返すアリス。
当然ながら今日一の笑顔でもある。
「では、明日からの試験は頼むぞ」
「「「「「承知いたしました」」」」」
扉の前でアルトマン学園長に一礼すると講師達が部屋を出て行く。
「ところでアイリスとアリス」
俺たちも出て行こうとして副学園長に呼び止められた。
「はい?」
ジト目の出来る女、ハーグ副学園長が俺たちを引き留める。
「まだ話は終わっていませんよ」
「え?」
学園長が手をおでこに付けて俯いている。
「あなたたちに魔法を教えたのは学園長ですね?」
チラリとアルトマン先生を見るが目を合わせない。
「は…はい」
「今のあなたたちの魔法レベルを知りたいのだけど…アリスの昨日の"エクスプロージョン"は相当な火力がありました。アリスはあの"エクスプロージョン"を連発してましたね?」
「あ…はい」
「アリスはファイアを青白い炎に出来るのですね?」
「ハイ」
「ふぅ…」
そうため息をついて副学園長がこちらに向く。
「アイリス、あなたの昨日の"グランドプロテクション"なんだけど? 本来"グランドプロテクション"は単体対象魔法なの。でも、あなたは盗賊を除くあの場の人間全員に"グランドプロテクション"をかけましたね?」
「ハイ」
「その方法も学園長に教わったの?」
「あ…いえ、"グランドプロテクション"は教わりましたが複数対象にするのは自分で考えました」
「ふう」と鼻から大きくため息を出すと副学園長が何かを諦めたように質問を続ける。
「あの時、学園長が驚いた表情になった後、学園長が頷いてたのはそういう事ね」
なんか、何もかも御見通しって感じだった…。
「そしてスフィアですが、スフィアは本来、球状になるのに部屋の形に形状変化したのも、あなたが考えたのね」
「ハイ」
「アリス、あなたもアイリスと同じことができるの?」
「ハイ、できます。」
「アイリスもアリスと同じように…"エクスプロージョン"を?」
「ハイ」
「そう…。学園長からはどこまでの魔法を教わったの?」
「ファイヤ系ではファイヤースリングからエクスプロージョンまでの基本から炎属性変換ダイアモンドダストまで。ウォーター系ではウォータードリルからの基本と元素融合。肉体防御魔法のプロテクションとグランドプロテクション、空間操作魔法のスフィアです」
「…そう…学園長、さぞかし楽しかったでしょうね~こんな教え甲斐のある生徒で!」
「そ…そうじゃな…」
学園長は天井を見ながら我関せずを貫いているが、全然貫けていない。
その証拠に、異様な冷や汗をいっぱい掻いているし、目も泳ぎ気味で落ち着きがないようだ。
「本来なら卒業してもおかしくないレベルですよ!? いえ、王都にもここまで昇華した魔法を使える人は居ません! スフィアまで使える子に私たちは何を教えれば良いのでしょうか?」
副学園長が怖い。
顔は笑顔なのにすごく怖い。
「き…基本は教えたから、あとは応用編の方を…」
「単体魔法を複数人に同時に使える子に応用ですか? この子たちの事だから基本を教わったら自分たちで何でも応用してそうですが?」
「そ…それを含めて教えてあげてくれんか?」(汗汗汗)
「ハァ…一つ分かったことがあります。この子たちの出来ない事を教えればいいのですね?」
「そうじゃ! そういう事じゃよ!!」
キッ!
副学園長が学園長を睨み、学園長は目を伏せる。
ここを支配してるのは副学園長なのではないか?
「アイリス、アリス、まだ聞きたい事があります。」
「は…はい!!」
俺達は、先程の学園長とのやり取りを見て、学園の影の支配者は『副学園長』と認識した。
自然と、学園長への返事よりも姿勢正しくなる。
「スージーの怪我を治したことは分かります。でも、ハッシュの腕は切断されたはず。どうやってその腕を回復させたのですか?」
「あ…あの~…(リペアレベル4はこの世界にはない魔法だ。昨日考えた言い訳が通用するかな)…実はですね。回復魔法のフルキュア―をもっと強力にしたらできたんです。」
「フルキュア―ですって!? ああ、そう言えばアイリスはヒーリングマスターでしたね……しかし…」
副学園長は納得いかないと言う眼差しをアイリスに向ける。
「あぁ、忘れてました、回復系ではキュア、ハイキュア、フルキュアーとデトキシケートが使えます。で、フルキュアーを複数人に使用するイメージでハッシュに使ったら腕も治ったんです」
「この年で、フルキュアー…そしてその上位応用まで…もう法王さえも超越してるのね…そんな子に何を教えれば…」ブツブツ
副学園長は俯きながら何かを決意すると、顔を上げて学園長に鋭い視線を向ける
「分かりました学園長!!」
一瞬、ビクッとした学園長。
やっぱり、影の支配者はこの"出来る女"だったと確信を得た。
「な…なんじゃ?!」
「私は勇者を育ててると、そういう事ですね! そう思えばいいんですね! 私たちの教え子が人類を救う勇者だと!!」
「そ…そうじゃ。そうなんじゃ…頼んだぞ!!」
あのじいさん………丸投げしちゃったよ。
とりあえず、その場しのぎの嘘もうまくいったようだ。
副学園長の後ろからオーラの様な何かがほとばしっているように見える。
凄いやる気を出し始めたぞ。
そう言う事で、明日から高等上級生に交じって、5歳児が試験に参加することになった。
しかも試験と言う名の禊として。
そして出来レースとして。
捕捉として=====
ファイヤ系
・ファイヤースリング
弓状の魔力を形成しファイヤを投げつける。炎の強さは魔力に、
命中精度は自身の肉体コントロールに依存する。
・ファイヤーレイン
ファイヤーを上空に投げ火の雨を降らせる。
・エクスプロージョン
魔力を大爆発させる。
ファイアの魔法レベルに応じて爆発力、燃焼力が変化する。
ウォーター系
・ウォータードリル
水を針状にして投げつける。
・ウォーターレイン
上空に水を発生させ、ウォータードリルを降らせる。
・ウォーターウォール
水の壁を作りだし防御する。
壁を投げつけて津波を発生させることも可能。
・アイスドリル(炎属性の変換)
水を針状に凍らせて投げつける。
・アイスレイン(炎属性の変換)
上空に水を発生させ、アイスドリルを降らせる。
・ダイアモンドダスト(炎属性の変換)
対象の気温を急速に冷やし、全てを凍らせる。
肉体防御
・プロテクション
体の周りに魔力のバリアを作り、物理攻撃から肉体を防御する。
・グランドプロテクション
体の周りに魔力のバリアを作り、物理・魔法攻撃から肉体を防御する。
空間制御系
・スフィア
球体状の位相空間を作り出す。ある意味完全防御魔法。
・マジックセンサー
魔力を感知する。
・トランスファー
魔力を電波の様に飛ばし相手に自分の思考を伝達させる。
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