第69話:不自由の中の自由2
今日、夜道に野良Gを3匹も見た。
背中をゾワゾワさせながら大地震の前兆じゃないよね?
と逃げ帰る。
そんなわけで続きをどうぞ
やっぱり経験って大切だよね。
かつて宏樹がガソリンスタンドでやったように、キーを探しだしガソリンを排出するようにした。
案の定と言うか、ガソリンは十二分に残っていて、10リッター弱のガソリンタンクはすぐに満タンになる。
幸いにも小さい整備スペースに携行缶があったのでそちらにも入れ終わるとガソリンスタンドにキーをして鍵を元に戻す。
俺はボランティア活動しているわけでは無いから他の人がガソリンを簡単に入れられるようにはしない。
この辺も弱肉強食と言うか、知恵は力なりって言うかね。
自分が入れたい時に無くなっていたら困るのは俺だし(もう戻ってこないと思うけど)
そう思いながらバイクに跨りエンジンに火を入れる。
国道を真っ直ぐ走っていれば海に辿り着くのだけれどやはりと言うか、案の定、大きな川に架かる橋は破壊されていた。
そう言う訳で渡れる場所を探しつつ走っていたのでガソリンも思ったより消費する。
今日も遠回りしつつ風を受け進んでいたが、とうとう日が落ちてきた。
もうそろそろ妥当な所で寝ようかね…。
「やっぱり一人って気楽でいいね~」
バイク諸共、玄関に入り戸締りを厳重にする。
何処のどなたかの家か存じませんが、と感謝の想いが籠っていない感謝の言葉を口にする。
大きな屋敷の広めの部屋に鎮座する高級ベットに横たわり背伸びをしながらアクビをひとつ。
木造の家より見るからに強固そうな家。
家の人がどうなったかなど、思いもしなかった。
思っても無駄。
空き家なんだから何かしらの事情があるんでしょ。
眠りにつく微睡みの中で過去を少し振り返り謝罪するだけであった。
◆◇◆◇◆◇
私は裕子ちゃんが操縦するバイクの後部座席に座っている。
両腕はしっかりと、裕子ちゃんの細く華奢な腰に手を回している。
この華奢な体つきであんな大きなライフルや機関銃を撃っている裕子ちゃんが同一人物と思えないが、何でもこなす裕子ちゃんは年下にもかかわらずとても頼もしい。
年下と言っても1歳下なのだが、13歳、14歳の多感な時期に1歳の差は大きい。
初めて会った時、晴美ちゃんの手前、猫をかぶっていたんだなと改めて思う。
そうでなければ晴美ちゃんはあの時、壊れていたかもしれないから。
その後、色々あって、形はどうあれ晴美ちゃんの心を掬ってくれた宏樹さん。
武志さんと宏樹さんの生活に割り込む形になってしまった私たちを迎え入れてくれ、生きる術を教えてくれた。
そうでなければ私はもう死んでいてもおかしくは無いと思う。
そんな私は、武志さんが居なかったらあそこにとても居る事は出来ない。
念のため置手紙をしてきたが、心の中で宏樹さんや残してきたみんなに謝罪している。
私は裕子ちゃんがなぜバイクを運転できるかなど考えない。
考えても無駄だし、それで会話が成立しない事を知っているからだ。
当然、過去に何度か裕子ちゃんに銃の扱いやサバイバル術をどこで学んだのかを聞いたことはある。
その度に「お父さんやお母さんに教わった」としか返って来ないのだ。
恐らく『何でバイクを運転できるの?』と聞いても、「お父さんやお母さんに教わった」としか返って来ないのだろうと思う。
現に何でも高精度で物事を熟す裕子ちゃん。
今回、ダメ元で裕子ちゃんにある質問をしてみた。
「裕子ちゃん、車とか運転できる?」
13歳の女の子に非常識な質問をしたのにも関わらず、帰ってきた答えが
「出来ますよ」
だった。
にべもなく、さも当たり前のような即答にまゆゆは居ても立っても居られなかった。
その裕子ちゃんが出来ると言う事は間違いなく出来るのだ。
問題はどうやって裕子ちゃんを武志さんの探索に引き込むかと言う所だったのだが、散々悩んだ事はすぐに瓦解する。
裕子ちゃんから誘ってきたのだから。
思わず不安から一転し、安堵した事に目から涙が溢れ出る。
『どうやら、裕子ちゃんは一人でも武志さんを探し出すつもりだったみたい』
裕子ちゃんが私にそう思わせるには十分すぎる。
だってもう移動の準備ができていたのだから。
私は裕子ちゃんが準備していた荷物を背負う。
武志がリュックに詰め込んだ物と同様に弾薬と少しのカロリンメイトが入っている。
弾薬のおかげで結構な重量になっているのだが、文句を言わず懸命に裕子ちゃんの腰に回している手に力が入る。
ユウコりんは自身の腰に巻き付く腕に力を込めた事に疑問に思い
「麻由先輩どうしたんです?」
と後ろを振り返る。
「んん、何でもない。ただ、裕子ちゃんと一緒だと心強いなって」
「え? えへへ」
突拍子もない事を言われて破顔する裕子ちゃん。
その顔は紛れもなく13歳の少女だった。
今は武志を見つける為、ひたすら国道を爆走する。
その道筋は橋が破壊されている為、迂回に遠回りを重ねて非常にもどかしい道程ではあったが、麻由も裕子も不安はない。
◆◇◆◇◆◇
まゆゆとユウコりんの姿が見えない。
そのことに少し軽く口にする。
「あらら…二人とも出て行っちゃったね…」
宏樹も予想していたのだろう。
まゆゆとユウコりんが居なくなった事に対して驚きもしなかった。
どうやら他のみんなも同様だったようで
「裕子ちゃんと麻由ちゃんだったら無理はしないと思うから安心だけど…」
「そうっすね。自分は寧ろ羽目を外した武志さんが心配っす!」
付き合いの短い二人にも心配される武志。
俺も思わず苦笑いするしかなかった。
その不安は俺も感じていた事だったから。
そんな思いを払拭し、やる事はやらなければならない。
「と言う訳で、俺たちだけで駐屯地の調査をするけど、いいかな?」
皆も否定せずに頷くと、黙々と作業に取り掛かる。
目指すは駐屯地に隣接する高層マンション。
しかし、避難民が居るとゾンビも多いと言う事で、少しずつ様子を見ながらの接近となる。
その第一弾として、高層マンションへ至る道程の偵察。
ドローンがあるから比較的簡単に高層マンションの調査は可能なのだが、一番注意すべきは全てが太刀川駅に近いと言う事。
駅前程に商用スペースだとか飲食店などが立ち並んでいれば、生存者の確立も高い訳で、そこには自ずとゾンビも高確率で存在する。
しかも団体さんが。
今までさすがに団体さんを相手にするほど武器も備えもあるわけでは無いので避けていた。
そして今回の作戦も第一条件に身の安全なのだ。
極力ゾンビのいない場所を第一拠点とし、その屋上からドローンを飛ばして偵察する。
今までの調査で第一拠点に生存者も居ない事は確認済みなのだが、いつ逃げ隠れしている生存者と鉢合わせするか分からないので、警戒だけは怠らないようにする。
問題なく第一拠点の屋上に到着し、双眼鏡で辺りを確認する。
道路には疎らにゾンビが確認できるが団体さんは確認できない。
ここからならドローンの飛行音がしてもゾンビが集まってくることが無いだろう。
早速ドローンを飛ばす準備に取り掛かるキヨシ。
宏樹は第二拠点を探るべく望遠鏡で辺りを探り目星を付ける。
キヨシがドローンを飛ばし、念の為にベランダ側から部屋の中の様子を探る。
一部ゾンビが居るようだが、生存者は確認できなかった。
ついでに第二拠点に至る道順も上空から確認する。
確認した結果、ゾンビも確認できなかったので、車で第二拠点まで移動する。
ゾンビが居る部屋は把握していたし、どちらにしろ長居をすることはない為、第三拠点の調査をする。
ついでに、近くの避難場所(小学校)を調査したが、ゲートは閉じられていたが駐屯地に近い為か、避難民はおろかゾンビも確認できなかった。
残念な事に武器さえもない。
恐らく駐屯地に近いと言う立地の関係もあり優先的に駐屯地に避難させてもらえたのだろう。
因みに、調査に使っているドローンなのだが、電波が届かなくなると自動的に出発地点に戻ってくるようになっている優れ物。
最近のラジコンはすげーなと感動したものだ。
逆に、自動車とかのラジコンは電波が届かなくなると暴走する。
まぁ、そんな事は置いておき、第三拠点から最終目的地を探っていた時に異変を感じる。
どうやら、途中のマンションに生存者が居るようだ。
と言っても大人数ではなく、男女2人組の様で、食料も底を尽きかけているご様子。
かと言って助ける義理は無いのでこちらの存在に気が付いていないのであればそのまま放置。
食料が無いと分かりきっているのに籠城すると言う彼らの意思を尊重した(物は言い様だな)
「助けられなくてごめんね」とはいっても謝罪の念なんてこれっぽっちも持ち合わせては居ないのだが。
で、俺たちは第三拠点に向かう前に偵察を断念する。
上空から駐屯地方面にカメラを向けた時、夥しい数の蠢く何かを見たからだ。
言わずもがなそれはゾンビの大集団。
遠目でも分かる程に、まるでお祭りでも開催されているのか、それともデモ行進でもしているかのようにゾンビが蠢いていたのが確認できた。
あんな光景を見たら俺でさえ分かる。
駐屯地には生存者が居る。
しかもゾンビが群がる程の人数が。
ゾンビはゾンビを呼ぶのか、はたまた引きつけるのか。
それとも、生者の気配でも感じる事が出来るのか。
…音?
…匂い?
うん、全く分からないがゾンビは人間が居る事が分かるらしい。
流石の俺でもあの中に辿り着く術が見いだせないし、生存者が居ると分かればこちらから接触する必要も無い。
そう言う意味もあり、駐屯地探索は終了する。
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