第18話:アリス暴走モード
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明日はここに入学して1年目。
俺とアリスは学園長に連れられて各高等科の講師に挨拶している。
本来は12歳を超えた者が修了試験を経て各クラス分けを行うのだが、俺とアリスは魔法の修了試験と剣技の試験をパスしていた。
していたと言うより"してしまった"が正しい。
それも、2週間前のある事件がきっかけだった。
この王立アルフレート学園には、卒業後優秀な生徒は王都に務めたりする。
そして王都に務める為には、色々な魔法やアイテム、武器等に精通する必要がある。
その為に、この学園にもレアアイテムやレアな武器防具があったりする。
そして、それを狙った盗賊団は少なくない。
仮にも王都に務めるべく戦闘術や魔術に切磋琢磨している学び舎である。
盗賊が攻め込もうにも前線に立つべく鍛えられている生徒が後れを取るはずも無く、半端な窃盗団であれば撃退するのも勉強に含まれる。
それでも生徒の戦略や戦術、技術に対応できない場合は学園の講師たちの出番となる。
学園の講師たちは王都ギルドの定める戦闘ランクで言えばCからBクラス
学園長はその昔、王都専属魔術師団の隊長をしていたランクS
副学院長は現役の王都専属魔術師団付の講師でランクA
因みに、ああ見えてパパも元騎士団長のランクS(一時期Aだったが再修業後はSクラス)
そんな精鋭が集まった学園と言えど生徒は当然ランク外。
高等科の生徒でも、ギルド登録してランクF(見習い)
ちょっと優秀な生徒でランクDかE程度の小童の集まり。
中にはBランクやCランクが出ることもあるが、本職の冒険者ランクで言ったらやはりそこは学生って感じだ。
アルフレート学園は広大な土地を有する。
当然、盗賊にしてみたら宝の宝庫に見える訳だ。
講師達に気を付ければ、後は雑魚の集団なので良いカモである。
程度の低い盗賊であれば、生徒の格好の教材になるのだが、その教材にもなれない連中は学園の結界に触れた瞬間に自動発動型魔法で拘束され、お縄に付く。
手練れの盗賊だったら、学園の結界に異常が起きた瞬間、講師に速やか情報が送られ教材と化す。
生徒に危険が及ぶレベルなら講師が事前に対応をする。
しかし殆んどの生徒たちはそんな危険な盗賊団が襲撃している事が起こっている事も知らず生活をしている。
一攫千金狙いの野盗では話にならない学園に本当の危機が迫っていた。
今回の事件は元学園卒業生が絡んでいたのだ。
修了試験には色々な試験があり、特に魔法属性の付加された武器を使用できる生徒を育てる為の特武科の試験で使用するレアな魔道具が集まる。
それを狙っての潜入。
賊は結界の解除を行い園内に侵入する。
普通に結界を解除したのではすぐにばれる為、幾重にも細工に細工を重ね結界を破り、かつ解除された事も察知させないのは、余程の結界魔術師の仕事であった。
盗賊たちは人知れず宝物保管庫にたどり着き扉を防御する多重の結界も容易く解呪する。
総勢15名ほどだが、一人一人が腕に自信のある精鋭だった。
ランクで言えばB+からAの猛者たち。
そんな猛者が気配を殺し武器を盗み、あとは撤退と言う時、怪しい気配に気が付いた学園長と副学園長に見つかり非常警報が発令された。
実は怪しい気配を察知し盗賊が侵入する直前に俺とアリスは目を覚ましていた。
そこで俺たちは事前に色々作戦会議をしていた。
俺は盗賊が寮に来る訳がないと思っていたが、最悪のシナリオとして生徒を人質に取る可能性もある。
そう思い警戒していたのだが、どうやら最悪のシナリオ通りに事が進んでいるようだ。
元学園卒業生が先導し保管庫を襲撃し数あるお宝を手にする。
だが逃走前に講師発見される事になる。
講師陣も精鋭なのだが宝物庫からマジックアイテムを手に入れた襲撃者の方が戦力としては上になる。
それでもさすがは講師陣という所か。
マジックアイテムを使う盗賊団を撃退しつつあったのだが、逃げ延びた盗賊団が寮内に流れ込んだのだ。
今年の1学年生の部屋は1階で入口からすぐの位置にある。
そして1番目の部屋は俺とアリスの部屋でもある。
そこに2人の盗賊が押入ってきた。
事前にアリスには防御魔法をかけておくように言っていたので2人とも防御魔法で守られている状態。
その魔法はロックの真剣でも弾き返す程強力な魔法だからこんな盗賊たちには傷を付ける事さえ敵わないだろう。
問題は盗賊が他の生徒の部屋にも侵入し、盗賊1人につき1人の1学年生が人質となった事だった。
こうなっては迂闊に学園長も副学園長も他の講師達も手を出せない。
こう着状態のまま大広間に全ての学院生と生徒が集められた。
盗賊たちは自分達よりも上位ランクの講師が手出しできない事を悟り調子に乗り始める。
優勢と見た盗賊は生徒を人質に他のレアアイテムを要求し逃走する際も追わない様、学園長に指示していた。
盗賊団にしてみれば学園の生徒と言っても実戦経験のないひよっこはその辺の子供とそう大差が無い。
人質となっている生徒は皆一様に泣いていたが鳴き声を出すと殺すと言う盗賊のドスの利いた声に怯え、口を押え声を出さずにはやり泣いていた。
その状態のまま10分程した頃、埒が明かなくなった為、俺はアルトマン先生に顔を向けた。
アルトマン先生との魔法授業で習った魔力感知の応用技、魔力伝達交信を使用して、この事件の収拾方法をアルトマン先生に飛ばした。
アルトマン先生は驚きの顔をした後、眉間に皴を寄せながら頷いた。
俺もコクリと首を縦に振り返答する。
隣のアリスにも顔を向けた所でアリスも頷く。
何だか分からないがアリスの目からメラメラと闘志の眼差しを感じた。
俺は魔力を練りに練り上げ、球を造形しさらに圧縮。
これを何度か繰り返し、術式発動準備を整える。
アルトマン先生に合図を送りアリスが頷いた次の瞬間。
後ろの方から「このガキ!!」の声と大きな悲鳴が上がる。
後ろを見ると、スージーを庇うように立ちふさがったハッシュの腕が盗賊に切られていた。
スージーはアリスと仲が良い俺たちの部屋の常連お姉さん。
ハッシュはそんなスージーに好意を寄せている学年のリーダー的存在。
どうやら、この極限状態に耐えられなかったスージーが盗賊の手を噛み、ハッシュがスージーを切ろうとした盗賊の前に立ちふさがりスージーを庇うようにして切られたようだ。
しかも、運悪くハッシュの腕を切断した剣の切っ先がスージーの首から胸にかけて切り裂いていた。
その光景を観たアリスが短時間に膨大な魔力を練っている事に気が付いた。
「スージーーー!!」
心の底から轟く様な呼びを上げるアリスの声。
その声は"遥か上空から舞い降りる御使い様な声でもあり、地の底から響き渡る破滅の調でもある"と後に生徒は語る。
俺は一刻の猶予も無い事を悟ると、無意識に今まで練り上げてきた魔力を使い出来うる限りの魔法を展開する。
「っっ!! 『スフィア!!』『グランドプロテクション!!』」
絶対防壁魔法『スフィア』は、魔力を球体状に張る事により閉じた空間を作り出すが、今回は、大広間の床から壁、天井までの空間を閉じることによりアリスの魔法に対して被害が外に漏れないようにした。
その上、スフィア内で盗賊以外に対して、上位防御術を使った。
次の瞬間、アリスが魔法を放つ。
「エクスプロージョン!!」
どこかの駄魔法使いが唯一使える爆破魔法。
アリスが今まで練り込んだ重厚な魔力が爆発に変換され放出される。
アリスの口から紡がれた魔法は『エクスプロージョン』なのだが、その爆熱は、遥か太古に禁忌とされた魔法と遜色ない程に破滅を齎していた。
スフィアの中でアリスの魔力が熱核爆発を起こし盗賊たちを瞬く間に蒸発させていく。
結界術に長けた盗賊団の一人である元学園卒業生は一瞬で自身に不可侵結界術を張るがアリスの『エクスプロージョン』を完全に防げてはいない。
その姿は、四肢を失い、顔面の凹凸を失い、一命を取りとめたようだったが、次の瞬間には肉体より魂を開放してもおかしくない状態だった。
しかし、追撃にとアリスは魔法を放つ。
「ファイヤミサイルレベル4!!」
アリスの『エクスプロージョン』を耐えた|焼肉達磨(結界師)だったが炎槍に刺し貫かれ蒸発してしまった。
それでもアリスは気が収まらないのか尚も魔法を連打している。
俺が頭を撫でてアリスを呼ぶ。
「アリス!」
アリスは我に返ると、目には湖畔のように涙を並々と蓄え、ともすれば目から溢れ出す。
「スージーとハッシュが!! スージーとハッシュが死んじゃった~~~!」
と大泣きしている。
今までアリスがやってきた大量殺戮には目を向けず、親しい友達の事しか頭にないようだ。
これが6歳児の一瞬の閃きの限界だろう。
アリスの頭に手を置き乱暴に撫でまわす。
「スージーもハッシュも大丈夫だよ」
アリスは頭を撫でられながら俺の方に顔を向ける。
俺は目が合うと、顎を向こうの方へ向け、アリスにそちらを向く様に促す。
アリスは顎が向けられた方を見やり、安堵のため息を思いっきり吐き出し、その場にへたり込む。
俺はフッと視線を感じそちらの方角へ顔を向けるとアルトマン先生と目が合う。
「あ…」
小さく喉から声が出てしまった。
そう思っていると、周りから絶え間ない視線を感じた。
あ…これやっちゃったね………。
その場にいる全員が呆然と俺とアリスを交互に見ている。
もしかしたら、人質立て籠もり窃盗事件なんか無かったのでは?
それは俺とアリスにとってはすこぶる都合の良い解釈。
そう思われてもおかしくない位、犯人の痕跡は盗賊の肉片一つも残っていない状態。
現実には『あの二人、今何した?』だった。
生徒や講師達からしたら"何をしたのか分からない"が、間違いなくあの二人が"何かをした事には違いない"だった。
アリスが切れてから俺が防御魔法を展開し、アリスの魔法が展開するまでほんの刹那の時間。
その後は、有無を言わさずハッシュとスージーの回復。
大事件の現場である大広間は焼けた跡もない。
ハッシュの切断された腕は元に戻っていてスージーにも切り傷一つもなかった。
そんな腑に落ちない生徒たちをなだめ、寮に戻し講師達も生徒に付き添う。
俺とアリスも寮に戻り眠る事にした。
まぁ、中々寝付ける訳がない。
「アイリスごめんね。アリス魔法使っちゃった。使っちゃダメって言われてたのに………みんなの見てる目の前で使っちゃった。」
そう言いながら泣いている。
実際、あの現場を見て何人の生徒が講師が理解できただろうか。
「大丈夫だよアリス。エクスプロージョンの大爆発の中でみんな何も見えてないよ。被害が出ないようにスフィアも張ったし…俺もリペアレベル4とヒーリングレベル4使っちゃったし」
「ごめんねアイリス~~~」
アリスはそう言いながら抱きついてきて大泣きしている。
俺はアリスの頭を撫でながら「大丈夫!」と言い聞かせていた。
そうこうしている内にアリスも泣き疲れたのか寝てしまった。
ってかアリス初めて人を殺したんだけど、その辺の精神的なダメージとか大丈夫なのか?
まあ俺は今さら悪人の命とかそんな些細な事は考えた事も無いが。
アリスは仮にも女の子なんだ。
その辺のフォローはちゃんとしてあげなくちゃな。
しかしこれは翌朝が大変だぞ!?
いや、そもそも学園の結界が簡単に破られるのがいけないんだ!
事態を収拾できなかった講師が悪いんだ!
俺達は悪くない。
うん…悪くない。
そんな事を思いながら言い訳を一生懸命に考えるのであった。