第70話:不自由の中の自由3
朝起きると腰が痛い。
そんな日がデフォルトになりつつある今日この頃
そんな訳で続きをどうぞ
私と裕子ちゃんは武志さんが見ていたであろう画面をプリントアウトした紙とそこに至るまでの広範囲の地図を見てから、再び足取りを追うべく車に乗り換えた。
と言うのも大きな川に架かる橋は悉く壊され崩落していた。
そこで裕子ちゃんが川を渡って行くのにバイクの方が効率が良い。
と言う事で、道端に停まっていたバイクを拝借した。
途中まではバイクだったのだけれど、途中でガス欠になってしまったので民家に入り車の鍵を探し出し、そのままガレージに停まっていた車を拝借したところ。
車内で裕子ちゃんが「多分、武志さんもバイクのはず」と言う事だった。
たいして理由を聞かなかったのは私たちもバイクで移動していてはっきりとは言えないが何となく理解はできた。
あの武志さんの事だ。
川を渡るのもバイクが有利と見越しているのだと思う。
でも大きな理由は、自由気ままに小回りが利いて、何より吹いてくる風が気持ちいいから。
それを考えると、武志さんが感じたであろう事を私も感じられ嬉しくなる。
何となくだけど意識が共有されている充実感とでもいうのかしら?
ああ、早く会いたい。
そして早く謝りたい。
まゆゆの想いはその一点に集中している。
その為には障害になるゾンビを率先して排除する。
それはユウコりんの運転する車の進路に邪魔にならない様、脇道から出てくるゾンビを須らく排除する事からも証明される。
例え、それが生者であっても変わらないだろう。
ユウコりんもまゆゆの行動に答えるかのように猛スピードで駆け抜ける。
ユウコりんにしたら途中でアクシデントがあっても急制動、急回頭出来る位の余裕ある速度な訳なのだが。
猛スピードで大きな道路を走破していると突然ゾンビの集団が目の前に現れた。
裕子ちゃんは何事も無くそのまま交差点を右折すると、自動車のナビゲータから進路の再設定を行うアナウンスが虚しく鳴る。
本来であれば最短の道をナビしてくれるのだが、今は危険を回避する道を教えて欲しい。
と、まゆゆとユウコりんは切に思う。
出来れば武志の居所を教えてくれとも思うが叶わない事なので二人ともそんな愚痴を口にして笑い合う。
◆◇◆◇◆◇
「ここから横須賀ってどれくらいの距離があるのです?」
宏樹の騎士、ハルちゃんが宏樹に質問する。
「そうだなぁ…あの時は渋滞とか寄り道とかしてたから4時間はかかったけど、普通に行くなら2時間もあれば余裕じゃね?」
宏樹は虚空を見つめながら答える。
「でも、今の状態だと?」
フム、と眉間に皴を寄せ考える宏樹。
基本、長距離運転は武志に任せていたしな~…と言う事を少し後悔し思考する…事はしないのだが。
横須賀なんて遠い現場なんて無かったし、俺が運転して行った事なんてないしな…
それでもハルちゃんに質問されたのだから答えるべく自分が武志だと仮定した時の行動パターンを頭に思い描く。
と同時にネット上で公開されている地図を街並みに照らし合わせて表示する機能。
所謂、ストリートビューアを観ながら考えると…。
ついでに言うと恐らく、橋は全て壊されている前提。
「武志の事だから危険は犯さない。そうすると、まずは川を渡る為にでも下流には行かないだろうな」
画面に映る街並みをクリック、クリックで前に進む。
ストリートビューアはかつて在りし日の街並みと景色と歩行者や車も映し出している。
「何で下流には行かないんですか?」
「まず第一に下流は川幅がある。場合によっては水深も結構ある。第二に下流と言う事は都心だ。あの武志がわざわざ人口密集地の都心に近付く事はしないだろう」
「なるほど! 流石、宏樹さんですね」
武志の行動を予想しているだけなのだが、なぜか自分が褒められて後頭部がむず痒くなる。
実際、誰でも想像しうる予想を褒められているのだが、ハルちゃんは盲目的に宏樹至上主義で宏樹教教祖なので、何をしても褒めてきそうだ。
「と考えると、ある程度は郊外の方から横須賀に行くと思うから…このルートかな?」
それは近年開通した高速道路である圏央道。
その側道や近しい道路を走破すると考えられる。
圏央道は開通間もないことから、地域の開発が進んでいない事も理由になる。
現にストリートビューアに表示される道路は場所によって未開通であったり、更地が続いていたり、まさに発展途上なのだ。
本当に武志の思考に変えただけで、安全地帯を安易に想像できてしまう。
俺だったら一直線に横須賀に向かっちゃうかもね。
でもその事はハルちゃんには言わないでおこう。
そう思いながらもハルちゃんの顔をチラリと見るとハルちゃんと目が合い笑顔を返される。
もしかして武志は駐屯地がゾンビの集会場所と予想して次の手立てを考える為、敢えて家出と言う汚名を背負ったとか?
いやいや、態々家出なんて事しないでも出来る事だよな。
褒めて落す。
宏樹の必殺技が炸裂した瞬間である。
が、今は宏樹の心の中の出来事なので誰も被害は被っていないのが幸いだった。
「ところで、これからどうします?」
ハルちゃんは今後の俺達の行動予想を聞いていた。
うん、難しい質問だな…。
今も昔も、行動指針は殆んど武志が案を出し、俺はそれに乗っかってるだけだし…
そもそも俺がこうしてノウノウと生きていられるのも武志のおかげだしな。
と、思案した所でキヨシと美智子さんがリビングに入って来る。
二人はまゆゆに託された野菜の成長記録の確認から帰ってきたのだ。
帰ってきたと言っても隣の家屋だし、二階のベランダから行けるから危険もないのだけれども。
「丁度良かった。これからどうするか考えようか」
「はい!」
「そうっすね」
「そうね」
ハルちゃんが元気よく。
キヨシと美智子さんは納得がいったように返事をする。
端的に言うと武志とまゆゆ、ユウコりんの捜索は度外視する。
そうすると、残された選択肢は限られる。
アメリカ空軍の基地であり、航空自衛隊も配置されている縦田基地への偵察だ。
アメリカ軍の今までの行動を見ると、とても拍手で迎え入れるべきではない。
寧ろ敵対しても良い程だ。
武志と観た動画には厚着基地での米軍の取った行動には反吐が出る。
本来は非戦闘員を、日本国民を守る為の米兵が、あろう事か避難を求め殺到した日本国民へ向ける銃口とそこから出る火薬の光。
そしてその先では銃弾が人体へ着弾する様子だった。
身近なところでは橋の爆破作業の際、抗議に集まった住民とゾンビを一緒に撃ち殺す場面と、自衛隊員を見捨て自分たちだけ逃げる様子だった。
『HAHAHA』なんて言いながら去って行く姿には殺意も覚えたほどだ。
俺はその時の状況をキヨシと美智子さんにも話すと、二人も少し黒いオーラを漂わせた。
そんな事も含めて、縦田基地の米兵は全滅してくれて良い。
俺が許可する。
全滅してろ!
でも自衛隊の人たちは頑張ってね!
っと、話が逸れたな。
そんな訳で、武志とまゆゆ、ユウコりんが居ない間に縦田基地に関する情報を少しでも多く仕入れよう(偵察しよう)と言う事で皆が賛成する。
ユウコりんも居ないから銃の整備は抜かりなくとお互いの目線を合わせ頷き合う。
◆◇◆◇◆◇
「ぷふっっっ…」
久々に見る漫画に俺は思わず吹いてしまった。
電車の中で読んでいて、笑いそうになった時、俯きながら堪えた事を思い出す。
状況は違えど大声で笑えない事は同じなのでストレスなのだが、面白いので良しとしよう。
昨晩からお邪魔しているこの家、中々に居心地がいい。
いや、良すぎる。
冷蔵庫の中には食料がびっしりと入っており、冷凍庫も肉や魚が綺麗に整頓されて所狭しと並んでいる。
野菜室の野菜は多少残念な野菜もあるがそれは仕方がないだろう。
そんな冷蔵庫が4つもある。
他にもワインセラーや一見で分かる程に分かりやすいお高そうなブランデーやワインが並ぶ部屋があったり。
防犯の面でも一般家庭とは趣が異なる。
道路に面している所には死角が無いようカメラが設置されており、出入り口も厳重な鉄の扉となっている。
しかも都合の良い様に庭や家屋をぐるりと囲む塀の高さにもホレボレする。
そんな防犯に心血を注いだにも拘らず、これでもかと防犯を意識した部屋があったのだ。
俺達の持っている武器に勝るとも劣らない武器弾薬の数々。
うん素晴らしい!
この物件は買だ!!
平時であれば、門の前にはサングラスをした屈強な男たちが佇み、黒い車が現れると、腰を90度に曲げ
「お疲れ様です!!」
「ご苦労様です!!」
とドスの利いた声を張り上げるのであろう光景が目に浮かぶ。
そんな環境において、予想外の部屋でテンションマックス!
何と、漫画部屋が完備されていたのだ。
その量も半端なく、ここは満喫ですか? と思わず疑いたくなってしまった。
その部屋から持ち出した漫画を読んでるこの部屋は後ろに『忍』と書かれた大きな額と、その横に立派な掛け軸が並んでいる。
そんな厳かで広々とした畳の部屋で分厚くもフカフカな座布団を並べて体を横たえ、ポテトチップをつまみながらコーラを飲んでいる。
もう本当にここは天国ですか?
横須賀が、横須賀のパールハーバーが頭から消えていても仕方がない。
うん、仕方がない。
ほら、あれだ。
安全を確認できるまでここで待機だ。
うん、待機だ。
丁度、東の空にドンヨリと黒い雲がかかってるし、雨降ったらバイク大変だし。
え? 駐車場の黒塗りな高級車で行けば雨など関係ないって?
いやいや、雨に濡れなくても視界が悪くなったら危険でしょ。
って事で、ここで休憩…いや、待機。
半ば誰に言い訳しているのか分からない状態で漫画の世界にダイブするのであった。
誤字脱字や矛盾等がありましたらご報告お願いします。
あと、こう言う風にしたら良いとかこんな展開も希望等ご意見ご感想もお待ちしております。
評価など頂けたら嬉しい限りです。