第64話:ラジコンとサバイバルゲーム
オリンピックとは何なのであろうか?
それでは続きをどうぞ。
区画改装と言うか、集落改装工事も一段落し、もうそろそろ模型屋に出発しようと相成った。
宏樹が両手を後頭部に回しながら首を左右に傾げている。
キヨシが口にした禁断の呪縛の為、3週間の猶予が開いてしまったが為に時間が無駄になったと言いたいのだろう。
「あ~あ、無駄な時間を過ごしたな~」
とチラチラとキヨシを見る宏樹。
キヨシはその度に「すいません。スイマセン。スンマセン」と頭を下げているが、謝り方もだんだん雑になる。
言ってる宏樹はもちろん、答えているキヨシでさえ、この3週間は無駄ではないと知っている。
だから互いが本気で言葉を発しているわけでは無い。
そして、この3週間で劇的に状況が変わったことがある。
野良ゾンビの数が圧倒的に増えてきた…
野良ゾンビは集団ゾンビと違い仕留めやすい。
しかし野良ゾンビがゾロゾロと徐々に集まり集団ゾンビとなると手の付けようがない。
今の所、この近隣で集団ゾンビに御目にかかっていないのは幸いだった。
あんなの相手にしていたら詰み状態だ。
そんな状態でも少し足を伸ばすと集団ゾンビに出くわす頻度が高くなる。
もう一つ残念な報告がある。
避難場所が軒並み壊滅状態と言う事。
駐屯地の様子を窺うポイントを探る為、班に分かれて偵察していたのだがゾンビに遭遇する機会が増えて来た事に当初は疑問だったのだが。
避難場所に避難している人たちがゾンビ化したのか避難したのか。
俺はある仮説を立てる。
駐屯地、もしくは大規模な避難所がゾンビに食い荒らされたのではないか?
本部が健在であれば末端も多少の混乱はあるだろうが応援要請も可能な訳で、俺たちが回収できた武器は、応援要請も追いつかない程のパニックだったのだろう。
それだけに、運の要素が非常に高い。
しかし今回見て回った避難所にはゾンビは跋扈していたが生存者や武器があった形跡や、使用した形跡は見当たらなかった。
と言う事は、最悪ゾンビに食い荒らされたか、幸運にも避難が完了したかのどちらかだと思う。
そう考えると駐屯地も、もしかしたらも蛻の殻なのではないかと言う仮説に至った。
なぜならば、駐屯地がいくら広かろうとも周辺住民を賄えるだけの施設も無ければ物資も無いだろう。
米軍と共同で作戦に参加しているとしたら、米軍基地にだって大挙して避難民が押し寄せているはずなのだ。
俺が気が付かない内に航空機を使用して避難が完了していたとしたら…
「いくら考えたって今は意味ないべ」
宏樹にそう言われ肩を叩かれる。
まあ、確かに幾ら仮説を考えた所で真実は一つ。
複数仮説の中の一つしか該当しない。
いや、該当すればいいのだけれども、予想を大きく上回るのも現実だ。
そう言う事で俺は仮説を考えるのを止めて、今現状で如何にして生き延びるかと言う事を最優先に思考変更した。
その如何にして生きると言うのは精一杯我武者羅に身を粉にして生きると言う事ではない。
そう、如何に気楽に生きるかが前提なのだけれども。
―――と言う訳で、俺達は模型店に来ている。
進行が随分と早くは無いかって?
道筋の説明がめんどくさくなったとか、そう言う事ではない。
避難場所が軒並み壊滅状態になっていて、コソコソ行動するにも野良ゾンビが多くなってきたので、チマチマ進撃するよりも、近所まで車で来た次第です。
相変わらず俺たちの主武装は『パチンコ』な訳だけど、最近では慣れておく必要があると言う軍曹の命令でボウガンにも手を出した。
銃で倒すと野良ゾンビが集団ゾンビに変貌するのが容易い状況なので『初心わするるべからず』である。
え? もちろん、お目当ての品はGETしましたよ。
性能が良いのか悪いのか分からないが複数機というか有るだけ全て。
ええ、根こそぎと言うやつですね。
そうそう。
ドローンって結構大きいんですね。
宏樹が室内で遊んでいた物なんて比べ物にならない程に。
超本格的な競技用のヘリとかもなぜか車に積み込んでいる。
ラジコンヘリの競技って何なのでしょうか?
全くヘリの組み立てなんて容易でないだろうにあんなに持ち帰ってどうするん『ムニュ』あ、失礼。
前が見えなかったから元店主様を踏みつけてしまいました。
「もう、武志さんもそんなにラジコンカーを車に積み込んでどうするんですか!?」
まゆゆが溜息と共に愚痴をこぼす。
「え? だって、みんなでレースとかやったら面白いでしょ?」
そうなのだ。
何を隠そう、俺も宏樹同様、ウキウキだったりする。
ただならぬテンションでセッセとラジコン関係の部品をトラックに積み込んでいるのだ。
そんな訳で、ラジコンを車に詰め込み完了すると危なげもなく帰宅する。
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「くっ…」
俺は今、ゾンビの群れに囲まれている。
無我夢中で手にしている武器でゾンビに一斉射して道を確保している。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
くそ、皆は何処に居るんだ?
後ろを振り返ると数えるのも億劫になる程のゾンビの群れを引き連れている。
道と言う道にゾンビが溢れているではないか。
そのゾンビは間違いなく俺を目指して進行している。
ゾンビには出来ない唯一のアドバンテージである走りに関しても、疲れを知らない大集団に囲まれればその内に王手となってしまう。
前方からもどこから湧いて出てくるのか次から次へとゾンビが姿を現す。
もうこの状況は完全に詰み状態、そう、開始早々王手がかかった瞬間でもある。
「あ、ぁぁぁあ! だ、誰か助けて~!」
『ちょっと待ってて~』
クッソ! 完全に援軍は当てにならない。
俺は細い路地に走り込む。
尚もゾンビはゆっくりではあるが着実に数を増やしながら俺の後を追いかけてくる。
しかし俺の運命はこの路地に逃げ込んでいた時には既に決まっていたようだ。
その路地は袋小路。
簡単に言えば行き止まり。
後ろを振り返るとゾンビの大群が迫ってきている。
ゾンビの先頭集団は俺を追随する為に路地に入ってきている所だ。
無我夢中で銃を撃ちゾンビの山を作って行くのだが『カチン』と無情な音が響く。
銃の弾薬が尽きたのだ。
次に生まれ変わるなら、ケチらずに弾は買える時に買えるだけを選ぼう…
武器をナイフに切替え構えるが、ゾンビの大群にナイフのみで果たして生き残れるのだろうか?
刀であれば生き残れる時間が数秒伸びたのかもしてない。
しかし刃渡り30センチ程度のナイフでは如何ともし難い。
懸命にナイフを振るが押し寄せる大波に呑まれると同時に俺は悟る。
『もう…だめだ…』
こうして俺の呆気ない一生に終止符が打たれる事となった―――…。
「おお、武志よ、死んでしまうとは不甲斐ない…」
「いや、死んだ後に助けに来ても遅いし!」
「って、おいおい、今度は俺がピンチだぞ!? 早く助けて~!」
『ちょっと待ってて~』
「いや、そう言うの要らないから!」
「ふふふ、仕方がない、呼ばれて飛び出て我参上!」
チュド~ン!
チュド~ン!
チュド~ン!
チュド~ン!
チュド~ン!
「ふっ、俺にかかればこんなゾンビなど物の数にも入らんわ!」
「そりゃ、無限ロケラン持って登場すればね」
「武志さん、宏樹さん、御飯が出来ましたよ!」
「「は~い」」
こうして俺たちの一日が終わろうとしている。
誤字脱字や矛盾等がありましたらご報告お願いします。
あと、こう言う風にしたら良いとかこんな展開も希望等ご意見ご感想もお待ちしております。
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